『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第201話『再戦の予兆──“夏コミ前哨戦”の招待状』

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 梅雨が終わり、蝉の鳴き声が響き始めた昼下がり。
 茨城県つくば市──県立つくば学園高等学校の校舎に、じんわりとした熱気が広がっていた。

 だが、その蒸し暑さ以上に、萌え文化研究部・通称“萌研”の部室内は異様な熱を帯びていた。

「殿下ァァァァァァァ!! 事件ですぅぅぅぅ!!」

 部室のドアを蹴破る勢いで飛び込んできたのは、光川悠斗。おなじみ“オタク友代表”にして、現在進行形でBL・百合・ロボ・ギャグすべての“地雷混在空間”に身を投じている勇者(被害者)である。

「またかよ……今度は何が燃えた?」

 武尊が半分呆れながら尋ねると、光川は机にドサリと封筒を叩きつけた。

「これを見てくれ……“招待状”だ! 超大型! 全国規模! ガチガチの合同創作イベント!」

 部員たちの視線が一気に集まる。

「《カレッジ・コミット》……?」

 ことねが口にしたその名は、同人界では知る人ぞ知る“高校生限定・合同即売会”──

 文芸部・イラスト部・漫画研究部など、各校の“創作系”クラブの有志が集い、プロ作家や編集者が見学に訪れる一大フェスだ。

「これって、ガチのやつじゃん……!」

 ルナが身を乗り出す。

「しかも今回は、出版社後援の“夏限定プレミア枠”。つまり、実力派の猛者が集まる!」

 イザベラは優雅にティーカップを置いて、静かに言う。

「……主催の中に、“麗人文芸部”の名がございますわね」

 その名に、一瞬で空気が凍りついた。

「──麗人、ってまさか……」

「そう、“九条乙葉”ですわ」

 武尊の脳裏に、ついこの前の春、同人ミニフェスでの激戦が蘇る。

 “†月下の十字架†”──
 王族系腐女子・九条乙葉が率いる、腐と叙情と貴族趣味が融合した“校内最恐文芸部”。
 あの“殿下受け×光川攻”本を、まさかのコピー本で撒き散らした張本人だ。

 その彼女が──今回は、堂々とした主催側として、彼らを招いてきたというのか。

「うわぁぁぁ……またあの子に“受け”って言われる流れ……!?」

 武尊は頭を抱えた。

 イレーネがすっと立ち上がる。

「──行くしかありませんわね」

「えっ」

「だって、わたくしたち“萌研”が真の“萌え”とは何かを見せつける場、それが整ったということですもの」

「もはや戦場ってことだよな……?」

 ことねが静かに眼鏡を押し上げる。

「今回こそ、“創作”で決着をつける」

「つまり、“正妻戦争”が再開ってことじゃんかよ!」

 ルナがにやりと笑った。

「面白くなってきたな!」

 シオンは隅で静かにラミネーターを動かしながら呟いた。

「……AIも、戦闘モードに入りました」

「なにを出す気だお前は!?」

 ◇ ◇ ◇

 その夜。

 自宅に戻った武尊は、夕飯もそこそこに机に突っ伏していた。

(俺、なんでこんなに“描かれる側”に定着しつつあるんだろう……)

 春のミニフェスでは、自分がモデルとなった“殿下BL”“殿下受け本”“殿下ハーレム”の数々が発行され、しかも完売した。全国のどこかに、自分の顔と腹筋が描かれた薄い本が流通していると思うと、寝つけない夜もあった。

(だが……)

 今日、部室で見たみんなの顔を思い出す。

 あの時、誰もが“描くこと”に夢中だった。
 笑っていた。時に真剣で、時に喧嘩して、でも心から創作を楽しんでいた。

「……なら、俺も本気でやるしかない、か」

 武尊は静かに座り直し、スケッチブックを開いた。

 たとえ自分が“描かれる側”であっても。

 “誰かを描くこと”──それもまた、自分の“推し活”だと、ようやく気づき始めていた。

 ◇ ◇ ◇

 その頃、麗人文芸部──†月下の十字架†の部室にて。

 九条乙葉は、机に両肘をつきながら、妖しく笑っていた。

「春は、思わぬ敗北でしたわ。でも、夏は違う……今回は本気で“愛”を描きます」

 側近の腐女子部員が問う。

「主役は、また殿下×光川ですか?」

「……ええ。それも、“政略婚パロディ”ですわ。帝位をかけたロイヤル・ボーイズラブ。今回の副題は──」

 九条乙葉、満面の笑みで告げる。

「『帝冠の誓い──攻か、国か』」

「うわぁ……また地雷が爆誕する……!」

 だが、彼女の目は本気だった。

「リベンジの舞台に、ようこそ……殿下♡」
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