27 / 68
25話 反撃の策謀
しおりを挟む
前にジュエリ男爵とその衛兵10人。
左右、そして後ろに取り囲むようにするのは彼の部下。警備隊の面々が30人ほど。
もはや30人の貴族たちはすっかり観念してしまったようで、その場でへたりこんだり呆然と突っ立ったりするだけ。泣きわめき叫んで暴れられるよりはマシかな。情けないけど。
ただこの2人は違った。
「くっ、エリーゼ様。ここは逃げましょう! おいそこの平民。エリーゼ様が逃げる時間を稼げ」
「ほぅ? エリを逃がすのは賛成だが、その稼ぐ時間に、てめぇを逃がす時間も入ってねぇよな?」
「当然だろう。私は貴族である以前にエリーゼ様の婚約者。こんなところで果てていいものではない」
「ほぉぉぉぅ? 喧嘩売ってんだな? エリと婚約すんのは俺様だってこと、知らねぇようだな?」
「妄言は寝てからいいたまえ。それとも怪しい薬物にでも手を出したか?」
「よし、買った! その喧嘩! てめぇ表出やがれ!」
「ここはもう表だが? そんなことも分からないとは。それに私は荒事は苦手でね。だから君に任せた。そういうの得意そうだろう?」
「て、てめぇ……」
「くはは、仲間割れか! 無駄無駄! もはやその小娘が泣き喚いて謝罪しない限りは貴様らは『地下』行きだ!! いや、もはや謝っても許さぬ! 貴様らは一生飼い殺しにして、わしに逆らった愚かさを悔やみながら衰弱死させてやる!!」
なんかよく分からない口喧嘩をするクロイツェルとダウンゼン。
その様子を見て哄笑するジュエリ男爵。
はぁ。まったく。
何をやってるんだか。味方も、敵も。
こんな茶番がクライマックス、大団円への前奏曲だと勘違いしている。
その愚かさを、笑う。嗤う。さぁ、哂え。
「本当」
私は右手を挙げる。
すらりと伸びたエリの美しい指。それが天を指し、私の意のままに動く。
それを見た誰もがピタリと止まる。
この期に及んで何をするのか。一瞬、注目が集まる。
だから――
「バカね、男って」
「あ?」
私の策が発動する。
パチンと指を鳴らす。
するとこれまで私たちにその矛を向けて囲んでいた警備兵たちが、その先を天に向けたかと思うと、そのまま包囲を解いて今度はジュエリ男爵の屋敷の門前に殺到。勝利を確信していたジュエリ男爵の周囲にいた衛兵全員を一撃のもとに打倒し、制圧するとジュエリ男爵を囲むように展開する。
そして最後に門をくぐった男。
銀の鎧に赤いマントを羽織った偉丈夫。警備隊の隊長だと誰もが一目でわかるその装束に、たくましい髭を生やしたダンディーなおじ様。
確か名前はグルートルさん。
グルートル隊長はつかつかとジュエリ男爵のもとへと向かう。
それを誰もが不審、というより何が起きているのか分からず眺めている。
ジュエリ男爵も、笑顔を凍らせて、表情だけでなく全身も凍らせて隊長が目の前まで来るのを眺めているだけだった。
そんなジュエリ男爵に対し、グルートルはかかとを鳴らして静止すると、おごそかに告げた。
「ジュエリ男爵、ご同行願いましょうか」
「な、なななな……なにをしている! 捕まえるのはあちらの方だ!」
「残念ながらカシュトルゼ様には逮捕する罪状が見当たらないのです」
「バカな! こんな徒党を組んで、わしの屋敷に乗り込んできて……それが罪にならないというのか!? 平民が押し寄せたなど嘘をついてわしを嵌めようとするなど、神をも恐れぬ所業! かのクソガキを捕まえて拷問にしなければ気が済まん!」
「はて、なんのことでしょうか?」
「な、何が、だと? こやつらは徒党を、そう、騒乱罪だ! 都を貶める反逆、そう、反逆罪! それと、えぇと、そう、わし! 貴族を侮辱する侮辱罪! それをやつはやったのだ!」
「なるほど、それが罪状なのですね」
「うむ! そうだ! だからさっさとあのガキを捕まえろ!」
「分かりました。ではその罪状――騒乱罪に反逆罪、貴族様をけなした侮辱罪にてジュエリ男爵を逮捕いたします」
「だからなぜだ!? こいつらは、徒党を組んで押し入ったのだぞ!?」
「いえ、違います」
「な、なにがだ!?」
「カシュトルゼ様は何も騒乱罪に値することはしておりません。むしろ協力していただいたのですよ」
「きょ、協力? だ、だから騒乱だろう!?」
「いえ、違います。国家反逆罪に当たる罪人を逃さぬために時間稼ぎをしてもらったのです。罪人を屋敷から出さないために」
「あ……」
「それに、証拠もあるのですよ。ここに、私たちへの“命令書”が」
「…………」
ジュエリ男爵が茫然とした様子で反論を、思考を、すべてを止めてしまった。
ああ、なんて哀れ。でも同情はしませんわ。
だって、こうしなかったら今頃私たちがあっちの立場になっていたんだから。
相手は剣を抜いた。それなのに追い詰められたら許してくれなんて、そんな甘い現実。ありえるわけがない。
誰かが言った。撃っていいのは撃たれる覚悟のある者のみだと。
だから私は同情しない。助命もしない。
覚悟をして、相手に引き金を引く。
パァン
手を打ち鳴らし、前へ出る。
「パーフェクトですわ。ムッシュ・グルートル」
「いえ、こちらこそご協力感謝いたします、カシュトルゼ様」
グルートル隊長が慇懃に頭を下げる。
うぅん。この渋くて従順なさま。これもまた良しね。
「な、な、な、なにを……ま、まさか貴様!!」
わなわなと体を震わせるジュエリ男爵。
ほんの数分前までの圧倒的優位に対する哄笑。その姿を今のこの男に見せてあげたい。ねぇ、今どんな気持ち? って。
いえ、ここはもう最後の仕上げ。
だから精一杯、彼に敗北を教えて差し上げましょう。
徹底的な敗北を。そうしないと、復讐が怖いですから。心をへし折らせていただきますわ。
「ええ、仕組ませていただきました」
そう言って、出来る限り見下すように、微笑みを浮かべて私は言った。
左右、そして後ろに取り囲むようにするのは彼の部下。警備隊の面々が30人ほど。
もはや30人の貴族たちはすっかり観念してしまったようで、その場でへたりこんだり呆然と突っ立ったりするだけ。泣きわめき叫んで暴れられるよりはマシかな。情けないけど。
ただこの2人は違った。
「くっ、エリーゼ様。ここは逃げましょう! おいそこの平民。エリーゼ様が逃げる時間を稼げ」
「ほぅ? エリを逃がすのは賛成だが、その稼ぐ時間に、てめぇを逃がす時間も入ってねぇよな?」
「当然だろう。私は貴族である以前にエリーゼ様の婚約者。こんなところで果てていいものではない」
「ほぉぉぉぅ? 喧嘩売ってんだな? エリと婚約すんのは俺様だってこと、知らねぇようだな?」
「妄言は寝てからいいたまえ。それとも怪しい薬物にでも手を出したか?」
「よし、買った! その喧嘩! てめぇ表出やがれ!」
「ここはもう表だが? そんなことも分からないとは。それに私は荒事は苦手でね。だから君に任せた。そういうの得意そうだろう?」
「て、てめぇ……」
「くはは、仲間割れか! 無駄無駄! もはやその小娘が泣き喚いて謝罪しない限りは貴様らは『地下』行きだ!! いや、もはや謝っても許さぬ! 貴様らは一生飼い殺しにして、わしに逆らった愚かさを悔やみながら衰弱死させてやる!!」
なんかよく分からない口喧嘩をするクロイツェルとダウンゼン。
その様子を見て哄笑するジュエリ男爵。
はぁ。まったく。
何をやってるんだか。味方も、敵も。
こんな茶番がクライマックス、大団円への前奏曲だと勘違いしている。
その愚かさを、笑う。嗤う。さぁ、哂え。
「本当」
私は右手を挙げる。
すらりと伸びたエリの美しい指。それが天を指し、私の意のままに動く。
それを見た誰もがピタリと止まる。
この期に及んで何をするのか。一瞬、注目が集まる。
だから――
「バカね、男って」
「あ?」
私の策が発動する。
パチンと指を鳴らす。
するとこれまで私たちにその矛を向けて囲んでいた警備兵たちが、その先を天に向けたかと思うと、そのまま包囲を解いて今度はジュエリ男爵の屋敷の門前に殺到。勝利を確信していたジュエリ男爵の周囲にいた衛兵全員を一撃のもとに打倒し、制圧するとジュエリ男爵を囲むように展開する。
そして最後に門をくぐった男。
銀の鎧に赤いマントを羽織った偉丈夫。警備隊の隊長だと誰もが一目でわかるその装束に、たくましい髭を生やしたダンディーなおじ様。
確か名前はグルートルさん。
グルートル隊長はつかつかとジュエリ男爵のもとへと向かう。
それを誰もが不審、というより何が起きているのか分からず眺めている。
ジュエリ男爵も、笑顔を凍らせて、表情だけでなく全身も凍らせて隊長が目の前まで来るのを眺めているだけだった。
そんなジュエリ男爵に対し、グルートルはかかとを鳴らして静止すると、おごそかに告げた。
「ジュエリ男爵、ご同行願いましょうか」
「な、なななな……なにをしている! 捕まえるのはあちらの方だ!」
「残念ながらカシュトルゼ様には逮捕する罪状が見当たらないのです」
「バカな! こんな徒党を組んで、わしの屋敷に乗り込んできて……それが罪にならないというのか!? 平民が押し寄せたなど嘘をついてわしを嵌めようとするなど、神をも恐れぬ所業! かのクソガキを捕まえて拷問にしなければ気が済まん!」
「はて、なんのことでしょうか?」
「な、何が、だと? こやつらは徒党を、そう、騒乱罪だ! 都を貶める反逆、そう、反逆罪! それと、えぇと、そう、わし! 貴族を侮辱する侮辱罪! それをやつはやったのだ!」
「なるほど、それが罪状なのですね」
「うむ! そうだ! だからさっさとあのガキを捕まえろ!」
「分かりました。ではその罪状――騒乱罪に反逆罪、貴族様をけなした侮辱罪にてジュエリ男爵を逮捕いたします」
「だからなぜだ!? こいつらは、徒党を組んで押し入ったのだぞ!?」
「いえ、違います」
「な、なにがだ!?」
「カシュトルゼ様は何も騒乱罪に値することはしておりません。むしろ協力していただいたのですよ」
「きょ、協力? だ、だから騒乱だろう!?」
「いえ、違います。国家反逆罪に当たる罪人を逃さぬために時間稼ぎをしてもらったのです。罪人を屋敷から出さないために」
「あ……」
「それに、証拠もあるのですよ。ここに、私たちへの“命令書”が」
「…………」
ジュエリ男爵が茫然とした様子で反論を、思考を、すべてを止めてしまった。
ああ、なんて哀れ。でも同情はしませんわ。
だって、こうしなかったら今頃私たちがあっちの立場になっていたんだから。
相手は剣を抜いた。それなのに追い詰められたら許してくれなんて、そんな甘い現実。ありえるわけがない。
誰かが言った。撃っていいのは撃たれる覚悟のある者のみだと。
だから私は同情しない。助命もしない。
覚悟をして、相手に引き金を引く。
パァン
手を打ち鳴らし、前へ出る。
「パーフェクトですわ。ムッシュ・グルートル」
「いえ、こちらこそご協力感謝いたします、カシュトルゼ様」
グルートル隊長が慇懃に頭を下げる。
うぅん。この渋くて従順なさま。これもまた良しね。
「な、な、な、なにを……ま、まさか貴様!!」
わなわなと体を震わせるジュエリ男爵。
ほんの数分前までの圧倒的優位に対する哄笑。その姿を今のこの男に見せてあげたい。ねぇ、今どんな気持ち? って。
いえ、ここはもう最後の仕上げ。
だから精一杯、彼に敗北を教えて差し上げましょう。
徹底的な敗北を。そうしないと、復讐が怖いですから。心をへし折らせていただきますわ。
「ええ、仕組ませていただきました」
そう言って、出来る限り見下すように、微笑みを浮かべて私は言った。
2
あなたにおすすめの小説
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる