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23話 ジュエリ男爵邸
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ジュエリ男爵の屋敷は、中央区の中頃にある、そこそこの広さの屋敷だった。
カシュトルゼ家よりは劣るものの、それでも白亜の二階建ての建物に噴水付きの庭というのを見ると、それなりに金を持っているみたい。
ソフィーと同じ男爵家なのにこんな違いがあるのが不思議だったけど、それはクロイツェルが教えてくれた。
「持っている領地の差でしょう。ジュエリ殿は郊外とはいえまるまる山を1つ所有しておりますから」
ああ、そうか。貴族って領地持ちだものね。
ずっとこの王都にいるかわ分からなかったわ。今パパもさほど話題に出さないし。
あれ、でもそうすると……。
「ふぅん。じゃあもしかして今、いないんじゃ?」
「領地経営は部下任せ。自身は悠々と別荘暮らし。お貴族様はそれが基本だろ」
答えたのはクロイツェルではなくダウンゼンだった。
その声色には憤りと不快の色が見える。
まぁそうでしょうね。
要は田舎町の市長が、田舎暮らしが嫌で仕事は全部秘書に任せて自分は都会の別宅で暮らしているみたいなものだから。
え? 私はどうかって?
もちろん地元暮らしよ。当然じゃない。だから都会暮らしには憧れるわ。お洒落なカフェとか、新作が豊富なコスメ店とか、ステキなアパレルショップとか、大きなアウトレットモールとか、優美なインテリアショップとか地元に全然ないもの。
そういうところには10分も電車に乗らないとつかないんだから。ね? 田舎でしょう? 田舎よね? 田舎です。
「それが貴族としてのたしなみでしょう」
「はっ。お貴族様はそうやって地方を顧みねぇ。地方にいずして何ができるってんだ」
「そこは有能な部下がまとめるからよいのでしょう」
「じゃあその部下が領主になりやがれってんだ。てめぇは仕事しねぇでのんびり酒をかっくらう毎日。はっ、いいご身分だねぇ」
酒をかっくらってたのはあなたも同じでしょうに。
まったく、この2人は目を離すとすぐにこれだ。水と油というか、団栗の背比べというか。
「はいはい、やめなさい。今はそのお貴族様がここにいるからいいんでしょう。いつまでもぐだぐだぬかすなら帰っていいわよ」
「申し訳ありません、エリーゼ様」
「あ、てめぇ。俺だけ悪者にする気かよ!」
「そうではない。悪ければ謝る。それが私のモットーだ」
「じゃあ俺たち平民にも謝りやがれ! いつも偉ぶってすみませんってな!」
「2人、うるさい」
はぁ、なんだか調教師の気分よ。よく吼える犬というか。
そんなこんなしているうちに、私たちが囲むジュエリ家の門前が慌ただしくなる。
「何事か! ここをジュエリ男爵家のお屋敷と知ってのことか!」
屋敷の玄関を開けて出てきたのは、頭に白髪が目立ち始めた初老の男。ガタイの良い長身の男は、その体躯で圧倒するように肩で風を切りながらこちらに向かいながら叫ぶ。
スーツがピチピチな感じのマッチョだけど、まだまだね。ダウンゼンに胸板で負けるわ。初老のおじ様ってのもいいけど。
ま、それ以前にこうも高圧的に出られたらノーサンキューだけど。
一応、クロイツェルに目線で聞く。あれがジュエリ男爵かと。
それに対しクロイツェルは首を横に振った。あれはジュエリ男爵じゃないわけね。じゃあ遠慮はいらない。
「カシュトルゼ家の者よ!」
「む……カシュトルゼ、様」
さすがに大臣の一家に対し無礼な言い方はできないと悟ったのだろう。それに敵対して、今や落ち目とはいえ貴族の部下である彼が暴言を吐いていいわけではない。
だから急に佇まいを正して物腰も若干柔らかくなる。
「失礼しました。私はジュエリ様の執事長を務めます、クラウンと申します。何分、私は主人よりこの屋敷を任されておりますので、無用の騒ぎを起こす輩には対処しなければなりません」
「存じておりますわ。職務に忠実である姿。素晴らしいと思います」
「恐縮です」
「ではジュエリ男爵に取り次いでもらえる? カシュトルゼの娘が来たと言えば分かりますから」
「申し訳ありません、主人は先日より領地に戻られております」
「領地に?」
「はい。ジュエリ家の領地は王より賜った大事なもの。領地の仕置きをなさるために、今は出ております」
「逃げたわね」
「はっ?」
「いえ、なんでもありませんわ。そうですか、陛下のお心遣いに真摯に応える様、まさに貴族の鏡でしょう」
「カシュトルゼ様よりそのように申していただけるのは光栄の極み。主が戻られましたらお伝えいたします」
はぁ。なにこのうわべだけの言葉の応酬は。
このまま当たり障りのない言葉だけをやりあっても日が暮れる。さっさと終わらせにいきましょう。
「そう、じゃあ今すぐ伝えてもらえる?」
「は……いえ、主人は今領地に戻っていますので今すぐとは……」
「おかしいわね。昨日、ジュエリ男爵を見たって人がいるんだけど?」
「はっ、いえ、しかし主人はすでにここにはおられませんが……。失礼ですがその見られたという方はどなたに――」
「無礼ですよ。執事の分際で私たち貴族の言葉を疑うので!?」
「い、いえ。そういうわけでは……」
「それに、よ。領地経営もいいけど、もっと陛下の信任に応えるべき内容で憂慮すべき問題が出ているのはご存じで?」
「は、はぁ。いえ、私めにはとんと」
「ならジュエリ男爵を出しなさい! 陛下のおわすこの王都で、平民が中央区に群れを成して押し寄せるという大事件! それを中央区の警備の責任者であるジュエリ男爵はどうお考えか! 陛下のお心を迷わすようなこの事態をどう対処いたすのか! さらにここに集まる由緒正しき階級の方たちを恐怖に陥いれた責任をどうお取りになるのか! そこらを聞かねば私たちは退けません!」
「は、い、いえ、し、しかし主は……」
顔を真っ青にしてなんとか弁解するも、矢継ぎ早な追及にもう完全にグロッキー状態でまともな応対はできない。
「ジュエリ男爵! 聞こえているのでしょう! エリーゼ・バン・カシュトルゼです! 今日の一連の騒動、どう落とし前をつけるつもりか! 本人の言葉で説明できなければ! このわたくし、カシュトルゼ家をはじめとする30家が陛下にこの状況をお伝えすることになりますよ!」
それは賭けだった。
ここで本当にジュエリ男爵が領地に戻っていたらただのから騒ぎになる。
後からジュエリ男爵の罪を問うことはできるけど、その場合はただジュエリ男爵を痛めつけるだけに終わる。
ガーヒル派の戦力を削ぐことはできるけど、所詮は男爵。トカゲのしっぽ切りしてもガーヒルにはそこまでダメージはないだろう。
だが今。今ここで彼を糾弾する場合はそれが全く違う結末を迎える。少なくとも、私の計算上ではそうなる。
だから是非ここで、今、このタイミングで男爵を血祭りにしてさしあげたいのだけれど……。
「うるさい小娘だ。何の用だ」
ガチャリと玄関のドアが開き、1人の恰幅の良い男が出てきた。
レースの入った襟元に、これまた執事とは別の意味でピチピチのダブレットを着こみ、突き出た腹を撫でまわす中年男性。得意そうな髭面の男は、なんというか……うん。生理的に無理。
ちらりとクロイツェルを見ると、彼は小さくうなずいた。
どうやらあれがここの主にして、私の今の標的。ジュエリ男爵が現れたのだ。
カシュトルゼ家よりは劣るものの、それでも白亜の二階建ての建物に噴水付きの庭というのを見ると、それなりに金を持っているみたい。
ソフィーと同じ男爵家なのにこんな違いがあるのが不思議だったけど、それはクロイツェルが教えてくれた。
「持っている領地の差でしょう。ジュエリ殿は郊外とはいえまるまる山を1つ所有しておりますから」
ああ、そうか。貴族って領地持ちだものね。
ずっとこの王都にいるかわ分からなかったわ。今パパもさほど話題に出さないし。
あれ、でもそうすると……。
「ふぅん。じゃあもしかして今、いないんじゃ?」
「領地経営は部下任せ。自身は悠々と別荘暮らし。お貴族様はそれが基本だろ」
答えたのはクロイツェルではなくダウンゼンだった。
その声色には憤りと不快の色が見える。
まぁそうでしょうね。
要は田舎町の市長が、田舎暮らしが嫌で仕事は全部秘書に任せて自分は都会の別宅で暮らしているみたいなものだから。
え? 私はどうかって?
もちろん地元暮らしよ。当然じゃない。だから都会暮らしには憧れるわ。お洒落なカフェとか、新作が豊富なコスメ店とか、ステキなアパレルショップとか、大きなアウトレットモールとか、優美なインテリアショップとか地元に全然ないもの。
そういうところには10分も電車に乗らないとつかないんだから。ね? 田舎でしょう? 田舎よね? 田舎です。
「それが貴族としてのたしなみでしょう」
「はっ。お貴族様はそうやって地方を顧みねぇ。地方にいずして何ができるってんだ」
「そこは有能な部下がまとめるからよいのでしょう」
「じゃあその部下が領主になりやがれってんだ。てめぇは仕事しねぇでのんびり酒をかっくらう毎日。はっ、いいご身分だねぇ」
酒をかっくらってたのはあなたも同じでしょうに。
まったく、この2人は目を離すとすぐにこれだ。水と油というか、団栗の背比べというか。
「はいはい、やめなさい。今はそのお貴族様がここにいるからいいんでしょう。いつまでもぐだぐだぬかすなら帰っていいわよ」
「申し訳ありません、エリーゼ様」
「あ、てめぇ。俺だけ悪者にする気かよ!」
「そうではない。悪ければ謝る。それが私のモットーだ」
「じゃあ俺たち平民にも謝りやがれ! いつも偉ぶってすみませんってな!」
「2人、うるさい」
はぁ、なんだか調教師の気分よ。よく吼える犬というか。
そんなこんなしているうちに、私たちが囲むジュエリ家の門前が慌ただしくなる。
「何事か! ここをジュエリ男爵家のお屋敷と知ってのことか!」
屋敷の玄関を開けて出てきたのは、頭に白髪が目立ち始めた初老の男。ガタイの良い長身の男は、その体躯で圧倒するように肩で風を切りながらこちらに向かいながら叫ぶ。
スーツがピチピチな感じのマッチョだけど、まだまだね。ダウンゼンに胸板で負けるわ。初老のおじ様ってのもいいけど。
ま、それ以前にこうも高圧的に出られたらノーサンキューだけど。
一応、クロイツェルに目線で聞く。あれがジュエリ男爵かと。
それに対しクロイツェルは首を横に振った。あれはジュエリ男爵じゃないわけね。じゃあ遠慮はいらない。
「カシュトルゼ家の者よ!」
「む……カシュトルゼ、様」
さすがに大臣の一家に対し無礼な言い方はできないと悟ったのだろう。それに敵対して、今や落ち目とはいえ貴族の部下である彼が暴言を吐いていいわけではない。
だから急に佇まいを正して物腰も若干柔らかくなる。
「失礼しました。私はジュエリ様の執事長を務めます、クラウンと申します。何分、私は主人よりこの屋敷を任されておりますので、無用の騒ぎを起こす輩には対処しなければなりません」
「存じておりますわ。職務に忠実である姿。素晴らしいと思います」
「恐縮です」
「ではジュエリ男爵に取り次いでもらえる? カシュトルゼの娘が来たと言えば分かりますから」
「申し訳ありません、主人は先日より領地に戻られております」
「領地に?」
「はい。ジュエリ家の領地は王より賜った大事なもの。領地の仕置きをなさるために、今は出ております」
「逃げたわね」
「はっ?」
「いえ、なんでもありませんわ。そうですか、陛下のお心遣いに真摯に応える様、まさに貴族の鏡でしょう」
「カシュトルゼ様よりそのように申していただけるのは光栄の極み。主が戻られましたらお伝えいたします」
はぁ。なにこのうわべだけの言葉の応酬は。
このまま当たり障りのない言葉だけをやりあっても日が暮れる。さっさと終わらせにいきましょう。
「そう、じゃあ今すぐ伝えてもらえる?」
「は……いえ、主人は今領地に戻っていますので今すぐとは……」
「おかしいわね。昨日、ジュエリ男爵を見たって人がいるんだけど?」
「はっ、いえ、しかし主人はすでにここにはおられませんが……。失礼ですがその見られたという方はどなたに――」
「無礼ですよ。執事の分際で私たち貴族の言葉を疑うので!?」
「い、いえ。そういうわけでは……」
「それに、よ。領地経営もいいけど、もっと陛下の信任に応えるべき内容で憂慮すべき問題が出ているのはご存じで?」
「は、はぁ。いえ、私めにはとんと」
「ならジュエリ男爵を出しなさい! 陛下のおわすこの王都で、平民が中央区に群れを成して押し寄せるという大事件! それを中央区の警備の責任者であるジュエリ男爵はどうお考えか! 陛下のお心を迷わすようなこの事態をどう対処いたすのか! さらにここに集まる由緒正しき階級の方たちを恐怖に陥いれた責任をどうお取りになるのか! そこらを聞かねば私たちは退けません!」
「は、い、いえ、し、しかし主は……」
顔を真っ青にしてなんとか弁解するも、矢継ぎ早な追及にもう完全にグロッキー状態でまともな応対はできない。
「ジュエリ男爵! 聞こえているのでしょう! エリーゼ・バン・カシュトルゼです! 今日の一連の騒動、どう落とし前をつけるつもりか! 本人の言葉で説明できなければ! このわたくし、カシュトルゼ家をはじめとする30家が陛下にこの状況をお伝えすることになりますよ!」
それは賭けだった。
ここで本当にジュエリ男爵が領地に戻っていたらただのから騒ぎになる。
後からジュエリ男爵の罪を問うことはできるけど、その場合はただジュエリ男爵を痛めつけるだけに終わる。
ガーヒル派の戦力を削ぐことはできるけど、所詮は男爵。トカゲのしっぽ切りしてもガーヒルにはそこまでダメージはないだろう。
だが今。今ここで彼を糾弾する場合はそれが全く違う結末を迎える。少なくとも、私の計算上ではそうなる。
だから是非ここで、今、このタイミングで男爵を血祭りにしてさしあげたいのだけれど……。
「うるさい小娘だ。何の用だ」
ガチャリと玄関のドアが開き、1人の恰幅の良い男が出てきた。
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