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40話 無為の策
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「くっ、エリーゼ様が襲われるなど……まったく、お前は一体何をしていたのか。私なら襲撃犯をその場で逮捕していたのに」
「あ? その場にいなかった負け犬の遠吠えが良く言うぜ」
「ふん。お前こそ、逃げられてよく得意満面でいられるな」
部屋の扉を開けると、そんな言い争う声が耳に入って来た。
当然ダウンゼンとクロイツェルの2人だ。
ここは私の屋敷の控えの間。
さすがに密談するには選挙事務所は人の目が多すぎるということで、急遽ここに集まった。
集まったといっても、あの日、私を助けてくれたダウンゼンは護衛としてここまで送ってもらい、念のために泊ってもらったので、その翌日である今朝にクロイツェルに来てもらった形になるけど。
ただあの夜のことは今思い出しても身震いする。
命が狙われること。まさか自分にそれが来るとは思わなかった。
ああ、本当に恐ろしい。
あんなことになるなら――
もっと徹底的に潰さないとダメね。
ああ、今からそれを思うと身震いしてしまうわ。
自分の思考の恐ろしさに。
それにしても帰宅した時は疲れた。
『な、な、なななな! エリ! なんだその男は! 男と2人で帰宅など……え、襲われた? 殺されそうになった? …………許せん! 私のエリになんてことをするのか! 誰だ! 誰がやった! わかった、あのアードとかいう馬鹿者だな! よし、エリ。今晩は私と共に寝よう! ああ、そこの君。悪かった。まさかエリを守ってくれるとは。本当に感謝に絶えない。君は? うん、平民か。では金一封を与えようじゃ――あぁ!? ご、が……エ、エリ……なんでパパを蹴るの?』
なんというか。本当に疲れた。今パパのノリに。
というわけで一応の賓客対応でダウンゼンに泊ってもらって、クロイツェルが来て早々のこの悶着。
「あなたたち、いい加減にしてくれる?」
「おお、エリ! 無事だったか、良かった」
「良かったもなにも、自宅だし」
「申し訳ありません、エリーゼ様。あなたの騎士となる私が傍にいないなど」
「いや、頼んでないけど」
ダウンゼンもクロイツェルも何か勘違いしてないかしら?
困るわー。こういう勘違いの手合い。ま、そこらへんはおいおい調教していきましょう。
「で、なんで手出し無用なんだよエリ! こんなのあのガーヒルの差し金に決まってるだろ! なら速攻リベンジだな!」
「この男と同意見というのは虫唾が走りますが、私も納得いきません。ここは彼らの非を唱えて徹底的に糾弾すべきでしょう!」
2人とも完全に頭に血が上っちゃってるわね。
てかなんで当事者じゃないこの2人が頭に来てるのよ。私? 当然冷静よ。冷酷とも言うけど。
「無理」
「な、なんでだよ」
「だって、証拠ないもの」
「しょ、証拠って……」
「証拠は重要よ。それがあるとないとでは説得力が段違い。そうじゃない?」
「し、しかしだなぁ」
「エリーゼ様、ここで何も手を打たないのであれば、相手を図に乗らせるだけではないでしょうか。黙っているということは反撃が来ない。つまり相手は安心して第二、第三の刺客を送り込んできますよ」
「そう、それ! 俺が言いたかったの!」
クロイツェルはさすがね。ちゃんと人間の本質を見ている。
ダウンゼンは……まぁこっち方面では期待してないからいいわ。
「それは大丈夫よ」
「しかし!」
「それにあなた間違ってるわ」
「え?」
「なんで私が何も手を打たないと思ったの?」
「それは、さっき無理とおっしゃっていたのでは……」
「ああ、そういう。さっき無理って言ったのは、証拠もなしに糾弾するってことよ」
「なに! ってことはエリ、証拠があるんだな!?」
「あるわけないじゃない。だって唯一の証拠はあなたが取り逃がしちゃったんだもの」
「あ……」
指摘されがっくりとうなだれるダウンゼン。
「嘘よ。いえ、嘘じゃないけど、あれを捕まえてもガーヒルたちにたどり着くのは難しかったでしょうね。それより命をかけて守ってくれてありがとう」
「お、おおおぅよ!! 俺はエリのためなら火の中、海の中!」
海にはいかないけどね。
けどちょっとお礼を言っただけでここまでのぼせ上がるなんて。単純ね。
「しかしエリーゼ様。それでは一体どんな手を?」
「聞きたい?」
「はぁ……」
クロイツェルがどこか引いた目線を向けて来る。
それはどんな手が飛び出してくるのか、という警戒と、自分が打てない手があるのかという自尊心のものだ。
まったく、男ってのはどうしてこうメンツにこだわるのか。
メンツなんてものにこだわるから、すぐに切った張ったの展開になるのが分からないのかしら。
今回も同じ。
目には目を、歯には歯をといって相手に刺客を送っても、それは相手に更なる反撃の口実を与えるだけ。
せっかく相手から手を出してきてくれたんだもの。
それをしっかり有効活用してあげないと、相手側にも失礼というもの。そしてそれは相手を一気に追い詰める道具とする。
「お聞かせ願えますか?」
クロイツェルが覚悟を決めた視線を向けた。
うん。ならそれに応えてあげるのが上に立つものとしての役目。
「すべきことは単純よ」
「ごくり」
「待つの。何もせずにね」
「あ? その場にいなかった負け犬の遠吠えが良く言うぜ」
「ふん。お前こそ、逃げられてよく得意満面でいられるな」
部屋の扉を開けると、そんな言い争う声が耳に入って来た。
当然ダウンゼンとクロイツェルの2人だ。
ここは私の屋敷の控えの間。
さすがに密談するには選挙事務所は人の目が多すぎるということで、急遽ここに集まった。
集まったといっても、あの日、私を助けてくれたダウンゼンは護衛としてここまで送ってもらい、念のために泊ってもらったので、その翌日である今朝にクロイツェルに来てもらった形になるけど。
ただあの夜のことは今思い出しても身震いする。
命が狙われること。まさか自分にそれが来るとは思わなかった。
ああ、本当に恐ろしい。
あんなことになるなら――
もっと徹底的に潰さないとダメね。
ああ、今からそれを思うと身震いしてしまうわ。
自分の思考の恐ろしさに。
それにしても帰宅した時は疲れた。
『な、な、なななな! エリ! なんだその男は! 男と2人で帰宅など……え、襲われた? 殺されそうになった? …………許せん! 私のエリになんてことをするのか! 誰だ! 誰がやった! わかった、あのアードとかいう馬鹿者だな! よし、エリ。今晩は私と共に寝よう! ああ、そこの君。悪かった。まさかエリを守ってくれるとは。本当に感謝に絶えない。君は? うん、平民か。では金一封を与えようじゃ――あぁ!? ご、が……エ、エリ……なんでパパを蹴るの?』
なんというか。本当に疲れた。今パパのノリに。
というわけで一応の賓客対応でダウンゼンに泊ってもらって、クロイツェルが来て早々のこの悶着。
「あなたたち、いい加減にしてくれる?」
「おお、エリ! 無事だったか、良かった」
「良かったもなにも、自宅だし」
「申し訳ありません、エリーゼ様。あなたの騎士となる私が傍にいないなど」
「いや、頼んでないけど」
ダウンゼンもクロイツェルも何か勘違いしてないかしら?
困るわー。こういう勘違いの手合い。ま、そこらへんはおいおい調教していきましょう。
「で、なんで手出し無用なんだよエリ! こんなのあのガーヒルの差し金に決まってるだろ! なら速攻リベンジだな!」
「この男と同意見というのは虫唾が走りますが、私も納得いきません。ここは彼らの非を唱えて徹底的に糾弾すべきでしょう!」
2人とも完全に頭に血が上っちゃってるわね。
てかなんで当事者じゃないこの2人が頭に来てるのよ。私? 当然冷静よ。冷酷とも言うけど。
「無理」
「な、なんでだよ」
「だって、証拠ないもの」
「しょ、証拠って……」
「証拠は重要よ。それがあるとないとでは説得力が段違い。そうじゃない?」
「し、しかしだなぁ」
「エリーゼ様、ここで何も手を打たないのであれば、相手を図に乗らせるだけではないでしょうか。黙っているということは反撃が来ない。つまり相手は安心して第二、第三の刺客を送り込んできますよ」
「そう、それ! 俺が言いたかったの!」
クロイツェルはさすがね。ちゃんと人間の本質を見ている。
ダウンゼンは……まぁこっち方面では期待してないからいいわ。
「それは大丈夫よ」
「しかし!」
「それにあなた間違ってるわ」
「え?」
「なんで私が何も手を打たないと思ったの?」
「それは、さっき無理とおっしゃっていたのでは……」
「ああ、そういう。さっき無理って言ったのは、証拠もなしに糾弾するってことよ」
「なに! ってことはエリ、証拠があるんだな!?」
「あるわけないじゃない。だって唯一の証拠はあなたが取り逃がしちゃったんだもの」
「あ……」
指摘されがっくりとうなだれるダウンゼン。
「嘘よ。いえ、嘘じゃないけど、あれを捕まえてもガーヒルたちにたどり着くのは難しかったでしょうね。それより命をかけて守ってくれてありがとう」
「お、おおおぅよ!! 俺はエリのためなら火の中、海の中!」
海にはいかないけどね。
けどちょっとお礼を言っただけでここまでのぼせ上がるなんて。単純ね。
「しかしエリーゼ様。それでは一体どんな手を?」
「聞きたい?」
「はぁ……」
クロイツェルがどこか引いた目線を向けて来る。
それはどんな手が飛び出してくるのか、という警戒と、自分が打てない手があるのかという自尊心のものだ。
まったく、男ってのはどうしてこうメンツにこだわるのか。
メンツなんてものにこだわるから、すぐに切った張ったの展開になるのが分からないのかしら。
今回も同じ。
目には目を、歯には歯をといって相手に刺客を送っても、それは相手に更なる反撃の口実を与えるだけ。
せっかく相手から手を出してきてくれたんだもの。
それをしっかり有効活用してあげないと、相手側にも失礼というもの。そしてそれは相手を一気に追い詰める道具とする。
「お聞かせ願えますか?」
クロイツェルが覚悟を決めた視線を向けた。
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