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㊺事件の輪郭
しおりを挟むロバートを探そうと大広間に戻った私は、オールノット公爵につかまった。
「レディ・ジェシカ。ぜひ一曲、お付き合い下さい」
夜会のホストに、周りにも聞こえるような大きな声で大仰に頭を下げられては、まあ断れないよね。
「オールノット公爵様、喜んで」
私も負けじと最高級の笑顔で応える。
オールノット公爵が出した手に、自分の手を重ねる。うん、海の男って感じのごつい手。なのに、ダンスめっちゃ上手い。
公爵のリードに任せて踊りだすと、びっくりする程、自分がダンスが上手くなった気がする。
ここまでダンスの上手い男性は、この世界にきて、はじめてかも。
「ジェシカ様がこんなにダンスがお上手だとは。素晴らしい」
「とんでもない事でございます。オールノット公爵様のリードがお上手でいらっしゃるので、私もいつもよりうまく踊れているようですわ」
まずは、お互いに様子見のジョブを打ち合って。
「ジェシカ様は、なぜ今日こちらにお越し下さったのですか? ぜひ、腹を割った、本当の気持ちを伺いたいものですな」
「あら、私のような小娘に、そのような含みのあるお言葉を頂くのは恐れ多い事ですわ」
「何をおっしゃいますか。神鳥の神託を受け、鍛錬に励んでおられるあなただ。また新たな、神の啓示を受けて来られたのではないのですか?」
オールノット公爵の表情は、とてもにこやかだ。眼光はかなり強めだけれど。
さっきライガは、オールノット公爵は反王国派ではなく、むしろ強い愛国心を持っていると言っていた。その事実を考えると、彼は反王国派ではない。兄に謀反を指示したというより、何らかの理由で兄を見張っていて、むしろ行動に出たところを捕まえるつもりだったんじゃないだろうか。
だとしたら、一番の曲者はロバート・ヤンかもしれない。
「オールノット公爵様は、なんでもお見通しでいらっしゃいますのね。私は今夜、兄に会いに参りましたの。これ以上の喜劇への参加は不要だと伝えに」
「ほお、兄上にね。喜劇とおっしゃるのは……」
「他人にクルクルと踊らされて、本意でない事をさせられ、罪人になるなんて。こんなばかばかしい状況、喜劇と言わずにはいられませんわ。ねえ、公爵様。現在、わがナルニエント公国に仕える侍女や下働きの者など、約半数の者がこの1年間で入れ替わっておりますの」
「……ほお……」
「その者たちは皆、オールノット公爵家からのご紹介だということは、よく存じております。また、兄が、オールノット公爵様の影響を多分に受けている事も」
「いや、それは……」
さすがにここまで直球で私が話すと思っていなかったようで、オールノット公爵の顔に、困惑と焦りが見える。
「端的に申し上げますわ。もし、兄が何か悪事を働くとすれば、それはオールノット公爵様のご指示であると、私どもは考えます」
「な、なぜそのような! アーシヤ殿の行動がなぜ私の指示した事になるのだ?!」
「この1年間、兄アーシヤは公爵様にべったりだったではありませんか。その兄が何か行動するとすれば、人々は皆、裏に公爵様がいらっしゃると考えるのは当然ですわ」
「……!」
「もう、曲が終わりますわね。最後に伺いますわ。なぜ兄に、ロバート・ヤンをマクシミリヨン国王に紹介させたのですか? なんの目的で?」
「なぜ、あなたがその事を……?!」
「公爵様。私は神鳥の神託を受けました。事は深刻で、時間がありません」
神託という言葉が効いたのか、オールノット公爵の目に、驚きと諦めの感情が見えた。
曲が終わり、私は公爵に手を取られながら、一旦ホールの端へと移動する。
「ジェシカ嬢、客間へご一緒願えるか?」
私は軽く頷き、私はそのまま公爵の後へ続いた。
音楽と人々の声が遠くなり、私達は静かで剛健な客間で向かい合った。
「私が知りたいのは、ロバート・ヤンの事です。彼が何者なのか、明日何があるのか」
「……そこまで知っているのか……。彼は、ロバートは……。私が昔、ポノボノ国で出会ったなんでも屋だ。彼は貴族出身で、各国に滞在し、色んな国の文化に精通している。博識で色々な情報を持っている信頼できる人間だ」
「オールノット公爵様は、他の情報網はお持ちですか?」
「国王が北の一族の情報を利用しているのは知っている。ただ、北の一族の情報が常に正しいとは限らない。私は私で、各方面より情報を集めている」
「その言葉はそのまま、公爵様の情報網にも当てはまりますわ。ロバートの持つ情報が正しいと、誰がどうやって精査しますの?」
「それは……」
オールノット公爵は、私の言葉に、無言になった。
そう、今回の騒動は、いわゆる情報戦、心理戦といわれるものだと思う。
物事というのは、同じ事象でも、それを見る人間の立場や知識、ものの見方により、違って見える。
同じものを見ている筈なのに、見える景色が、全く違うことだってあり得るのだ。
そんな人間の心理について理解していれば、嘘と本当を混ぜ合わせ、偽の情報を流し、人を上手く操作する事もそう難しい事ではない。一般的な感覚の人間なら、罪悪感とか、倫理観とかあるし、まあそこまで大事はやらないと思うけど。
「公爵様、明日は兄アーシヤがロバート・ヤンを連れて、国王に謁見する予定でいたのですか? あなたは、兄にはロバートが国王を討つ手筈だと説明していた。でもそれは、嘘。兄がロバートという暗殺者を謁見の場に同伴させた事を証拠として、兄を断罪するつもりでいらしたのではないですか?」
「……なぜ、あなたが、それを……。本当に、神託で我々のことが見えているのか……?」
日焼けしたオールノット公爵の顔が、青白くなっていくのがわかった。
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