『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第225話『選べない理由──殿下、揺れる』

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 深夜。
 アパートの自室に、静寂が満ちていた。

 パソコンの画面には文化部の発表資料。
 その横には、ヒロインたちと撮った集合写真が並ぶ。

「……選べない」

 ぽつりと、独りごちた。

 思い出すのは、昨日の夜──
 ことねの照れた笑顔。
 ルナの真っ直ぐな視線。
 イザベラの気高くも揺れる声。
 そして、千夏の“怖いくらい本物”な想い。

 武尊は、親王である。
 同時に、ただの高校生でもある。

 この身分を知られれば、相手の人生を大きく変えてしまう。
 だが、だからといって偽ることで守れるほど──
 彼女たちの想いは、軽くなかった。

「誰も……傷つけたくないのに」

 つぶやいた声が、天井に吸い込まれる。

 彼はソファに座り、頭を抱えた。

「全部、本気で言ってくれてるのがわかるから……余計に、こたえる……」

 自分に向けられた、笑顔、言葉、手のぬくもり。
 全部を真っ直ぐに受け取ったら、どこかで嘘をつくことになる。

 選ばないことで守れる心もあれば、
 選ばなければ届かない愛もある。

 ──答えは、どこにもなかった。

 そのときだった。
 部屋の扉が、コンコンと叩かれる音がする。

「……睦月?」

「はい。殿下、よろしければ、お時間を頂戴できますか」

 許可する前に、彼女はするりと忍び込み、部屋の隅に立った。

 黒髪を夜に溶け込ませるくノ一。
 だが、その瞳は夜よりも鋭く、どこか切なげだった。

「部誌編集の最終稿、確認を……という建前です」

「……いいよ。もう、寝る気も起きないし」

 睦月はしばらく黙っていたが、やがて武尊の隣に腰を下ろした。

「殿下。お悩みですね?」

「……わかる?」

「私の任務は、殿下の“表情の変化”を見逃さないことですので」

 軽口を叩きながらも、その目は真剣だった。

「ことね殿も、千夏殿も、ルナ殿も、イザベラ殿も……皆、本気です」

「わかってる。だから、つらいんだよ……」

「選べないから?」

「うん」

「──優しすぎます、殿下は」

 静かに、睦月はそう言った。

「殿下の“優しさ”は、確かに多くの人を癒します。でも、それは時に“逃げ”になります」

「逃げ……?」

「全員を傷つけない選択肢が存在すると、思ってはいませんか?」

 武尊は黙った。

「誰かの手を取れば、他の誰かの手を取らないことになる。けれど、それは“嘘”ではありません。“選ぶ”という誠実さです」

「……でも、俺が選べば、誰かが泣くかもしれない」

「泣かせましょう。泣いた後、強くなれる人たちです」

「……強いな、睦月」

「私は、殿下の“傘”です。殿下が濡れぬよう、先に濡れるのが私の務め」

 その言葉に、武尊は思わず微笑む。

「なら、もうちょっとだけ濡れさせてもいい?」

「殿下の悩みなら、全身で受け止めましょう」

「……俺さ」

 そこで、言葉が止まった。

「……“誰かを選ぶ”ことで、全部が終わってしまいそうな気がするんだ。今の関係も、部活の空気も、みんなで笑った時間も──」

「終わらせたくないのですね?」

「うん」

「では、“始める覚悟”はありますか?」

 その問いに、武尊は沈黙する。

 睦月は、そっと彼の手に触れた。

「殿下の“優しさ”は、確かに武器になります。人を惹きつけ、誰も傷つけたくないと願う──だからこそ、殿下に惚れるのです」

「……」

「でも、嘘は、傷になります。放置された期待も、曖昧な答えも、いずれ毒になります」

「……ああ」

 武尊はようやく、うなずいた。

「だから俺は……」

「迷って、苦しんで、それでも選んでください。殿下にしかできないやり方で」

 睦月の声が、優しく降り注ぐ雨のようだった。

「じゃあ、俺……自分の気持ち、もう一度整理してみるよ」

「それで十分です」

 睦月は立ち上がり、一礼する。

「では、私は“裏方”へと戻ります。……表舞台は、殿下のものですから」

「……ありがとう」

 その夜、武尊はようやく机に向かい、ノートを開いた。

 “自分にとっての好きとは何か”
 “誰といたいと本気で思うのか”
 “選ぶということの意味とは”

 ペンを走らせる彼の瞳に、ようやく光が戻っていた。

(つづく)
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