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第10章『風は止まず、想い揺れる秋』
第百話『百話記念──ねねと、口づけ未遂ふたたび』
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小牧の城内が、朝からざわついていた。
──視察団、再来。
以前の騒動が記憶に新しい一同は、それぞれの持ち場で息を詰めながら準備を整えていた。
「ほんま、なんでまたこのタイミングやねん……」
ねねは城奥の控えの間で、うっすらため息をつきながら、鏡の前で髪を整えていた。
今日は、特別な日。
日吉丸が“木下藤吉郎秀吉”となってから百話目──つまり、それだけ一緒に歩んできたということ。
「ちょっとは、うちの気持ちも考えてよね……」
誰に言うともなくつぶやき、ふっと頬を染める。
「……あの時、抱きしめられたかったんや」
墨俣、城下、戦場、政。
どんなときも隣にいた。
でも“隣にいるだけ”の関係で、もうずっと止まっている。
「今日は、もう、うちが仕掛けたる」
そう決めて、ねねはゆっくりと立ち上がった。
◆ ◆ ◆
夕刻。
視察団の一行を見送ったあと、城内はようやく静けさを取り戻した。
秀吉は広間の隅で茶をすすっていた。
そこへ、ねねがそっと現れる。
「……おつかれさん」
「うん。視察団、まあまあ機嫌よさげやったな」
「でも、あんた、だいぶ疲れとるやろ」
「まぁな……」
秀吉が笑うと、ねねはひとつ息を飲み、そして一歩、彼に近づいた。
「なぁ、殿下……いや、秀吉」
「ん?」
「うち……ずっと、待っとったんやで?」
「……え?」
「このままじゃ、あたしの方が待ちすぎてまうやろ!」
叫んだその瞬間、ねねは勢いよく身を寄せた。
距離が縮まる。
顔が近づく。
目が合う。
秀吉の瞳が揺れ、ねねの頬が染まり、唇が触れ合いそうになった、その──
──ゴォォォォォン……!
城の鐘が鳴った。
「うそやろ!?」
「また!? またこのパターンかい!!」
ねねが叫び、秀吉が頭を抱える。
「も、も、もうちょいでいけたのに……!」
「この城、うちらのキスを邪魔するために鐘鳴らしとるやろ!」
「ほんまに、もーっ……」
しかし、ふたりはすぐに、顔を見合わせて笑った。
「なんかもう、運命やな、これは」
「……やな」
「でもな」
ねねがゆっくりと、そっと彼の手を取った。
「うちは諦めへんで。
なんべん邪魔されても、あんたとちゃんと“そういう関係”になりたいって、思っとるから」
「……わしもや」
秀吉は少し頬をかきながらも、真っ直ぐに彼女を見た。
「次こそは、止めへんで」
「……うん」
その言葉に、ねねは満足げに笑ってうなずいた。
夕暮れの光がふたりの背を照らす。
未遂のキス。
だが、それは“まだ終わっていない”ことの証。
百話の節目。
殿下とねねは、まだ歩き続ける──
隣で、何度でも、同じ夢を見るために。
──視察団、再来。
以前の騒動が記憶に新しい一同は、それぞれの持ち場で息を詰めながら準備を整えていた。
「ほんま、なんでまたこのタイミングやねん……」
ねねは城奥の控えの間で、うっすらため息をつきながら、鏡の前で髪を整えていた。
今日は、特別な日。
日吉丸が“木下藤吉郎秀吉”となってから百話目──つまり、それだけ一緒に歩んできたということ。
「ちょっとは、うちの気持ちも考えてよね……」
誰に言うともなくつぶやき、ふっと頬を染める。
「……あの時、抱きしめられたかったんや」
墨俣、城下、戦場、政。
どんなときも隣にいた。
でも“隣にいるだけ”の関係で、もうずっと止まっている。
「今日は、もう、うちが仕掛けたる」
そう決めて、ねねはゆっくりと立ち上がった。
◆ ◆ ◆
夕刻。
視察団の一行を見送ったあと、城内はようやく静けさを取り戻した。
秀吉は広間の隅で茶をすすっていた。
そこへ、ねねがそっと現れる。
「……おつかれさん」
「うん。視察団、まあまあ機嫌よさげやったな」
「でも、あんた、だいぶ疲れとるやろ」
「まぁな……」
秀吉が笑うと、ねねはひとつ息を飲み、そして一歩、彼に近づいた。
「なぁ、殿下……いや、秀吉」
「ん?」
「うち……ずっと、待っとったんやで?」
「……え?」
「このままじゃ、あたしの方が待ちすぎてまうやろ!」
叫んだその瞬間、ねねは勢いよく身を寄せた。
距離が縮まる。
顔が近づく。
目が合う。
秀吉の瞳が揺れ、ねねの頬が染まり、唇が触れ合いそうになった、その──
──ゴォォォォォン……!
城の鐘が鳴った。
「うそやろ!?」
「また!? またこのパターンかい!!」
ねねが叫び、秀吉が頭を抱える。
「も、も、もうちょいでいけたのに……!」
「この城、うちらのキスを邪魔するために鐘鳴らしとるやろ!」
「ほんまに、もーっ……」
しかし、ふたりはすぐに、顔を見合わせて笑った。
「なんかもう、運命やな、これは」
「……やな」
「でもな」
ねねがゆっくりと、そっと彼の手を取った。
「うちは諦めへんで。
なんべん邪魔されても、あんたとちゃんと“そういう関係”になりたいって、思っとるから」
「……わしもや」
秀吉は少し頬をかきながらも、真っ直ぐに彼女を見た。
「次こそは、止めへんで」
「……うん」
その言葉に、ねねは満足げに笑ってうなずいた。
夕暮れの光がふたりの背を照らす。
未遂のキス。
だが、それは“まだ終わっていない”ことの証。
百話の節目。
殿下とねねは、まだ歩き続ける──
隣で、何度でも、同じ夢を見るために。
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