『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第74話 『ことねVS瑠衣──“静寂の中の対話”』

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 放課後の教室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 夕陽が窓から斜めに差し込み、長く伸びた影が廊下を染めていく。

 人気のない教室。
 残っていたのは、二人だけだった。

 

 ことねと──瑠衣。

 

 どちらも机に座ったまま、何も言わない。

 鉛のような沈黙が空間に満ちていく。

 椅子の軋む音すら、憚られるほどの静寂。

 

 ……どれほどの時間が経っただろうか。

 先に口を開いたのは、ことねだった。

 

「……あなたも、演じてるんでしょ」

 瑠衣が、かすかに眉を動かす。

「誰かの“理想の自分”を」

 

 教室の空気が、ピンと張り詰めた。

 ことねは机に手を置き、目を逸らさず続ける。

「私も、ずっとそうだった」

「“姫月るな”っていう理想のアイドルを演じて、
 本当の自分を見せないようにしてきた」

「でも……それだけじゃ、もういられないって思ってる」

 

 ことねの視線の先、瑠衣は窓の外に目を向けたまま、口を開いた。

 

「……あなたには、分からない」

「人に期待されたことがある人間に、“何も期待されなかった側”の気持ちなんて……」

「ずっと、見えなかった。聞こえなかった。存在すら、誰にも認識されなかった」

「だから私、せめて“静か”でいようと思ったの」

「目立たなければ、誰の邪魔にもならない。誰の怒りも買わない。誰の好奇心も引かない」

 

「……それで、楽だった?」

 

 ことねの問いに、瑠衣は少しだけ口角を上げて答えた。

「楽だった。誰にも期待されないって、自由だから」

「でも、“大和武尊”だけは……最初から、私を見てくれた」

 

「“静か”なのに、ちゃんと目を合わせて、“一緒にごはん食べよう”って言ってくれた」

「それだけで、私の世界に色がついた」

「……でも、その色が増えるのが、怖かった」

 

 ことねは静かに、手を組んだ。

「わかるよ。誰かに気づかれることって、怖い」

「でも……気づかれて、初めて、救われることもある」

 

 沈黙。

 ふたりの間に言葉はない。だが、心は確かに交錯していた。

 

 ことねは、瑠衣の横にそっと歩み寄り、机に手を置いた。

「武尊くんに、感謝してる。私も──ずっと隠れてたから」

「あなたみたいに、ちゃんと話せなかったけど、でも……少し、勇気をもらえたの」

 

 瑠衣はゆっくりとことねの顔を見た。

「……優しいね、あなた」

「でも、それが一番……残酷かもしれない」

 

 ことねの目が揺れる。

 瑠衣は立ち上がり、ことねのすぐそばに立った。

「私ね、あなたの歌……よく聴いてた」

「“るな様”の配信、夜中に、イヤホンでこっそり聴いてた」

「……本当に救われたよ。でも、それとこれとは、別だから」

 

「私、譲らないから。あなたが本気なら──正面から来て」

 

 ことねは、しばらく沈黙したあと──静かに笑った。

「うん。わかった。私も譲らない」

「でも、敵じゃないよ。たぶん」

 

「──好きになっちゃったから。彼のこと」

 

 瑠衣は、そっと目を閉じた。

 

「……私も」

 

 夕陽が沈む。
 静かな戦いが、始まった。

 

 それは剣ではなく、拳でもなく。

 ただ、“感情”という名の、静かで確かな矢。

 

 それぞれが、武尊というたった一人の存在に引き寄せられ、
 自分自身と、そして互いと──向き合う時間へと歩み出していた。

 

 ──続く。
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