『遺伝子治療革命〈エピゲノム・プロトコル〉──倫理と進化の臨界点』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第60話 翼を持たない者たちへ──黎明の誓い

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 夜明け前の、最も暗い時間。

 つくば市の仮設拠点。

 静まり返った空気の中で、
 結彩は、仲間たちと共に小さな集会を開いていた。

 焚き火の灯りだけが、
 彼らの顔をかすかに照らしていた。

 そこには、恐れも、ためらいも、あった。

 でも──

 それでも彼らは、そこにいた。

 壊れかけた絆を、
 すれ違った想いを、
 もう一度繋ぎ直した者たち。

 翼なんて、持っていなかった。

 傷だらけで、
 未完成で、
 それでも──

「生きたい」と願った者たち。

 結彩は、皆を見渡した。

 麻子。
 智翔。
 瑛士。
 花音。

 そして、ここにいない奏人。

 それぞれに、傷を負いながら。
 それぞれに、孤独を抱えながら。

 それでも、
 ここにいる。

 結彩は、そっと胸に手を置いた。

 自分の中にある、
 まだ拙い火を確かめるように。

 そして、語り始めた。

「──わたしたちは、自由を選びました」

「完璧じゃない」

「正解なんて、わからない」

「迷うし、傷つくし、
 きっと、これからも何度も、間違える」

「それでも──」

「それでも、わたしたちは、
 自由を諦めない」

「なぜなら」

「わたしたちの未来は、
 誰かに与えられるものじゃないから」

「わたしたち自身で、
 選び取るものだから」

「未完成なまま」

「弱いまま」

「それでも、生きるために」

 誰かが、静かに嗚咽した。

 誰かが、ぎゅっと拳を握りしめた。

 それでも、誰も目を背けなかった。

 皆が、
 この痛みを、
 この誓いを、
 胸に刻もうとしていた。

 結彩は、手にしていた小さな旗を掲げた。

 手作りの、拙い旗だった。

 でも、
 その中央には、かつて皆で考えた、自由憲章の一節が描かれていた。

【自由は、未完成であり続ける。
 それでも、生きる。
 それが、わたしたちの誇りだ。】

 旗は、夜明けの風に揺れた。

 まだ空は暗かった。

 まだ、星も見えなかった。

 でも──

 結彩には、わかっていた。

 この闇の向こうに、
 確かに光があることを。

 それは、誰かに与えられるものではない。

 自分たち自身で、
 信じ、選び、掴みにいくものだ。

 だから──

「……誓おう」

 結彩は、微笑んだ。

「未完成なまま」

「弱いまま」

「それでも、
 わたしたちは、生きていく」

「自由と共に」

「未来と共に」

 その瞬間──

 東の空に、
 かすかな光が射し込んだ。

 夜明けだった。

 灰色の空が、
 少しずつ、わずかずつ、
 確かに色を変え始めていた。

 それは、
 世界が新しく始まる証だった。

 壊れた昨日ではない。
 不安に支配された今日でもない。

 これから選び取る、
 わたしたちの未来。

 自由な、
 未完成な、
 それでも誇らしい未来。

 結彩たちは、
 その黎明の光を、
 まっすぐに見つめた。

 目を逸らさずに。
 胸を張って。

 翼を持たない者たちだった。

 飛べない。

 でも、歩ける。

 歩いて、
 未来へ向かえる。

 信じ続ける限り、
 この世界は、終わらない。

 わたしたちは、
 まだ、生きていける。

 未完成なまま──

 それでも、生きるために。
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