68 / 68
第65話(最終話) 「未来は、わたしたちの手に──未完成な世界を生きる者たちへ」
しおりを挟む
丘の上は、すべてが静かだった。
街の喧騒も、
遠くの議論も、
彼方の光と影も──
ここには届かない。
ただ、風だけが吹いていた。
そして、そこに二人がいた。
結彩と奏人。
かつて、世界の選別から命を救われた者。
そして、世界の分断を越えて歩き続けた者。
いま、誰に強制されたわけでもなく、
誰に導かれたのでもなく、
この丘の上に、再び並んで立っていた。
眼下には、つくばの街が広がっていた。
かつて自由連盟の拠点だった建物。
いまは「黎明の家」という名で、市民に開かれた公共広場となっている。
誰かが花壇にチューリップを植え、
誰かがスロープを設計し直し、
子どもたちの笑い声が絶えず響く場所に変わった。
それは、“完全な勝利”とは言えなかったかもしれない。
秩序圏はまだ存在している。
新適正派も、思想としては残り続けている。
差別は消えず、誤解は繰り返され、恐れはどこまでもしぶとい。
でも、それでも──
「……やっと、ここまで来たね」
結彩がぽつりと呟いた。
「そうだな」
奏人も頷いた。
「未完成なまま、
壊れるかもしれない世界を、それでも信じ続ける」
「正解なんてないって知ってて、
それでも“選び続ける”っていうことが──」
「どれだけ重たいか、
やっと今、わかった気がする」
「うん」
結彩は、手を伸ばした。
その手を、奏人が自然に握り返す。
「それでも、生きていけるんだよね」
「未完成なままで」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、結彩が目を細めた。
「……あの日の夜を覚えてる?」
「星が見えなかった夜」
奏人は、すぐに頷いた。
「うん。
あのとき、怖くて仕方なかった」
「自由って、こんなに孤独なんだって思った」
「でも今は──」
「たとえ見えなくても、
星は“ある”って信じられる」
「見えなくても、
その先に光があるって思える」
「なあ、結彩」
「もし、またすべてが壊れても──」
「また一から、
作っていこうな」
結彩は、頷いた。
「うん」
「何度だって、
作り直してみせるよ」
「だって、
それが“わたしたちの自由”なんだから」
そのとき。
風がふっと強く吹いた。
結彩の髪が揺れ、
奏人の頬に一瞬、冷たい空気が触れた。
見上げると、空に雲の切れ間ができていた。
その先に、
かすかに、星のような光。
ほんの一瞬だった。
でも、二人には十分だった。
確かにそこにあると、
信じられるだけの根拠だった。
未来は、
見えなくても“そこにある”。
そう思えた。
足元の草を踏みしめて、
二人は歩き出した。
丘を下りていく道は、まだ整備されていない。
でこぼこしていて、
雨の後には泥も残る。
でもそれでいい。
道が整っていないことこそが、
“これからの自由”の証だった。
「さあ、行こう」
「未来に、会いに」
その言葉とともに、
ふたりは歩き出す。
未完成なまま。
でも、自分たちの意志で。
どこまでも、前へ。
誰の命でもない、
自分たちの命を、生きるために。
──そして、ナレーションのように響く声がある。
「自由とは、誰かに与えられるものではない」
「自由とは、迷うこと。選び直すこと」
「そして、未完成なままでも、進むことだ」
「それが、生きるということだから」
夜明けが始まる。
世界のどこかで、
また新しい誰かが、“自分のまま”を生きようとする。
たとえ星が見えなくても──
その空の下で、歩みは続いていく。
終わらない物語として。
未完成なまま、生きていくために。
街の喧騒も、
遠くの議論も、
彼方の光と影も──
ここには届かない。
ただ、風だけが吹いていた。
そして、そこに二人がいた。
結彩と奏人。
かつて、世界の選別から命を救われた者。
そして、世界の分断を越えて歩き続けた者。
いま、誰に強制されたわけでもなく、
誰に導かれたのでもなく、
この丘の上に、再び並んで立っていた。
眼下には、つくばの街が広がっていた。
かつて自由連盟の拠点だった建物。
いまは「黎明の家」という名で、市民に開かれた公共広場となっている。
誰かが花壇にチューリップを植え、
誰かがスロープを設計し直し、
子どもたちの笑い声が絶えず響く場所に変わった。
それは、“完全な勝利”とは言えなかったかもしれない。
秩序圏はまだ存在している。
新適正派も、思想としては残り続けている。
差別は消えず、誤解は繰り返され、恐れはどこまでもしぶとい。
でも、それでも──
「……やっと、ここまで来たね」
結彩がぽつりと呟いた。
「そうだな」
奏人も頷いた。
「未完成なまま、
壊れるかもしれない世界を、それでも信じ続ける」
「正解なんてないって知ってて、
それでも“選び続ける”っていうことが──」
「どれだけ重たいか、
やっと今、わかった気がする」
「うん」
結彩は、手を伸ばした。
その手を、奏人が自然に握り返す。
「それでも、生きていけるんだよね」
「未完成なままで」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、結彩が目を細めた。
「……あの日の夜を覚えてる?」
「星が見えなかった夜」
奏人は、すぐに頷いた。
「うん。
あのとき、怖くて仕方なかった」
「自由って、こんなに孤独なんだって思った」
「でも今は──」
「たとえ見えなくても、
星は“ある”って信じられる」
「見えなくても、
その先に光があるって思える」
「なあ、結彩」
「もし、またすべてが壊れても──」
「また一から、
作っていこうな」
結彩は、頷いた。
「うん」
「何度だって、
作り直してみせるよ」
「だって、
それが“わたしたちの自由”なんだから」
そのとき。
風がふっと強く吹いた。
結彩の髪が揺れ、
奏人の頬に一瞬、冷たい空気が触れた。
見上げると、空に雲の切れ間ができていた。
その先に、
かすかに、星のような光。
ほんの一瞬だった。
でも、二人には十分だった。
確かにそこにあると、
信じられるだけの根拠だった。
未来は、
見えなくても“そこにある”。
そう思えた。
足元の草を踏みしめて、
二人は歩き出した。
丘を下りていく道は、まだ整備されていない。
でこぼこしていて、
雨の後には泥も残る。
でもそれでいい。
道が整っていないことこそが、
“これからの自由”の証だった。
「さあ、行こう」
「未来に、会いに」
その言葉とともに、
ふたりは歩き出す。
未完成なまま。
でも、自分たちの意志で。
どこまでも、前へ。
誰の命でもない、
自分たちの命を、生きるために。
──そして、ナレーションのように響く声がある。
「自由とは、誰かに与えられるものではない」
「自由とは、迷うこと。選び直すこと」
「そして、未完成なままでも、進むことだ」
「それが、生きるということだから」
夜明けが始まる。
世界のどこかで、
また新しい誰かが、“自分のまま”を生きようとする。
たとえ星が見えなくても──
その空の下で、歩みは続いていく。
終わらない物語として。
未完成なまま、生きていくために。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ
みずがめ
ライト文芸
俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。
そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。
渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。
桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。
俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。
……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。
これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる