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『オフィスは戦場!? 仕事と膀胱と恋心と』
【第183話『緊張会議、尿意と勝負』】
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会議室に入り込んだ空気は、外気よりも数度低く感じた。
冷房の温度設定ではなく、緊張と張り詰めた沈黙が空間を冷やしていたのだ。
ハルカは、その中心にいた。
「それでは……今回の販促提案について、第一営業部からご説明させていただきます」
頭を下げながら、膀胱の奥がじわりと圧を訴えていた。
(あ……やばいかも……)
思い当たる原因は明確だった。
朝から会議資料のチェックと印刷に追われ、コーヒーを2杯飲んだ。
直前にナナから「落ち着け」と渡されたミネラルウォーターも半分飲んだ。
にもかかわらず、緊張のあまりトイレに行くタイミングを失ったのだ。
そして今。
約20名の部課長クラスが見つめる中、ホワイトボードの前に立っている。
(まだ大丈夫……耐えられる……!)
目の前にいるのは、役員、部長、課長──そして。
「補足は、私の方からも入れます」
ケント。
かつての高校時代、想いを秘めていたあの人。
今は営業部リーダーとして、スーツをピシッと決めてハルカの隣に立っている。
その距離、およそ30センチ。
声のトーン、立ち姿、さりげない資料の差し出し。
すべてが完璧。
(ちょっと待ってこの状況……膀胱的にも精神的にも無理……)
プロジェクターのリモコンを受け取った瞬間、手が震えた。
緊張ではなく、尿意の波による身体の揺れだった。
「次のスライドを……」
ガチャ。
タイミングよく画面が切り替わり、グラフが映る。
安堵と尿意が拮抗する。
「こちらが、昨年度の購買データになります。今回の提案では──」
声がわずかに震える。
隣のケントが、スッと一歩前に出て補足を入れてくれる。
「また、3月の売上傾向から見るに、ターゲット層の明確化も重要かと」
落ち着いた声。絶妙な間合い。
そして、ハルカの膀胱は今にも悲鳴を上げそうだった。
(なんでこの人……こんなタイミングで頼れるの……!)
(好きとか……わかんないけど……でも……)
(でもこの人と一緒にいると、膀胱がめちゃくちゃ緊張する!!)
会議室の時計が秒針を刻む音すら、尿意に響く。
目の前の部長が頷いた。
次に質問が来る。わかっている。
「……提案は以上となります」
深く頭を下げる。
同時に、内臓の下部が圧に耐えた。ギリギリの勝利。
「ご説明、ありがとうございました」
上層部から拍手。
ホッとした瞬間、逆に危険だった。
膀胱が「もういいでしょ」と全力で緩もうとする。
(だめだって! まだここ会議室!)
そのとき、ケントが耳打ちしてくる。
「先に戻ってていい。報告は僕がまとめて出しておく」
「えっ……」
彼の表情は変わらない。
だが、目がわずかに細められていた。
(まさか……気づいて……る?)
一瞬の間をおいて、ハルカは一礼して会議室を出た。
そしてエレベーターを全力で連打。
(これ……好きとかじゃない。もう宿命。私の恋って……膀胱と一緒に動くんだ……)
誰にも見られないように、女子トイレに駆け込む。
個室の中、座った瞬間に訪れる解放感。
「っっはぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
静かに流れる水音と共に、ハルカの心の中にも、妙な爽快感が流れていた。
(わたし、たぶん……この人の隣だと一生我慢して生きていくんだろうなぁ……)
(つづく)
冷房の温度設定ではなく、緊張と張り詰めた沈黙が空間を冷やしていたのだ。
ハルカは、その中心にいた。
「それでは……今回の販促提案について、第一営業部からご説明させていただきます」
頭を下げながら、膀胱の奥がじわりと圧を訴えていた。
(あ……やばいかも……)
思い当たる原因は明確だった。
朝から会議資料のチェックと印刷に追われ、コーヒーを2杯飲んだ。
直前にナナから「落ち着け」と渡されたミネラルウォーターも半分飲んだ。
にもかかわらず、緊張のあまりトイレに行くタイミングを失ったのだ。
そして今。
約20名の部課長クラスが見つめる中、ホワイトボードの前に立っている。
(まだ大丈夫……耐えられる……!)
目の前にいるのは、役員、部長、課長──そして。
「補足は、私の方からも入れます」
ケント。
かつての高校時代、想いを秘めていたあの人。
今は営業部リーダーとして、スーツをピシッと決めてハルカの隣に立っている。
その距離、およそ30センチ。
声のトーン、立ち姿、さりげない資料の差し出し。
すべてが完璧。
(ちょっと待ってこの状況……膀胱的にも精神的にも無理……)
プロジェクターのリモコンを受け取った瞬間、手が震えた。
緊張ではなく、尿意の波による身体の揺れだった。
「次のスライドを……」
ガチャ。
タイミングよく画面が切り替わり、グラフが映る。
安堵と尿意が拮抗する。
「こちらが、昨年度の購買データになります。今回の提案では──」
声がわずかに震える。
隣のケントが、スッと一歩前に出て補足を入れてくれる。
「また、3月の売上傾向から見るに、ターゲット層の明確化も重要かと」
落ち着いた声。絶妙な間合い。
そして、ハルカの膀胱は今にも悲鳴を上げそうだった。
(なんでこの人……こんなタイミングで頼れるの……!)
(好きとか……わかんないけど……でも……)
(でもこの人と一緒にいると、膀胱がめちゃくちゃ緊張する!!)
会議室の時計が秒針を刻む音すら、尿意に響く。
目の前の部長が頷いた。
次に質問が来る。わかっている。
「……提案は以上となります」
深く頭を下げる。
同時に、内臓の下部が圧に耐えた。ギリギリの勝利。
「ご説明、ありがとうございました」
上層部から拍手。
ホッとした瞬間、逆に危険だった。
膀胱が「もういいでしょ」と全力で緩もうとする。
(だめだって! まだここ会議室!)
そのとき、ケントが耳打ちしてくる。
「先に戻ってていい。報告は僕がまとめて出しておく」
「えっ……」
彼の表情は変わらない。
だが、目がわずかに細められていた。
(まさか……気づいて……る?)
一瞬の間をおいて、ハルカは一礼して会議室を出た。
そしてエレベーターを全力で連打。
(これ……好きとかじゃない。もう宿命。私の恋って……膀胱と一緒に動くんだ……)
誰にも見られないように、女子トイレに駆け込む。
個室の中、座った瞬間に訪れる解放感。
「っっはぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
静かに流れる水音と共に、ハルカの心の中にも、妙な爽快感が流れていた。
(わたし、たぶん……この人の隣だと一生我慢して生きていくんだろうなぁ……)
(つづく)
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