豊臣ハーレム❤『豊臣秀吉、愛と政の合間にて──天下を取ったらハーレムがついてきた件』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第11章『信長の目、天下の扉──桶狭間前夜編』

第百十話『風を裂いて──殿下、最前線へ』

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 戦場に、風が吹いた。

 いや──正しくは、“藤吉郎が風を起こした”。

 桶狭間の谷間、斜面を滑るように駆け抜けた突撃隊。
 その先頭に立っていたのは、槍ではなく、草履を履いた小男だった。

 「殿下ァァァ! 右手、今川の弓隊が前に出ました!」

 「待ってましたぁッ!! 突撃隊、右へ三間斜行して──左を捨てろ!
 援軍隊を“囮”に使うんや、風通すんや!!」

 叫びながら、秀吉は戦場を駆ける。
 口は動かし続け、目は常に兵の流れと敵の形を読み続ける。

 「草履持ちが……あの小男が!」

 敵の本陣の間者たちが混乱の中で呟いた。

 「まさか、ここまで読み切ってくるとは……!」

 まさしく奇跡のようだった。
 狭隘な地形、雨上がりの泥濘、敵の集中配置──そのすべてを利用し、
 “抜け道”のような風の通り道をこじ開けた。

 ──風が、信長の本陣に届く。

 それは、秀吉が“切り拓いた道”そのものだった。

 ◆ ◆ ◆

 信長は、焚火の前で微動だにせずその戦況を見ていた。

 副将が焦って耳打ちする。

 「信長様、東の谷間、藤吉郎隊が敵陣の背を……!」

 信長は、わずかに笑った。

 「……やっぱり、こいつは“風の男”やな」

 ◆ ◆ ◆

 戦は終わった。
 勝利は、織田の手に。
 だが、勝利の代償は決して小さくなかった。

 秀吉も、泥と血にまみれ、片膝をついていた。
 槍の柄は折れ、草履は片方脱げ落ちている。
 それでも、立っていた。

 「殿下……!」

 ねねが、戦後の混乱を抜けて走り寄ってきた。

 「無事やったんか、無事でいてくれたんか……!」

 「ねね……おまえも、怪我は……?」

 「あるわけないやろ! 誰がうちを守ってくれとった思うとん!」

 その言葉に、秀吉は思わずふっと笑って──次の瞬間、倒れかける。

 ねねがすかさず支える。

 「殿下ァァァァ!!!」

 叫びながら、ボロボロの彼を抱きしめた。
 鎧越しの硬さなんて、関係なかった。

 「……あんたは、ほんまに走ってるんやな……」

 ねねの瞳に、涙が浮かんでいた。

 「戦の中でも、みんなの先で、風みたいに──
 あんたは、止まらんのやな……」

 秀吉は、力なく微笑んだ。

 「せやけどな……
 その風の向かう先に、おまえらが……おまえが、おってくれたら……」

 「うん、ずっとおるよ」

 ◆ ◆ ◆

 翌日。
 桶狭間の戦で“先鋒を指揮し、敵陣の突破口を拓いた男”として、
 木下藤吉郎秀吉の名が、軍中に広がった。

 「見たか、あの草履持ち……」
 「信長様も“風の男”って笑うとったぞ……」
 「もう、小姓の時代やあらへん」

 初めての、名声だった。
 
 泥と汗と、恐怖と──命のやり取りの中で手にした、確かな“信頼の証”。

 戦場で、草履の音が風になる。
 
 それが、藤吉郎秀吉という男の、真の始まりだった。
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