46 / 70
④⑤話 帰蝶様
しおりを挟む
「母上様、帰蝶様に呼ばれましたので行ってまいります」
「くれぐれも失礼ないようにね」
「はい、心得ております」
帰蝶様が私に会いたいという事だったので正式に面会の約束を取りちゃんと母上様に断りを入れて岐阜城奥の丸に出向くと、茶室に通された。
茶室に入ると既に帰蝶様が湯を沸かしている所で茶道具を取り出して並べている。
私は座り深くお辞儀すると帰蝶様にニコリと微笑み一礼して道具並べを続けた。
茶室の丸窓から滝が見えるようになっている造りだったのでしばらくそちらを眺めていると、シャカシャカと音が。
茶を点てる音で、初めてお目にかかったとき武人のような方だとお見受けしたが、とても繊細に茶を点てた。
「薄く点ててあります」
そうニコリとして私の前に白色の茶碗を出す。
緑のきめ細かな泡が踊る。
茶はまだ習い始め、あまり飲むと眠れなくなるからとさほど飲んだことがないが、教えられた作法をして飲む。
「あっ、あまい」
「ふふふふふっ、正直ね。あなたのために甘さの強い茶を使いました」
「ありがとうございます」
「もう一年になるかしら?前に会ったときより随分成長しましたね」
「体つきですか?」
「いえ、表情があなたの精神の成長を物語っています」
「そうですか?」
私はキュッと胸当たりがすると、
「みんな知っていますよ。私は」
「みんな?」
「えぇみんな、あなた達の事を見張っていましたから」
「あなたたちって母上様も?」
「えぇ勿論。浅井の復讐の為に武田と結ぶのではと考えていましたから。しかし、あなたの母上様は織田を裏切らなかった。いえ、裏切れなかったと言っていいでしょう。血のつながりなのでしょうね。憎んでも憎みきれない」
「私は父を殺した伯父が憎いです。血なんて関係ありません。いつか殺したい。この手で」
「ふふふふふっ、正直ね。でもその正直さが命取りとなります。気を付けなさい」
「はい・・・・・・」
「私がそばに居れば守ってあげる事も出来ましょうが私は近く居を移します」
「どちらに?」
「堺の屋敷に戻ります。私は信長殿にとって邪魔者です。私がいることでこの城を信忠殿にお譲りするのをためらっているようですし」
この城とは岐阜城、岐阜城はその昔は稲葉山城と呼ばれ、帰蝶様の実家・斉藤道三が治めていた。
斉藤道三は亡くなったが、譲り状を受け取った伯父・織田信長。
娘婿だからこそ書かれた譲り状。
帰蝶様なくしてこの地を統治する大義名分を得られなかった過去がある。
しかし、信忠殿に譲るとは初耳だった。
「信長殿は国を統治するためにその時に一番相応しい場所に居を移してきましたから近々京都と岐阜の間に城を造るはずです。その為、この岐阜城は信忠殿に譲りたいと思っているのです。私と信忠殿の子ならこの様に悩むことはないのでしょうが」
「伯父上様が悩んでいる?」
「あの方はそう言う繊細な面も持っているのですよ」
「信じられません・・・・・・」
「そうでしょうね。あの方は鬼を演じていらっしゃる。この国を一つとするために」
「だから邪魔者は排除する?」
「仕方ありません。それが戦国の世の習いなのですから」
「その習いによって父上様は殺された・・・・・・」
「そしてあなたは織田一族を売った」
はっと目を見開くと、帰蝶様はニコニコとしているだけでそれ以上その事についてはなにも言わなかった。
「帰蝶、茶を所望じゃ」
いきなり障子が開けられた。
「くれぐれも失礼ないようにね」
「はい、心得ております」
帰蝶様が私に会いたいという事だったので正式に面会の約束を取りちゃんと母上様に断りを入れて岐阜城奥の丸に出向くと、茶室に通された。
茶室に入ると既に帰蝶様が湯を沸かしている所で茶道具を取り出して並べている。
私は座り深くお辞儀すると帰蝶様にニコリと微笑み一礼して道具並べを続けた。
茶室の丸窓から滝が見えるようになっている造りだったのでしばらくそちらを眺めていると、シャカシャカと音が。
茶を点てる音で、初めてお目にかかったとき武人のような方だとお見受けしたが、とても繊細に茶を点てた。
「薄く点ててあります」
そうニコリとして私の前に白色の茶碗を出す。
緑のきめ細かな泡が踊る。
茶はまだ習い始め、あまり飲むと眠れなくなるからとさほど飲んだことがないが、教えられた作法をして飲む。
「あっ、あまい」
「ふふふふふっ、正直ね。あなたのために甘さの強い茶を使いました」
「ありがとうございます」
「もう一年になるかしら?前に会ったときより随分成長しましたね」
「体つきですか?」
「いえ、表情があなたの精神の成長を物語っています」
「そうですか?」
私はキュッと胸当たりがすると、
「みんな知っていますよ。私は」
「みんな?」
「えぇみんな、あなた達の事を見張っていましたから」
「あなたたちって母上様も?」
「えぇ勿論。浅井の復讐の為に武田と結ぶのではと考えていましたから。しかし、あなたの母上様は織田を裏切らなかった。いえ、裏切れなかったと言っていいでしょう。血のつながりなのでしょうね。憎んでも憎みきれない」
「私は父を殺した伯父が憎いです。血なんて関係ありません。いつか殺したい。この手で」
「ふふふふふっ、正直ね。でもその正直さが命取りとなります。気を付けなさい」
「はい・・・・・・」
「私がそばに居れば守ってあげる事も出来ましょうが私は近く居を移します」
「どちらに?」
「堺の屋敷に戻ります。私は信長殿にとって邪魔者です。私がいることでこの城を信忠殿にお譲りするのをためらっているようですし」
この城とは岐阜城、岐阜城はその昔は稲葉山城と呼ばれ、帰蝶様の実家・斉藤道三が治めていた。
斉藤道三は亡くなったが、譲り状を受け取った伯父・織田信長。
娘婿だからこそ書かれた譲り状。
帰蝶様なくしてこの地を統治する大義名分を得られなかった過去がある。
しかし、信忠殿に譲るとは初耳だった。
「信長殿は国を統治するためにその時に一番相応しい場所に居を移してきましたから近々京都と岐阜の間に城を造るはずです。その為、この岐阜城は信忠殿に譲りたいと思っているのです。私と信忠殿の子ならこの様に悩むことはないのでしょうが」
「伯父上様が悩んでいる?」
「あの方はそう言う繊細な面も持っているのですよ」
「信じられません・・・・・・」
「そうでしょうね。あの方は鬼を演じていらっしゃる。この国を一つとするために」
「だから邪魔者は排除する?」
「仕方ありません。それが戦国の世の習いなのですから」
「その習いによって父上様は殺された・・・・・・」
「そしてあなたは織田一族を売った」
はっと目を見開くと、帰蝶様はニコニコとしているだけでそれ以上その事についてはなにも言わなかった。
「帰蝶、茶を所望じゃ」
いきなり障子が開けられた。
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる