『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『癒しとは──膀胱との闘いの果てにあるもの』

第170話『癒しの温泉は、まだ遠い』

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「ついたぁあああああ……っっ」

 バスを降りた瞬間、ハルカが両手を天に伸ばして叫んだ。
 道中の地獄の渋滞と限界トイレ争奪戦を経て、ようやく辿り着いた“目的地”。

 古き良き和風旅館──白壁に瓦屋根、立派な門構え。
 外には小さな滝が流れ、風鈴がチリンと揺れる。

 まさに、癒しの空間である──はずだった。

「はぁ……風が気持ちいい……」

 ナナが目を閉じて深呼吸し、

「見てよあの庭園……え、庭石にコケ生えてる!尊い!」
 ミキが意味不明なテンションで走り出し、

「オシッコじゃなくて……今度は汗を流したいわ……」
 エミリが額の汗をぬぐい、

「いや、アタシらここに来るまでに人生で3年分ぐらいの疲労抱えたよね」
 ハルカがぼそっと言った。

 そして──

「さて!じゃあ部屋入ったら浴衣着て、温泉いこーぜ!」

 レイナが満面の笑みで叫び、みんなも「おーっ!」と拳を掲げた。

 ここまでは良かった。

 そう──ここまでは。

 ◆ ◆ ◆

 部屋に案内された一行は、ふかふかの畳に倒れ込みながらも、

「布団にダイブしたいけど、浴衣に着替えてからだなー」
「うわっ!この柄、旅館感あるぅ~!」

 などとわいわい言いながら、順番に浴衣へ着替えていった。

 そしてついに──

「じゃあ、いよいよ露天風呂へゴー!!」

 レイナの号令で、浴衣姿の女子6人は足音軽やかに廊下を進んだ。

 が。

「えっ? 露天風呂って、本館じゃないの……?」

「いえ、当旅館の露天風呂は、少し離れた別館にございます」

 女将の一言で、全員の足がピタリと止まった。

「えっ、どれくらい離れてるんですか?」

「徒歩7分ほどでしょうか。風情ある竹林の小道をご案内いたします」

 その瞬間──

「トイレと離れすぎてるだろおおおおおおおおお!!!!!」
 と叫んだのは、言わずもがなハルカだった。

 ◆ ◆ ◆

 竹林の道を浴衣姿で歩く女子6人。
 すれ違うカップルに「うわ、綺麗だね……」と振り向かれるほど艶やかなその姿──

 だが。

 その誰もが、心の中は不安と戦慄に包まれていた。

「この浴衣……ゆるいのに、すぐに脱げない……」

「トイレないって、着替え戻る時間ないよね?」

「なんで旅館なのに小道なんかで分けるの!? 近代建築のありがたみよ!!」

「むしろ、今すぐこの道の脇にトイレ建てようぜ……?」

 などと騒ぎつつ──誰からともなく、膀胱確認タイムが始まっていた。

「……ハルカ、いけそう?」

「ちょっと、ギリ……ていうか“ギリ”って言葉が出てる時点でダメな気がする」

「サバナは?」

「今のとこセーフ……でも、空を見てたらしたくなってきた」

「空のせいにすな!!」

 一同から全力ツッコミ。

 そして、ついにたどり着いた露天風呂前の脱衣所。

「うわ~~~! いい匂い!!」

「見て見て! お湯がちょっと濁ってて……これ、温泉成分っぽい!」

「ほんと、湯気が……癒しの極み……!」

 ──と、一同が感動に包まれたのも束の間。

「え、ちょっと待って。トイレ……」

「この建物にトイレ、ない……?」

「な──」

「なあああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 もはや恒例となった絶叫が、竹林にこだました。

「脱衣所にトイレないの!? 一旦戻れってこと!?」

「戻ってる間にお湯の良さ、半減するじゃん!!」

「これ、脱ぐ前にもう一戦始まってる……」

「温泉で癒される前に、心がまた試されてるぅ……!!」

 ハルカは、脱衣カゴの前で天を仰ぎながらつぶやいた。

「癒しの温泉って……こんなに、遠かったんだね……」

 その背中が、少しだけ切なかった。

 ◆ ◆ ◆

 そして、全員そろってついに、ゆっくりと浴衣の帯を解き──

 ──その瞬間。

「……誰か、出そうになったら……すぐ言って」

「誰が最初に“お風呂で漏らす”かゲーム、開始!?」

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 結局、騒がしさはあの頃のまま。

 社会人になってもなお、“青春と膀胱”の物語は続いていく──。

(つづく)
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