『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『温泉トラブルと、心のおしっこ我慢合宿!?』

第175話『誰かの布団が濡れている!?』

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 ──夜中。

 廊下の灯りは落ち、風が障子をわずかに揺らす。

 ハルカたちが並んで眠る、6人部屋。
 あれほど笑って騒いで、ようやく眠りについたはずだった。

 が──

「……え?」

 ミキは、目を覚ました。

 何かが、違和感として皮膚に触れていた。

 じんわりとした、冷たさ。

(なにこれ……? 汗……? でも……)

 上半身を起こし、寝ぼけ眼で隣の布団に手を伸ばす。

 ──そのとき。

 ミキの指先が触れたのは、湿った布だった。

「……………え?」

 もう一度、触れる。

 その部分だけ、明らかに冷たく、湿っている。

「ちょっ……」

 そっと布団をめくる。
 空調の風に揺れて、ふわりと立ち上がる布団。

 その下──
 ほんのりと、濡れていた。

「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!」

 ミキの悲鳴が、真夜中の旅館に響き渡った。

 ◆ ◆ ◆

「なになに!? どした!?」

「ミキ!? ゴキブリ!? ケント!? トイレ!?」

「ケントは来ないだろ!! てか、トイレなら叫ばないし!!」

 真夜中、全員が飛び起きる。
 布団から飛び出し、髪も浴衣もぐしゃぐしゃなまま。

 ミキが指差す先を見て──全員、凍りついた。

「……これ……」

 ハルカがごくりと唾を飲み込む。

「だれか……ここで……おもらし、した……?」

 言葉にするのもためらわれるその事態。
 しかし、視界にある“湿った布団”は、何より雄弁だった。

「うそ……マジで……?」

「だってほら……この範囲……コップの水とかじゃないよね……?」

「コップひっくり返したにしては……匂いが……」

「やめて!!確認しないで!!」

 レイナが布団をガバッと被って叫ぶ。

「え、でも、まって。誰の布団?」

 一同の視線が、布団の並び順を確認し始める。

「えっと、左から……ミキ、サバナ、ナナ、私、ハルカ、レイナ、エミリ……」

 そして、湿っていたのは──ナナの布団。

 ナナの表情が、ピキリと固まる。

「ち、違うっ……!私じゃない!ほんとに!」

「じゃあ、誰!? 誰かが……」

「まさか、まさかだけど、寝返りで……!?」

「え、じゃあ隣にしみて……!? え、えええ、待って待って!」

 サバナとハルカが同時に距離を取る。

「これ、青春なの……? それとも事故なの……?」

「え、なに?“成人式後おねしょ”って、そういう都市伝説……?」

「いやでも、実際、あり得る……ビール、温泉、冷え、恋バナ、そしてあのテンション……!」

「“おもらしトリガー5点セット”揃ってたからなぁ……」

 ミキの言葉に、なぜか誰も反論できない。

 静かになる室内。

 そして──

 誰も、名乗り出ない。

「……ってことは、これはもう、“誰のでもない濡れ布団”ってことで……?」

「おばけみたいに言わないでぇぇぇ!!!」

 ナナが悲鳴を上げて、枕に顔をうずめる。

 そのとき。

 静かに立ち上がったのは、エミリだった。

「私は、“誰かが”やったとは思いません。
 これは、“人類の膀胱の限界がもたらした、自然現象”なのです」

「言い方ぁぁぁぁぁ!!」

 全員からの盛大なツッコミ。

「え、でもマジで……どうするこれ……」

「布団、朝まで乾かないよね……?」

「もう逆に、誰も触れないってことで……!」

「寝るの!? この濡れた空気で!?!?」

「私、ここで寝たら、次は“犯人”って言われる気がする……!」

「布団濡れてるのに潔白って、どうやって証明すんの!?」

 会話は泥沼だった。
 友情と信頼のはざまに、たった一枚の湿った布団が割り込んでくる。

 まるで──これまでの青春の総決算のように。

「……ちょっとさ」

 ふいに、ハルカがぽつりとつぶやく。

「このまま朝まで、誰も名乗り出ないなら──」

「この布団、“全員で使った”ってことにしない?」

「え」

「わたしたち、もう大人なんだし。
 濡れたっていいじゃん。トイレ、間に合わないとき、あるし。……ね?」

 しばし沈黙のあと──

「うん、それ……いいかも」

「……さすがハルカ……おしっこに関して、器がでかい……」

「やめて、その称号!!」

 そして、誰からともなく笑いがこぼれた。

 湿った布団を囲んで、大人女子たちは肩をすくめ、そして笑った。

 友情か、事故か──

 それは、もうどうでもよかった。

 ただひとつ言えるのは。

 この夜、間違いなく誰かが──限界を超えた。

(つづく)

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