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第16章《京都進出!女たちの都入りと恋の陣形編》
第150話『上洛命令──女房衆、都へ行く!』
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初夏の風が、尾張の城下に吹き渡る。
蒸し暑さのなかでも、前田屋敷の一角──ではなく、今回は秀吉の陣屋がやけににぎやかだった。
「どえりゃあことになったで、殿下!」
戸を蹴破る勢いで駆け込んできたのは、蜂須賀小六。彼の手には、織田家の花押が入った文書が握られている。
秀吉は、竹でできた簾をめくり上げながら、団扇片手に応じた。
「なんじゃ、またどこかで一揆でも起こったか?」
「いや……もっとすごいことや。上様から、直々の“上洛命令”や!」
秀吉の手から団扇が落ちた。
「じょ、上洛ぅ!?」
そう、時はまさに──織田信長が将軍義昭を京から追放し、実質的に政権を掌握した後のことであった。
信長は新たな秩序の象徴として、自らの側近たちを次々と京へ送り込み、名実ともに幕府の後継を作り上げようとしていた。
「この“お前も、そろそろ都で“家臣団の顔”になれ”って書いてあるやろ」
小六が差し出した書状を震える手で読みながら、秀吉は頭を抱えた。
「か、顔……? うちはまだ百姓上がりで、都の公家連中に顔なんぞ……」
そこへ、障子がガラリと開き。
「都ぉお!? うちらも行ってええのか!?」
どこで聞いていたのか、ねねが真っ赤な顔で飛び込んできた。
後ろからは、おしの、珠子、千鶴らがずらりと並ぶ。
「ま、舞妓はんおるんやろ!? 絶対に見てみたかったんや、京の風俗!」
「おしのさん、それ言い方やばいです」
「でもまあ、京の化粧って一度は見てみたいよねぇ……」
「殿下の正室として、ふるまい方も勉強し直さないと……」
秀吉はますます頭を抱えた。
「わ、わしの上洛に女連れてく気か? あかんて! 信長様がどれだけ怖いか──」
「呼んだのは、わしだ」
ひときわ鋭い声が背後から飛び込んできた。秀吉が振り向くと、そこに立っていたのは──そう、織田信長その人である。
「うぎゃああああっ! 上様!? なんでこのタイミングで!?」
「暇だったので来た。……というのは嘘だ。お前が“いつまでも農民根性が抜けん”と評判なので、顔を見に来た」
女房衆は一斉に正座。
「織田上様、おなご衆が出しゃばって申し訳ございませぬ……」とねね。
「お前たちがいなければ、秀吉の顔も立たぬ」
その一言で、空気が一変した。
「都の者たちは、華やかさにこそ信を置く。政治とは、見せる技術だ。だから女の顔がなきゃ、政は動かぬ。お前たちは“秀吉の力”そのものよ」
信長はそう言い残し、さっと去っていった。
だが女たちはその言葉を噛みしめ、ゆっくりと顔を上げた。
「……あかん、涙出そうや」おしのが鼻をすすり、珠子も静かに頷く。
「私たちが、殿下の“戦”の一部になれる……」
「ってことで──上洛準備、始めるぞっ!!」
こうして、尾張の片隅の陣屋は、女房衆による“京支度”戦争へと突入したのである。
*
数日後。
「なあなあ、この櫛どう思う!? 京じゃ流行らんやろか!?」
「珠子さん、その髪結い高すぎて襖に引っかかります!」
「千鶴、あんたの着物、それ将軍家の色に似ててまずいんちゃうか?」
「ええっ!? じゃあこっちの、胸元ゆるいやつにする……?」
大混乱である。
しかも、秀吉自身も問題だった。
「な、なんでわしがこの衣装……」
鏡の前に立つ秀吉は、まるで芝居の主役のような白紋付きの羽織袴。
「殿下、これが“都の第一印象”ですぞ」
ねねが笑いながら言うと、女房衆が一斉に襟元を整える。
「わし、まるで女の婿養子やないかい……」
そのとき、ふとおしのが顔を赤らめながら呟いた。
「でもなぁ……うち、正直、ちょっとドキッとしたわ……」
その言葉に、ねねと珠子と千鶴が顔を見合わせ、全員が一斉に大声で言う。
「ダメです!!」
秀吉は完全に尻に敷かれている。
けれどそのとき、屋敷の門が開いた。
「準備は整ったな」
信長の使者が馬でやって来た。
「本隊は既に美濃を越え、京に向かって進軍中。秀吉殿、並びにご女房衆も、京へ参られよ──」
「うっしゃあああ! 出陣やああああ!」
女たちが先に駆け出し、秀吉は置いて行かれた格好になる。
「ちょ、ちょっと! わしが先頭やろ!? 待て待てぇぇぇぇ!!」
こうして、女房衆を引き連れた戦国の怪人・木下藤吉郎秀吉の“都入り”が、にぎやかに始まったのだった。
──つづく──
蒸し暑さのなかでも、前田屋敷の一角──ではなく、今回は秀吉の陣屋がやけににぎやかだった。
「どえりゃあことになったで、殿下!」
戸を蹴破る勢いで駆け込んできたのは、蜂須賀小六。彼の手には、織田家の花押が入った文書が握られている。
秀吉は、竹でできた簾をめくり上げながら、団扇片手に応じた。
「なんじゃ、またどこかで一揆でも起こったか?」
「いや……もっとすごいことや。上様から、直々の“上洛命令”や!」
秀吉の手から団扇が落ちた。
「じょ、上洛ぅ!?」
そう、時はまさに──織田信長が将軍義昭を京から追放し、実質的に政権を掌握した後のことであった。
信長は新たな秩序の象徴として、自らの側近たちを次々と京へ送り込み、名実ともに幕府の後継を作り上げようとしていた。
「この“お前も、そろそろ都で“家臣団の顔”になれ”って書いてあるやろ」
小六が差し出した書状を震える手で読みながら、秀吉は頭を抱えた。
「か、顔……? うちはまだ百姓上がりで、都の公家連中に顔なんぞ……」
そこへ、障子がガラリと開き。
「都ぉお!? うちらも行ってええのか!?」
どこで聞いていたのか、ねねが真っ赤な顔で飛び込んできた。
後ろからは、おしの、珠子、千鶴らがずらりと並ぶ。
「ま、舞妓はんおるんやろ!? 絶対に見てみたかったんや、京の風俗!」
「おしのさん、それ言い方やばいです」
「でもまあ、京の化粧って一度は見てみたいよねぇ……」
「殿下の正室として、ふるまい方も勉強し直さないと……」
秀吉はますます頭を抱えた。
「わ、わしの上洛に女連れてく気か? あかんて! 信長様がどれだけ怖いか──」
「呼んだのは、わしだ」
ひときわ鋭い声が背後から飛び込んできた。秀吉が振り向くと、そこに立っていたのは──そう、織田信長その人である。
「うぎゃああああっ! 上様!? なんでこのタイミングで!?」
「暇だったので来た。……というのは嘘だ。お前が“いつまでも農民根性が抜けん”と評判なので、顔を見に来た」
女房衆は一斉に正座。
「織田上様、おなご衆が出しゃばって申し訳ございませぬ……」とねね。
「お前たちがいなければ、秀吉の顔も立たぬ」
その一言で、空気が一変した。
「都の者たちは、華やかさにこそ信を置く。政治とは、見せる技術だ。だから女の顔がなきゃ、政は動かぬ。お前たちは“秀吉の力”そのものよ」
信長はそう言い残し、さっと去っていった。
だが女たちはその言葉を噛みしめ、ゆっくりと顔を上げた。
「……あかん、涙出そうや」おしのが鼻をすすり、珠子も静かに頷く。
「私たちが、殿下の“戦”の一部になれる……」
「ってことで──上洛準備、始めるぞっ!!」
こうして、尾張の片隅の陣屋は、女房衆による“京支度”戦争へと突入したのである。
*
数日後。
「なあなあ、この櫛どう思う!? 京じゃ流行らんやろか!?」
「珠子さん、その髪結い高すぎて襖に引っかかります!」
「千鶴、あんたの着物、それ将軍家の色に似ててまずいんちゃうか?」
「ええっ!? じゃあこっちの、胸元ゆるいやつにする……?」
大混乱である。
しかも、秀吉自身も問題だった。
「な、なんでわしがこの衣装……」
鏡の前に立つ秀吉は、まるで芝居の主役のような白紋付きの羽織袴。
「殿下、これが“都の第一印象”ですぞ」
ねねが笑いながら言うと、女房衆が一斉に襟元を整える。
「わし、まるで女の婿養子やないかい……」
そのとき、ふとおしのが顔を赤らめながら呟いた。
「でもなぁ……うち、正直、ちょっとドキッとしたわ……」
その言葉に、ねねと珠子と千鶴が顔を見合わせ、全員が一斉に大声で言う。
「ダメです!!」
秀吉は完全に尻に敷かれている。
けれどそのとき、屋敷の門が開いた。
「準備は整ったな」
信長の使者が馬でやって来た。
「本隊は既に美濃を越え、京に向かって進軍中。秀吉殿、並びにご女房衆も、京へ参られよ──」
「うっしゃあああ! 出陣やああああ!」
女たちが先に駆け出し、秀吉は置いて行かれた格好になる。
「ちょ、ちょっと! わしが先頭やろ!? 待て待てぇぇぇぇ!!」
こうして、女房衆を引き連れた戦国の怪人・木下藤吉郎秀吉の“都入り”が、にぎやかに始まったのだった。
──つづく──
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