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第4章 ジャンヌの西進
閑話43 堂島美柑(エイン帝国軍元帥)
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陽が傾きだしたころ、撤退の鉦を鳴らした。
初戦は引き分けといいたいが、実質的には敗北だろう。
あれだけ攻め立てて、城門を破ったものの、結局は打ち払われたようなものだ。
「これは手こずりそうだな」
陣幕から出て、遠くに首都スィート・スィトンを見て腕を組みながら考える。
今日の戦闘。
悪いところは特になかった。
だが相手の対応が意表をついてきた。
あの鉄砲の使い方にはやられた、と思った。
そしてまさかあんな簡単に兵の――国民の命を使い捨てるとは思わなかった。
決死隊。
別にそれが悪いとは思わない。
兵の有効活用と言えばそれだけだ。
達臣などは激しく怒りを表していたが、自分としては新興国家ながらも、よくやれた、と思ったくらいだ。
いや、あの姉弟のスキルを考えればそれも簡単か。
なによりタイミングが効果的だった。
あれで城門を抜くのは難しくなった。
仮に東門や南門を攻めても同じ結果になるだろう。
何より、兵たちに恐怖を植え付けた。
城門から攻めればああなるということを。
心中を迫る捨て身の兵ほど性質の悪いものはない。
生きて勝って帰ろうとする兵にとって、割に合わないのだ。
しかもあちらの方が“弾”は断然多い。
1人1殺を心がけても、我々だけでなくオムカ軍とビンゴ軍を滅ぼしておつりがくるのだ。
成立からして終わっている国としては、国民の命などどうでもいいということなのか。
ふん、あの姉弟。最初見た時からイカレていると思ったがここまでとは。
こうなると30万を皆殺しにしない限り終わらないのではないかと思う。
30万の皆殺し。
それも選択肢のうちの1つで、それは昨日の会見でも話をした。
だが実質問題、それはかなり厳しいと言わざるを得ないようだ。30万もの人間をただ殺すなんてことはあり得ない。
相手は城にこもって捨て身で反撃してくるのだ。
それだけでこちらに死傷者も出るわけだから、先に全滅するのはこちら。
仮に野戦のように一気に勝負をつける機会があったとて、それで30万もの人間を殺せるわけがない。
負ければ逃げて散らばるだろうし、仮に掃討戦を行えたとして部下たちの心がやられる。
30万もの人間を殺したという罪の意識に、間違いなく心が穢れるのだ。
そうなったらその兵は使い物にならない。
これまで幾多の戦いを経験してきたこの精鋭を駄目にするのは、これからの楽しみを思うと断固として許容できない。
現に今日、城門を中心に攻めた第一部隊は、捨て身の敵にかなり恐怖を抱ているようだ。
「ここにいたのかい」
声をかけられた。
椎葉だ。
この軍の中で、このようにラフに話しかけてくるのは彼しかいない。
それを幕僚は戦々恐々としているが、別にラフに話しかけてくれる分には問題ない。
それが聞くに値するかどうか、それだけだ。
達臣の横にはやはりあの副官がいる。
こちらを見る目が険しいのは、横取りされると思っているのだろうか。
一度、彼女とは白黒はっきりつけるとしよう。そんな戯言を思った。
「情けない姿を見せてしまったかな?」
「そうでもない。あれはしょうがないさ。相手の方が上手だった」
「そういえば私は攻城戦が初めてだった。まいったな。私ならできるなんて大見得を切って陥とせなければ……」
「それは恥ずかしいね」
「言うなよ。これでもかなり参っているんだ。何かいい知恵はないか?」
「そうだな……」
椎葉は口元に手をやり考え込む。
だがすぐに口を開いた。
もしかしたら最初からそれを言いに来たのかと考えてしまうほどの即決だった。
「焼こうか?」
「焼けるのか?」
主語のない会話。
だがお互い何を対象とした会話かは分かっている。
だからこそ、即答に即答で返せたわけだ。
「焼ける……いや、焼くさ。そうしなければ無駄な犠牲が出る」
それは覚悟を決めるような、自分に言い聞かせるような言葉だった。
彼はスキルを使って、あの城門に陣取る鉄砲隊を土嚢ごと焼こうかと言っているのだ。
確かにそれは軍略上、正しい判断だ。
だが心情的に、彼はまだそこに達し得ていない。
その無理が重なればどうなるか。
正直、自分にとって彼はある意味対等の存在だ。
杏なども近しい存在だが、いつかは寝首をかかれる可能性のある間柄だし、煌夜は目的のための同士と言うべき存在。
掛け値なしの、対等な友人という枠は、この椎葉達臣しか知らない。
だから正直、彼にそれをやらせるのは躊躇った。
彼に穢れてもらっては、今後の楽しみが減る。
そんな気持ちもあったから、自分としてはあまり好まない選択をとることになる。
保留という選択肢を。
「明日から雨になりそうだ。それまでは無理な攻めはやめて、他の手を探ってみるさ。それは最終手段としておこう」
「…………すまない」
感謝なのか謝罪なのか、なんのための感謝なのか、なんのための謝罪なのか。それは問わない。
問わずに、別のことを聞く。
「オムカとビンゴの様子は?」
「ああ。変わらない。いや、何かし始めたな。城の西側で穴掘りしてるよ」
「何をしてくるかわからない。が、とりあえずこちらに攻め寄せるつもりはないようだな」
あのジャンヌ・ダルクといった少女。
期待外れだったが、それだけで終わらないような意志の強い目をしていた。
だから彼女が何をやってくるか。
それによって、ここの戦線も動く。
そんな気がした。
「引き続き監視は続けてくれ」
「分かった」
話はそれで終わりだった。
とりあえず明日からは流しながら攻城することになる。
それで攻略の機をつかむ。
だから話はそれで終わりだったはずだ。
それでも達臣が去らないのは、もっと話したい内容があるからだろう。
「彼女のことなんだが……」
椎葉が切り出したのはジャンヌ・ダルク――のことではもちろんない。
「また、か」
「ああ、また、だ。今日攻めた部隊にいる」
やれやれと思う。
とんでもない荷物を拾ってしまったと。
「行ってみようか」
そのまま歩き出す。
今日、攻城の最前線を戦い抜いた第一部隊の陣だ。
近づくにつれ、旋律が聞こえた。
もちろんこの軍に楽器――軍楽隊なんてものはない。
だから聞こえてくるのは歌声。ア・カペラにもかかわらず、増幅された透き通るような歌声だ。
その声に聞き覚えがある。
あの感銘は忘れない。
だがどこか違う。
アヤの歌は、そう。大草原にそよぐ一陣の風のよう。
だが今聞こえてくる歌は、激しく殴りつけるような暴風雨のような様。
バラードとロックの違いのようなものだろう。よく知らないが。
林田林檎が歌っていた。
兵たちの中央、空いたスペースを舞台にして、声高々と天に向かって己の情動をぶつけていた。
兵たちはその周囲で酒を片手に騒いでいる。
その様子を黙ってみている自分が怒っていると思ったのだろう。
すまなそうな顔で椎葉が謝罪してきた。
「すまない。酒を許したのは僕だ」
「いや、いい」
今日1日、命を賭けて戦ってくれた彼らだ。
捨て身の敵に恐怖し、それでもなお生き延びた彼らは肉体以上に精神も傷ついたはずだ。
そんな彼らの心を慰めるために酒を配り、騒ぐことを許した椎葉の判断は間違っていない。
だが、近くにいた兵がこちらに視線を向けた。
酒で赤らめた顔が見る見るうちに蒼白になり、目をこれ以上ないくらいに見開いて隣の同僚の肩をバシバシと叩く。
迷惑そうにしていた隣の同僚もこちらを見ると同じ反応をした。
それからは早かった。
「げ、元帥!」「お、おい皆! 沈まれ! 元帥がいらっしゃったぞ!」「おい! そこ! 静かにしろ!」
冷風が吹き抜けたように、はしゃぐ彼らから熱が一気に消滅する。
やれやれ。いつもこれだ。
別に私が許可したのだから、ここでかしこまることもないだろうに。
とはいえそれを指摘してやるつもりはない。
私は彼らの母親ではないのだから。
だからその場から黙って立ち去ろうとして――
「ちょっと、ミカンちゃん! せっかく盛り上がってんだからしらけさせないでよー」
初めて異議が出た。
出たのだが……。
「林檎。その呼び名はやめてくれと言ったはずだが……」
発言の主。林檎をにらみつけるように言う。
本当、似合わない。
私の名前。
林檎に言われるのにそこまで抵抗はないが、部下の手前もあるし、何より顔を背け必死に笑いをこらえる椎葉が気に食わなかった。
「でもね。せっかくみんなといい感じにアガってたのに、急にきてガン下げするとか、ほんと萎えるんだけど」
「……そう、なのか」
言っている意味がよくわからなかった。
だが自分の存在が兵たちによくない事をしているのは伝わった。
ただ周囲の空気が変わったのが分かる。
誰もがこちらに遠慮したような、怯えるような視線を送る。
私にこうも意見をする人間は今までいなかったからだろう。いても、その都度叩き潰してきた。今回もそうなると思われているのだろう。
「うん、そうだ。ならさ。ミカンちゃんもテンションあげてこーよ! ほら、手を振り上げて!」
何を馬鹿なことを。
そう言って立ち去ろうとした。
だがそれより先に林檎がこちらにやってきて、満面の笑みで私の横で右手を高々と突き上げる。
「ほら、こうこう!」
「む……お、おう……?」
無理やり挙げられた右手。
よくわからない。音楽とか、ライブとか。全然かかわりのない人生を送ってきたから。
それでも笑みを濃くする林檎の顔を見るのは、なんだか心地が良い。
「そうそう。じゃあ次の曲いくよー!」
満足そうにうなずいた林檎は、兵たちの方へと戻って声を絞り出す。
するとその場の空気が変わった。
兵たちが頬を紅潮させ、手を振り上げて踊りだす。
酒を片手に、占有と肩を組んで歌いだす。食器を並べて棒でたたくというドラムのまねごとをする兵も出てきた。
自分がここにいることなんて忘れているかのように、彼らは騒ぐ。
いや、忘れさせられたのだ。
存在を上書きされたのだ。
目の前の。たった1人の歌声によって。
やはりアヤとは違う。
自己主張という点では同じくらいに強いが、林檎の歌は攻撃的だ。
人を焚き付けるような、心の奥底にあるものを燃やさせるような、そんな何かがある。
「聞いてくれてありがとー!」
一曲歌い終わった林檎が、笑顔で手を振る。それにこたえるように、兵たちが歓声を上げる。
その人数も第一部隊の人数をはるかに超えている。
近くの部隊も何事かと覗きに来て、林檎の歌声のとりことなっていたようだ。
「……ふぅ、まったく」
今攻められたらどうするつもりだ。
まったく、あとで責任者には罰を与えないとな……。
と、そのため息を勘違いした林檎が、我に返ったように謝ってくる。
「あ、ごめんなさい、勝手に盛り上がっちゃって。でも、なんかとても元気なさそうだったから」
聞けば、身も心も傷ついたこの部隊は、まさにお通夜のような状態だったという。
だから元気づけるために歌った。
それが彼女の言い分。
椎葉はその後に酒を提供したということ。
「まぁ、いい」
そう言ってやると、林檎はホッとしたような、何よりも嬉しそうな笑顔を向けてくる。
何が良かったのだろうか。
わからない。
ただ、何の気になしに聞いていた。
「歌は、元の世界で?」
「はい! 実はここに来る前はバンドのボーカルやってたんです! そこそこファンもいて、まぁ、ちょっとうまくいかなくなっちゃいましたけど。だから歌が好きなんです。歌うことは私にとって呼吸と同じ、命なんです!」
「そう、か……」
何かに情熱的になれること。
それは素晴らしいことだとは思う。
自分にはもう存在しない、何かに熱くなれるということ。
どうせこの城も、いずれは陥ちる。
勝つことが決まった勝負というのはどうも……彼女の言い方をするなら、あがらない。
とはいえそのために必要な犠牲はそれなりに多くなる。
正直、今日戦った部隊はしばらく使い物にならないだろうと思った。
最悪、死兵として使い捨てるしかないと思っていた。
だが、それを彼女は救った。
歌で命を救ったのだ。
音楽の力なんて知らなかった私としてはこの効果は目を見張るもので、1千人分の働きをしたと言っても過言ではない。
「あのー、怒ってます?」
黙ってしまった自分が怒っているように見えたのだろう。
だから私は首を振って、誤解を否定してやった。
そのうえで頼む。
「たまにでいい。気が向いたら歌ってくれないか。兵たちのために。もちろん戦闘中は勘弁してもらうが」
「え、いいんですか? ここが私のステージ……はい、やります! 一生懸命歌います!」
「そ、そうか……」
「じゃあ早速ボイトレとかしてきますね、ミカンちゃんもどうです!?」
「いや、私は、その……だ、だからその名前は……困る」
どうもここ最近、彼女の意気込みというか、熱量に押され気味だ。
はじめは死にそうな目でこちらを見ていたのに、今ではこうも生き生きとしている。
それはとても嬉しいことで、安心できることでもある。
けどそれとは逆に、彼女の顔を見ると不安な気持ちが沸き起こるのは確か。
アヤ・クレイン。
一度しか聞いていないが、その歌声は私の心の中に何か影響を与えた。
そしてその声と顔、そして歌を持つ林檎。
このつながりに意味はあるのか。
可能性としてあるのが煌夜に示された1つの可能性。
煌夜が女神を殺そうとしている1つの理由。
それを自分は誰にもしゃべっていない。
椎葉にも、だ。
だが、ふと聞いてみたくなった。
あるいは、自分1人で悩み苦しんでいるのが馬鹿らしくなったからかもしれない。
「椎葉、聞いていいか?」
「げふんっ! っと、なにかな。……いや、何も笑ってないとも」
目をぴくぴくさせ、口角を上にあげた状態で椎葉が振り向く。
それほどおかしいか、私の名前が!
林檎に振り回される私が!
……いや、いい。それを言いつのっても無駄だ。
ため息1つ。それで心を落ち着ける。
そして聞いた。
「お前は元の世界に戻りたいか?」
「……そうだね。戻りたいといえば戻りたいな。それがどうかしたのかい?」
「もし、もしもだ……」
そこで一旦言葉を切る。
どこまで話すか。いや、まずは探りだ。
「もし、元の世界なんてものは存在しない。そう言われたら、お前はどうする?」
椎葉は怪訝そうな顔をした。
質問の意図が分からないのと、なぜそんなことを聞くのか理解しかねる表情だ。
「どういう、意味かな?」
「そのままの意味だ。私たちが来た世界が存在しない。そう言われたら、お前はどうする?」
「……意味が分からないな。それならここにいる僕たちはなんだ? 幽霊なのか? だが……ふぅん。もし本当にそうなら……とりあえず裏を取る調査から始めるかな。それで別の方法でアプローチして立証してからその意味を考えるさ。ま、僕みたいな劣等が存在しないとしても、世界に影響は与えないだろうけど」
「…………強いな、お前は」
「諦めているだけとも言える」
「そういうものか」
それでも、諦められるのは強いこと。
自分はそれを聞かされて、こうも動揺しているというのに。
それを裏付ける存在が現れて、少なくとも不要な問いをしてしまっているというのに。
「そうか。そうだな。まだ決定したわけじゃない。煌夜の勘違いということもある。まだ、結論を出すには早い、か」
「なんかよくわからないが……まぁ、話を聞くくらいのことはするよ。いつでも言ってくれ」
椎葉が苦笑する。
その笑みが、どこか私の中にあるかたくなな部分を溶かす。
そんな気がして、ため息を1つ。地面に落とした。
初戦は引き分けといいたいが、実質的には敗北だろう。
あれだけ攻め立てて、城門を破ったものの、結局は打ち払われたようなものだ。
「これは手こずりそうだな」
陣幕から出て、遠くに首都スィート・スィトンを見て腕を組みながら考える。
今日の戦闘。
悪いところは特になかった。
だが相手の対応が意表をついてきた。
あの鉄砲の使い方にはやられた、と思った。
そしてまさかあんな簡単に兵の――国民の命を使い捨てるとは思わなかった。
決死隊。
別にそれが悪いとは思わない。
兵の有効活用と言えばそれだけだ。
達臣などは激しく怒りを表していたが、自分としては新興国家ながらも、よくやれた、と思ったくらいだ。
いや、あの姉弟のスキルを考えればそれも簡単か。
なによりタイミングが効果的だった。
あれで城門を抜くのは難しくなった。
仮に東門や南門を攻めても同じ結果になるだろう。
何より、兵たちに恐怖を植え付けた。
城門から攻めればああなるということを。
心中を迫る捨て身の兵ほど性質の悪いものはない。
生きて勝って帰ろうとする兵にとって、割に合わないのだ。
しかもあちらの方が“弾”は断然多い。
1人1殺を心がけても、我々だけでなくオムカ軍とビンゴ軍を滅ぼしておつりがくるのだ。
成立からして終わっている国としては、国民の命などどうでもいいということなのか。
ふん、あの姉弟。最初見た時からイカレていると思ったがここまでとは。
こうなると30万を皆殺しにしない限り終わらないのではないかと思う。
30万の皆殺し。
それも選択肢のうちの1つで、それは昨日の会見でも話をした。
だが実質問題、それはかなり厳しいと言わざるを得ないようだ。30万もの人間をただ殺すなんてことはあり得ない。
相手は城にこもって捨て身で反撃してくるのだ。
それだけでこちらに死傷者も出るわけだから、先に全滅するのはこちら。
仮に野戦のように一気に勝負をつける機会があったとて、それで30万もの人間を殺せるわけがない。
負ければ逃げて散らばるだろうし、仮に掃討戦を行えたとして部下たちの心がやられる。
30万もの人間を殺したという罪の意識に、間違いなく心が穢れるのだ。
そうなったらその兵は使い物にならない。
これまで幾多の戦いを経験してきたこの精鋭を駄目にするのは、これからの楽しみを思うと断固として許容できない。
現に今日、城門を中心に攻めた第一部隊は、捨て身の敵にかなり恐怖を抱ているようだ。
「ここにいたのかい」
声をかけられた。
椎葉だ。
この軍の中で、このようにラフに話しかけてくるのは彼しかいない。
それを幕僚は戦々恐々としているが、別にラフに話しかけてくれる分には問題ない。
それが聞くに値するかどうか、それだけだ。
達臣の横にはやはりあの副官がいる。
こちらを見る目が険しいのは、横取りされると思っているのだろうか。
一度、彼女とは白黒はっきりつけるとしよう。そんな戯言を思った。
「情けない姿を見せてしまったかな?」
「そうでもない。あれはしょうがないさ。相手の方が上手だった」
「そういえば私は攻城戦が初めてだった。まいったな。私ならできるなんて大見得を切って陥とせなければ……」
「それは恥ずかしいね」
「言うなよ。これでもかなり参っているんだ。何かいい知恵はないか?」
「そうだな……」
椎葉は口元に手をやり考え込む。
だがすぐに口を開いた。
もしかしたら最初からそれを言いに来たのかと考えてしまうほどの即決だった。
「焼こうか?」
「焼けるのか?」
主語のない会話。
だがお互い何を対象とした会話かは分かっている。
だからこそ、即答に即答で返せたわけだ。
「焼ける……いや、焼くさ。そうしなければ無駄な犠牲が出る」
それは覚悟を決めるような、自分に言い聞かせるような言葉だった。
彼はスキルを使って、あの城門に陣取る鉄砲隊を土嚢ごと焼こうかと言っているのだ。
確かにそれは軍略上、正しい判断だ。
だが心情的に、彼はまだそこに達し得ていない。
その無理が重なればどうなるか。
正直、自分にとって彼はある意味対等の存在だ。
杏なども近しい存在だが、いつかは寝首をかかれる可能性のある間柄だし、煌夜は目的のための同士と言うべき存在。
掛け値なしの、対等な友人という枠は、この椎葉達臣しか知らない。
だから正直、彼にそれをやらせるのは躊躇った。
彼に穢れてもらっては、今後の楽しみが減る。
そんな気持ちもあったから、自分としてはあまり好まない選択をとることになる。
保留という選択肢を。
「明日から雨になりそうだ。それまでは無理な攻めはやめて、他の手を探ってみるさ。それは最終手段としておこう」
「…………すまない」
感謝なのか謝罪なのか、なんのための感謝なのか、なんのための謝罪なのか。それは問わない。
問わずに、別のことを聞く。
「オムカとビンゴの様子は?」
「ああ。変わらない。いや、何かし始めたな。城の西側で穴掘りしてるよ」
「何をしてくるかわからない。が、とりあえずこちらに攻め寄せるつもりはないようだな」
あのジャンヌ・ダルクといった少女。
期待外れだったが、それだけで終わらないような意志の強い目をしていた。
だから彼女が何をやってくるか。
それによって、ここの戦線も動く。
そんな気がした。
「引き続き監視は続けてくれ」
「分かった」
話はそれで終わりだった。
とりあえず明日からは流しながら攻城することになる。
それで攻略の機をつかむ。
だから話はそれで終わりだったはずだ。
それでも達臣が去らないのは、もっと話したい内容があるからだろう。
「彼女のことなんだが……」
椎葉が切り出したのはジャンヌ・ダルク――のことではもちろんない。
「また、か」
「ああ、また、だ。今日攻めた部隊にいる」
やれやれと思う。
とんでもない荷物を拾ってしまったと。
「行ってみようか」
そのまま歩き出す。
今日、攻城の最前線を戦い抜いた第一部隊の陣だ。
近づくにつれ、旋律が聞こえた。
もちろんこの軍に楽器――軍楽隊なんてものはない。
だから聞こえてくるのは歌声。ア・カペラにもかかわらず、増幅された透き通るような歌声だ。
その声に聞き覚えがある。
あの感銘は忘れない。
だがどこか違う。
アヤの歌は、そう。大草原にそよぐ一陣の風のよう。
だが今聞こえてくる歌は、激しく殴りつけるような暴風雨のような様。
バラードとロックの違いのようなものだろう。よく知らないが。
林田林檎が歌っていた。
兵たちの中央、空いたスペースを舞台にして、声高々と天に向かって己の情動をぶつけていた。
兵たちはその周囲で酒を片手に騒いでいる。
その様子を黙ってみている自分が怒っていると思ったのだろう。
すまなそうな顔で椎葉が謝罪してきた。
「すまない。酒を許したのは僕だ」
「いや、いい」
今日1日、命を賭けて戦ってくれた彼らだ。
捨て身の敵に恐怖し、それでもなお生き延びた彼らは肉体以上に精神も傷ついたはずだ。
そんな彼らの心を慰めるために酒を配り、騒ぐことを許した椎葉の判断は間違っていない。
だが、近くにいた兵がこちらに視線を向けた。
酒で赤らめた顔が見る見るうちに蒼白になり、目をこれ以上ないくらいに見開いて隣の同僚の肩をバシバシと叩く。
迷惑そうにしていた隣の同僚もこちらを見ると同じ反応をした。
それからは早かった。
「げ、元帥!」「お、おい皆! 沈まれ! 元帥がいらっしゃったぞ!」「おい! そこ! 静かにしろ!」
冷風が吹き抜けたように、はしゃぐ彼らから熱が一気に消滅する。
やれやれ。いつもこれだ。
別に私が許可したのだから、ここでかしこまることもないだろうに。
とはいえそれを指摘してやるつもりはない。
私は彼らの母親ではないのだから。
だからその場から黙って立ち去ろうとして――
「ちょっと、ミカンちゃん! せっかく盛り上がってんだからしらけさせないでよー」
初めて異議が出た。
出たのだが……。
「林檎。その呼び名はやめてくれと言ったはずだが……」
発言の主。林檎をにらみつけるように言う。
本当、似合わない。
私の名前。
林檎に言われるのにそこまで抵抗はないが、部下の手前もあるし、何より顔を背け必死に笑いをこらえる椎葉が気に食わなかった。
「でもね。せっかくみんなといい感じにアガってたのに、急にきてガン下げするとか、ほんと萎えるんだけど」
「……そう、なのか」
言っている意味がよくわからなかった。
だが自分の存在が兵たちによくない事をしているのは伝わった。
ただ周囲の空気が変わったのが分かる。
誰もがこちらに遠慮したような、怯えるような視線を送る。
私にこうも意見をする人間は今までいなかったからだろう。いても、その都度叩き潰してきた。今回もそうなると思われているのだろう。
「うん、そうだ。ならさ。ミカンちゃんもテンションあげてこーよ! ほら、手を振り上げて!」
何を馬鹿なことを。
そう言って立ち去ろうとした。
だがそれより先に林檎がこちらにやってきて、満面の笑みで私の横で右手を高々と突き上げる。
「ほら、こうこう!」
「む……お、おう……?」
無理やり挙げられた右手。
よくわからない。音楽とか、ライブとか。全然かかわりのない人生を送ってきたから。
それでも笑みを濃くする林檎の顔を見るのは、なんだか心地が良い。
「そうそう。じゃあ次の曲いくよー!」
満足そうにうなずいた林檎は、兵たちの方へと戻って声を絞り出す。
するとその場の空気が変わった。
兵たちが頬を紅潮させ、手を振り上げて踊りだす。
酒を片手に、占有と肩を組んで歌いだす。食器を並べて棒でたたくというドラムのまねごとをする兵も出てきた。
自分がここにいることなんて忘れているかのように、彼らは騒ぐ。
いや、忘れさせられたのだ。
存在を上書きされたのだ。
目の前の。たった1人の歌声によって。
やはりアヤとは違う。
自己主張という点では同じくらいに強いが、林檎の歌は攻撃的だ。
人を焚き付けるような、心の奥底にあるものを燃やさせるような、そんな何かがある。
「聞いてくれてありがとー!」
一曲歌い終わった林檎が、笑顔で手を振る。それにこたえるように、兵たちが歓声を上げる。
その人数も第一部隊の人数をはるかに超えている。
近くの部隊も何事かと覗きに来て、林檎の歌声のとりことなっていたようだ。
「……ふぅ、まったく」
今攻められたらどうするつもりだ。
まったく、あとで責任者には罰を与えないとな……。
と、そのため息を勘違いした林檎が、我に返ったように謝ってくる。
「あ、ごめんなさい、勝手に盛り上がっちゃって。でも、なんかとても元気なさそうだったから」
聞けば、身も心も傷ついたこの部隊は、まさにお通夜のような状態だったという。
だから元気づけるために歌った。
それが彼女の言い分。
椎葉はその後に酒を提供したということ。
「まぁ、いい」
そう言ってやると、林檎はホッとしたような、何よりも嬉しそうな笑顔を向けてくる。
何が良かったのだろうか。
わからない。
ただ、何の気になしに聞いていた。
「歌は、元の世界で?」
「はい! 実はここに来る前はバンドのボーカルやってたんです! そこそこファンもいて、まぁ、ちょっとうまくいかなくなっちゃいましたけど。だから歌が好きなんです。歌うことは私にとって呼吸と同じ、命なんです!」
「そう、か……」
何かに情熱的になれること。
それは素晴らしいことだとは思う。
自分にはもう存在しない、何かに熱くなれるということ。
どうせこの城も、いずれは陥ちる。
勝つことが決まった勝負というのはどうも……彼女の言い方をするなら、あがらない。
とはいえそのために必要な犠牲はそれなりに多くなる。
正直、今日戦った部隊はしばらく使い物にならないだろうと思った。
最悪、死兵として使い捨てるしかないと思っていた。
だが、それを彼女は救った。
歌で命を救ったのだ。
音楽の力なんて知らなかった私としてはこの効果は目を見張るもので、1千人分の働きをしたと言っても過言ではない。
「あのー、怒ってます?」
黙ってしまった自分が怒っているように見えたのだろう。
だから私は首を振って、誤解を否定してやった。
そのうえで頼む。
「たまにでいい。気が向いたら歌ってくれないか。兵たちのために。もちろん戦闘中は勘弁してもらうが」
「え、いいんですか? ここが私のステージ……はい、やります! 一生懸命歌います!」
「そ、そうか……」
「じゃあ早速ボイトレとかしてきますね、ミカンちゃんもどうです!?」
「いや、私は、その……だ、だからその名前は……困る」
どうもここ最近、彼女の意気込みというか、熱量に押され気味だ。
はじめは死にそうな目でこちらを見ていたのに、今ではこうも生き生きとしている。
それはとても嬉しいことで、安心できることでもある。
けどそれとは逆に、彼女の顔を見ると不安な気持ちが沸き起こるのは確か。
アヤ・クレイン。
一度しか聞いていないが、その歌声は私の心の中に何か影響を与えた。
そしてその声と顔、そして歌を持つ林檎。
このつながりに意味はあるのか。
可能性としてあるのが煌夜に示された1つの可能性。
煌夜が女神を殺そうとしている1つの理由。
それを自分は誰にもしゃべっていない。
椎葉にも、だ。
だが、ふと聞いてみたくなった。
あるいは、自分1人で悩み苦しんでいるのが馬鹿らしくなったからかもしれない。
「椎葉、聞いていいか?」
「げふんっ! っと、なにかな。……いや、何も笑ってないとも」
目をぴくぴくさせ、口角を上にあげた状態で椎葉が振り向く。
それほどおかしいか、私の名前が!
林檎に振り回される私が!
……いや、いい。それを言いつのっても無駄だ。
ため息1つ。それで心を落ち着ける。
そして聞いた。
「お前は元の世界に戻りたいか?」
「……そうだね。戻りたいといえば戻りたいな。それがどうかしたのかい?」
「もし、もしもだ……」
そこで一旦言葉を切る。
どこまで話すか。いや、まずは探りだ。
「もし、元の世界なんてものは存在しない。そう言われたら、お前はどうする?」
椎葉は怪訝そうな顔をした。
質問の意図が分からないのと、なぜそんなことを聞くのか理解しかねる表情だ。
「どういう、意味かな?」
「そのままの意味だ。私たちが来た世界が存在しない。そう言われたら、お前はどうする?」
「……意味が分からないな。それならここにいる僕たちはなんだ? 幽霊なのか? だが……ふぅん。もし本当にそうなら……とりあえず裏を取る調査から始めるかな。それで別の方法でアプローチして立証してからその意味を考えるさ。ま、僕みたいな劣等が存在しないとしても、世界に影響は与えないだろうけど」
「…………強いな、お前は」
「諦めているだけとも言える」
「そういうものか」
それでも、諦められるのは強いこと。
自分はそれを聞かされて、こうも動揺しているというのに。
それを裏付ける存在が現れて、少なくとも不要な問いをしてしまっているというのに。
「そうか。そうだな。まだ決定したわけじゃない。煌夜の勘違いということもある。まだ、結論を出すには早い、か」
「なんかよくわからないが……まぁ、話を聞くくらいのことはするよ。いつでも言ってくれ」
椎葉が苦笑する。
その笑みが、どこか私の中にあるかたくなな部分を溶かす。
そんな気がして、ため息を1つ。地面に落とした。
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