76 / 245
第74話 『ことねVS瑠衣──“静寂の中の対話”』
しおりを挟む
放課後の教室は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
夕陽が窓から斜めに差し込み、長く伸びた影が廊下を染めていく。
人気のない教室。
残っていたのは、二人だけだった。
ことねと──瑠衣。
どちらも机に座ったまま、何も言わない。
鉛のような沈黙が空間に満ちていく。
椅子の軋む音すら、憚られるほどの静寂。
……どれほどの時間が経っただろうか。
先に口を開いたのは、ことねだった。
「……あなたも、演じてるんでしょ」
瑠衣が、かすかに眉を動かす。
「誰かの“理想の自分”を」
教室の空気が、ピンと張り詰めた。
ことねは机に手を置き、目を逸らさず続ける。
「私も、ずっとそうだった」
「“姫月るな”っていう理想のアイドルを演じて、
本当の自分を見せないようにしてきた」
「でも……それだけじゃ、もういられないって思ってる」
ことねの視線の先、瑠衣は窓の外に目を向けたまま、口を開いた。
「……あなたには、分からない」
「人に期待されたことがある人間に、“何も期待されなかった側”の気持ちなんて……」
「ずっと、見えなかった。聞こえなかった。存在すら、誰にも認識されなかった」
「だから私、せめて“静か”でいようと思ったの」
「目立たなければ、誰の邪魔にもならない。誰の怒りも買わない。誰の好奇心も引かない」
「……それで、楽だった?」
ことねの問いに、瑠衣は少しだけ口角を上げて答えた。
「楽だった。誰にも期待されないって、自由だから」
「でも、“大和武尊”だけは……最初から、私を見てくれた」
「“静か”なのに、ちゃんと目を合わせて、“一緒にごはん食べよう”って言ってくれた」
「それだけで、私の世界に色がついた」
「……でも、その色が増えるのが、怖かった」
ことねは静かに、手を組んだ。
「わかるよ。誰かに気づかれることって、怖い」
「でも……気づかれて、初めて、救われることもある」
沈黙。
ふたりの間に言葉はない。だが、心は確かに交錯していた。
ことねは、瑠衣の横にそっと歩み寄り、机に手を置いた。
「武尊くんに、感謝してる。私も──ずっと隠れてたから」
「あなたみたいに、ちゃんと話せなかったけど、でも……少し、勇気をもらえたの」
瑠衣はゆっくりとことねの顔を見た。
「……優しいね、あなた」
「でも、それが一番……残酷かもしれない」
ことねの目が揺れる。
瑠衣は立ち上がり、ことねのすぐそばに立った。
「私ね、あなたの歌……よく聴いてた」
「“るな様”の配信、夜中に、イヤホンでこっそり聴いてた」
「……本当に救われたよ。でも、それとこれとは、別だから」
「私、譲らないから。あなたが本気なら──正面から来て」
ことねは、しばらく沈黙したあと──静かに笑った。
「うん。わかった。私も譲らない」
「でも、敵じゃないよ。たぶん」
「──好きになっちゃったから。彼のこと」
瑠衣は、そっと目を閉じた。
「……私も」
夕陽が沈む。
静かな戦いが、始まった。
それは剣ではなく、拳でもなく。
ただ、“感情”という名の、静かで確かな矢。
それぞれが、武尊というたった一人の存在に引き寄せられ、
自分自身と、そして互いと──向き合う時間へと歩み出していた。
──続く。
夕陽が窓から斜めに差し込み、長く伸びた影が廊下を染めていく。
人気のない教室。
残っていたのは、二人だけだった。
ことねと──瑠衣。
どちらも机に座ったまま、何も言わない。
鉛のような沈黙が空間に満ちていく。
椅子の軋む音すら、憚られるほどの静寂。
……どれほどの時間が経っただろうか。
先に口を開いたのは、ことねだった。
「……あなたも、演じてるんでしょ」
瑠衣が、かすかに眉を動かす。
「誰かの“理想の自分”を」
教室の空気が、ピンと張り詰めた。
ことねは机に手を置き、目を逸らさず続ける。
「私も、ずっとそうだった」
「“姫月るな”っていう理想のアイドルを演じて、
本当の自分を見せないようにしてきた」
「でも……それだけじゃ、もういられないって思ってる」
ことねの視線の先、瑠衣は窓の外に目を向けたまま、口を開いた。
「……あなたには、分からない」
「人に期待されたことがある人間に、“何も期待されなかった側”の気持ちなんて……」
「ずっと、見えなかった。聞こえなかった。存在すら、誰にも認識されなかった」
「だから私、せめて“静か”でいようと思ったの」
「目立たなければ、誰の邪魔にもならない。誰の怒りも買わない。誰の好奇心も引かない」
「……それで、楽だった?」
ことねの問いに、瑠衣は少しだけ口角を上げて答えた。
「楽だった。誰にも期待されないって、自由だから」
「でも、“大和武尊”だけは……最初から、私を見てくれた」
「“静か”なのに、ちゃんと目を合わせて、“一緒にごはん食べよう”って言ってくれた」
「それだけで、私の世界に色がついた」
「……でも、その色が増えるのが、怖かった」
ことねは静かに、手を組んだ。
「わかるよ。誰かに気づかれることって、怖い」
「でも……気づかれて、初めて、救われることもある」
沈黙。
ふたりの間に言葉はない。だが、心は確かに交錯していた。
ことねは、瑠衣の横にそっと歩み寄り、机に手を置いた。
「武尊くんに、感謝してる。私も──ずっと隠れてたから」
「あなたみたいに、ちゃんと話せなかったけど、でも……少し、勇気をもらえたの」
瑠衣はゆっくりとことねの顔を見た。
「……優しいね、あなた」
「でも、それが一番……残酷かもしれない」
ことねの目が揺れる。
瑠衣は立ち上がり、ことねのすぐそばに立った。
「私ね、あなたの歌……よく聴いてた」
「“るな様”の配信、夜中に、イヤホンでこっそり聴いてた」
「……本当に救われたよ。でも、それとこれとは、別だから」
「私、譲らないから。あなたが本気なら──正面から来て」
ことねは、しばらく沈黙したあと──静かに笑った。
「うん。わかった。私も譲らない」
「でも、敵じゃないよ。たぶん」
「──好きになっちゃったから。彼のこと」
瑠衣は、そっと目を閉じた。
「……私も」
夕陽が沈む。
静かな戦いが、始まった。
それは剣ではなく、拳でもなく。
ただ、“感情”という名の、静かで確かな矢。
それぞれが、武尊というたった一人の存在に引き寄せられ、
自分自身と、そして互いと──向き合う時間へと歩み出していた。
──続く。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる