『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第162話『奇跡の瞬間──届いた想い』

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 ──放課後。

 バレンタインの騒ぎもひと段落し、
 夕暮れの校舎に静けさが戻りつつあった。

 しかし、武尊の胸の中は、未だ嵐のようだった。

「……はあ」

 靴箱の隅、誰もいない下駄箱前のベンチに腰掛けて、
 手元の紙袋をそっと見つめる。

 ぎっしり詰まった、いろんな形のチョコレート。
 それぞれの個性が溢れていて、何よりも──重い。

(これは……想いの重さなんだよな)

 武尊は、ひとつひとつを思い出すように手に取る。

 **

 最初に手にしたのは──千夏のチョコ。

 不器用ながらも、真剣に作られた手作り。
 ラッピングのテープがちょっと曲がっているところが、逆に可愛らしかった。

(「ちゃんと渡せた!」って顔、すっげーよかったな……)

 照れながらも、目は真剣だった。
「好きだ」って言葉こそなかったけれど、
 それ以上に伝わってきた。

(まっすぐすぎて、ズルいよ)

 武尊は思わず、笑っていた。

 **

 次に手に取ったのは──ことねのチョコ。

 小さな紙袋の中にあったのは、シンプルな包みと──短い手紙。

 “好きです”

 たったそれだけ。

 でも、その一言に、ことねの全てが詰まっていた。

 手渡すときの、ほんの震えた指先。
 目を逸らしながらも、逃げなかった視線。

(……勇気、出してくれたんだな)

 心が、じんわり温かくなった。

 **

 続いて、イザベラのチョコ。

 まるで宝石のように美しい、王国製の特注品。
 でも、それよりも印象に残ったのは、渡されたときの彼女の微笑みだった。

「わたくしの愛、受け取ってくださいませ♡」

 気高く、誇り高く、でもどこか不器用に。
 そんなイザベラの「一世一代」の表情だった。

(……あんな真剣な目、初めて見た)

 武尊は、そっとチョコに触れながら目を閉じた。

 **

 ルナのチョコは──ちょっと変だった。

 妙に柔らかくて、ラッピングも独特。
 でも、笑って「受け取ってくれてありがと!」と叫んだあの顔は、忘れられない。

 泣き笑いみたいな、くしゃっとした表情。

(どんな味でも……忘れられないチョコだと思う)

 言葉にできない“ありがとう”が、胸の奥に残っていた。

 **

 最後に、イレーネのチョコ。

 “推しカプ仕様”と称していたが、
 そこには明確に、彼女の「殿下への愛」が込められていた。

「わたくし、殿下を“推し”ます♡」

 その宣言は、可愛くて、誇らしくて──

 でも確かに、本気だった。

(……推されるって、すげぇことなんだな)

 思わず、頬が緩んだ。

 **

 ──全部、大切な想いだった。

 ひとつとして軽いものなんてなかった。

 それぞれが、
 自分の気持ちと向き合い、覚悟して、
「好き」という感情を込めてくれたチョコたち。

 武尊は、全部を丁寧に袋へ戻した。

「……ありがとう」

 小さな声だったけれど、
 そこに込めた想いは、嘘じゃなかった。

 言葉じゃ伝えきれないから、
 今はせめて、心の中で全力で伝える。

(ありがとう)

(……みんなの気持ち、ちゃんと届いた)

 **

 空は、すっかり夕焼けに染まっていた。

 放課後の校舎は静かで、
 聞こえるのは靴音と、風の音だけ。

 でも武尊の胸の中には、
 あたたかくて、甘くて、ちょっとくすぐったい──
 そんな想いがぎゅっと詰まっていた。

(まだ答えは出せないかもしれない)

(でも──絶対、無駄にはしない)

 **

 明日からも、また日常が始まる。
 でも今日だけは、特別な日だった。

 そしてそれは、
 きっと未来につながる──奇跡の瞬間だった。

(続く)

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