『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第205話『恋と原稿──“一番”になりたい理由』

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 合宿3日目、午後2時。
 リビング兼作業スペースには、扇風機の風とキーボードの打鍵音が交錯していた。

 武尊はクーラーの効いた部屋の片隅で、ぼんやりと全体を見渡していた。
 リビングの中央、畳の上には作業台が設置され、各ヒロインが自分のノートPCや原稿用紙とにらめっこしている。

 ──あまりに、真剣だった。

 ルナがサンドイッチ片手にラフを描きながら叫ぶ。

「光川! なんでこの殿下、笑顔のままビキニ着てんの!? いや私が描いたんだけどさ!!」

「ツッコミの順番どうなってんだよそれ!?」

「“心から楽しいとき、男は自ら脱ぐ”って某同人で読んだんだもん!!」

「何情報だよ!? どこの界隈だよ!?」

 ──そのやりとりはいつも通りだったが、武尊の視線は別のところに向いていた。

 千夏の背中。
 ひときわ大きなスケッチブックに、シャープペンで真剣に何かを描いていた。

 普段は勢い任せの千夏が、無言で、集中している。
 その姿がどこか──いつもの千夏じゃないように感じた。

「……なぁ、千夏」

「ん?」

 顔だけ振り返った彼女の目元には、かすかに汗の筋と、強い意志があった。

「……どうした、そんな真剣な顔で」

 千夏は照れもせず、だが言葉を選ぶように答えた。

「今回だけは、ふざけるつもりないんだ」

「え?」

「……この同人誌。“殿下が主役”だって、最初は恥ずかしかったけどさ。今はちょっと、違う気がする」

 千夏は手を止めて、正面から武尊を見た。

「あたし、殿下に“好き”って……言わせたいんだ」

 武尊の心臓が、どくり、と跳ねた。

「描いた物語の中でもいい。妄想でも、夢でも。……でも、ちゃんと、“あたしが好き”って言ってほしい」

「千夏……」

「いつか本物で言わせたいけどさ。今は、まず創作の中で一番になりたいんだよ。殿下の心の中で」

 それは、まぎれもなく“告白”だった。
 言葉にしないからこそ、余計に重くて──静かに、強かった。

「……ありがとう、千夏」

 武尊は、それしか言えなかった。

 ◇ ◇ ◇

 一方、その会話を離れた場所から見つめていたことねは、静かに息をついた。

 自分のノートに向き直り、原稿の進行表とプロットを書き直し始める。

(ダメだ。感情が、にじんでくる……)

 書いているのは、架空の物語。
 だけど、出てくる登場人物の“想い”が、どんどんリアルになってくる。

 ──好き。
 それは、ずっと蓋をしてきた感情。

(殿下のことが好きなんて、きっと誰にも言えないと思ってた)

 でも、今は──違う。

 同じコテージの中で、同じ空気を吸って、同じ原稿の締切に追われて、笑って、怒って、照れて、隣で笑っている彼を見ていると……心が勝手に、物語を綴ってしまう。

「……原稿に込める、わたしの本気。今、出し切るしかない」

 ことねは筆圧を強めた。

 ◇ ◇ ◇

 武尊はその後、軽い頭痛を覚えて部屋のベランダに出ていた。
 暑さではない、きっと気圧と、女の子たちの“真剣さ”の熱量に当てられたのだろう。

「……モテるって、大変だな……」

 自虐気味にそうつぶやいた時。

 後ろから、無音で影が忍び寄った。

「──殿下、データ取得中です」

「うわああぁあああ!?!?!?」

 振り返ると、そこには水着+白衣という“全力でアウトな格好”をした月影シオンが、ノートPCを片手に立っていた。

「ちょ、ちょっと待てシオン!? 何をどう“取得”してるの!?」

「殿下の、日常的な微表情変化、感情変動パターン、そして呼吸リズム。全てを連動してAI学習させています」

「それもうほとんど脅威なんだが!?」

 シオンは、真剣な目をしていた。

「わたし……殿下のこと、ちゃんと理解したい。人間として、まだ不完全だけど、“好き”って、バグの一種じゃないかと思ってて」

「お、おう……」

「でも、その“バグ”を、ちゃんと保存したいんだ。物語という形式で」

「……“保存”って、お前……」

「うん。この作品で、殿下のデータを“永久保存”する」

 淡々と、けれどどこか熱を帯びたその言葉に、武尊は背筋が凍った。

「怖い……けど、なんか……嬉しいような……でもやっぱり怖いッ!!」

 シオンは、にこっと笑った。

「“恋”って、人をバグらせる。──あたし、正しく壊れてみたいのかも」

 ◇ ◇ ◇

 夕方。

 陽が傾き始めた頃、コテージ全体が“創作の嵐”に包まれていた。

 ことねが静かにプロットを打ち込む。

 千夏が手汗を拭きながら仕上げのペン入れをする。

 ルナはクスッと笑いながらセリフを付け足す。

 イザベラは、万年筆で“愛の詩”を筆記体で綴る。

 イレーネは──武尊の寝顔写真をベースに“騎士と姫の恋物語”を執筆中。

 そして、シオンは。

「この原稿に……“あなた”を、永遠に閉じ込めてあげる」

 そう呟きながら、微笑んでいた。

 ──創作とは、愛。
 愛とは、時に歪で、時に痛い。
 でも、誰かを“本気で想う”というこの想いこそが、物語になる。

 萌え文化研究部、創作戦線──いま、恋を超えて、動き出す。

(つづく)
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