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第二部第二章〈夏休み編〉act.11
テニス部~夏合宿7-瑠璃暴走モード突入-
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〈テニス部…夏合宿2日目夜…〉
~瑠璃暴走モード突入~
辺りが真っ暗になり、時間を気にしながら
学校内の合宿所に向かう翔。
「すっかり遅くなったな。
でも着替えを取りに帰ったら伸が部屋に
いたのはビックリしたよ。
親戚になりすましてマスターキーで
開けてもらったって言ってたけど、
とんでもないことするよな。
それに珍しく深刻な顔してるから
なにか悩みでもあるのかと思ったら…
『夏休みのプランを考えたんだけど、
どう?』とか言って手帳を渡してくるし。
しかも手帳にはびっしりスケジュールが
詰ってて、すべてどこでナンパするか
っていう計画。
さらに、なぜか俺と二人でやることに
決めてたというから驚きだ。
あいつ、なんとしても俺を巻き込む
つもりみたいだし…どうしたもんだろ?
こっちはテニス部の部員達が無事か
どうかが気になってそれどころじゃ
なかったのに…。
あいつに正直に言うと絶対に着いて来る
って騒ぐから、どうにか振りきって
逃げてきたけど、大丈夫だよな?」
ブツブツと一人で呟きながら学校内に
入って行く翔であった。
「やっと戻ってきたか?
どうしたブツブツなにか言ってたけど?」
合宿所前の広場で暗闇から声を
掛けられる翔。
翔が立ち止まり振り替えると
そこにはニコニコと笑いながら桜庭が
立っていた。
「あれ? なにやってんだ桜庭?
暗いのにまだ練習しようっていうのか?」
「違うよ。今日が合宿最後の夜だろ?
だから花火でもやろうかって
ことになってさ」
ヒュルルルゥ~~~~~
パァーン!!
「「「た~まや~っ」」」
桜庭と会話を交わしている時にすぐ近くの
グランドの方から花火が上がる音と夜空に
開く花火が見えた。
「すごいな……。打ち上げ花火まで
買ったのか?」
思わず感心したように言う翔に桜庭は
笑いながら説明してきた。
「ああ。部員に花火屋の息子がいて
タダで貰ってきた。」
「…………なるほど。そいつはすごいな?
特にタダってのが驚きだ。
ところで……晩飯はどうだった?」
「は?」
「ちゃんと、食えた?」
「食えたけど……ていうか、
おもいのほかうまかったぞ」
「うそ?」
あれから部屋に戻って学校に到着するまで、
ずっと気になっていたことを桜庭に確認
した翔であったが思いがけない返事に驚く。
「ホントホント。一瞬どこかの店に
頼んだのかと疑ったぐらい。
あいつらがあんなに料理上手だなんて、
驚いたよ。
翔も食べればよかったのに」
本当に美味しかったのであろう、桜庭は
うっとりとした表情で感想を述べてきた。
その感想をを聞いてその場で立ち尽くす
ほど言葉を無くす翔であった。
(………信じられない。瑠璃ちゃんが
作ったのにそんなに上手いなんて?
もしかしたら、香織ちゃんが話して
くれた時期からかなりレベルアップ
したって言うか…味覚が普通以上に
なったのか?
いや…。そんな事は無いよな?)
「まだまだ花火、たくさんあるはずだから。
おまえも楽しんでこいよ。じゃあな」
桜庭はそんな翔の態度に気づかないまま
手を上げて部員達がいるグランドに
向かっていった。
「あ、ああ……」
(おかしい。あの時の香織ちゃんの
状況から考えても…瑠璃ちゃんの料理を
うまいだなどと言い放つとは……
ゼッタイ裏があるはずだ)
「翔せんぱい」
状況が把握できずに立ち尽くしている翔に
声を掛けてくる香織。
「やあ香織ちゃん」
「せんぱいも花火、やります?」
トトトと言う感じで近づいて来て、
嬉しそうに笑顔で話してくる香織を
見ながら返事をする翔。
「そうだね。じゃあ――」
「せ、せんぱいっ! ふせてっ!!」
「な、なに?」
突然、香織が翔に叫びながら
抱きついてきた。
香織は自分の細い身体を翔に押し付けて、
そのまま横に倒れこんでいく。
翔も香織の動きに合わせて
その身体を抱きかかえるように
地面に転がった。
二人の上を火花が通り過ぎていく。
シュゴオオオォォォォーッ
「おわっ!? ロケット花火??」
「キャハハハハハハハハッ!」
「る、瑠璃ちゃん?」
笑い声と共に火の点いている花火を
両手に持ったまま走り回る瑠璃の
姿が見えた。
翔の体の上に乗ったまま上半身を
僅かに起こしながら怒る香織。
「瑠璃っやめなさいっ!!
危ないでしょっ!!」
「キャハハハハハハハハッ!」
「瑠璃ちゃん…………。
スパークしてるぜ、おい」
しかし、瑠璃はそんな事を気にせずに
花火を投げながら走り回っていた。
「もう、あの子ったら走り回って……
せんぱい、大丈夫…!!」
香織はそのまま翔の方に顔を向けてきた。
翔の腕に抱かれてる香織の顔は
翔の目の前にあった。
「あっ! す、すみません!
わ、たしったら!!」
香織は慌てて翔の体から離れ
立ち上がった。
「せ、せんぱい。だ、大丈夫…ですか?」
香織は顔を真っ赤に染めながら
翔に手を差し伸ばし聞いてきた。
その手を掴み立ち上がる翔。
「なんとかね。目の前を通っていったけど、
当たってないから…
香織ちゃんのおかげで助かったよ」
翔は自分の鼻をポリポリと掻きながら香織に
答えた。
「ほっ……よかったぁ。
やめろって言ってるのに……
花火をやり始めてから、
ずっとあの調子なんですよ」
香織は自分の頬に手を当てて
紅くなった頬を隠すように言ってきた。
翔もその事には触れずに誤魔化すように
笑いながら答えていた。
「はははっ、みんなで遊べて、
嬉しいんじゃない?」
笑ってくれた翔に安心したように目を細め
少し真面目に話してくる香織であった。
「それにしてもはしゃぎ過ぎです。
さっきはネズミ花火を私たちの
ほうに投げてくるし」
「…………それは怖い。瑠璃ちゃん。
今のキミは恐ろしいまでに輝いている…」
翔はグランドの方で光に包まれながら
走り回っている瑠璃を見つめ思わず呟いた。
香織も黙って琉璃の方を見ていた。
瑠璃の行く先々で悲鳴と怒声が
聞こえていた。
諦めたように二人でその様子を眺めていた。
しばらくして翔は思い出したように
香織の方に振り返り聞いてきた。
「そうそう。今日の夕食、
うまかったんだって?」
「え? どうしてですか?」
突然関係の無い話を振られ驚いたように
顔を向けてくる香織だった。
翔はそんな香織を見て微笑みながら伝えた。
「さっき桜庭が言ってたぜ。
『店の料理とまちがうぐらいうまかった』
って、めちゃくちゃ褒めてた」
「ほ、本当ですか?」
香織は顔を上げて嬉しそうに聞いてきた。
「ああ。他には『恐れ入った』とか、
『脱帽した』とか『見なおした』とか…
とにかく絶賛してたよ」
「うれしい……今日の料理、
私が味付けしたんです。
そこまで褒めてくれるなんて、
頑張ったかいがありました」
自分の両頬に手を当てて
照れたように喜ぶ香織。
翔はそんな香織を見て
微笑ましく思っていた。
そして、香織が言った『味付け』に
疑問を覚え聞いてみた。
「香織ちゃんが味付け?
じゃあ、瑠璃ちゃんは?」
「いやだなせんぱい。
私が冥府の神『オシリス』に
料理をさせる訳、無いじゃないですか。
私だって命は惜しいんです。
あの子には食材を切ることに専念してて
もらいましたから…」
「…………謎はすべて解けた」
翔の事を横目で見ながら淡々と
答える香織。
しかし、香織の言葉を聞き
全てを理解した翔であった。
「わ、私、部長へお礼を言ってきます。
そこまで喜んでくれるなんて
思わなかったから……」
急にソワソワとしだし、慌ててグランド
にいる部長の方に向かっていく香織。
「暗くてよくわからなかったけど、
香織ちゃん、ちょっと頬が赤く
なってたような?………まあ、いいか」
翔はその香織の後姿を見ながら自分も
ゆっくりと同じ方向に歩いていった。
・
・
・
「キャハハハハハハハハッ!」
グランドに着くと、さっきと同じように
光を纏い笑いながら走り回っている瑠璃
の姿が飛び込んできた。
あいかわらず瑠璃が走っていく先々で
悲鳴と怒声があがっている。
「まだ走り回ってたよ。
しかし、ものすごいテンションだよな?
瑠璃ちゃんっ!」
翔は呆れたように呟き瑠璃の名前を叫んだ。
「あっ、翔せんぱい!」
パタタタタッ…
瑠璃は翔に気づき、光を纏ったまま
ハイテンションで駆け寄ってくる。
「せんぱいせんぱい!キャハハハハッ!」
シビビビビビビビッ
「アチチチチチッ」
光と炎の束が翔を襲う。
翔はその束を間一髪でよける。
「キャハハハハハハハハッ!」
シビビビビビビビッ
「アチチチチチッ」
シビビビ…しゅう…
さらに追い討ちを掛けるように
追いかけてくる瑠璃だったが
急激に光と炎が弱まって行く。
翔は怒りながら瑠璃に文句を言った。
「あっ熱いじゃないか瑠璃ちゃん!」
「キャハハハッ。
おもしろいですせんぱーい!」
瑠璃はハイテンションで
笑い声を上げながら言ってきた。
「ダメだって人に向けちゃ!
袋にも書いてあるだろ?
危ないから人に
向けないでくださいって!」
「瑠璃、知らないでーす」
瑠璃は翔に文句を言われてもまったく
関係ない様子で花火の入っている袋を
あさりだす。
ガサゴソ…
「ま、まだやるつもりなの?」
「あれ?」
ガサゴソ…
「……なくなっちゃったですぅ」
「たた…助かったぁ……」
「でも、もう一袋あっちにあるです」
ぽいっ
テクテクテク…
瑠璃は大きい花火が入っていない
袋をその場に放り投げて、花火が
置いてある場所に向かって歩き出す。
(このままではこのグランドが
焦土と化してしまう……
いや、もう化してるのか?
とにかく、やめさせなくては。)
「ちょっと瑠璃ちゃん。
こっちも残ってるって。ほら、線香花火」
翔は焦りながら地面に落ちている
花火の袋を拾い上げ、瑠璃に声を掛けた。
しかし、瑠璃はそんな翔の言葉に
耳を傾けようとせずに歩いて行く。
「…………地味です」
テクテクテク…
「そっそこがまたいいんだって!
なんていうのかな、火を付けた途端に
消え入ってしまうようなそこはかとない
儚さが日本文化であるわびさびを
象徴してるというか……」
テクテクテク…
「やっぱさぁ。そういうのがわかってこそ
大人だと思うんだよね。
ただ派手なだけじゃいかにも
子供っていうか」
ピタッ
「大人……ですか?」
翔の『大人』の言葉に立ち止まり
振り返りながら聞いてくる瑠璃。
「そうそう、知的っていうか、渋いって
いうか……まあ、子供にはこういう
美の意識はないかもしれないなぁ」
テクテクテク…
ヒョイッ
「さあ、やるですせんぱい」
「へ?」
「がんばって、わびさびを感じ取るです」
テクテクテク…
「…………すごいやる気出してきたな…
でも、わびさびって、やる気出して
感じるものなの?」
翔のそんな呟きを気にせず
瑠璃は振り返らず、線香花火を持って
スタスタ歩いていった。
そして、バケツのある所まで行き
その場にしゃがみ込んで翔を見上げる瑠璃。
「翔せんぱい、火、つけてくださいです」
「ああ」
翔は瑠璃の正面にしゃがみ
瑠璃の持っている線香花火に火を点けた。
カチッ
ぱち…ぱちぱち…
「どう?」
「わぁ……きれいですぅ…」
「だろ?派手な花火もおもしろいけど、
こういうしんみりできるヤツも、
おつなものだよね」
「へえ~……なんか
切なくなってくるですぅ…」
「………………」
「………………」
「………………」
パチパチと小さな音をたてて
小さく火の輪を広げる線香花火を
瑠璃は黙って見ていた。
翔はそんな瑠璃の顔を黙って見つめている。
(瑠璃ちゃん。
じっと花火を見つめてる……
暗闇の中で、かすかにはじける
火花がほんの少し瑠璃ちゃんの
顔を照らし出す。
ときどき映される顔は、
光の華を飾られたようだ)
「瑠璃ちゃん……」
翔が瑠璃に声を掛けようとしたとき、
瑠璃が小さな声で話してきた。
「……きれい……です…タマタマが
だんだん大きくなって……
…………かわいいですぅ…。
ずうっと見てると……
心が水面みたいに静かに
なってくるですぅ………あっ」
ポトッ
「消えちゃった……ですぅ」
火種が落ちて、残念そうに呟く瑠璃に
今度は翔が静かに語りかける。
「…………瑠璃ちゃんはさあ
……夢って、どういうものだと思う?」
「ゆめ、ですか?」
「うん」
「………瑠璃は、『憧れ』だと思うです。
なにになりたいとか、
どういうことをしたいとか、
好きなことをしたいとか――
そういうことだと思うです」
「それって、叶うのかな?」
「え?」
「よく、『夢は叶わないから夢なんだ』
って言うよね。だけど、それじゃ
悲しいと思わない?」
「…………はい」
「俺はね瑠璃ちゃん。夢は叶えてこそ夢…。
叶えられない夢はないって思ってる。
大丈夫だって信じて突き進んでいけば、
必ず叶うものだって…
基本的に俺、小さいころから
コロコロ夢が変わってる。
その時に好きなものが夢というかたちに
なると思うから」
「………………」
「なあ……瑠璃ちゃんが今好きなものって、
なに?」
「!?」
「……俺は、やっぱり『グリフォ』だな」
「…………」
「確かに『グリフォ』は隆二さんでもってる
バンドかもしれない。
今の俺では隆二さんの域には全然達して
ないかもしれない。
けど、いつか肩を並べられるように
なりたいんだ。
そして、インディーズじゃなく、
『グリフォ』でメジャーになりたい。
そしてゆくゆくは日本中――
世界中の人に、
俺たちの音楽を聴かせたい。
この思いは、絶対叶うって信じてる。
いや、叶うって祈ってる
だけじゃダメだ。
自分のちからで叶えるんだって、
心に決めてる。もう決めてるんだ。」
「………………」
「………どうかした?」
「…………せんぱいは……強いです」
「?」
「瑠璃も、好きなことはあるです。
でも――」
「……でも?」
「――や、やっぱりいいです。えへへ」
「瑠璃ちゃん……?」
「えへへへへへっ」
瑠璃は照れながら笑い続けた。
翔は彼女に訊けないまま、線香花火を
袋から取り出して火をつけた。
。
。
。
~瑠璃暴走モード突入~
辺りが真っ暗になり、時間を気にしながら
学校内の合宿所に向かう翔。
「すっかり遅くなったな。
でも着替えを取りに帰ったら伸が部屋に
いたのはビックリしたよ。
親戚になりすましてマスターキーで
開けてもらったって言ってたけど、
とんでもないことするよな。
それに珍しく深刻な顔してるから
なにか悩みでもあるのかと思ったら…
『夏休みのプランを考えたんだけど、
どう?』とか言って手帳を渡してくるし。
しかも手帳にはびっしりスケジュールが
詰ってて、すべてどこでナンパするか
っていう計画。
さらに、なぜか俺と二人でやることに
決めてたというから驚きだ。
あいつ、なんとしても俺を巻き込む
つもりみたいだし…どうしたもんだろ?
こっちはテニス部の部員達が無事か
どうかが気になってそれどころじゃ
なかったのに…。
あいつに正直に言うと絶対に着いて来る
って騒ぐから、どうにか振りきって
逃げてきたけど、大丈夫だよな?」
ブツブツと一人で呟きながら学校内に
入って行く翔であった。
「やっと戻ってきたか?
どうしたブツブツなにか言ってたけど?」
合宿所前の広場で暗闇から声を
掛けられる翔。
翔が立ち止まり振り替えると
そこにはニコニコと笑いながら桜庭が
立っていた。
「あれ? なにやってんだ桜庭?
暗いのにまだ練習しようっていうのか?」
「違うよ。今日が合宿最後の夜だろ?
だから花火でもやろうかって
ことになってさ」
ヒュルルルゥ~~~~~
パァーン!!
「「「た~まや~っ」」」
桜庭と会話を交わしている時にすぐ近くの
グランドの方から花火が上がる音と夜空に
開く花火が見えた。
「すごいな……。打ち上げ花火まで
買ったのか?」
思わず感心したように言う翔に桜庭は
笑いながら説明してきた。
「ああ。部員に花火屋の息子がいて
タダで貰ってきた。」
「…………なるほど。そいつはすごいな?
特にタダってのが驚きだ。
ところで……晩飯はどうだった?」
「は?」
「ちゃんと、食えた?」
「食えたけど……ていうか、
おもいのほかうまかったぞ」
「うそ?」
あれから部屋に戻って学校に到着するまで、
ずっと気になっていたことを桜庭に確認
した翔であったが思いがけない返事に驚く。
「ホントホント。一瞬どこかの店に
頼んだのかと疑ったぐらい。
あいつらがあんなに料理上手だなんて、
驚いたよ。
翔も食べればよかったのに」
本当に美味しかったのであろう、桜庭は
うっとりとした表情で感想を述べてきた。
その感想をを聞いてその場で立ち尽くす
ほど言葉を無くす翔であった。
(………信じられない。瑠璃ちゃんが
作ったのにそんなに上手いなんて?
もしかしたら、香織ちゃんが話して
くれた時期からかなりレベルアップ
したって言うか…味覚が普通以上に
なったのか?
いや…。そんな事は無いよな?)
「まだまだ花火、たくさんあるはずだから。
おまえも楽しんでこいよ。じゃあな」
桜庭はそんな翔の態度に気づかないまま
手を上げて部員達がいるグランドに
向かっていった。
「あ、ああ……」
(おかしい。あの時の香織ちゃんの
状況から考えても…瑠璃ちゃんの料理を
うまいだなどと言い放つとは……
ゼッタイ裏があるはずだ)
「翔せんぱい」
状況が把握できずに立ち尽くしている翔に
声を掛けてくる香織。
「やあ香織ちゃん」
「せんぱいも花火、やります?」
トトトと言う感じで近づいて来て、
嬉しそうに笑顔で話してくる香織を
見ながら返事をする翔。
「そうだね。じゃあ――」
「せ、せんぱいっ! ふせてっ!!」
「な、なに?」
突然、香織が翔に叫びながら
抱きついてきた。
香織は自分の細い身体を翔に押し付けて、
そのまま横に倒れこんでいく。
翔も香織の動きに合わせて
その身体を抱きかかえるように
地面に転がった。
二人の上を火花が通り過ぎていく。
シュゴオオオォォォォーッ
「おわっ!? ロケット花火??」
「キャハハハハハハハハッ!」
「る、瑠璃ちゃん?」
笑い声と共に火の点いている花火を
両手に持ったまま走り回る瑠璃の
姿が見えた。
翔の体の上に乗ったまま上半身を
僅かに起こしながら怒る香織。
「瑠璃っやめなさいっ!!
危ないでしょっ!!」
「キャハハハハハハハハッ!」
「瑠璃ちゃん…………。
スパークしてるぜ、おい」
しかし、瑠璃はそんな事を気にせずに
花火を投げながら走り回っていた。
「もう、あの子ったら走り回って……
せんぱい、大丈夫…!!」
香織はそのまま翔の方に顔を向けてきた。
翔の腕に抱かれてる香織の顔は
翔の目の前にあった。
「あっ! す、すみません!
わ、たしったら!!」
香織は慌てて翔の体から離れ
立ち上がった。
「せ、せんぱい。だ、大丈夫…ですか?」
香織は顔を真っ赤に染めながら
翔に手を差し伸ばし聞いてきた。
その手を掴み立ち上がる翔。
「なんとかね。目の前を通っていったけど、
当たってないから…
香織ちゃんのおかげで助かったよ」
翔は自分の鼻をポリポリと掻きながら香織に
答えた。
「ほっ……よかったぁ。
やめろって言ってるのに……
花火をやり始めてから、
ずっとあの調子なんですよ」
香織は自分の頬に手を当てて
紅くなった頬を隠すように言ってきた。
翔もその事には触れずに誤魔化すように
笑いながら答えていた。
「はははっ、みんなで遊べて、
嬉しいんじゃない?」
笑ってくれた翔に安心したように目を細め
少し真面目に話してくる香織であった。
「それにしてもはしゃぎ過ぎです。
さっきはネズミ花火を私たちの
ほうに投げてくるし」
「…………それは怖い。瑠璃ちゃん。
今のキミは恐ろしいまでに輝いている…」
翔はグランドの方で光に包まれながら
走り回っている瑠璃を見つめ思わず呟いた。
香織も黙って琉璃の方を見ていた。
瑠璃の行く先々で悲鳴と怒声が
聞こえていた。
諦めたように二人でその様子を眺めていた。
しばらくして翔は思い出したように
香織の方に振り返り聞いてきた。
「そうそう。今日の夕食、
うまかったんだって?」
「え? どうしてですか?」
突然関係の無い話を振られ驚いたように
顔を向けてくる香織だった。
翔はそんな香織を見て微笑みながら伝えた。
「さっき桜庭が言ってたぜ。
『店の料理とまちがうぐらいうまかった』
って、めちゃくちゃ褒めてた」
「ほ、本当ですか?」
香織は顔を上げて嬉しそうに聞いてきた。
「ああ。他には『恐れ入った』とか、
『脱帽した』とか『見なおした』とか…
とにかく絶賛してたよ」
「うれしい……今日の料理、
私が味付けしたんです。
そこまで褒めてくれるなんて、
頑張ったかいがありました」
自分の両頬に手を当てて
照れたように喜ぶ香織。
翔はそんな香織を見て
微笑ましく思っていた。
そして、香織が言った『味付け』に
疑問を覚え聞いてみた。
「香織ちゃんが味付け?
じゃあ、瑠璃ちゃんは?」
「いやだなせんぱい。
私が冥府の神『オシリス』に
料理をさせる訳、無いじゃないですか。
私だって命は惜しいんです。
あの子には食材を切ることに専念してて
もらいましたから…」
「…………謎はすべて解けた」
翔の事を横目で見ながら淡々と
答える香織。
しかし、香織の言葉を聞き
全てを理解した翔であった。
「わ、私、部長へお礼を言ってきます。
そこまで喜んでくれるなんて
思わなかったから……」
急にソワソワとしだし、慌ててグランド
にいる部長の方に向かっていく香織。
「暗くてよくわからなかったけど、
香織ちゃん、ちょっと頬が赤く
なってたような?………まあ、いいか」
翔はその香織の後姿を見ながら自分も
ゆっくりと同じ方向に歩いていった。
・
・
・
「キャハハハハハハハハッ!」
グランドに着くと、さっきと同じように
光を纏い笑いながら走り回っている瑠璃
の姿が飛び込んできた。
あいかわらず瑠璃が走っていく先々で
悲鳴と怒声があがっている。
「まだ走り回ってたよ。
しかし、ものすごいテンションだよな?
瑠璃ちゃんっ!」
翔は呆れたように呟き瑠璃の名前を叫んだ。
「あっ、翔せんぱい!」
パタタタタッ…
瑠璃は翔に気づき、光を纏ったまま
ハイテンションで駆け寄ってくる。
「せんぱいせんぱい!キャハハハハッ!」
シビビビビビビビッ
「アチチチチチッ」
光と炎の束が翔を襲う。
翔はその束を間一髪でよける。
「キャハハハハハハハハッ!」
シビビビビビビビッ
「アチチチチチッ」
シビビビ…しゅう…
さらに追い討ちを掛けるように
追いかけてくる瑠璃だったが
急激に光と炎が弱まって行く。
翔は怒りながら瑠璃に文句を言った。
「あっ熱いじゃないか瑠璃ちゃん!」
「キャハハハッ。
おもしろいですせんぱーい!」
瑠璃はハイテンションで
笑い声を上げながら言ってきた。
「ダメだって人に向けちゃ!
袋にも書いてあるだろ?
危ないから人に
向けないでくださいって!」
「瑠璃、知らないでーす」
瑠璃は翔に文句を言われてもまったく
関係ない様子で花火の入っている袋を
あさりだす。
ガサゴソ…
「ま、まだやるつもりなの?」
「あれ?」
ガサゴソ…
「……なくなっちゃったですぅ」
「たた…助かったぁ……」
「でも、もう一袋あっちにあるです」
ぽいっ
テクテクテク…
瑠璃は大きい花火が入っていない
袋をその場に放り投げて、花火が
置いてある場所に向かって歩き出す。
(このままではこのグランドが
焦土と化してしまう……
いや、もう化してるのか?
とにかく、やめさせなくては。)
「ちょっと瑠璃ちゃん。
こっちも残ってるって。ほら、線香花火」
翔は焦りながら地面に落ちている
花火の袋を拾い上げ、瑠璃に声を掛けた。
しかし、瑠璃はそんな翔の言葉に
耳を傾けようとせずに歩いて行く。
「…………地味です」
テクテクテク…
「そっそこがまたいいんだって!
なんていうのかな、火を付けた途端に
消え入ってしまうようなそこはかとない
儚さが日本文化であるわびさびを
象徴してるというか……」
テクテクテク…
「やっぱさぁ。そういうのがわかってこそ
大人だと思うんだよね。
ただ派手なだけじゃいかにも
子供っていうか」
ピタッ
「大人……ですか?」
翔の『大人』の言葉に立ち止まり
振り返りながら聞いてくる瑠璃。
「そうそう、知的っていうか、渋いって
いうか……まあ、子供にはこういう
美の意識はないかもしれないなぁ」
テクテクテク…
ヒョイッ
「さあ、やるですせんぱい」
「へ?」
「がんばって、わびさびを感じ取るです」
テクテクテク…
「…………すごいやる気出してきたな…
でも、わびさびって、やる気出して
感じるものなの?」
翔のそんな呟きを気にせず
瑠璃は振り返らず、線香花火を持って
スタスタ歩いていった。
そして、バケツのある所まで行き
その場にしゃがみ込んで翔を見上げる瑠璃。
「翔せんぱい、火、つけてくださいです」
「ああ」
翔は瑠璃の正面にしゃがみ
瑠璃の持っている線香花火に火を点けた。
カチッ
ぱち…ぱちぱち…
「どう?」
「わぁ……きれいですぅ…」
「だろ?派手な花火もおもしろいけど、
こういうしんみりできるヤツも、
おつなものだよね」
「へえ~……なんか
切なくなってくるですぅ…」
「………………」
「………………」
「………………」
パチパチと小さな音をたてて
小さく火の輪を広げる線香花火を
瑠璃は黙って見ていた。
翔はそんな瑠璃の顔を黙って見つめている。
(瑠璃ちゃん。
じっと花火を見つめてる……
暗闇の中で、かすかにはじける
火花がほんの少し瑠璃ちゃんの
顔を照らし出す。
ときどき映される顔は、
光の華を飾られたようだ)
「瑠璃ちゃん……」
翔が瑠璃に声を掛けようとしたとき、
瑠璃が小さな声で話してきた。
「……きれい……です…タマタマが
だんだん大きくなって……
…………かわいいですぅ…。
ずうっと見てると……
心が水面みたいに静かに
なってくるですぅ………あっ」
ポトッ
「消えちゃった……ですぅ」
火種が落ちて、残念そうに呟く瑠璃に
今度は翔が静かに語りかける。
「…………瑠璃ちゃんはさあ
……夢って、どういうものだと思う?」
「ゆめ、ですか?」
「うん」
「………瑠璃は、『憧れ』だと思うです。
なにになりたいとか、
どういうことをしたいとか、
好きなことをしたいとか――
そういうことだと思うです」
「それって、叶うのかな?」
「え?」
「よく、『夢は叶わないから夢なんだ』
って言うよね。だけど、それじゃ
悲しいと思わない?」
「…………はい」
「俺はね瑠璃ちゃん。夢は叶えてこそ夢…。
叶えられない夢はないって思ってる。
大丈夫だって信じて突き進んでいけば、
必ず叶うものだって…
基本的に俺、小さいころから
コロコロ夢が変わってる。
その時に好きなものが夢というかたちに
なると思うから」
「………………」
「なあ……瑠璃ちゃんが今好きなものって、
なに?」
「!?」
「……俺は、やっぱり『グリフォ』だな」
「…………」
「確かに『グリフォ』は隆二さんでもってる
バンドかもしれない。
今の俺では隆二さんの域には全然達して
ないかもしれない。
けど、いつか肩を並べられるように
なりたいんだ。
そして、インディーズじゃなく、
『グリフォ』でメジャーになりたい。
そしてゆくゆくは日本中――
世界中の人に、
俺たちの音楽を聴かせたい。
この思いは、絶対叶うって信じてる。
いや、叶うって祈ってる
だけじゃダメだ。
自分のちからで叶えるんだって、
心に決めてる。もう決めてるんだ。」
「………………」
「………どうかした?」
「…………せんぱいは……強いです」
「?」
「瑠璃も、好きなことはあるです。
でも――」
「……でも?」
「――や、やっぱりいいです。えへへ」
「瑠璃ちゃん……?」
「えへへへへへっ」
瑠璃は照れながら笑い続けた。
翔は彼女に訊けないまま、線香花火を
袋から取り出して火をつけた。
。
。
。
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