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㊻ロバートという男
しおりを挟む(これで、なんとなく事の輪郭がつかめてきたわね。やっぱりアーシヤは嵌められたんだわ。シャムスヌール帝国のボンボンが今回の騒動のシナリオを描いたって話も、どこまでほんとか怪しくなってきたし、トウゾウ国にも濡れ衣を着せるつもりだということは、ロバート・ヤンはトウゾウ国の人間ではない。ロバートがポノボノ国の人間だとしたら、今回の情報戦を仕掛けてきたのはポノボノ国かも。それとも、裏で絵を描いている人間が別にいるのか……)
「オールノット公爵、もしロバートが本物の暗殺者だとしたら? 明日、本当にマクシミリヨン国王を亡き者にするつもりであれば、あなたも勿論、謀反に加担した事になるでしょうね」
「ま、まさか……。なにを言うのだ! ロバートはそのような者ではない……。私はこの10年間彼と……」
「とにかく! ロバートをここに呼んでください! 一度彼と話がしたいのです」
公爵の言葉を遮って、私は大きな声でそう言い放った。
(里入り忍、と言うと大げさだけど。ロバートがこの10年、信用できる人間であり続けたのは、このマクシミリヨン国王暗殺のチャンスの為だった、という事もあり得るもんね。はぁ……。なんか、やだなあ。私の予定では、剣大会が終わったら、こんなドロドロ国際紛争的なことじゃなく、ライガとめくるめく熱い恋の炎を燃え上がらせる時間にするつもりだったのに……)
オールノット公爵は、ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえそうな苦い顔をして私を睨んできたが、勿論、私も負けじと睨み返す。
「何度も言いますが、事は緊急を要するのです。おわかりですか?」
「……わかった。彼をここに呼ぼう」
そう言って、公爵は部屋の扉を開け、外に控えていた騎士の一人に言葉をかけた。
公爵令嬢らしからぬ行動ではあるが、私も扉まで出向き、残っていた騎士に声をかける。
「申し訳ないのですが、あなたの剣をお借りできて?」
「ジェシカ嬢……?」
「はっ……。剣を……ですか?」
「そう、剣を」
そう言って、私は騎士の剣を奪い取った。
「お嬢様……!! 何をなさいますか……!?」
「ジェシカ嬢、それはだめだ……!」
「ごめんなさい。緊急事態なのよ。あなたは、今すぐ予備の剣を取りに行くと同時に、代わりの騎士をすぐにここに寄越しなさい。さあ、早く!! 今すぐに行きなさい!!」
「はっ、はい! 承知しました! 」
貴族のお嬢様に初めて怒鳴られたであろう騎士は、ショック状態からか、主であるオールノット公爵の許可も取らずに、すぐさま駆け出していった。
公爵は唖然として、私を見ている。
「オールノット公爵様。お心の準備はよろしくて?」
私は部屋のピアノにかけてあるカバーを勝手に拝借し、ソファーに置いた剣の上にかけて隠した。
その剣の前に、ドレスをめいいっぱい広げて腰かけた。ドレスのなかの足は、肩幅に広げて、いつでも動ける体制だ。
(場合により、ロバートが攻撃してくるかもしれない。逃げる可能性もあるわね。逃げるとしたら、どこへ? どの道から逃げる? 安全な逃走ルートは? ……ライガとアーシヤは、今どの辺りにいるのかしらね……)
私は、以前にライガと廻った、他国への抜け道を思い出しながら、ロバートを待った。
「……ジェシカ嬢……。私は、国王に忠誠を誓い、ヨーロピアン国の為に尽力してきた……」
「そう聞いております」
「君の兄は……」
「今は兄の事は後回しです。ご存じの通り、兄は剣の腕はからきしで全く脅威にはなりません。今、第一優先事項は、はロバートが危険人物かそうでないかを確認し、危険であれば身柄を拘束する事。その事に集中しましょう。公爵様、深呼吸して、心を落ち着けて下さい」
微動だにせず、扉を見つめながらそう淡々と話すと、公爵が素直に深呼吸する音が聞こえた。
しばらくすると、扉がノックされ、騎士の声がした。
「失礼致します。ロバート様がお見えになりました」
「お通ししろ」
扉から入ってきたのは、30代半ばの、白い肌、薄い茶色の髪に、鼻筋の通った一見貴族のお坊ちゃま風のハンサム顔だが、体はライガといい勝負ながっちり体形の、顔と体がつりあっていない男だった。
(いや、これどうみても、ただの情報屋じゃなくて、むしろ傭兵でしょ? しかも、顔が無駄にいいから、余計に胡散臭いわ)
私はいつもの公爵令嬢スマイルを貼り付けながら、肩の力を抜くよう意識して、座ったまま彼を見つめた。
「これはこれは。急ぎの用だと伺い何事かと来たのですが、こんな美しい令嬢がご一緒とは」
「ロバート、こちらはジェシカ様だ。ジェシカ様、こちらはロバート、私の知人で、しばらくこちらに滞在しております」
オールノット公爵は、引きつった笑顔をつくりながら、ロバートを私に紹介してくれた。
「初めまして。トウゾウ国のロバート・ヤンです」
「初めまして、ロバート様。持病の為、腰かけたままの挨拶で失礼致します。私くしは、ジェシカ・デイム・ドゥズィエム・ナルニエント。いつも兄のアーシヤがお世話になっております」
「……アーシヤ殿の妹君でいらっしゃるのか……。こんなに美しい姫にお目にかかれて光栄です」
ロバートは、アーシヤの妹の登場に少し驚いた様子をみせたが、さほど動揺もせず、素晴らしい笑顔を返してきた。
(私といい勝負の、にっこり笑顔ね。その心のこもっていない笑顔が、私にいよいよ主役が登場したと教えてくれてるわ。さて、どうやってこの男を崩すべきかしらね)
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