同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五二六話】『公開──そしてネット大炎上!?』

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 弘弥は、自室のパソコンの前で、小さく息を吸った。

(大丈夫……誰も、そんなに注目しないはず……)

 どこか自分を納得させるように呟きながら、
 完成した『きみと、ぬか床と、永遠と。』の試し読みデータを、
 小説投稿サイトにアップロードした。

 もちろん、仮タイトルのまま。
 気軽な気持ちだった。

 本当の本命作品はこれから出版社に送るつもりで、
 これは、いわば「試運転」。

 ──だった。

 送信ボタンを押す。
 ピッ。

(……よし。)

 これで終わりだ。
 誰にも気づかれず、静かに流れていくだろう。

 弘弥は、椅子に深く腰掛け、目を閉じた。

 ──そして。

 投稿からわずか十五分後。

 彼のスマホが、狂ったように震え始めた。

「ビビビビビビビビビビ!」

「な、なにっ!?」

 飛び起きて画面を見ると──

 SNSの通知が止まらない。

 いいね、リツイート、コメント、リプライ、DM──
 すべてが一気に爆発していた。

「な……なんで!?」

 震える指で、トレンドを開く。

 きみとぬか床と永遠と
 ぬか床文学
 天才か変態か
 ──そこには、信じられない光景が広がっていた。

 ◆

【ネットの声】

『タイトルだけで天才確定』
『きみとぬか床と永遠とって何!?wwwwwwww』
『ぬか床に青春を見た作家、出現』
『狂気だけど読んでみたらマジで泣いた。なんだこれ』
『天才と変態は紙一重って本当だったんだな……』
『これが……“発酵する純愛”……!?』

 弘弥は、画面を凝視したまま、完全に固まった。

(ちょ、ちょっと待て……!)

 確かに、タイトルはやや……いや、だいぶ異質かもしれない。
 でも中身は至って真面目だ。
 誰もバカにしてほしくなかった。

 なのに。

 なのに──

『読んだらマジで泣いた。ぬか床で泣いた自分が怖い』
『作者は正気? 正気なの? それとも天才なの?』
『ぬか床にここまで情緒を乗せられるやつ、世界に何人いるんだよ』

 絶賛と、困惑と、爆笑と、尊敬と、混乱。
 ありとあらゆる感情が、ネットの海を渦巻いていた。

 ◆

「……夢、じゃないよな。」

 弘弥は、パソコンの前で呟いた。

 画面の向こう側で、
 自分の小説が、
 世界を少しだけ震わせている。

 小さな火種が、
 思いもよらない大きな炎になっていた。

 ◆

「お兄ー! 何やってんのー?」

 リビングからルナの声がした。

「お兄、早くお風呂入んなさいよー!」
「兄、また変なことしてないだろうな……」

 普段と何も変わらない、
 にぎやかな声が、
 遠くから聞こえてくる。

 ──でも、弘弥の胸の中は、確かに変わっていた。

(俺の、物語が……)

 ぬか床と青春と汗と涙の物語が、
 今、世界へ羽ばたこうとしている。

 それは、ほんの小さな奇跡。

 けれど、
 間違いなく──本物だった。
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