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第二部第一章 act.63
雪乃-YUKINO-
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「…………」
(雪乃には……俺のせいで
怖い思いをさせた……。
ごめんな……雪乃………)
隆二のベッドに座り雪乃の寝顔を見つめて
いる翔。
「…………ん……イヤ……」
「……え?」
「………イヤ! やめてぇ! 離して!!」
がばっ!
「……ハアハアッハア……」
雪乃は夢に魘され、起き上がって大きく肩で
息をしていた。
翔は雪乃の隣に座りその細い肩を優しく
摩りながら言った。
「……大丈夫か……雪乃?」
「翔さん…。あたし……あたし……ううぅ」
雪乃の瞳から大きな涙が零れ落ちていく。
ギュッ
「あっ……」
翔は雪乃の身体を強く抱きしめていた。
「……大丈夫だ……。俺が側にいるだろ…」
「…………翔さん。……あたし……うっ」
「………もう泣くなよ…。今日…ずっと…
側にいるから……」
「あたし……もうダメ。あたし……あたし。
……あんな人達に……うっ」
翔の腕の中で身体を震わせて泣きだす雪乃。
「あたし…ううぅ…
しょう……さんだけに…うっ
……うん………」
翔は泣きやまない雪乃に優しくキスをした。
そして雪乃をベットに倒し込んでいった。
唇をゆっくり離し、雪乃の顔を
見つめながら優しく話しかける。
「雪乃……もういい……。
もういいから……なっ」
「翔……さ…ん……。
あたし……あたし……」
翔の胸に顔を埋め、泣き出す雪乃。
「あの人達の…顔が…見えて…
怖い…怖いの…」
翔は優しく雪乃の頭を撫でながら言った。
「雪乃……もう大丈夫だよ…
俺が側にいるから…何があっても…
雪乃の事は…俺が絶対に
守ってあげるから…」
「しょ…しょう…さん…。
この…まま…」
「うん?」
「このまま…朝まで…
抱いてて…くれますか?」
雪乃は顔をあげ翔を見つめてきた。
「ああ…いいよ…。朝まで…
抱きしめているよ…」
チュッ……
「うん……」
翔は雪乃に優しく微笑みかけながら答え、
その唇にもう一度キスを落とした。
そしてそのまま、翔に身体を抱きしめられ、
胸に顔を埋めたまま、安心したように眠り
につく雪乃であった。
・
・
・
「……んっ」
空が明るくなりかけた頃、
雪乃は翔の腕の中で目を覚ました。
目の前には心配そうに雪乃の顔を見つめて
いる翔の顔があった。
「翔さん……。 ありがとう……」
雪乃は少し微笑んで翔にお礼を言ってきた。
「雪乃………大丈夫か?」
その雪乃の笑顔がぎこちなく感じた翔は
心配そうに聞いてみた。
「うん……平気……。翔さんが…ずっと…
抱いていてくれたから…安心できました。
耳に…翔さんの鼓動がずっと残ってる
感じで…」
「……雪乃」
「あっ……ほんとに……大丈夫なんです。
それが安心できて…嬉しいんです……」
未だ心配そうに雪乃の名を呼ぶ翔に
雪乃は『安心して』と言わんばかりの
笑顔を向ける。
そして翔の顔から視線を外し、
カーテンの隙間から差し込む光を見ながら
寂しそうに言った。
「…………もうすぐ。
……夜が明けちゃいますね?」
「………ああ」
「………あたし。……翔さんの部屋で…
翔さんの帰り待っていてもいいですか?」
翔の腕の中で、翔の顔を見上げながら
恐る恐る聞いてくる雪乃。
翔はそんな雪乃の顔を優しく見つめて答えた。
「帰りもなにも……俺……今日…雪乃と…
ずっと側にいるって……言ったろ?
どこにも行かないよ…」
「えっ? でも……翔さん授業が…?」
驚く雪乃に笑いながら伝える翔であった。
「ははは………。そんなもん……パス」
「えっ?」
「……雪乃の方が大事……」
「…………翔さん」
愛しそうに翔の名前を呟く
雪乃の瞳が潤んでいた。
「……とりあえず。もう少し一緒に寝よう。
明日のことは起きてから考えよう……」
「……はい」
雪乃は自分の涙を拭いながら
笑顔で返事をしてきた。
。
。
。
お昼になって、翔と雪乃は隆二たちと別れ
翔の部屋に戻っていた。
「結局……。休んじゃいましたね…。
翔さん…本当に平気だったんですか?」
コーヒーを飲んで一息ついている時に
雪乃が申し訳なさそうに聞いてきた。
「………平気だよ。普段から真面目に
授業出ているし……。
それに……学校に行く伸には…
『風邪で休むって事にしろ』って…
隆二さんに言ってもらったし…」
「……隆二さんが…伸さんにそんなこと
言ったんですか?」
まるで信じられないといった表情で
驚きながら言ってくる雪乃。
「ああ……あいつに正直に話したら……
1日で学園中に拡がってしまうからなぁ」
「………ええっ!? そうなんですか?」
翔の話を聞いて、さらに驚く雪乃。
翔はため息混じりに話を続けた。
「あいつは……。何でもネタにするからな。
風邪の話も…もしかしたら入院している位
になっているかもしれないし…。
だけど…隆二さんには絶対に…
逆らわないから…」
「それって…本当なんですか?」
「ホントだって……。もっとも自分の
不利になることは絶対に話さないけど…」
伸の真実を聞いても、信じられない
雪乃であった。
「…………そんな…。あたし…伸さんて…
もっと…真面目な方かと…」
「はぁ? 伸が真面目って…
あんなにおちゃらけてお調子者なのに?」
今度は雪乃の言った一言に翔が驚いた。
雪乃は大きく頷いて真面目な顔で
言ってきた。
「はい。 あんなに陽気なのも…
すべてワザとしていると思ってました。
実際にライブ中は真面目ですよね?」
「………………」
(……たしかに…。ライブ中はふざけたりは
してないよな?
ナンパも上手くいった話は
聞いた事ないし…。
……あれ?
でも…女の子には…人気があるよな?
じゃあ…本当に…雪乃の言うとおり…
ワザとおちゃらけているのか?)
「……あの…翔さん?」
急に黙って考え込む翔に雪乃は不思議そうに
聞いてきた。
「あっごめん。なんだか本当に伸が
真面目な奴に思えてきた」
「ふふ。きっと…本当は
真面目な人なんですよ…」
雪乃は少し微笑みながら言ってきた。
翔は笑いながら答えた。
「ははは。じゃあこれからは
真面目な奴として伸を見てみよう。
それよりも……雪乃。今日はどうする?
もう午後になったし…
駅前でも遊びに行くか?」
「………………………」
翔が話題を変えて外出に誘うと雪乃の表情が
急に曇ってしまった。
「………………………」
(外の話をすると…雪乃は黙ってしまう。
飯の時もそうだったもんな……。
外食はもちろん……
あの玲子さんに誘われても…
食料品の買い出しにさえも
行きたがらなかった。
外出をさけている…。そんな感じだ……)
「雪乃……どうする?」
「………あたし。行きたくない……」
雪乃は小さく首を左右に
振りながら答えてきた。
そんな雪乃の脅えるような態度を見ている
だけで本当に行きたくないのが
伝わってくるのを感じる翔だった。
「……………雪乃……」
「翔さん……ごめんなさい。
あたし……まだ…外には…
で、出たくない……の…
他の人に会いたくない……」
「………しかしな……雪乃。
……いつまでも……」
「いや!ダメなの…。外には出たくない…」
「……………………」
「……ダメなのぉ……」
雪乃は涙声で訴え、そのまま下を向いて
肩を震わせていた。
「……………」
(雪乃は脅えているのか?
………だとしたら……それは……
俺のせいで……俺は…俺は……
どうしたらいいんだ?)
「………雪乃。
俺は……どうすればいい?
どうしたら……
雪乃を元気づけられる?」
「……翔さんは悪くない。
それに……もう十分…
元気づけてもらったよ……」
心配そうに聞いてくる
翔の問いかけに雪乃は静かに首を振って
答えてくる。
「わかっているの……。このままじゃ…
いけないって…。
だけど……それでもダメなの……
外に出ようとすると身体が
竦んじゃうの……。
あの人達に会いそうで……
とても…怖いの…」
膝を抱え込み寂しそうに呟く雪乃。
翔は言葉を無くしそんな雪乃を
黙って見つめていた。
「……………」
(俺は…雪乃に……
何をしてあげれるだろう?)
「………雪乃…」
(俺が雪乃にしてあげれること……。
優しい言葉をかけること以外に……
できること。
俺と雪乃の共通の物は音楽なんだよな。
……………………。
誰にも…誰にも…聴かせるつもりは
なかったけど……
雪乃になら……聴かせても良い……)
翔は自分のギターを手にし
雪乃の前に座った。
「……翔さん…なにを……?」
雪乃は驚きながら翔の様子を見ていた。
『♪夢を信じていた
遠く過ぎ去りし日々
空の彼方に
優しい風が流れて行く♪』
翔は雪乃を見つめ歌い出した。
それは人前で初めて
披露する翔の歌であった。
『♪………………
掴んだはずの思い出さえ
この手の中から消え落ちて行く
キミへの想いだけを抱いて
残された時間(とき)を
ただ一人すごしている…♪』
「………翔さんが……歌を?
それに……この曲……
グリフォの歌じゃない…。
隆二さんの作る歌とも
違うみたいだし……」
初めて聴く翔の歌に驚く雪乃。
『♪暗闇の中キミの笑顔さがして
永遠の時間(とき)を彷徨う
それでも心から信じている
キミとの約束(YAKUSOKU)♪』
「翔さんが…曲を提供していたのは
知っていたけど……。
歌詞まで……ううん。
歌を歌えるなんて……。
……あたしのために?
歌ってくれてるの?」
翔の歌を聴いている雪乃の胸の中に
熱いモノが込みあがって
来るのを感じていた。
『♪その想いがいつか心の翼を広げ
キミの待つ空の彼方へ
飛び立てるだろう
Ah-…一人ですごしている
時間(とき)に流されながら
それでもいつか叶うだろう
キミとの再会(SAIKAI)
Ah-…キミの笑顔が眩しくて
永遠の暗闇(ヤミ)が消えていく
いつの日か届くと信じている
キミへのこの想い(OMOI)
結ばれると信じて……♪』
歌い終わった翔は
雪乃の顔を見つめていた。
「……………………………」
雪乃の瞳には涙が零れ落ちていた。
「………翔さん……今の歌?
まさか……翔さんの
……オリジナル?」
「…………………ああ」
雪乃は自分の涙を拭いながら
翔に聞いてきた。
「…すごい綺麗な曲と歌。
……それに歌も歌えるなんて……
あたし知らなかった。
……どうして今まで
教えて…くれなかったんですか?」
「俺が……。歌を作り始めたのは
昔の約束のためで…。
その彼女のためだけに…
歌うつもりだったから……
人前では歌うつもりは
なかったんだ………」
「……!?
それじゃあ……あたしのために……」
「………いいんだ。
雪乃には聴いてもらいたかった。
俺の歌を聴いて…元気になって
もらいたかった……。
そのためなら…俺のこだわりなんて
気にしなくていい」
「………翔さん。あたし…あたし…」
どん
雪乃は泣きながら翔の胸に
飛び込んでいく。
ぎゅっ
翔は雪乃の身体を優しく抱きしめていた。
・
・
・
雪乃の身体を優しく撫でながら
話しかける翔。
「………元気出たか?」
「………うん。元気出た。
あたし……翔さんと演奏したい」
雪乃は翔の胸に顔を
埋めながらポツリと呟いた。
「……演奏しに行こうか?」
「えっ?」
「MATにさ……」
「はい」
「よし行こう。俺の歌のことは……
他の人には内緒にしてくれ。
まあ…。隆二さんと玲子さんには
話しているけど…」
「…はい。翔さん…ありがとう」
翔の顔を見つめながら
お礼を言う雪乃の顔には
笑顔が戻っていた。
・
・
・
それから翔と雪乃はMATに向かい
客のいないホールで
雪乃と二人演奏を楽しんだ。
雪乃はそのまま、マスターの手伝いを
しながらカウンターの中で
グリフォのライブを聴いて、
翔のバイトまで手伝いながら
翔が終わるまで残っていた。
伸は隆二に翔の風邪の事を
しっかり伝えた!と自慢げに報告し、
隆二に頭を撫でられ
嬉しそうにはしゃいでいた。
『今日こそは雪乃ちゃんと一緒にいるの!』
と言う玲子の強い要望により、
雪乃は玲子の所に泊まる事になり…
翔は少し寂しい思いをしたのであった。
「………………」
(…まあ……結局。
朝まで飲んでいたから
ほとんど一緒にいたことに
代わりはないけれど……)
こうして……
悪夢のような2日間は
幕を閉じていったのであった。
。
。
。
(雪乃には……俺のせいで
怖い思いをさせた……。
ごめんな……雪乃………)
隆二のベッドに座り雪乃の寝顔を見つめて
いる翔。
「…………ん……イヤ……」
「……え?」
「………イヤ! やめてぇ! 離して!!」
がばっ!
「……ハアハアッハア……」
雪乃は夢に魘され、起き上がって大きく肩で
息をしていた。
翔は雪乃の隣に座りその細い肩を優しく
摩りながら言った。
「……大丈夫か……雪乃?」
「翔さん…。あたし……あたし……ううぅ」
雪乃の瞳から大きな涙が零れ落ちていく。
ギュッ
「あっ……」
翔は雪乃の身体を強く抱きしめていた。
「……大丈夫だ……。俺が側にいるだろ…」
「…………翔さん。……あたし……うっ」
「………もう泣くなよ…。今日…ずっと…
側にいるから……」
「あたし……もうダメ。あたし……あたし。
……あんな人達に……うっ」
翔の腕の中で身体を震わせて泣きだす雪乃。
「あたし…ううぅ…
しょう……さんだけに…うっ
……うん………」
翔は泣きやまない雪乃に優しくキスをした。
そして雪乃をベットに倒し込んでいった。
唇をゆっくり離し、雪乃の顔を
見つめながら優しく話しかける。
「雪乃……もういい……。
もういいから……なっ」
「翔……さ…ん……。
あたし……あたし……」
翔の胸に顔を埋め、泣き出す雪乃。
「あの人達の…顔が…見えて…
怖い…怖いの…」
翔は優しく雪乃の頭を撫でながら言った。
「雪乃……もう大丈夫だよ…
俺が側にいるから…何があっても…
雪乃の事は…俺が絶対に
守ってあげるから…」
「しょ…しょう…さん…。
この…まま…」
「うん?」
「このまま…朝まで…
抱いてて…くれますか?」
雪乃は顔をあげ翔を見つめてきた。
「ああ…いいよ…。朝まで…
抱きしめているよ…」
チュッ……
「うん……」
翔は雪乃に優しく微笑みかけながら答え、
その唇にもう一度キスを落とした。
そしてそのまま、翔に身体を抱きしめられ、
胸に顔を埋めたまま、安心したように眠り
につく雪乃であった。
・
・
・
「……んっ」
空が明るくなりかけた頃、
雪乃は翔の腕の中で目を覚ました。
目の前には心配そうに雪乃の顔を見つめて
いる翔の顔があった。
「翔さん……。 ありがとう……」
雪乃は少し微笑んで翔にお礼を言ってきた。
「雪乃………大丈夫か?」
その雪乃の笑顔がぎこちなく感じた翔は
心配そうに聞いてみた。
「うん……平気……。翔さんが…ずっと…
抱いていてくれたから…安心できました。
耳に…翔さんの鼓動がずっと残ってる
感じで…」
「……雪乃」
「あっ……ほんとに……大丈夫なんです。
それが安心できて…嬉しいんです……」
未だ心配そうに雪乃の名を呼ぶ翔に
雪乃は『安心して』と言わんばかりの
笑顔を向ける。
そして翔の顔から視線を外し、
カーテンの隙間から差し込む光を見ながら
寂しそうに言った。
「…………もうすぐ。
……夜が明けちゃいますね?」
「………ああ」
「………あたし。……翔さんの部屋で…
翔さんの帰り待っていてもいいですか?」
翔の腕の中で、翔の顔を見上げながら
恐る恐る聞いてくる雪乃。
翔はそんな雪乃の顔を優しく見つめて答えた。
「帰りもなにも……俺……今日…雪乃と…
ずっと側にいるって……言ったろ?
どこにも行かないよ…」
「えっ? でも……翔さん授業が…?」
驚く雪乃に笑いながら伝える翔であった。
「ははは………。そんなもん……パス」
「えっ?」
「……雪乃の方が大事……」
「…………翔さん」
愛しそうに翔の名前を呟く
雪乃の瞳が潤んでいた。
「……とりあえず。もう少し一緒に寝よう。
明日のことは起きてから考えよう……」
「……はい」
雪乃は自分の涙を拭いながら
笑顔で返事をしてきた。
。
。
。
お昼になって、翔と雪乃は隆二たちと別れ
翔の部屋に戻っていた。
「結局……。休んじゃいましたね…。
翔さん…本当に平気だったんですか?」
コーヒーを飲んで一息ついている時に
雪乃が申し訳なさそうに聞いてきた。
「………平気だよ。普段から真面目に
授業出ているし……。
それに……学校に行く伸には…
『風邪で休むって事にしろ』って…
隆二さんに言ってもらったし…」
「……隆二さんが…伸さんにそんなこと
言ったんですか?」
まるで信じられないといった表情で
驚きながら言ってくる雪乃。
「ああ……あいつに正直に話したら……
1日で学園中に拡がってしまうからなぁ」
「………ええっ!? そうなんですか?」
翔の話を聞いて、さらに驚く雪乃。
翔はため息混じりに話を続けた。
「あいつは……。何でもネタにするからな。
風邪の話も…もしかしたら入院している位
になっているかもしれないし…。
だけど…隆二さんには絶対に…
逆らわないから…」
「それって…本当なんですか?」
「ホントだって……。もっとも自分の
不利になることは絶対に話さないけど…」
伸の真実を聞いても、信じられない
雪乃であった。
「…………そんな…。あたし…伸さんて…
もっと…真面目な方かと…」
「はぁ? 伸が真面目って…
あんなにおちゃらけてお調子者なのに?」
今度は雪乃の言った一言に翔が驚いた。
雪乃は大きく頷いて真面目な顔で
言ってきた。
「はい。 あんなに陽気なのも…
すべてワザとしていると思ってました。
実際にライブ中は真面目ですよね?」
「………………」
(……たしかに…。ライブ中はふざけたりは
してないよな?
ナンパも上手くいった話は
聞いた事ないし…。
……あれ?
でも…女の子には…人気があるよな?
じゃあ…本当に…雪乃の言うとおり…
ワザとおちゃらけているのか?)
「……あの…翔さん?」
急に黙って考え込む翔に雪乃は不思議そうに
聞いてきた。
「あっごめん。なんだか本当に伸が
真面目な奴に思えてきた」
「ふふ。きっと…本当は
真面目な人なんですよ…」
雪乃は少し微笑みながら言ってきた。
翔は笑いながら答えた。
「ははは。じゃあこれからは
真面目な奴として伸を見てみよう。
それよりも……雪乃。今日はどうする?
もう午後になったし…
駅前でも遊びに行くか?」
「………………………」
翔が話題を変えて外出に誘うと雪乃の表情が
急に曇ってしまった。
「………………………」
(外の話をすると…雪乃は黙ってしまう。
飯の時もそうだったもんな……。
外食はもちろん……
あの玲子さんに誘われても…
食料品の買い出しにさえも
行きたがらなかった。
外出をさけている…。そんな感じだ……)
「雪乃……どうする?」
「………あたし。行きたくない……」
雪乃は小さく首を左右に
振りながら答えてきた。
そんな雪乃の脅えるような態度を見ている
だけで本当に行きたくないのが
伝わってくるのを感じる翔だった。
「……………雪乃……」
「翔さん……ごめんなさい。
あたし……まだ…外には…
で、出たくない……の…
他の人に会いたくない……」
「………しかしな……雪乃。
……いつまでも……」
「いや!ダメなの…。外には出たくない…」
「……………………」
「……ダメなのぉ……」
雪乃は涙声で訴え、そのまま下を向いて
肩を震わせていた。
「……………」
(雪乃は脅えているのか?
………だとしたら……それは……
俺のせいで……俺は…俺は……
どうしたらいいんだ?)
「………雪乃。
俺は……どうすればいい?
どうしたら……
雪乃を元気づけられる?」
「……翔さんは悪くない。
それに……もう十分…
元気づけてもらったよ……」
心配そうに聞いてくる
翔の問いかけに雪乃は静かに首を振って
答えてくる。
「わかっているの……。このままじゃ…
いけないって…。
だけど……それでもダメなの……
外に出ようとすると身体が
竦んじゃうの……。
あの人達に会いそうで……
とても…怖いの…」
膝を抱え込み寂しそうに呟く雪乃。
翔は言葉を無くしそんな雪乃を
黙って見つめていた。
「……………」
(俺は…雪乃に……
何をしてあげれるだろう?)
「………雪乃…」
(俺が雪乃にしてあげれること……。
優しい言葉をかけること以外に……
できること。
俺と雪乃の共通の物は音楽なんだよな。
……………………。
誰にも…誰にも…聴かせるつもりは
なかったけど……
雪乃になら……聴かせても良い……)
翔は自分のギターを手にし
雪乃の前に座った。
「……翔さん…なにを……?」
雪乃は驚きながら翔の様子を見ていた。
『♪夢を信じていた
遠く過ぎ去りし日々
空の彼方に
優しい風が流れて行く♪』
翔は雪乃を見つめ歌い出した。
それは人前で初めて
披露する翔の歌であった。
『♪………………
掴んだはずの思い出さえ
この手の中から消え落ちて行く
キミへの想いだけを抱いて
残された時間(とき)を
ただ一人すごしている…♪』
「………翔さんが……歌を?
それに……この曲……
グリフォの歌じゃない…。
隆二さんの作る歌とも
違うみたいだし……」
初めて聴く翔の歌に驚く雪乃。
『♪暗闇の中キミの笑顔さがして
永遠の時間(とき)を彷徨う
それでも心から信じている
キミとの約束(YAKUSOKU)♪』
「翔さんが…曲を提供していたのは
知っていたけど……。
歌詞まで……ううん。
歌を歌えるなんて……。
……あたしのために?
歌ってくれてるの?」
翔の歌を聴いている雪乃の胸の中に
熱いモノが込みあがって
来るのを感じていた。
『♪その想いがいつか心の翼を広げ
キミの待つ空の彼方へ
飛び立てるだろう
Ah-…一人ですごしている
時間(とき)に流されながら
それでもいつか叶うだろう
キミとの再会(SAIKAI)
Ah-…キミの笑顔が眩しくて
永遠の暗闇(ヤミ)が消えていく
いつの日か届くと信じている
キミへのこの想い(OMOI)
結ばれると信じて……♪』
歌い終わった翔は
雪乃の顔を見つめていた。
「……………………………」
雪乃の瞳には涙が零れ落ちていた。
「………翔さん……今の歌?
まさか……翔さんの
……オリジナル?」
「…………………ああ」
雪乃は自分の涙を拭いながら
翔に聞いてきた。
「…すごい綺麗な曲と歌。
……それに歌も歌えるなんて……
あたし知らなかった。
……どうして今まで
教えて…くれなかったんですか?」
「俺が……。歌を作り始めたのは
昔の約束のためで…。
その彼女のためだけに…
歌うつもりだったから……
人前では歌うつもりは
なかったんだ………」
「……!?
それじゃあ……あたしのために……」
「………いいんだ。
雪乃には聴いてもらいたかった。
俺の歌を聴いて…元気になって
もらいたかった……。
そのためなら…俺のこだわりなんて
気にしなくていい」
「………翔さん。あたし…あたし…」
どん
雪乃は泣きながら翔の胸に
飛び込んでいく。
ぎゅっ
翔は雪乃の身体を優しく抱きしめていた。
・
・
・
雪乃の身体を優しく撫でながら
話しかける翔。
「………元気出たか?」
「………うん。元気出た。
あたし……翔さんと演奏したい」
雪乃は翔の胸に顔を
埋めながらポツリと呟いた。
「……演奏しに行こうか?」
「えっ?」
「MATにさ……」
「はい」
「よし行こう。俺の歌のことは……
他の人には内緒にしてくれ。
まあ…。隆二さんと玲子さんには
話しているけど…」
「…はい。翔さん…ありがとう」
翔の顔を見つめながら
お礼を言う雪乃の顔には
笑顔が戻っていた。
・
・
・
それから翔と雪乃はMATに向かい
客のいないホールで
雪乃と二人演奏を楽しんだ。
雪乃はそのまま、マスターの手伝いを
しながらカウンターの中で
グリフォのライブを聴いて、
翔のバイトまで手伝いながら
翔が終わるまで残っていた。
伸は隆二に翔の風邪の事を
しっかり伝えた!と自慢げに報告し、
隆二に頭を撫でられ
嬉しそうにはしゃいでいた。
『今日こそは雪乃ちゃんと一緒にいるの!』
と言う玲子の強い要望により、
雪乃は玲子の所に泊まる事になり…
翔は少し寂しい思いをしたのであった。
「………………」
(…まあ……結局。
朝まで飲んでいたから
ほとんど一緒にいたことに
代わりはないけれど……)
こうして……
悪夢のような2日間は
幕を閉じていったのであった。
。
。
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