政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
2 / 57

1話 目覚め

しおりを挟む
『――――――――!!!』

 声がする。
 それが声だと分かるのは、耳を打つ圧倒的音量のため。

 けど何を言っているのか分からない。

 というかうるさい。何を言っているのか分からない音が脳内に響かせるほどに頭を揺るがすのだから、これはもう騒音と言っても過言じゃない。正直不快に思うほどのその音は、しっかり起訴すれば、がっつり慰謝料とれるだろうと思う。

 ……まぁ誰を起訴するのか分かんないけど。

 というか真っ暗だ。
 いや、真っ暗なのは目をつぶっているからだ。まぶたの外側をほんのり焼く光が、目覚めと覚醒を促す。

 ……あれ、目覚めと覚醒って同じ意味だっけ。
 ま、いいや。分かんないし。

『お――――――――ァァ!!!』

 ああ、てゆうかマジにうるさい。いい加減にしないとパパに言いつけて面割れさせてから学校でも職場でもガンガン追い込みかけさせてこの町から居場所なくしてあげるのに。

 覚醒した。

「おぉぉぉ、エリよ。なぜ死んだのだ……お前にはまだこれから……おぉぉぉぉぉ!!

「本気でうっさい!!」

「っ!! ……え?」

 目が開いた。
 瞳を突き刺す光――ってほどじゃないけど、暗いところにいたからか、少し目がくらむ。

 ただそれも一瞬で、2,3度まばたきをすれば視野が戻る。

 同時、髭面のオジサンが視界に飛び込んできた。

「え、てかなにこれ。最悪。てか、誰?」

 だがその髭面のオジサンは、目を見開いて口を開いてパクパクさせているだけだ。金魚みたい。あ、それは金魚に失礼か。

「エ、エ、エ……」

「おじさん、誰?」

「おおおおおおお!! エリが、エリが生きてた!! しかもパパの顔を忘れるなんて、しどい!! 悲しい! でも嬉しいぞぉぉぉぉ!! おーい! おーい!」

 急に涙を流し始めたオジサン。うざ。てかパパ? これが? 私の?
 ……いや、ないわ。

「た、大変だ! いや、本当にこれ……おい、ザウル! ザウルはどこだ!! エリをてやってくれ!」

 自分の冷たい視線も気にならないようで、オジサンもといパパはどたどたと大きな体をゆすって外へと出て行ってしまった。

 ……なんだったんだ。

 意味が分からない。

 というかここどこ?

 体を起こす。どうやら自分は大きなベッドに寝ていたようだ。絹製なのかすごいサラサラしたシーツをかけられ、天蓋付きのベッド。
 アンティークというか、そこそこ年代物っぽいし、ふむ、どうやらお金持ちの屋敷みたい。

 周囲を見渡す。

 それなりに広い部屋。20畳くらい? まぁそこそこの広さ。
 天井には小型のシャンデリアが淡い光を放ち、室内をぼんやり照らしている。
 壁には複数の大きな洋服ダンスと、鏡台が並び、どことなく生活臭というよりは衣裳部屋という感じのする部屋だ。

 その鏡台の上にある大きな鏡に、見知らぬ人の姿が映っていた。
 一番に目を引くのは金色の長い髪。少し癖のある髪質だが、それでも黄金色に光る美しさは損なわれない。
 その金色に負けないくらい、肌は白く透明感がある。顔も整っていて目じりが尖って少しきつそうな印象を与えるが、理知的とも大人びているとも言えるだろう。

 金髪。白い肌。少し高い鼻。
 どこかヨーロッパ系というか、ハーフ? でも滅茶苦茶可愛い。

 ふと視界に髪の毛が見えた。
 それをすくってみると、ああ、輝くほどの金色。

 そこで鏡の中の人物が、今自分と同じ行動をしていたのを認めて、ようやく思い出した。

 ああ、そうか。転生したんだっけ。

 つまり鏡に映るこの超絶美少女は、自分の今の姿であることは間違いない。

 ふぅん。なるほど。
 肌の張り、よし。
 胸の大きさ……まぁ、うん。普通。
 余計な肉もないし、足も長く細い。スタイルもいいみたいだ。

 完璧じゃない。

 これで? ……悪役令嬢だっけ? とかをやればいいんだろうけど。

 ……どうすればいいんだろう?

 友人に勧められて、それなりに異世界転生の話は読んだことがある。けど悪役令嬢ってのは、ちょっと距離を取っていた。

 なんでって?

 そりゃもう。
 なんていうか。そのままだったから。

 うちのパパと、自分の関係。
 それがまさに――

「エリ!!」

 開きっぱなしの扉から転がるようにさっきのオジサン――どうやらこのエリって子のパパが飛び込んできた。その後ろから、息を切らせた初老の白衣のオジサンも続く。

「生きてるな!? 夢じゃないな!!」

「なんなの、さっきから」

「おおぅ、またエリの声が聞けるとは……おおおお!!」

 また泣き出すし。うるさいし。

「エリ、本当にエリなの?」

 その後ろから現れたのは、ネグリジェ姿のおばさん。うわ、キツ。
 てゆうかぱっと見で思った。このおばさんのあだ名は『ザマス』で決定。だってキツネ顔に尖った眼鏡で髪もまとめているから、もうテンプレのようなお金持ちの奥様だ。

 うーん、てかこれがママってこと? ザマスママってこと?

「まぁ、そうなる。のかな」

「……良かった、本当に……ああ!」

 ザマスは涙をぽろぽろとこぼすと、これまたテンプレ通りの倒れ方――手を額に当て立ち眩みのようにふらふらするとそのまま床に倒れ込んだ。

「ああ、奥様!」

「こっちはわたしが見る! ザウルはエリを診てくれ!」

「は、はい!!」

 ザウルと呼ばれた白衣の男は、こちらにいそいそと駆け寄ってくる。

 この男。なんだろう。見た感じ医者っぽいけど。

 何をするつもりなのか。そう思って黙って見ていたのが間違えだった。

「ちょっと、失礼しますよ」

 と言って自分の上着を脱がせようとするので――

「っざけんな!?」

「あべっ!?」

 ビンタを見舞ってやった。

「な、何をしているのだ、エリ! その人は私のかかりつけの医師だ、信頼できる人間だぞ」

「いや、信頼とかどうでもいいし! なんで見も知らずの人間に脱がされなきゃいけないの? そっちの方がありえないでしょ!」

「おお、その感じ……まさにエリだ! ああ、そうだな。パパの配慮が足りなかった、許してくれ」

 なんか良く分かんないけど収まったようでよかった。

 てか人前で脱がすなんて、ほんと頭おかしいんじゃないかと思う。

 だって私は今も昔も女性なんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...