『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『オフィスは戦場!? 仕事と膀胱と恋心と』

第181話『恋とトイレと社内報』

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「働く女性のリアルな悩み、拾っていこうと思うんだよね~!」

 その日の昼休み。
 社員食堂の片隅で唐突にそう言い出したのは──ミキだった。

 スーツはバシッと決まり、手には社内報の編集用ノート、顔には例の“企画ひらめいた時のキラキラ笑顔”。

「えっ、ミキ!? ほんとにこの会社にいたの!?」

「そこから驚かれる!? ハルカひどくない!?」

「だってさ、ミキが社会人としてまともに働けてる姿、想像つかないというか……」

「はいはい、失礼な偏見ね。アタシ、今“社内報改革委員会”のメンバーなんだから!」

「どこの架空組織よそれ」

 ミキはドヤ顔のまま、ノートをめくりながら言う。

「でね。今回のテーマは“現場の声を届けよう!”ってことで、アンケート取ってるの。
 匿名で“最近困ってること”を集めて、特集記事にしようと思って」

「……“困ってること”?」

「そう! 例えば“書類の提出場所がわかりにくい”とか、“社内Wi-Fiの電波が弱い”とか、“女子トイレ遠すぎて毎日瀕死”とか──」

「最後のやつ、今わたしの心にグサッと刺さったんだけど!?」

「つまり、あんたの叫びを社内に届けるチャンスよ!」

 ハルカは一瞬、戸惑った。

(……いや、でも、これは逆にいいかもしれない)

(匿名なら……心の底から正直な“膀胱の声”を叫べる)

 ◆ ◆ ◆

 その日の午後。

 ハルカはこっそりPCを開き、社内アンケートフォームに打ち込んだ。

【匿名投稿】
 部署:第一営業部
 困っていること:
『女子トイレの個室が1つしかなく、特に昼前・会議前は長蛇の列になってしまい困っています。
 生理や体調不良など“急ぎたい事情”があっても、周囲に言いづらい。
 結果、我慢を強いられ、業務への集中力も下がっています。
 改善を求めます。
 切実に。
 膀胱からの悲鳴です。』

 送信ボタンを押す指が、ほんのわずか震えた。

 でも、送り終わった後の気持ちは、意外なほど清々しかった。

(これで少しでも改善されるなら……私の膀胱が犠牲になった甲斐がある……)

「送った?」

「うん。完璧に匿名でね」

 ミキはにんまりと笑った。

「よし、じゃあこの“膀胱からの悲鳴”、特集の巻頭に載せるわ」

「え、巻頭!? そんなに推すの!?」

「時代は共感と可視化。今こそ“トイレ問題”に光を当てるとき!」

「革命家かよ……!」

 ◆ ◆ ◆

 ──そして翌週。

 完成した社内報が、全社員のメールボックスに配信された。

 タイトルは──

『声を上げろ、膀胱が限界を超える前に。』

 ハルカは心臓が止まりかけた。

(ちょ、ちょっと待って!? タイトル、ガチすぎない!?)

 本文には、彼女が書いた内容が、句読点レベルまで完璧に転載されていた。

 しかも──

「“膀胱からの悲鳴”って、めちゃくちゃバズってるんだけど」

「見た? あれ。“膀胱さん”ってあだ名つけられてたよ誰か」

「誰だろうねー。ちょっと面白すぎたよねアレ」

 職場のあちこちで、ひそひそと話題になっていた。

(うわぁぁぁぁぁぁああああああ!! なんでバレないのにバレてる気がするの!!)

 そして──最悪のタイミングで。

「……お疲れさま」

 後ろから聞こえる、よく知った低音。

 ゆっくり振り向くと、そこにはスーツ姿のケントが立っていた。

 無表情……に見えて、どこか口元が引きつっているような……

「……社内報、読んだ」

「っっっ……あっ、そ、そうなんですね!」

「……“膀胱からの悲鳴”、よくまとまってた」

「いやぁぁぁぁああああああ!!??」

 脳内が真っ白になった。

 顔は真っ赤、呼吸は乱れ、そして膀胱がグラつく。

(な、な、なんで!? バレてないはずなのに!? どうしてバレた!?)

「……匿名だけど、言い回しが“それっぽかった”」

「どのへんがですかぁぁぁああああ!!!???」

「“切実に”って語尾。ハルカ、昔から使ってたよな」

「記憶力良すぎィィィィ!!!」

 ミキは遠くからピースサインを送っていた。
(完全に黒幕じゃん!!)

 ◆ ◆ ◆

 その日、社内報は社内SNSでもバズり、
 “#膀胱の声”タグまで立つ事態に。

「……社会人になっても、やってること変わってない気がする……」

 ハルカは帰りのエレベーターで天井を見上げながら、力なく笑った。

 でも。

 その手には、次号社内報の企画依頼メモが握られていた。

「次回、“理想の女子トイレとは?”座談会やろうって。
 ハルカ、モデレーターね!」

「膀胱ライターの道、強制開通されたぁぁぁあああああ!!!」

 ──こうして、恋も尿意も仕事も、今日もハルカの中で等しく輝いていた。
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