『親王だけど、バレずに萌え活したいだけなのに女子に囲まれてる件』 〜茨城県つくば市で始まる、親王殿下の秋葉原文化潜入ライフ〜

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第231話『登校バトル──手作り弁当“開幕戦”!』

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 朝のつくばの空は、まだ春霞の中。だが萌え文化研究部周辺は、すでに戦場だった。

 名付けて──

 「朝の登校先手必勝! おはよう戦争」

 きっかけは簡単。
 昨日の“楪お隣部屋事件”から数時間後、ヒロインたちの間にある種の暗黙の了解が生まれていた。

「……もう、こうなったら**“登校で先に声をかけた者が正妻扱い”**ってことでいいんじゃない?」

 誰ともなくことねがつぶやいたのをきっかけに、全員が顔を見合わせ、そして──黙ってうなずいた。

 午前7時55分。

 つくば市郊外の住宅街──

 武尊の住まうボロアパート前の道が、騒音と煌めきで、もはやパレード状態となっていた。

「おはようございます、殿下♡」

 きらびやかな純白の四輪馬車がすべるように到着。
 中から降り立ったのは──もちろん、楪・千夜子姫。

 馬車は“皇族専用通学輸送車”。ちなみにハンドルを握っているのは専属侍従の“シノノメ”。

「お、おはようございます……ご近所の皆様……ご迷惑をおかけして申し訳ございません……!」

 顔を引きつらせながら、武尊は隣人たちに頭を下げ続けていた。

 だがそのとき。

 ブゥゥン!!!

「うるせぇぞお姫様ぁあああっ! 登校はな、“音速”が正義なんだよっ!」

 爆音を轟かせて曲がり角から突入してきたのは──鬼咲千夏(特例バイク通学許可)。

 愛車“オニサキスペシャル”をスライドさせて駐輪、ヘルメットを取ると同時にドヤ顔。

「よう、今日も殿下は可愛いな?」

「ち、千夏さん!? その……顔に、虫ついてます……!」

「えっうそ!? やべ、止まってる時間ほぼなかったからか!?」

 だが、2人の強襲の背後から──

 シュン! ヒュンヒュン!

 異音とともに近づいてくる新たな気配。音速にすら届く勢いで滑空してきたのは、

「ふふっ、通学にも遊び心は必要よね♡」

 ルナ・ヴィルヘルミナ(電動キックボード改造型)。

 軽やかに空中一回転から着地。髪はなびき、制服は完璧、手には“手作り弁当”のピクニックバスケットを携えて。

「朝はまず“胃袋”を掴むのが、王道の勝ち筋よ?」

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

 千夏と楪の目が狭まる。

 ──だが、まだ終わらない。

「わたくし、王女ですのに……徒歩通学……? なんたる不平等ッ!」

 叫びながら砂ぼこりを上げて走ってきたのは、イザベラ・ド・アンダルシア公女。

 なぜかドレスのまま、履いていたのは運動靴。しかし王族の威厳だけはぎりぎり守られている。

 ゼェゼェと肩で息をしながら彼女は吠えた。

「徒歩こそ王者の貫禄ッ! “遅れて現れ、全員を薙ぎ倒す”それがアンダルシア流ッ!」

 そんな中、しれっと角を曲がってきたのは──

「……ふぅ……歩いてきた……。それだけで今日のHP、残り3%……」

 最後に現れたのは、ことね。

 どこにでもいるただの地雷系ヒロインであり、今回の登校バトルでは装備ゼロの完全歩兵。

 背中のリュックには、“バレンタインの余り素材で作った即席弁当”が大事そうに入っていた。

 そんな彼女たちを見て、武尊は──泣きたくなった。

「なんで俺の登校が、戦争の開戦合図みたいになってんだよぉ……」

 だが、この戦争──まさかの外的要因によって幕を閉じることになる。

 それは、道ばたに落ちていた一枚の新聞紙。

 偶然にも楪の馬車の車輪が踏みつけたその紙が、風を受けてふわりと舞い上がり──

「え、ちょ、見えないわ──!?」

「おい、バイクの前ふさいだら──」

「いや! キックボード引っかかった──!!」

「ぎゃああああ!? 武尊くんそこどいてええええ!!」

 ──ドガシャァアアアン!!

 まるでスローモーションのように、馬車・原付・キックボード・徒歩組、全員がもんどり打って田んぼへ真っ逆さま。

 泥が跳ね、水が飛び、制服がぐちゃぐちゃ。

 声にならない悲鳴が、つくばの朝空にこだました。

 そして──30分後。

 武尊アパートの風呂場には、泥だらけの美少女ヒロインズが6人詰め込まれ、修羅場中だった。

「ちょ、やめろ、洗うのそこじゃねぇ!」

「いや、背中に泥ついてるから! ちゃんとこっち向いて!!」

「イザベラ、バスタブを王座みたいに使うなぁあああっ!」

「ことね、さっきからずっとタオル抱えてガン泣きしてるんだけど!? 大丈夫!?」

 バスタオルと泡と濡れ髪の乱戦。

 風呂の外で武尊は、ただ、正座していた。

「……なんで、朝の登校だけでこんなに疲れんだよ……」

 春はまだ始まったばかりだというのに──
 その心はすでに限界寸前だった。

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