『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第109話『文化ギャップ、炸裂!』

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「──なぜ、地面に穴が開いているのでしょうか?」

 昼休み。
 生徒たちがそれぞれ弁当を広げたり、教室を出たりする中──

 エミリ・セレスタは、
 真剣な表情でハルカに問いかけてきた。

(いやいやいやいや……)

(そんな顔で、超真面目に質問しないでぇぇぇぇ!!)

 ハルカは、
 内心、ものすごい勢いで机を叩いていた。

「え、ええっと……それは、つまり、その……」

 ハルカは慌てて視線を泳がせる。

「和式……っていう、日本の伝統的なトイレなんだよ!」

 横からミキが助け舟を出した。

「和式……?」

 エミリは、
 長い睫毛をふるわせながら首を傾げた。

 その仕草が、また絵になる。

 周りの男子たちは、またしても蒸気を噴き出しながら床に転がった。

「いいか、エミリ!」

 ミキは胸を張って説明を始めた。

「日本にはな! 二種類のトイレがあるんだ!」

「一つは、洋式!」

「もう一つは、和式!!」

「なるほど、つまり、二種類の……便所?」

「便所って言うのやめよう!?」
 ハルカが慌ててツッコんだ。

「トイレ! トイレって言おう! ね!?」

 エミリは小さく頷いた。

「といれ……。日本語、むずかしいですね」

 くすっと笑う彼女に、
 ハルカは再び胸を射抜かれそうになった。

(くそっ……なんだこのかわいさ……)

 なんかもう、言葉のズレすら尊い。

 ***

 その後。

 ハルカたちは、
 エミリを連れて、
 校舎裏手のトイレ棟へ向かった。

「──で、こっちが和式!」

 ハルカがドアを開けると、
 そこには見慣れた、銀色の和式便器が鎮座していた。

 エミリは、そっと覗き込む。

「……なるほど」

「えっ、わかったの?」

 ハルカが期待の眼差しを向けると──

「つまり……この穴に、おしっこを落とす……?」

「雑ッ!!!!!」

 思わず全力でツッコんでしまった。

「もっとこう、微妙なバランス感覚とか……!」

「姿勢とか……!」

「そもそも、しゃがみ方にもコツがあるんだよ!!」

 必死に説明するハルカ。

 エミリは、
 じっと真剣な顔で聞いていた。

(かわいいけど、これ絶対理解してないな……)

 ハルカは薄々察していた。

 ***

「よし、じゃあ!」

 ミキが勢いよく前に出た。

「実演するぞー!!」

「ええええええええ!?」

 ハルカは仰天した。

「だって、言葉で説明するより早いって!」

「百聞は一見にしかずって言うだろ!?」

「いやでも! 公共のトイレで!!」

「大丈夫だ、ポーズだけだ!」

 そう言って、
 ミキは軽やかに、和式便器の前にしゃがみこんだ。

「ほら、こうだ!」

 しゃがみポーズ。

「……すごい、安定している……!」

 エミリが、感心したように拍手をした。

「おおおぉぉぉ!?」

 ハルカは、
 わけもわからず拍手した。

 なんだこれ。

 なんだこの謎のシュール空間は。

 しかし、
 それだけでは終わらなかった。

「ハルカもやってみろ!」

「なんで私までぇぇぇぇぇ!!」

 叫びながら、
 結局ハルカもしゃがみポーズ。

 ナナもユイも続き、
 トイレの中はなぜか女子たちの「和式しゃがみ講座」状態になった。

「ふ、不安定だ……!」

「足がプルプルする……!」

「膝にくるー!!」

 わちゃわちゃ。

「みなさん、すごい……!」

 エミリは、
 目をキラキラさせながら見つめていた。

(……いや、違う……絶対に違う……)

 ハルカは心の中でツッコミを入れた。

 何かが、
 決定的に間違っている気がする。

 でも──

(まぁ、楽しいからいっか)

 そんなふうに思ってしまう自分もいた。

 ***

「では、わたくしも、挑戦してみます!」

 エミリが、
 決意を込めた顔で立ち上がった。

「えっ、今ここで!?」

「着替えとか……」

「スカート……!」

 騒ぐハルカたちをよそに、
 エミリはそろり、そろりと、和式便器の前へ。

(が、がんばれエミリ!!)

 女子たち全員が、
 固唾を飲んで見守った。

 エミリ、
 慎重に膝を曲げ──

「──きゃっ」

 バランスを崩し、
 ドテッ!

 尻もちをついた。

「きゃーーーー!!」

 ハルカたち、思わず悲鳴。

 エミリのスカートがふわっと舞い上がり、
 見えそうで見えなかった、青春ギリギリセーフ案件。

 男子たちは、
 遠巻きに「南無……!」と手を合わせた。

「だ、大丈夫!? エミリ!!」

 ハルカたちは慌てて駆け寄った。

 エミリは、
 涙目になりながら──

「和式トイレ……おそろしいです……」

 ぷるぷる震えていた。

(続く)
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