『遺伝子治療革命〈エピゲノム・プロトコル〉──倫理と進化の臨界点』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第13話 命と経済──“治療費”が生む境界線

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「1億4,720万円──」

 その数字がニュース番組のキャスターによって読み上げられた瞬間、全国が静まり返った。

 水原奏人のE.C.S.T.治療にかかった総費用。

 医療機関、ナノキャリア製造、AI処理、術後管理を含む累計。

「命に、その価値はあるのか?」

 SNS上では即座に激論が起きた。

「税金で命を買うのか?」
「金持ちの命だけが救われる時代か?」
「生まれた時点で“救済される価値”が決まってるってことか?」

 家計を支える一般家庭の視点からは、その金額はあまりにも現実離れしていた。

 一方で、厚労省庁舎の一室。

 制度設計担当の行政官たちは、白紙に近い資料を前に頭を抱えていた。

「公費負担はどこまで可能か」「対象基準をどう設けるか」「選定の公平性をどう担保するか」

 遺伝子治療は、制度そのものを試していた。

 その矢先、那珂湊は国会の厚生労働委員会で証言台に立つ。

「命を“値札”で語ることが、果たして社会の成熟なのか。
 医療の未来は、一部の専門家や官僚が決めるものではない。
 それは社会全体の“選択”であり、責任であるはずです」

 その言葉は、瞬く間に切り取られ、さまざまな立場から賞賛と批判の両方を浴びた。

 一方で、天城は沈黙を守っていた。

 インタビューも断り、記者からの取材依頼にも応じず。

 だが、匿名で投稿されたあるブログが、大きな波紋を呼ぶことになる。

 タイトルは、

『命の値段──医師として、父として』

 投稿者名は「H.A.」。

「医療において“費用”は現実である。
 しかし、“価値”は決して金額で測れない。
 人は、誰かの命が救われる様を目にしたとき、それが“何かを超えていた”ことを、本能的に知る」

 数時間後、そのブログ記事は20万シェアを超え、翻訳され、海外メディアでも取り上げられる。

「命は、社会が支える。
 その社会は、私たち一人ひとりで成り立っている」

 ──天城は、名前を語らずに、最も深く語った。

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