『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第208話『恋も創作も、これからだ!──夏のラストページ』

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 夏の同人イベント、《カレッジ・コミット》は、静かにその幕を閉じた。

 会場撤収のため、体育館のライトはひとつずつ落とされていき、残ったサークル代表たちはそれぞれの荷物をまとめながら、燃え尽きた表情を浮かべていた。

 萌え文化研究部のブース。
 完売の札がかかった机の上に、部誌のサンプルが一冊だけ残っていた。

 その表紙に、武尊はそっと手を触れた。

 ──笑っていた。
 描かれた“自分”が、心から楽しそうに笑っていた。

「……俺って、こんな風に見えてるんだな」

 となりで光川が笑う。

「いやまあ、現実の殿下はもっとオドオドしてるし、BLネタで叫んでるし、変なとこで気を遣うし、カップラーメン食いながら論語暗唱するし」

「おい、それ言うなよ……」

「でも、だからこそ……“推せる”んだよ。おまえという人間が」

「……っ」

 武尊は少し照れくさそうに目を伏せ、それから表紙をそっと閉じた。

 その瞬間、彼の脳裏に、ひとつの想いが閃いた。

 ──描かれる側でいるだけじゃ、ダメだ。
 彼はそのまま、みんなの前に立った。

「なあ、みんな」

 原稿用紙をまだ手にしたままの千夏、ノートPCを閉じたことね、スケッチブックを抱えたルナ、万年筆を握るイザベラ、液タブをしまおうとしていたイレーネ、そして──資料フォルダを更新中のシオンが、一斉に武尊の方を向く。

「俺、今まで……みんなに描かれてばっかだった」

「だって、それが自然でしょ? 殿下、映えるし」

「……そうかもな。でも、それだけじゃ、ダメなんだよ」

 武尊は深く息を吸い、言葉を選ぶように続けた。

「描かれる側である前に、俺は──“誰かを描きたい”」

 沈黙。

 だが、その言葉は確かに彼女たちの胸に届いていた。

「だから、次は……俺が描く。“俺の好き”を、俺の言葉で残す」

 ことねが小さく微笑む。

「殿下の文章……読みたいかも」

 千夏が照れ隠しのように肩をすくめる。

「へっ、じゃあ主役はあたしな!」

「なんであなただけ決定事項なんですの!?」「異議ありよ、当然私の方が──」

「おっと、ヒロイン抗争は次回に回そうな」

 光川が笑って、収拾をつける。

 ◇ ◇ ◇

 その夜──

 夏の合宿、最後の夜。

 スタッフの計らいで、小さな打ち上げ花火大会が開かれた。

 海辺の空に、ひゅるる、と上がった火玉がぱん、と夜空に広がる。

 みんなが歓声を上げる中、武尊はそっと、後ろを振り返った。

「……あれ?」

 誰かが、いない。

 浜辺から少し離れた松林の陰。
 そこにぽつんと立っていたのは──彼女だった。

「……あ」

 武尊は、自然と足を運んでいた。

 月明かりと花火の残光が交差する、その場所。
 背中で気配を感じて、彼女は静かに振り向く。

 ──誰だったのか、それは明言されない。

 だが、その瞳に宿る光が、答えを教えていた。

「……殿下」

「うん」

 ふたりの間に、風が吹いた。

 夏の終わりを告げる、やさしい潮風。

 そして──

「好き、です」

 それは、囁きのようでいて、
 たしかに、世界に刻まれる音だった。

 武尊は驚いた顔をし、それから、ゆっくりと微笑んだ。

「ありがとう」

 答えはまだ、言えなかった。

 でも、これが始まりだった。

 ──恋も、創作も、そして“推し活”も。

 俺はこの世界で、自分の好きと、ちゃんと向き合っていく。

 遠くで、最後の大輪の花火が空を照らした。

(つづく)

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