『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第164話『推しも、恋も──大切な人たちへ』

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 春の風が吹き始めた。

 2月の終わり、
 まだ肌寒さは残っていたけれど、
 空の色と風の匂いは、確かに“次の季節”の到来を告げていた。

 ──バレンタインデーから数日。

 武尊の周りは、やっと落ち着きを取り戻しつつあった。

 日常が、戻ってきた。

 でも、それは“何も変わらない”日々ではなかった。

 **

「殿下~! 春限定VTuberフェア、始まりましたよ~!」

 放課後の廊下。
 小春がチラシを抱えて走ってくる。

「この春、限定ボイスつき! 買わなきゃ損ですよぉ♡」

「……それ、俺も狙ってたやつだ」

 武尊は思わず苦笑する。
 それは、バレンタインの数日前なら、ただのオタ活の一幕だったかもしれない。

 でも今は、違う。

 **

「推し」っていう言葉の重み。

 それを“贈る”側の気持ち。

 そして“受け取る”側の責任。

 ほんの数日前に、
 大切な仲間たちが教えてくれた。

 ──どれだけ勇気を振り絞って、
 どれだけ不器用で、
 どれだけ純粋で。

 それでも「好きです」って言うことの、尊さを。

 **

 千夏のまっすぐなまなざし。
 ことねの震えた声。
 イザベラの気高い決意。
 ルナの明るさの奥にある優しさ。
 イレーネの愛情と推し魂の強さ。

 全部が、心に残っていた。

 **

 教室の窓から見える夕暮れ。

 もうすぐ1年生の終わりが来る。

 進級すれば、クラスが変わるかもしれない。
 距離も、関係も、揺らぐかもしれない。

 でも──

「……変わらないよ」

 武尊は、ぽつりと呟いた。

 自分に言い聞かせるように。
 だけど、それは確かに、彼自身の意志だった。

「推しも、仲間も、恋も──絶対に手放さない」

 胸の奥で、しっかりと誓う。

 **

「大和ー! 一緒に帰ろーぜ!」

 千夏の声が廊下に響く。

「殿下、お待たせしましたわ♡」

 イザベラのパンプスの音が重なる。

「……あの、私も……」
 ことねがそっと近づいてくる。

「えっへへ~、おんぶとかしてくれたらチョコあげなおすぞ~」
 ルナが満面の笑みで飛びつき、

「今日も殿下は推しがいがありますわ♡」
 イレーネの鈴が、ころん、と音を立てる。

 **

 そのすべてが、
 武尊にとっては“宝物”だった。

 騒がしい。
 うるさい。
 でも、絶対に代えがたい。

 **

「よし、帰るか」

 立ち上がりながら、武尊は笑う。

 日常の中にある“非日常”。
 恋とオタ活と秘密と、全部ひっくるめたこの学園生活。

(──まだ、終わらせたくない)

 まだ、言葉にできない想いが、そこにはある。
 だからこそ──この春も、歩いていこう。

 この仲間たちと。

 **

 廊下の向こう、教室の外。

 春の風が、カーテンを揺らす。

 そして、新たな物語が──
 静かに始まりを告げる。

(続く)
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