政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
26 / 68

24話 表情は腹の中に

しおりを挟む
「あら男爵。お早いお戻りですわね」

 なるだけ“皮肉に聞こえるよう”精一杯の笑みと精一杯の棒読みで語り掛ける。

「ふん、カシュトルゼの娘か」

「ええ、カシュトルゼ“公爵”の娘です、ジュエリ“男爵”」という風に返したいのをグッと我慢して、私は笑みを深くする。

 どうせバックにはガーヒルがついてるから少し強気で来れるのだろう。いざとなったら切り捨てられるのに。哀れね。そう思えば憐憫の情も湧いてくるわ。

「なんだその、人を見下したような顔は!」

「いえ、別に。これが私の普通ですので」

「あー、確かに」

「いえ、それが魅力的なんですよ」

 味方から援護攻撃を受けたので、睨みつけてやった。
 まったく、ダウンゼンにクロイツェルの2人ときたら。

「ふん、あまり調子に乗るなよ。親の威を借りる狐め」

 パンパンな腹を揺すりながら、ふてぶてしく笑うジュエリ男爵。あ、うん。やっぱ生理的に無理ね。
 だから憐憫すらも薄れていく。

「なにも借りていませんが? 私は私として、今ここに立っているのですから」

「ああ言えばこう言う」

「ただ事実を述べただけですが?」

「そうやって煙に巻く方法。父親そっくりだな」

「別に煙に巻いていません。そしてそれは父を、侮辱すると受け取ってもよろしいので?」

「どうしてそうなる。一体何を聞いていたのだ」

 声色に険が混じり、苛立っているのが良く分かる。
 この程度で感情を表に出すなんて、本当に器が知れるものよ。

『感情はなるだけ表に出さないように。敵に付け込まれるからね。悲しい時に笑い、嬉しい時に泣く。そうすれば相手に腹の内を見せることなく、交渉を優位に進められるからね』

 前パパはそう笑顔で言って言っていたけど……あれって悲しかったってことかしら?

「で? 何の用だ?」

「これはこれは。何の用とはずいぶん悠長な。お話は先ほどお伝えしましたが?」

「小娘が喚き散らすこと、聞こえるものでもないわ」

「それは大変です。難聴は重大な病気。どうでしょう、今すぐご領地にお戻りになって静養なさるのは」

「私を馬鹿にする気か!」

「バカにしてるのはそっちでしょう」

「なにっ!!」

「陛下のおわすこの中央区に、許可のない平民の集団が入り込んだのです。これは立派な違反。何より警備の怠慢、不始末! いったいどう責任をお取りするつもりで?」

「何を言うかと思えば……そのような報告は受けていない!」

「お認めにならないと?」

「認めるも何もない。そんなことが起きたという事実はないのだろう」

「ここにいる被害を受けた皆さんがその証人ですが」

「そーだそーだ!」「あの群衆、一歩間違えれば私の屋敷まで……」「ああ、恐ろしい」

 被害、といってもただ単に家の前を通行されただけなのにこの怯えよう。本当、特権階級ってのは……あ、私もその一員か。なんてね。

「ふん、訴えだけでは何もならんな! とにかく! そのような事実はなかった!」

「その言葉、本当で?」

「もちろんだ! なぜなら聞いていないのだからな!」

 聞いていない。知らなかった。部下がやりました。
 政治家の汚職の逃げ道の常套句ね。

 でも知ってる?
 それって裏を返せば、“決定的な証拠がある場合、諸刃の刃になる”ってこと。

「ジュエリ男爵は群衆がここに押し寄せたのは知らなかった。なぜならそのようなことは起きなかったから。だから罪はない。そう言っている。皆さんお聞きになりました?」

「な、なんだ。一体」

「男爵、私のお友達を紹介させていただきますわ。ダウンゼン・ドーン。平民です」

「なっ……なんだと? いや、だからどうしたというのだ!?」

 ジュエリ男爵はどこか余裕をなくしたように、体をぶるんと震わせる。

「お、おい。エリ、それは――」

「しっ。あんたは黙ってて」

 ダウンゼンを黙らせたら、小さく深呼吸してジュエリ男爵に再び視線を戻す。

「どうしたもこうしたも。彼が納めてくれたのですよ。群衆のデモを」

「な……」

「つまり彼は完全な生き証人。これ以上ない、中央区に平民の群衆が入り込んだことを示す証。さて、男爵。あなたはさっきなんとおっしゃりましたか? 知らないと。そんなことはなかったと。ですが実際に事件は起きていて、その証人はここに存在している。さてさて、ではこの責任はどこに行くのでしょう?」

「ち、違う! その男! その男が嘘を言っている! そもそも、その男は平民なのだろう!? ならきゃつらの一味で、私を陥れるために嘘を――」

「そんなわけないじゃない」

 てか今の彼の言葉。もう認めちゃってるってことじゃない?

「だって彼は私が来てほしいと呼んだのだから。カシュトルゼ家の別ルートを使って。それで私の屋敷に来た時に、群衆がいるってことで説得して返したのよ。だから彼は私の恩人」

「エリ……おぎょっ!!」

 ダウンゼンが調子に乗ってそうな声を出してたので、かかとで足を踏んづけておいた。
 全部嘘だっての。

「し、しかし! 私は報告を受けていないのだ! 受けていないのだから、それはもう、私の責任ではない! 報告しなかった者が悪いのだ!」

 おっと、ここでさらに責任転嫁で自分の罪をなくそうと。ほんとクズね。クズなくらいに、政治家としてはふさわしい。
 ということはアレね。前パパの教え。『政治家を敵に回したなら、徹底的に潰せ。さもないと復活して背後から襲われる』と。

 ま、もとから手加減してやるつもりはないけど。

「それはもう。現場の責任は大きいでしょう」

「そ、そうだ! だから私は悪く――」

「ですがそれを管理するのも上に立つ者の義務。高貴な者の責務ノブレスオブリージュとでもいいましょうか。そもそも至高の座にある我らが王を守るためのこの中央区。それをまともに警備できない無能なおさなど無用。国王陛下もきっとそれを望まれるでしょう」

「…………ぁ」

 あら、言葉を失くしてしまったみたいね。さて、これまででも十分だけど、もう一押し。やるならやるべきか。

 だが、このジュエリ男爵は私の予想を超えての愚か者だった。

「こ、この者たちを捕縛せよ! 衛兵! 中央首都警備隊! 全員集合! この逆賊どもを捕まえるのだ!!」

 ジュエリ男爵がヒステリックに叫ぶ。
 その命令は当然、彼の部下に伝達され実行された。もちろん最初は戸惑った。当然だ。私は一応、この国のトップの娘。何かあれば責任を取られるのは捕縛にかかわった人たちだ。それが彼らを躊躇させる。

「早くしろ! それとも貴様が『地下』に行くか!?」

 だがそれを取り払ったのはジュエリ男爵だ。『地下』が何かは知らないけど、それだけで衛兵の顔色が変わった。それは恐怖から腹をくくった男の顔だ。

 あらら、ちょっと追い詰めすぎちゃったかなぁ。
 前からは衛兵が。そして呼子によって周囲からバタバタと駆けつけてくるのは、本来この中央区を警備するための兵たち。全身を覆う鎧に、ランス型の武器と威圧感は超一級。

「お、おいエリ! ヤバいぜ!」

「くっ。まさかこのような愚かな行動に出るとは」

 ダウンゼンとクロイツェルが私を挟んで守ろうとするが、すでに周囲を包囲されてどうしようもない。
 30の貴族たちも恐慌状態で、泣きわめいたり叫んだりうるさい限り。

「ふはははは! どうだ、今なら泣いて土下座すれば許してやるぞ!」

 さらにうるさい男爵さん。
 やれやれ。どうしてこういう人って、有利な状況になると居丈高にふんぞり返ってうるさくなるのかしら。

 私?
 私はいつもと変わらないわ。
 たとえ相手が“勘違い”で悦にいってるとしても、こちらが圧倒的有利だとしても。微笑みは絶やさず、優雅にことを進めるだけ。
 表情は表に出さず、腹の中であざ笑ってやる。

 そう、今のように。

 さぁ、反撃の幕を開けましょう。慎みやかに。厳かに。そして、激しく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...