政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
3 / 57

2話 転生者が復讐を決めるまでの現状整理

しおりを挟む
 結論から言うと、私はどうやら殺されていたらしい。

 ついでに言うと婚約破棄もさせられていたらしい。

 なんでも自分、もといエリとかいう今の体の婚約者――侯爵家であるバイスランウェイ家の長男であり当主ガーヒルが一方的にパパの汚職を糾弾、それを理由に一方的に婚約破棄。しかも一方的に別の令嬢との婚約を発表したという。

 え、てかダメじゃん。
 婚約破棄に気をつけろとかなんとか、あの転生の女神が言ってたけど……。遅かったね。どうでもいいけど。

 問題なのは、婚約破棄の後に私――もといこの体のエリが殺されているということ。

 なんでも外出から馬車で帰ってくる途中。何者かに襲われて刺し殺されたということなんだけど。

 え、殺されるってそういう? 暗殺ってこと? 桜田門外の変ってこと?

 しかも犯人は捕まらず、噂では近くの漁港で浮浪者のどざえもんがあがったとかで。それが事件の目撃者によると人相が襲撃者に似ているとか似ていないとか。

 まぁあくまで噂なんだけど。

 これ完全にやってるよね。
 完全に浮浪者を雇って私を襲わせて殺してるよね。

 誰がって?

 当然そのガーヒルとかいうやつよ。

 私と結婚したくないために、非もないこの世界のパパを糾弾。しかもあとくされのないように、私を始末させた。

 都合が悪くなったら我関せずでポイ捨て。しかも後々面倒にならないよう事後処理もするなんて
 そのガーヒルとかいう女の敵。許すまじ。

 だってパパ、あ、このパパはわたしの前世の本当のパパね、が言ってた。

『他人から受けた害は忘れてはいけないよ。こちらが無視すれば相手はつけあがるからね。しっかり報復してこちらに噛みつくことのリスクを自覚させないと。目には目を、歯には歯を、冤罪には冤罪を、ってことで。ん? 大丈夫、パパは何もしてないよ。前にパパを追いまわした記者が、自殺未遂事件を起こして世間的に抹消されたけど琴音が心配することじゃないさ』

 うん。そういうこと。

 あ、ちなみにパパは県会議員。
 ただまぁあんまり評判は良くなく、何度も汚職の嫌疑で裁判沙汰にもなりかけた。一応何事もなく終わったからこうして今も議員さんだけど、あまり良い目で見られないのは確か。

 というわけで私は汚職議員の娘というレッテルを貼られ、だからなのか悪役令嬢っていうのは、まさにピッタリすぎて嫌だったんだけど。

 えっと、なんだっけ。

 そうそう、そのガーヒルという奴許すまじ。
 異世界ってことで、まだネットとかはないみたいだから全世界的には無理だけど、とりあえず社会的に抹殺しよう。復讐リベンジよ。

 とは思うけど、どうすればいいんだろう。

 正直、勉強は得意じゃない。てかできない。
 学校のテストで3回連続数学で9点を取ったのを知ってパパは苦笑いしてたけど、まぁ別に政治家とかなりたくないし。適当に生きて適当に結婚して適当に死ぬのに、二次関数とか加法定理とか必要ないわけで。別にどうでもいいでしょ。

 どっちかというとメイクとかイケメン俳優とか音楽事情、流行と最先端、どうやって盛れるかのPC技術、ネットでの生存方法、いかに敵を作らないか、他者を陥れる方法に扇動アジテーションの知識の方が重要なわけで。
 今の時代、テストで100点が取れても生きる力のない馬鹿は排除されていくんだから。重要なのはテストの点数じゃなく、何ができるか、何ができないか、それを知ることだと思うんだよね。

 というわけで今。

 うち、つまりエリのパパは公爵で、ストリック家というものを継いでいる。その子女が私、エリことエリーゼ・バン・カシュトルゼ。18歳。
 他に子供はいないらしいから、その一人娘が殺されたとなれば、パパの嘆きも分からないでもない。うるさかったけど。

 あれ、あのガーヒルっての。侯爵って言ってたっけ? 公爵と侯爵ってどっちが上なんだっけ? 知らない。どうでもいい。

 そしてパパは偉いらしく、この国、ハバリエ王国の大臣をやってるらしい。でた王国。
 国王の信頼は得ているから権力は絶大。ただあまり人望があるわけじゃなく、敵は多いとかなんとか。
 それの状況打破のために、ガーヒルとかいうのと私が結婚することになったらしい。もう破局してるけど。

 そんな婚姻政策も、ガーヒルの裏切りによってパァになったってことで、パパは今まで以上の苦境にいるらしい。
 というのもさっきあった通り、ガーヒルがパパの悪行についてを糾弾し出してそれを理由に私との婚約を破棄したというのだから。

 それで今や議会は大炎上。
 なんでもことの次第は王宮の中だけじゃなく、一般国民にも広がっているようで、町ではパパを辞めさせろのデモが頻発しているとか。
 私、もといエリが死んだことも、自業自得ということで「ざまをみろ」という意見が多数という。世も末ね。

 あー、こりゃダメだね。相手の方が上手うわてすぎる。情報戦で負けてるよ。
 うちのパパ……なんかごちゃってめんどい。前パパと今パパってことにしよう。え? 字面がヤバいって? 何のこと言ってるかちょっと分からないんだけど。

 前パパは情報戦の重要性を理解して、特にSNSには力を入れてた。
 配信する時は必ず弁護士と内容のチェックしたうえでGOするし、問題ありそうな人間は即ブロック。バイトを雇ってサブ垢での情報拡散と応援コメントでの支持向上もぬかりない。

 ん? 違法? 何が?
 だってただ応援をお願いしてるだけでしょ? サブ垢なんてみんな作ってるし、誰を応援しちゃいけないとかっていうの逆に表現の自由を侵害してない?
 だから自分は何も悪くない。そう前パパは言ってた。

 というわけで現状は最悪。
 貴族連中からは冷たい目で見られるし、民衆からは屋敷の前に人だかりができるほどに総スカンを食らってる。
 さすがに懇意にしている国王も、そういった民意には敏感で今パパを切り捨てようみたいな話も出ているらしい。

 いやー、厳しいねぇ。
 ……最悪じゃん。

「お嬢様、朝食をお持ちしました」

 その時だ。執事のワルドゥが部屋の扉をノックしてきた。

「どうぞ」

「失礼します」

 そう言って持ってきたのはパンケーキにはちみつをどっぷりかけたものに、イチゴとブルーベリーをどかっと載せたもの。本当はアイスも欲しかったけど、今のこの世界じゃ入手は困難だって、残念。
 でもパンケーキにはちみつがあるだけで、本当良かった。これがない生活なんて考えられない。

「あの、これで本当によろしいので? お嬢様は、その、重病、ということでしたが」

「いいのいいの。好きな時に好きなの食べないの、逆に体に悪いでしょ」

「はぁ……」

 なんか微妙な顔をしてワルドゥは出ていった。

 やれやれ、なんでこれが分からないかなぁ。
 それにこれからやろうとしていることを考えると、少しでも体に力を入れておきたいからね。というわけでいただきます。

 うん、美味しい。やっぱ甘いものは正義。これが食べられなくなるなんて考えられない。
 だから今パパの失脚は、この生活の放棄と同じになる。

 それは……ダメだよねぇ。

 というわけで朝食の後に、今パパのところへ行った。

「パパにお願いがあるんだけど」

「あ、ああ。もちろんだとも、それより体の方は大丈夫か? どこか変なところとか――」

「パーティを開いてほしいの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...