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51とりあえずは丸くおさまりそうな流れかと
しおりを挟む「これはこれは。コブありの専任剣士のご登場だな」
「ロバート。大人しくするか、痛い目にあうか、どちらか選べ」
「ちょ、ちょっと待ってライガ」
視線はロバートを捉えたまま、私はライガの袖を引いた。
「その男は、私の獲物よ。手出しは無用だわ」
「ジェシカお嬢様……」
「私は、いざと言う時に男性に頼る人間にはなりたくなくてよ。自分の力で出来る事は、自分でやりたいわ」
「わかっております。ですが、この男はジェシカお嬢様を侮辱しました。今、この者に対する執着は、お嬢様より私の方が強い」
そう言いつつ、ライガはロバートの方へと近寄った。
「クックっ……お嬢様を侮辱したときたか。御大層なセリフだな、正義の味方さんよ。安心しな。2人ともまとめて沼に沈めてやるぜ」
ロバートの呼吸は荒く、先程の私がつけた足首へのダメージは小さくないことを感じた。
(まあ、有事にあんまり自己主張しすぎるのもなんだわね。正直、ライガが来てくれてホッとしてるのは事実だし……。今、一番に優先すべき事は、自分の手柄をあげる事ではなく、確実にロバートをとらえる事。ここはチーム戦だと考えて、彼に任せよう)
私は大人しくライガの袖から手を離し、少し後ろに下がった。
それを合図に、ライガがロバートへと攻撃をしかける。
「……うぐっ……!!」
ロバートの呻き声とともに、びっくりするほど勝負はあっけなくついた。
地面に倒れたロバートの手足を、ライガは器用に縛り上げた。
遠くから、馬の蹄の音がかすかに聞こえてくる。
「ライガ、ありがとう……」
事が終わったという安堵感より、ホーッっと大きく溜め息をついた。
「チカ……無事でよかった……。本当に……」
気づくと、ライガに再び抱きしめられている。
「気が気がじゃなかった。俺はもう、二度とチカから離れない。改めて、誓う。俺は一生、チカの側にいると」
「ライガ……」
なんだかプロポーズの言葉みたいだけどそれってどういう意味なの、とかアーシヤの事など、ライガに聞きたいことは色々あるけれど。でも、今、この瞬間だけは……。
(……ライガの腕のなか……。世界で一番安心できる場所かも)
ライガに、もう絶対に離さないというようにギュッと抱きしめられながら、私もそっと彼の背中に自分の手をまわした。
鍛えられた分厚いライガの胸に顔を埋めて、いつもの彼の匂いに包まれながら、私はつかの間の休息を得た。
遅れてやってきたオールノット公爵家の騎士達にとりあえずロバートを引き渡し、仲間割れをしてロバートに殺害された騎士の遺体と共に、私達は一旦オールノット城へと戻った。
私は正直に、ロバートと話した事柄をオールノット公爵に報告した。彼が元・北の一族だったことを除いて。
結局、今回の騒動の黒幕が誰なのかは不明なままだ。ロバートは依頼主を吐くよう責められるだろう。
もともと、オールノット公爵としては、国内の反国王派をあぶりだす為に餌をまき、それにうっかり引っかかったのが、兄のアーシヤだった。
しかし、そのあぶり出しの為の脚本の役者であるロバートが、まさかの本物の暗殺者だった事が発覚。アーシヤだけでなく、見方によってはロバートを国内に引き入れたオールノット公爵までもが、謀反の疑いをもたれてしまう可能性がでてきたという非常事態となった。
オールノット公爵、私、そしてライガの3人で行った極秘の会合で、今回の騒動は、国内の反国王派ではなく、国外からの危険人物をあぶりだす作戦だったことにしようと合意した。
本来であれば、兄アーシヤは何らかの処罰対象となるが、なにしろ現在、彼は第三王子のフランツに保護されている。これには、私も予想外で、本当に驚いた。
アーシヤが本当に反国王派であるならば、フランツ王子が保護するなどあり得ない。つまり、アーシヤが国王を弑する為に手をかしたのは事実関係を探るための演技だった。そういう言い訳が成り立つし、実際、そうとしか見えない。
オールノット公爵も、色々思うところはあるだろうが、フランツ王子の元にアーシアが保護されているという事実がある限り、それ以上何も言えないだろう。
全ての元凶はロバートであり、オールノット公爵とアーシヤは、ロバートの本性に気づいていなかった。ジェシカの神託により、ロバートのたくらみが明るみに出て、国外からの脅威を未然に防いだ、そう落としどころをつけた。
なんだかんだしてる間に、もう朝日が昇る時間だ。
剣大会前の1月間の特訓、剣大会3日間の連続試合、からの今回の騒動と、なかなかにヘビーな毎日が続いており、私はほんっとうに心身共にクタクタだ。
(だけど、とりあえず、フランツ王子とアーシヤに会ってからでないと、眠る訳にはいかないわよね……)
私はライガと共に、疲れた体に鞭打って、ヨーロピアン城へと向かった。
「ところで、ライガはどうやってフランツ王子に連絡を取ることができたの? 私でもできないのに」
「チカの誕生パーティ―の時に王子に声をかけられた。まあ、ちょっとした仕事を手伝った時に、これをもらった」
馬車のなかは、私とライガの2人きり。誰に聞かれる心配もない。
ライガは胸から小さな木版を取り出した。そこには、ヨーロピアン国の刻印と、フランツ王子の名前が彫ってある。
「もし、緊急で何か事件が起こったら、ヨーロピアン城の東門の門番にこれを見せろと。すぐにフランツ王子の部屋に伝書鳩で知らせが届くと言われた。本当は、使いたくはなかったが……。アーシヤを国外に逃がさなくても、王子に保護してもらえれば、オールノット公爵のアーシヤへの疑いは誤魔化せんるんじゃないかと思った。まあ、誤魔化せなくても、王族の保護下の人間に、それ以上は言及できないだろ。フランツ王子には何も説明せず、ただアーシヤを保護してほしい。これから俺はジェシカ嬢と合流する、その2点のみ話した。彼は何も言わず、アーシヤを預かってくれた」
「よくそんな上手い方法思いついたわね。さすがと言うか、私の命令ははなから聞いちゃいないというか……」
「仕方ない。そもそも、チカを置いて、長期間国を離れるなんで俺にはできない」
そう言って、彼は、私の手を取った。両手で、私の右手を包み込む。
「え……っと。ライガ……?」
「俺にとって守るべき存在はチカだ。アーシヤじゃない。大切なのは、チカだけなんだ」
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