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1話 目覚め
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『――――――――!!!』
声がする。
それが声だと分かるのは、耳を打つ圧倒的音量のため。
けど何を言っているのか分からない。
というかうるさい。何を言っているのか分からない音が脳内に響かせるほどに頭を揺るがすのだから、これはもう騒音と言っても過言じゃない。正直不快に思うほどのその音は、しっかり起訴すれば、がっつり慰謝料とれるだろうと思う。
……まぁ誰を起訴するのか分かんないけど。
というか真っ暗だ。
いや、真っ暗なのは目をつぶっているからだ。まぶたの外側をほんのり焼く光が、目覚めと覚醒を促す。
……あれ、目覚めと覚醒って同じ意味だっけ。
ま、いいや。分かんないし。
『お――――――――ァァ!!!』
ああ、てゆうかマジにうるさい。いい加減にしないとパパに言いつけて面割れさせてから学校でも職場でもガンガン追い込みかけさせてこの町から居場所なくしてあげるのに。
覚醒した。
「おぉぉぉ、エリよ。なぜ死んだのだ……お前にはまだこれから……おぉぉぉぉぉ!!
「本気でうっさい!!」
「っ!! ……え?」
目が開いた。
瞳を突き刺す光――ってほどじゃないけど、暗いところにいたからか、少し目がくらむ。
ただそれも一瞬で、2,3度まばたきをすれば視野が戻る。
同時、髭面のオジサンが視界に飛び込んできた。
「え、てかなにこれ。最悪。てか、誰?」
だがその髭面のオジサンは、目を見開いて口を開いてパクパクさせているだけだ。金魚みたい。あ、それは金魚に失礼か。
「エ、エ、エ……」
「おじさん、誰?」
「おおおおおおお!! エリが、エリが生きてた!! しかもパパの顔を忘れるなんて、しどい!! 悲しい! でも嬉しいぞぉぉぉぉ!! おーい! おーい!」
急に涙を流し始めたオジサン。うざ。てかパパ? これが? 私の?
……いや、ないわ。
「た、大変だ! いや、本当にこれ……おい、ザウル! ザウルはどこだ!! エリを看てやってくれ!」
自分の冷たい視線も気にならないようで、オジサンもといパパはどたどたと大きな体をゆすって外へと出て行ってしまった。
……なんだったんだ。
意味が分からない。
というかここどこ?
体を起こす。どうやら自分は大きなベッドに寝ていたようだ。絹製なのかすごいサラサラしたシーツをかけられ、天蓋付きのベッド。
アンティークというか、そこそこ年代物っぽいし、ふむ、どうやらお金持ちの屋敷みたい。
周囲を見渡す。
それなりに広い部屋。20畳くらい? まぁそこそこの広さ。
天井には小型のシャンデリアが淡い光を放ち、室内をぼんやり照らしている。
壁には複数の大きな洋服ダンスと、鏡台が並び、どことなく生活臭というよりは衣裳部屋という感じのする部屋だ。
その鏡台の上にある大きな鏡に、見知らぬ人の姿が映っていた。
一番に目を引くのは金色の長い髪。少し癖のある髪質だが、それでも黄金色に光る美しさは損なわれない。
その金色に負けないくらい、肌は白く透明感がある。顔も整っていて目じりが尖って少しきつそうな印象を与えるが、理知的とも大人びているとも言えるだろう。
金髪。白い肌。少し高い鼻。
どこかヨーロッパ系というか、ハーフ? でも滅茶苦茶可愛い。
ふと視界に髪の毛が見えた。
それをすくってみると、ああ、輝くほどの金色。
そこで鏡の中の人物が、今自分と同じ行動をしていたのを認めて、ようやく思い出した。
ああ、そうか。転生したんだっけ。
つまり鏡に映るこの超絶美少女は、自分の今の姿であることは間違いない。
ふぅん。なるほど。
肌の張り、よし。
胸の大きさ……まぁ、うん。普通。
余計な肉もないし、足も長く細い。スタイルもいいみたいだ。
完璧じゃない。
これで? ……悪役令嬢だっけ? とかをやればいいんだろうけど。
……どうすればいいんだろう?
友人に勧められて、それなりに異世界転生の話は読んだことがある。けど悪役令嬢ってのは、ちょっと距離を取っていた。
なんでって?
そりゃもう。
なんていうか。そのままだったから。
うちのパパと、自分の関係。
それがまさに――
「エリ!!」
開きっぱなしの扉から転がるようにさっきのオジサン――どうやらこのエリって子のパパが飛び込んできた。その後ろから、息を切らせた初老の白衣のオジサンも続く。
「生きてるな!? 夢じゃないな!!」
「なんなの、さっきから」
「おおぅ、またエリの声が聞けるとは……おおおお!!」
また泣き出すし。うるさいし。
「エリ、本当にエリなの?」
その後ろから現れたのは、ネグリジェ姿のおばさん。うわ、キツ。
てゆうかぱっと見で思った。このおばさんのあだ名は『ザマス』で決定。だってキツネ顔に尖った眼鏡で髪もまとめているから、もうテンプレのようなお金持ちの奥様だ。
うーん、てかこれがママってこと? ザマスママってこと?
「まぁ、そうなる。のかな」
「……良かった、本当に……ああ!」
ザマスは涙をぽろぽろとこぼすと、これまたテンプレ通りの倒れ方――手を額に当て立ち眩みのようにふらふらするとそのまま床に倒れ込んだ。
「ああ、奥様!」
「こっちはわたしが見る! ザウルはエリを診てくれ!」
「は、はい!!」
ザウルと呼ばれた白衣の男は、こちらにいそいそと駆け寄ってくる。
この男。なんだろう。見た感じ医者っぽいけど。
何をするつもりなのか。そう思って黙って見ていたのが間違えだった。
「ちょっと、失礼しますよ」
と言って自分の上着を脱がせようとするので――
「っざけんな!?」
「あべっ!?」
ビンタを見舞ってやった。
「な、何をしているのだ、エリ! その人は私のかかりつけの医師だ、信頼できる人間だぞ」
「いや、信頼とかどうでもいいし! なんで見も知らずの人間に脱がされなきゃいけないの? そっちの方がありえないでしょ!」
「おお、その感じ……まさにエリだ! ああ、そうだな。パパの配慮が足りなかった、許してくれ」
なんか良く分かんないけど収まったようでよかった。
てか人前で脱がすなんて、ほんと頭おかしいんじゃないかと思う。
だって私は今も昔も女性なんだから。
声がする。
それが声だと分かるのは、耳を打つ圧倒的音量のため。
けど何を言っているのか分からない。
というかうるさい。何を言っているのか分からない音が脳内に響かせるほどに頭を揺るがすのだから、これはもう騒音と言っても過言じゃない。正直不快に思うほどのその音は、しっかり起訴すれば、がっつり慰謝料とれるだろうと思う。
……まぁ誰を起訴するのか分かんないけど。
というか真っ暗だ。
いや、真っ暗なのは目をつぶっているからだ。まぶたの外側をほんのり焼く光が、目覚めと覚醒を促す。
……あれ、目覚めと覚醒って同じ意味だっけ。
ま、いいや。分かんないし。
『お――――――――ァァ!!!』
ああ、てゆうかマジにうるさい。いい加減にしないとパパに言いつけて面割れさせてから学校でも職場でもガンガン追い込みかけさせてこの町から居場所なくしてあげるのに。
覚醒した。
「おぉぉぉ、エリよ。なぜ死んだのだ……お前にはまだこれから……おぉぉぉぉぉ!!
「本気でうっさい!!」
「っ!! ……え?」
目が開いた。
瞳を突き刺す光――ってほどじゃないけど、暗いところにいたからか、少し目がくらむ。
ただそれも一瞬で、2,3度まばたきをすれば視野が戻る。
同時、髭面のオジサンが視界に飛び込んできた。
「え、てかなにこれ。最悪。てか、誰?」
だがその髭面のオジサンは、目を見開いて口を開いてパクパクさせているだけだ。金魚みたい。あ、それは金魚に失礼か。
「エ、エ、エ……」
「おじさん、誰?」
「おおおおおおお!! エリが、エリが生きてた!! しかもパパの顔を忘れるなんて、しどい!! 悲しい! でも嬉しいぞぉぉぉぉ!! おーい! おーい!」
急に涙を流し始めたオジサン。うざ。てかパパ? これが? 私の?
……いや、ないわ。
「た、大変だ! いや、本当にこれ……おい、ザウル! ザウルはどこだ!! エリを看てやってくれ!」
自分の冷たい視線も気にならないようで、オジサンもといパパはどたどたと大きな体をゆすって外へと出て行ってしまった。
……なんだったんだ。
意味が分からない。
というかここどこ?
体を起こす。どうやら自分は大きなベッドに寝ていたようだ。絹製なのかすごいサラサラしたシーツをかけられ、天蓋付きのベッド。
アンティークというか、そこそこ年代物っぽいし、ふむ、どうやらお金持ちの屋敷みたい。
周囲を見渡す。
それなりに広い部屋。20畳くらい? まぁそこそこの広さ。
天井には小型のシャンデリアが淡い光を放ち、室内をぼんやり照らしている。
壁には複数の大きな洋服ダンスと、鏡台が並び、どことなく生活臭というよりは衣裳部屋という感じのする部屋だ。
その鏡台の上にある大きな鏡に、見知らぬ人の姿が映っていた。
一番に目を引くのは金色の長い髪。少し癖のある髪質だが、それでも黄金色に光る美しさは損なわれない。
その金色に負けないくらい、肌は白く透明感がある。顔も整っていて目じりが尖って少しきつそうな印象を与えるが、理知的とも大人びているとも言えるだろう。
金髪。白い肌。少し高い鼻。
どこかヨーロッパ系というか、ハーフ? でも滅茶苦茶可愛い。
ふと視界に髪の毛が見えた。
それをすくってみると、ああ、輝くほどの金色。
そこで鏡の中の人物が、今自分と同じ行動をしていたのを認めて、ようやく思い出した。
ああ、そうか。転生したんだっけ。
つまり鏡に映るこの超絶美少女は、自分の今の姿であることは間違いない。
ふぅん。なるほど。
肌の張り、よし。
胸の大きさ……まぁ、うん。普通。
余計な肉もないし、足も長く細い。スタイルもいいみたいだ。
完璧じゃない。
これで? ……悪役令嬢だっけ? とかをやればいいんだろうけど。
……どうすればいいんだろう?
友人に勧められて、それなりに異世界転生の話は読んだことがある。けど悪役令嬢ってのは、ちょっと距離を取っていた。
なんでって?
そりゃもう。
なんていうか。そのままだったから。
うちのパパと、自分の関係。
それがまさに――
「エリ!!」
開きっぱなしの扉から転がるようにさっきのオジサン――どうやらこのエリって子のパパが飛び込んできた。その後ろから、息を切らせた初老の白衣のオジサンも続く。
「生きてるな!? 夢じゃないな!!」
「なんなの、さっきから」
「おおぅ、またエリの声が聞けるとは……おおおお!!」
また泣き出すし。うるさいし。
「エリ、本当にエリなの?」
その後ろから現れたのは、ネグリジェ姿のおばさん。うわ、キツ。
てゆうかぱっと見で思った。このおばさんのあだ名は『ザマス』で決定。だってキツネ顔に尖った眼鏡で髪もまとめているから、もうテンプレのようなお金持ちの奥様だ。
うーん、てかこれがママってこと? ザマスママってこと?
「まぁ、そうなる。のかな」
「……良かった、本当に……ああ!」
ザマスは涙をぽろぽろとこぼすと、これまたテンプレ通りの倒れ方――手を額に当て立ち眩みのようにふらふらするとそのまま床に倒れ込んだ。
「ああ、奥様!」
「こっちはわたしが見る! ザウルはエリを診てくれ!」
「は、はい!!」
ザウルと呼ばれた白衣の男は、こちらにいそいそと駆け寄ってくる。
この男。なんだろう。見た感じ医者っぽいけど。
何をするつもりなのか。そう思って黙って見ていたのが間違えだった。
「ちょっと、失礼しますよ」
と言って自分の上着を脱がせようとするので――
「っざけんな!?」
「あべっ!?」
ビンタを見舞ってやった。
「な、何をしているのだ、エリ! その人は私のかかりつけの医師だ、信頼できる人間だぞ」
「いや、信頼とかどうでもいいし! なんで見も知らずの人間に脱がされなきゃいけないの? そっちの方がありえないでしょ!」
「おお、その感じ……まさにエリだ! ああ、そうだな。パパの配慮が足りなかった、許してくれ」
なんか良く分かんないけど収まったようでよかった。
てか人前で脱がすなんて、ほんと頭おかしいんじゃないかと思う。
だって私は今も昔も女性なんだから。
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