52 / 79
52元ホテルスタッフなので夜勤には慣れているつもりでしたが
しおりを挟むライガが真剣な表情で私を見つめる。
今日2回目のそれってどういう意味ですかと問いただしたくなるライガのセリフだが、言葉が全く出てこない。
疲れにより頭が働かないとはこういう事かという見本になるくらい、考えが全くまとまらない。とりあえず何か答えないとと思いながらも、馬車の適度な振動とライガの手の温かさにリラックスした私の意識は、遠のいていく。
ライガに手を握られたまま、一言も発せず、ウトウト居眠りしている間に城に到着した。
東門に到着するやいなや、待ち構えていたフランツ王子の専任騎士達により、寝ぼけまなこの私とライガは東の塔の客室へと拉致同然の勢いで案内された。
豪華さと堅固さを兼ね備えた広々とした客室の居間には、なんとフランツ王子が座っていた。
「待ちかねたぞ」
とりあえず、まずはフランツ王子に挨拶しようと膝を折り腰をかがめたが、即座に遮られる。
「お待たせして申し訳ございませんフランツ様。ジェシカ・デ……」
「挨拶は無用だ。ジェシカ嬢、そちらのソファーにかけよ。まずは、ライガから事の報告を聞こう」
「はっ、フランツ様。かしこまりました」
(え? なんでライガから? ライガは私の従者なのに、なんでフランツ王子の部下みたいなことになってるのよ……?)
憮然として立ち尽くす私に、フランツ王子から再度声がかかる。
「ジェシカ嬢、座ってくれ。疲れ切った顔をしているあなたより、まずはライガからおおまかな状況を聞いておきたい」
「……ありがとうございます。お心遣いに感謝申し上げます」
自分はそんなにひどい顔をしているのかと思いながら、礼を述べ、大人しく腰かけた。
座ると同時に、私は疲労感と強い睡魔に襲われた。
(……寝ちゃダメ!! ホテル時代にもスタッフ不足の時には、何度も日勤からそのまま夜勤の通し勤務もしてたじゃない! こんな大事な場面で眠る……なん、て……)
「まず、今回の騒動について、最初に知ったのは私どもリーザ一族に入ってきた情報からです。シャムスヌール帝国の一部の過激派が、ヨーロピアン国への干渉を狙っているとの……」
ライガの声が遠のいていく。
私はまたも、心地よいライガの声を子守唄にしながら、睡魔に身をまかせた。
「……シカ様……」
「……ェシカ嬢……」
気持ちよく寝てるのを、誰かが邪魔をする。もう少しこのまま、眠っていたいのに。
「……う……ん。あと5分だけ……」
「待てません。起きてくださいシハイニン! オキャクサマがお待ちです」
(ーオキテクダサイ、シハイニン。オキャクサマがオマチデスー って、え……。今、仮眠中だったっけ? ヤバっ、寝過ごした?! )
「何があったの? まずは、現在の状況と緊急度を簡潔に報告して!」
すわ、事件か、クレームかと焦ってとびおきると、目の前には浅黒い肌のおでこに小さな角のようなものが生えているガタイのいい男性と、その後ろには金髪細身のおとぎ話の王子様が座っていた。
(……あれ……まだ夢見てるの、私……? ここは、いったい……)
「ジェシカお嬢様、今ここがどこかわかりますか?」
「え……あ、……の」
「一通り、フランツ様には私からご報告申し上げました。アーシヤ様は奥の寝室でまだお休み中です。フランツ様のご厚意により、明日の朝までこちらで私ども3名の滞在を許可下さいました。ジェシカ様もは奥の寝室のソファーでお休みになりますか?」
(……夢じゃない……。そっか、今はこちらが現実なのよね……)
ぼーっとしながらも、状況がわかってきた私は、なんとか残る力を振り絞り立ち上がり、フランツ王子の足元で膝をついた。
「フランツ様、お話中に眠ってしまい大変失礼を致しました。心よりお詫び申し上げます。また、ヨーロピアン城に滞在を許可下さり、本当に感謝致します。お言葉に甘え、このまましばらく休ませていただきます。フランツ様にも多大なるご迷惑を……」
「ジェシカ嬢、もうよい。今は休んでくれ。あなたが倒れないか心配だ」
「……このたびのご寛容、感謝申し上げます」
フランツ王子は、ポンと私の肩に手を置き、そして部屋を出て行った。
私はまたすぐに、ソファーへと崩れ落ちる。
「ごめん、ライガ。ほんまに役立たずでごめん。私、もうだめ……」
「チカ、せめて寝室のソファーで寝てくれ」
「むり、もう、無理。ここで寝る」
私はそう言い終わるか終わらないかの内に、速攻で眠りの世界へと戻った。
次の朝、というか数時間後、アーシヤと私達は今回の事件についてのすり合わせを行い、フランツ王子にお礼とお詫びを申し上げてから、ナルニエント公国へと戻った。
両親にも、アーシヤと2人で、打ち合わせ通りのストーリーを話した。後日、国王からも直接、確認のための呼び出しがくるだろう。
父公爵、母公爵夫人にとっては、アーシヤの件も、私がかかわった事も、寝耳に水の展開で、フランツ王子が来訪して空気が凍った時以来の大変な驚きようだったが、さすがは公爵をはっているだけあって、冷静に話を聞いてくれた。
今後のアーシヤの身の振り方については、公爵家としては認められたものではないのは明らかだが、これが最善の苦肉の策なのだ。ナルニエント公爵は逡巡の後、その策を受け入れた。
父の諦めの表情に、心が痛んだが、致し方ない。
第一優先事項はアーシアを無事に生かすことだ。
そして時間はかかっても、周りからのアーシヤへの謀反の疑いを払拭し、彼自身の後悔の念を薄れさせ、冷静な頭と心を整えてから、公爵家の跡継ぎへとササッっと戻すこと。
その為には、しばらくヨーロピアン国を離れてもらう必要がある。
アーシヤに、オールノット公爵や国王、貴族からの執拗な尋問からうまく逃れられるとはとうてい思えない。良心の呵責に耐え切れず、ポロっと打合せしたシナリオと違う事を言われると、私やライガだけでなく、ナルニエント公爵、オールノット公爵家、そしてフランツ王子にまで迷惑がかかる恐れがある。それだけは、絶対に避けなくてはならない。となると、しばらく別の場所に避難してもらうのが安全策だと判断した。
人の噂もなんとやら。数年たてば、人々の頭から今回の事は消えるだろう。
それにプラスして、私は自分の為にどうしても手に入れたい権利があった。ついでにそれもゲットしようと考えたのだ。
両親に事情を説明し終わると、すでに午後をまわっていた。
アーシアと私はそれぞれ自分達の部屋へと戻る。ライガも後ろについてきた。
『自分の部屋へ戻ることができる』
ただ、それだけの事が、こんなにも嬉しい。
当たり前の生活の有難さをしみじみと感じた。
「ジェシカ」
「ん? どうしたの、お兄様」
「……私は……。今回のことは、本当にすまない。フランツ王子にも、皆にも迷惑をかけて……」
「アーシヤお兄様、そこまでですわ。とりあえず、今私達がすべきことは、体を洗い清めて眠る事です。また明日、お互いにゆっくり休養をとった後に、クリアな頭で今後の詳細を相談しましょう」
私はアーシヤにニコッと笑顔をみせ、それから彼を軽く抱きしめた。
「……ありがとう、ジェシカ……本当に」
アーシヤは涙を流しながら、私にハグを返した。
(とりあえず、ひと段落、よね。あーもー、本当に疲れた。眠い……)
私は部屋の前でライガとわかれ、待ち構えていたマリーとサリューの説教を聞きながら、お風呂で体をゴシゴシと洗ってもらった。
まだまだ、後処理はたくさん残っているけれど、とりあえず事件は収束へと向かっている。
(ああー、平凡な日常、最高。いつもの、お布団、落ち着くわあ。これが幸せってやつよね)
そんな事を思いながら、私は深い深い眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる