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第17話 選ばれる未来、捨てられる過去
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北米、カリフォルニア州・パロアルト。
世界最大のバイオテック企業オムニジェン社が新たな声明を発表した。
【オムニジェン・エンハンスド・ジェネレーション】──通称「強化子世代」。
それは、あまりに衝撃的な未来予告だった。
選び抜かれた遺伝子。
調整された知能指数。
最適化された免疫システム。
感情制御機能さえプログラムされた、いわば“人間を超える存在”たちの誕生。
メディアはこれをセンセーショナルに取り上げた。
「超越する未来」
「デザインされた子どもたち」
「人間のアップグレード」
喝采と、恐怖。
憧憬と、嫌悪。
世界中が、歓喜と戦慄をないまぜにしながら、この新たな時代の幕開けを迎えた。
だが、その裏で。
静かに、確実に、ある現象が進行していた。
──“選ばれなかった子供たち”への無言の抑圧。
先天的な遺伝子疾患を持つ者たち。
出生時の遺伝子スクリーニングで問題を抱えた者たち。
あるいは、何も問題のない、ただ「強化されなかっただけ」の普通の子供たち。
彼らは、見えない網に絡め取られ始めていた。
企業による進学選考の裏基準。
エリート教育機関での非公式な区別。
「君は自然児だから」と、無邪気な皮肉を込めた笑顔。
誰も明言しない。
だが、確かに、空気が変わっていた。
そして──その波は、日本にも届きつつあった。
ある晩、奏人はスマートフォンを操作していた。
つい最近、学校の英語スピーチコンテストで二位になった記念に、友人が撮った動画がSNSにアップされた。
最初は、祝福のコメントが続いた。
「すごい!」「かっこいい!」「勇気もらった!」
だが、時間が経つにつれ、空気が変わった。
──「まあ、どうせ強化個体でしょ?」
──「実験動物にしてはよくやったね」
──「親が金積んで改造したんだろ?」
匿名のアカウントが、冷たい刃のような言葉を次々に突き刺してきた。
手が、震えた。
息が、苦しかった。
心臓が、鉛のように重くなった。
──僕は、何のためにここにいるんだろう。
部屋の隅で、奏人は膝を抱えた。
誰にも見られない場所で、小さく、震えながら。
結彩は、それを知った。
すぐに奏人に会いに行った。
夜の公園。
冷たい風が枯葉を舞わせていた。
奏人は、ブランコの鎖を握りしめ、下を向いていた。
「……怖いんだ」
奏人が呟く。
「みんなが言うんだ。
僕たちは“造られた”。
普通じゃない。
本当の人間じゃないって」
結彩は、じっとその横顔を見つめた。
何かを言う前に、深く、息を吸った。
「……そんなの、嘘だよ」
「……でも……」
「違う」
結彩は、言葉を強めた。
「わたしたちは、誰かの“希望”でできてるんだよ。
パパやママが、必死に守ろうとしてくれた。
先生たちが、助けようとしてくれた。
それが、わたしたちの、命なんだよ」
奏人が、顔を上げた。
結彩は、目を逸らさなかった。
まっすぐに、まるで言葉そのものを光に変えるように。
「わたしたちは、“商品”じゃない」
「見世物でも、エリートでもない」
「わたしたちは、わたしたちなんだ」
強い、静かな声だった。
奏人は、ブランコから立ち上がった。
結彩の隣に並び、冷たい空を見上げた。
「……ありがとう、結彩ちゃん」
「ううん。
……今度は、わたしたちが、誰かを守る番だよ」
二人は、並んで夜空を仰いだ。
星はなかった。
けれど、どこかで、確かに光は生まれようとしていた。
翌日、結彩は記者の前に立った。
大人たちは、心配そうに見守った。
マイクが差し出される。
フラッシュが眩しかった。
だが、結彩は一歩も引かなかった。
「わたしたちは──」
小さな体から、迷いのない声が響いた。
「わたしたちは、商品じゃありません。
売り物じゃありません。
誰かに作られたから、じゃない。
誰かに“生きてほしい”って願われたから、ここにいるんです」
報道陣が静まった。
カメラのレンズが、ただ一人の少女を映し出していた。
結彩は、さらに続けた。
「強くなくてもいい。
完璧じゃなくてもいい。
わたしたちは、ただ、生きるために、生きています」
震えずに、言い切った。
──それは、小さな反抗だった。
──それは、確かな宣言だった。
社会が、どれだけ歪んでも。
どれだけラベルを貼ろうとしても。
命は、命だった。
奏人は、テレビの前でそれを見ていた。
拳を、ぎゅっと握った。
彼の中で、何かが静かに変わり始めていた。
風は冷たかった。
けれど、二人の歩みは止まらない。
選ばれた未来も。
捨てられた過去も。
すべてを背負って、それでも前へ進む。
命の重さを、信じるために。
世界最大のバイオテック企業オムニジェン社が新たな声明を発表した。
【オムニジェン・エンハンスド・ジェネレーション】──通称「強化子世代」。
それは、あまりに衝撃的な未来予告だった。
選び抜かれた遺伝子。
調整された知能指数。
最適化された免疫システム。
感情制御機能さえプログラムされた、いわば“人間を超える存在”たちの誕生。
メディアはこれをセンセーショナルに取り上げた。
「超越する未来」
「デザインされた子どもたち」
「人間のアップグレード」
喝采と、恐怖。
憧憬と、嫌悪。
世界中が、歓喜と戦慄をないまぜにしながら、この新たな時代の幕開けを迎えた。
だが、その裏で。
静かに、確実に、ある現象が進行していた。
──“選ばれなかった子供たち”への無言の抑圧。
先天的な遺伝子疾患を持つ者たち。
出生時の遺伝子スクリーニングで問題を抱えた者たち。
あるいは、何も問題のない、ただ「強化されなかっただけ」の普通の子供たち。
彼らは、見えない網に絡め取られ始めていた。
企業による進学選考の裏基準。
エリート教育機関での非公式な区別。
「君は自然児だから」と、無邪気な皮肉を込めた笑顔。
誰も明言しない。
だが、確かに、空気が変わっていた。
そして──その波は、日本にも届きつつあった。
ある晩、奏人はスマートフォンを操作していた。
つい最近、学校の英語スピーチコンテストで二位になった記念に、友人が撮った動画がSNSにアップされた。
最初は、祝福のコメントが続いた。
「すごい!」「かっこいい!」「勇気もらった!」
だが、時間が経つにつれ、空気が変わった。
──「まあ、どうせ強化個体でしょ?」
──「実験動物にしてはよくやったね」
──「親が金積んで改造したんだろ?」
匿名のアカウントが、冷たい刃のような言葉を次々に突き刺してきた。
手が、震えた。
息が、苦しかった。
心臓が、鉛のように重くなった。
──僕は、何のためにここにいるんだろう。
部屋の隅で、奏人は膝を抱えた。
誰にも見られない場所で、小さく、震えながら。
結彩は、それを知った。
すぐに奏人に会いに行った。
夜の公園。
冷たい風が枯葉を舞わせていた。
奏人は、ブランコの鎖を握りしめ、下を向いていた。
「……怖いんだ」
奏人が呟く。
「みんなが言うんだ。
僕たちは“造られた”。
普通じゃない。
本当の人間じゃないって」
結彩は、じっとその横顔を見つめた。
何かを言う前に、深く、息を吸った。
「……そんなの、嘘だよ」
「……でも……」
「違う」
結彩は、言葉を強めた。
「わたしたちは、誰かの“希望”でできてるんだよ。
パパやママが、必死に守ろうとしてくれた。
先生たちが、助けようとしてくれた。
それが、わたしたちの、命なんだよ」
奏人が、顔を上げた。
結彩は、目を逸らさなかった。
まっすぐに、まるで言葉そのものを光に変えるように。
「わたしたちは、“商品”じゃない」
「見世物でも、エリートでもない」
「わたしたちは、わたしたちなんだ」
強い、静かな声だった。
奏人は、ブランコから立ち上がった。
結彩の隣に並び、冷たい空を見上げた。
「……ありがとう、結彩ちゃん」
「ううん。
……今度は、わたしたちが、誰かを守る番だよ」
二人は、並んで夜空を仰いだ。
星はなかった。
けれど、どこかで、確かに光は生まれようとしていた。
翌日、結彩は記者の前に立った。
大人たちは、心配そうに見守った。
マイクが差し出される。
フラッシュが眩しかった。
だが、結彩は一歩も引かなかった。
「わたしたちは──」
小さな体から、迷いのない声が響いた。
「わたしたちは、商品じゃありません。
売り物じゃありません。
誰かに作られたから、じゃない。
誰かに“生きてほしい”って願われたから、ここにいるんです」
報道陣が静まった。
カメラのレンズが、ただ一人の少女を映し出していた。
結彩は、さらに続けた。
「強くなくてもいい。
完璧じゃなくてもいい。
わたしたちは、ただ、生きるために、生きています」
震えずに、言い切った。
──それは、小さな反抗だった。
──それは、確かな宣言だった。
社会が、どれだけ歪んでも。
どれだけラベルを貼ろうとしても。
命は、命だった。
奏人は、テレビの前でそれを見ていた。
拳を、ぎゅっと握った。
彼の中で、何かが静かに変わり始めていた。
風は冷たかった。
けれど、二人の歩みは止まらない。
選ばれた未来も。
捨てられた過去も。
すべてを背負って、それでも前へ進む。
命の重さを、信じるために。
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