『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第173話『夜の温泉タイム──湯けむりと秘密の告白』

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 ──午後九時。月明かりに照らされた、古びた露天風呂。

 湯けむりが静かに立ち上り、どこか神秘的な空気を纏う中、
 武尊はひとり、温泉に肩まで浸かっていた。

(……やっと、落ち着いた)

 夜の気配。
 ほのかに香る檜と温泉の混ざり合った湯気。
 その中に身を沈めると、昼間の騒動が遠い夢のように感じられた。

 だが──その静けさが長く続くはずもなかった。

 **

「……あ、いた」

 岩場の向こうから聞こえた声に、武尊はビクッと肩を揺らした。

 そこに現れたのは、バスタオル一枚をまとった──千夏。

「ちょ、ちょっと!? 今男子タイム──!」

「番台の人に聞いたら、もう上がるって聞いたんだけど!? ていうか、まだ入ってたの!?」

「あああ、違う違う! まだ入ってたっていうか……」

 言い訳にならない言葉を並べながら、武尊は湯に深く沈む。

「……まあ、いっか」

 千夏はぽつりと呟いて、岩を背に腰を下ろした。

「こんな、静かな温泉……一人で入るの、もったいないし」

「いや、あの、そもそも混浴じゃ──」

「今日はさ、ちゃんと話したくて来たんだ」

 武尊が口をつぐむ。

「……オマエのこと、好きだって言ったら困る?」

 一拍の間。

「……困るっていうか……」

「嘘でも、嫌じゃないって言ってほしかったな」

 千夏は、目を閉じた。

「でも、ちゃんと伝えたかった。
 ……たとえ選ばれなくても、オレはオマエのこと、好きでいたいって」

「……千夏」

「いいって。返事は今じゃなくていいし。
 たださ──オマエの隣で湯に浸かれるこの時間だけでも、ちゃんと覚えておきたかったんだ」

 やがて、静かに湯から上がり、背を向けていくその姿に──
 武尊は何も言えなかった。

 **

 次に現れたのは、ことねだった。

「あっ……えっ!? ご、ごめんなさい……!」

 岩場から顔を出した瞬間、武尊の姿に驚き、目を丸くする。

「ち、違うの、わたし、女子タイムだと思ってて……っ!」

「いや俺も! たまたま! 上がる寸前だったんだけど!」

「え……じゃ、じゃあ……わたし……最後の女子、だったの……?」

 武尊は急いで背を向ける。

 ことねは岩陰に隠れながら、顔を真っ赤に染めていた。

「……でも、ちょっとだけ、話してもいい?」

 その声に、武尊は静かに頷いた。

「わたし、バレンタインのとき……すごく勇気出したの。
 でも、ずっと怖かった。“届かなかったら”って」

「……うん」

「でも、今日の旅行で……オマエがみんなのこと、ちゃんと見てくれてるって分かった。
 だから……もう少しだけ、期待してもいい、かな……?」

 湯気に紛れて、声が震えていた。

 武尊は、それでも背を向けたまま、小さく答えた。

「もちろん。……ずっと見てるよ」

「……ありがとう」

 ことねの湯に落ちた雫が、月の光にキラキラと輝いた。

 **

 そこへ、バシャーンッ!

「殿下~! きゃーっ☆ バスタオルの角がほつれてま~す!」

「ルナ!? 何でお前まで!? タイム守って!!」

「だってぇ~、殿下がまだ入ってるって聞いたら、行くしかないじゃ~ん♡」

「もう誰だよ、そんな情報流したやつ!」

 ルナは武尊の隣にぴったりくっついて、無邪気に湯を撫でた。

「やっぱ温泉ってさ~、心の距離が縮まるよね!」

「縮まりすぎだよ!!」

「てか、今日の布団の件、アタシ的には合格点だったよ?」

「……なに採点されてんの俺!?」

「つまり、次は──手を繋いで寝よう♡」

「寝ない寝ない寝させない!!」

 **

「まったく、皆様お騒がせですわね……」

 その後ろから聞こえてきた声。

「殿下、今宵はわたくし、あなたの背中を流す係と伺っております♡」

「誰から!? それ誰情報!?!?」

 イザベラはすでに浴衣の袖をたくし上げていた。

「そして、こちらの手紙──殿下が湯に浸かる時間に読んでいただきたく……」

「露天で文通!? 何それロマンチックすぎるだろうが!!」

「では、背中をどうぞ♡」

「ちょっと待て! 風紀! 風紀ぃ!!」

 **

 ──最後に現れたのは、湯桶を手にしたイレーネ。

「はい、全員、記録完了っと♡」

「まさか、録音してたの!?」

「殿下×光川の“温泉すれ違いロマンス”本、今冬頒布予定ですわ♡」

「なぜ光川!? なぜBL!? なぜ温泉で生まれるの同人誌!!」

「『この湯けむりの向こうに君がいた』ってタイトルで……♡」

「タイトルだけは妙に完成度高ぇな!!」

 **

 その夜、武尊は疲労困憊で布団に沈んだ。

 だが──ふと、思う。

(……みんな、俺を見てくれてる)

(こんなに騒がしいのに、どこかあったかい)

 湯けむりの余韻と、ほんのり心に残った言葉たち。

 それは静かに、彼の中に沈んでいった。

(続く)
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