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第3章『信長包囲網──日吉丸、初陣』
第二十五話『初めての鉄の臭い──命が転がる音』
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山の向こうに、火が見えた。
乾いた風に乗って、血のような匂いが鼻を刺す。
「くっそ……ほんまに来てもうたんやな、戦てやつが……」
日吉丸は、自分の掌を見た。
震えている。
草履も温められない。
手が、冷えていた。
「緊張しとるんか?」
利家が背後から声をかけてくる。
「そらするわ! わし、戦なんて初めてやで!? 死ぬかもしれへんのやろ……?」
「そのとおりや。だから、今日を生き延びろ」
あっさりとした言葉に、返す言葉が見つからない。
──戦の始まりは、角笛と怒声だった。
敵は、近江方面より動いてきた野武士混成の先遣隊。
織田軍は奇襲をかけ、利家隊も山腹へと駆け上がる。
日吉丸は、ただその背中を追うしかなかった。
金棒を握りしめた敵兵。
火矢を背負った射手。
踏みつぶされた遺体。
「……っ、うっ……!」
足が止まる。
目の前に、首のない兵士が倒れていた。
血の匂い。
鉄の錆びた金属臭。
「なに震えとるんや、日吉丸!」
利家の声が、前方から飛んでくる。
「怖いもんは怖いがねぇ……!!!」
泣きそうになりながら、日吉丸は走った。
──だがそのときだった。
「ぐっ……くそっ!!」
利家が、敵の槍兵に囲まれ、孤立していた。
「やかましいガキめ! 名など知らんが、命はもらう!」
日吉丸の頭が、真っ白になった。
(あかん! あいつ、死ぬ!)
気づけば、脚が勝手に動いていた。
「どけぇぇぇっ!!」
石を拾い、敵の頭を狙って投げる。
それだけではない。
手近の枝を引き抜き、木刀のように振るって走る。
「日吉丸! おまえ……!」
「なにしとるんや利家! はよ立たんかい!」
「バカッ、無茶すんな!」
だが、その間に敵の一人が振り下ろした太刀が、日吉丸の袖を裂いた。
「うわっ……!!」
──斬られた。初めて。
血が滲む。痛みよりも、熱さと驚き。
だが、利家が振るった槍が敵を吹き飛ばした。
「間に合った……!」
「な、なんやねん、怖かったぁぁ……!!」
涙が、勝手に出た。
それでも、日吉丸は立っていた。
──その夜、戦は終結。
日吉丸は、火を囲む兵たちの輪の中、無言で肩を震わせていた。
「日吉丸、おまえ、ようやったで」
利家が、そっと肩を叩く。
「わし、たぶん……またやってまうかもしれへん」
「何をや」
「人のために、怖くても、動いてしまう……わし、アホやな」
「それが“男”や。誇ってええ」
日吉丸は、火の灯りを見つめながら、初めて“誰かの命を救った”重さを知った。
──鉄の臭いと、命の音。
それは、戦国という現実の、ほんの入口にすぎなかった。
乾いた風に乗って、血のような匂いが鼻を刺す。
「くっそ……ほんまに来てもうたんやな、戦てやつが……」
日吉丸は、自分の掌を見た。
震えている。
草履も温められない。
手が、冷えていた。
「緊張しとるんか?」
利家が背後から声をかけてくる。
「そらするわ! わし、戦なんて初めてやで!? 死ぬかもしれへんのやろ……?」
「そのとおりや。だから、今日を生き延びろ」
あっさりとした言葉に、返す言葉が見つからない。
──戦の始まりは、角笛と怒声だった。
敵は、近江方面より動いてきた野武士混成の先遣隊。
織田軍は奇襲をかけ、利家隊も山腹へと駆け上がる。
日吉丸は、ただその背中を追うしかなかった。
金棒を握りしめた敵兵。
火矢を背負った射手。
踏みつぶされた遺体。
「……っ、うっ……!」
足が止まる。
目の前に、首のない兵士が倒れていた。
血の匂い。
鉄の錆びた金属臭。
「なに震えとるんや、日吉丸!」
利家の声が、前方から飛んでくる。
「怖いもんは怖いがねぇ……!!!」
泣きそうになりながら、日吉丸は走った。
──だがそのときだった。
「ぐっ……くそっ!!」
利家が、敵の槍兵に囲まれ、孤立していた。
「やかましいガキめ! 名など知らんが、命はもらう!」
日吉丸の頭が、真っ白になった。
(あかん! あいつ、死ぬ!)
気づけば、脚が勝手に動いていた。
「どけぇぇぇっ!!」
石を拾い、敵の頭を狙って投げる。
それだけではない。
手近の枝を引き抜き、木刀のように振るって走る。
「日吉丸! おまえ……!」
「なにしとるんや利家! はよ立たんかい!」
「バカッ、無茶すんな!」
だが、その間に敵の一人が振り下ろした太刀が、日吉丸の袖を裂いた。
「うわっ……!!」
──斬られた。初めて。
血が滲む。痛みよりも、熱さと驚き。
だが、利家が振るった槍が敵を吹き飛ばした。
「間に合った……!」
「な、なんやねん、怖かったぁぁ……!!」
涙が、勝手に出た。
それでも、日吉丸は立っていた。
──その夜、戦は終結。
日吉丸は、火を囲む兵たちの輪の中、無言で肩を震わせていた。
「日吉丸、おまえ、ようやったで」
利家が、そっと肩を叩く。
「わし、たぶん……またやってまうかもしれへん」
「何をや」
「人のために、怖くても、動いてしまう……わし、アホやな」
「それが“男”や。誇ってええ」
日吉丸は、火の灯りを見つめながら、初めて“誰かの命を救った”重さを知った。
──鉄の臭いと、命の音。
それは、戦国という現実の、ほんの入口にすぎなかった。
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