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第4章 ジャンヌの西進
第76話 決戦前夜
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帝国軍の攻城戦が始まって3日が経った。
12月も中旬に入ろうとしている。
……そういえば、マリアは元気かなぁ。
あいつもそろそろ誕生日を迎えるはずだ。いや、もう過ぎたのか?
13、いや14にもうなったのか。
本来ならそれまでに終わらせるつもりだったんだが……これも仕事だ。仕方ない。
なんか仕事で娘の誕生日を祝えず家庭内がぎくしゃくするサラリーマンみたいな言い訳だった。
ともあれ、そろそろ2か月になろうとしているこの遠征も、いよいよ終わりの時が近づいてきた。
細工は流々。あとは仕上げを御覧じろってところか。
「明日、決着をつける」
俺は会議に集まった面々にそう告げた。
サカキ、クロエ、ウィット、クルレーン、ブリーダ、そして喜志田にクロス。
サールは外で警護してもらっている。
こう見れば俺の周りからも随分人が減った。
センドは今も首都に潜入中だが、ヴィレスそしてフレールが戦死。景斗が離脱し、里奈と愛良が遠く離れた場所にいる。
ちなみに今名前が出てこなかった人物として竜胆がいるわけだが。
『というわけで来ちゃいました、正義の使者、玖門竜胆、参上DEATH!』
というのが3日前。偵察に出た俺を待っていた竜胆の言葉だった。
『なんでいるの?』
最近、無断で来るのが流行ってるのか?
そう思ったが、彼女が持ってきたのは驚くべき情報だった。
『なんかオムカから人が来て、それにお姉ちゃんが会ったんです。本当は先輩に報告したかったらしいんですけど』
『お姉ちゃんって、里奈か?』
『はいー! 里奈お姉ちゃんに愛良の姐さんです!』
あぁ、結局愛良は姐さんに落ち着いたんだなぁ。
けど解せない。
それと竜胆がここにいる意味がつながらなかったのだ。
『それで、そのオムカの人から話を聞いたら、急にお姉ちゃんがオムカに帰るって言い出したんです』
『なんだって?』
『それでお姉ちゃんから言われて、竜胆が先輩に報告に、姐さんがお姉ちゃんについてオムカに戻りました』
『ちょ、ちょっと待て。その、里奈が戻った理由って……その使者が持ってきた話ってのはなんなんだ?』
『すみません、ちょっとそれは聞けなかったです。お姉ちゃん。1人でその話を聞いたので』
里奈……何やってんだよ。
それから3日。
もやもやした気分の中で、過ごしてきた。
里奈が何を聞いたのか、そしてなぜオムカに戻るという判断を下したのか。何より、なぜ俺にその内容を告げなかったのか。
それが分からない。
ただ竜胆についてはある意味助かった。
彼女のスキルが大いに役立って、仕掛けは万端に整った。
彼女がいなければもう少し時間はかかっていただろうし、その時間は戦局に大きな影響を落としただろう。
あるいは彼女のスキルの利便性を見越して里奈が派遣してきたと見えなくもない。
ただ分かったのはそれだけで、それ以外は何もはっきりしないまま時間だけが過ぎていく。
どこかとてつもない嫌な予感が胸を締め付けているようで、早くケリをつけてしまいたかった。
けどここで焦ればこれまでの2か月のすべてが無駄になる可能性がある。
だけじゃなく、ここにいる2万の仲間や、首都に籠る30万の一般人たちが命を落とす可能性があると思うと、じりじりと過ぎていく時間を焦りながら耐えるしかなかった。
そして今日。
仕掛けもおおよそ完成して、あとは明日を迎えるだけとなり、こうして招集したわけで。
「明日の昼前後。タイミングを見て例の仕掛けを発動させる。そうすると“必ず帝国軍もユートピア軍も混乱する”からそこを狙って帝国軍を撃退。そのままスィート・スィトンも陥とす」
「本当にそんなうまくいくー? ここ数日、あいつら完全に流してるじゃん。つまり余力を持ってるってことだよ」
喜志田の言う通り、ここ数日。帝国軍は城攻めを流していた。手を抜いていると言ってもいい。
初日がかなり衝撃的だったのだろう。2日目に東門を突破したものの、同じような光景が続いてさすがに懲りたらしい。どこかタイミングを見ているようで、それはじっくりと爪を研ぐ猛獣のような慎重さを垣間見た。
けど、それに対しても手は打っている。
「大丈夫だ。日が暮れて城攻めが終わったら、帝国軍に手紙を送る。内容はこうだ。明日の午後、我々は城を落とすのでじっくり検分されたし、ってな」
「でもジャンヌ。そんなことしたら怒って夜も朝も攻めるんじゃないか? 最悪、こっちに来るかも」
「いや、無視すると思うよ。あの女はうちらなんざ眼中にない。まぁちょっとは焦って、城攻めに本腰入れるかもだけど」
サカキの不安を喜志田が一刀両断した。
そう、こっちとしてはそれが狙いだ。
「喜志田の言う通りだろう。だからこそこちらの奇襲になる。各位、そのつもりで作戦を聞いてくれ」
それから俺は全員に作戦を伝えた。
やることは簡単。
だが明日が決戦となれば、次第に聞く相手も真剣になる。
概要はすべて話した。
そして最も重要なところが残る。
「それでこれが一番大事。帝国元帥、その本陣への強襲だ」
俺が凄みを聞かせて伝える。
それはまさにあの最強の部隊に突っ込むという、超重大な役割。
それを理解してか、誰もが一瞬かたずをのむ中――
「あ、それやるやるー」
まさかの喜志田が名乗りをあげた。
てか軽いな。
「やれるのか、喜志田?」
「アッキー、なめてもらっちゃ困るよ。もともとこれはビンゴ王国の戦いなんだから。無念の討ち死にした在位0日の先王のためにも、しっかりぶっ殺して終わりにするよ」
「本音は?」
「もちろんあの傲慢豊満増上慢女を叩きのめす」
だろうねぇ。
ま、いっか。
このやる気は本物みたいだし、明日までは持つだろう。
というわけで、あとは細かい調整を行ってその場は散会となった。
勝つにせよ負けるにせよ、辛かった野営もこえで終わり。
最後の食事をとり、そして帝国軍への手紙も出し終えて、簡易的に作られた個室で疲れを取ることにした。
一応、夜の寒風はさえぎってくれるものの、暖房機材などないから中は寒い。だから熱した炭を陶器の収めた火鉢のようなものを、兵たちには持たせているのだが。
本来ならクロエが先に部屋を暖めてくれているのだが、明日の準備のためにここにはいない。
彼女はビンゴ軍が展開する南の陣で今夜は泊まることになっている。
出火の原因になるから火鉢はつけっぱなしというわけにはいかない。
だから火鉢を抱えて毛布を何重にも羽織って部屋が温まるのを待っていたのだが。
「先輩ー」
竜胆が来た。
最近の竜胆の服はあか抜けていて、長袖のグレーのアウターにチェック柄の膝までのスカートを合わせている。
この寒空の中でも生足を出したオシャレな格好だった。
『おしゃれは気合、正義です!』
なんてことを言っていたが、兵たちの目つきが尋常じゃなくなったためにロングパンツをはかせた。
軍には女性もいるとはいっても、まだまだ男の方が多い。その中に、太ももをちらつかせるような服装の女子がいると何が起こるかわからないのだ。
『うぅー、こんなの正義じゃない~』
などと泣き言を言っていたが、問答無用だった。
というより竜胆の身のためを思ってのことなんだけどな。
もしかしてそのことで来たのか?
竜胆の来訪の意図が分からず、ドアを開けたままだと外気が入ってくるのでとりあえず中に入れた。
「どうした、竜胆?」
「お風呂入りましょう!」
思わず火鉢をひっくり返すところだった。
「な、なんと?」
「だからお風呂入りましょうよ。そんな縮こまって寒さを我慢しても駄目です。寒い日はお風呂こそが正義なのですよ!」
「いや、俺はこれでいい」
竜胆とお風呂というのは、嬉し恥ずかしのドキドキよりも恐怖のドキドキの方が勝る。
もし俺が男だとばれたら、正義の名のもとに正義が執行されるだろう……。
「そんなこと言って、駄目ですよ。ちゃんとキレイにしないと」
「いや、別に体を拭くぐらいで十分だし」
元の世界にいたころは、2、3日の徹夜なんて当たり前だったし、風呂に入らないことも多かった。
さすがに里奈の手前では、シャワーくらいは浴びてたが。
だから別に不便なことはなかった。
「駄目です、先輩は女の子なんですよ!」
「そうはいっても……風呂ってあれだろ。五右衛門風呂だろ?」
「それがいいんじゃあないですか! 一緒に入ってあったまりましょう!」
「いやだー! 狭いし熱いし外寒いし!」
「寒いからこそ正義です! さ、行きましょう!」
「いーーーやーーーー!」
「むぅ、分かりました。そんなに羽織ってるのがいけないんですね!」
「ちょ、おい! 何するんだ、やめろー!」
竜胆が有無を言わさず、俺を寒風から守る毛布を脱がしにかかる。
「子供は風の子、元気の子! さぁさぁ取っ払っちゃいますよ!」
「俺はもう大人だ!」
「正義執行です!」
「執行するな! 脱げる!」
必死に毛布を守ろうとするが、悲しきかな筋力最低。
竜胆にすら負けてずるずると引っ張られる。
それに合わせて自分の来ている上着もずるずると脱げていく。
くそ、こんな時に筋力があれば……!
いや、ここは頭を使え。てこの原理を使えば、これを逆用して――
そんなどうでもいい攻防が続いている時だ。
「ジャンヌー、いるかー? ちょっと話が――」
と、その時。部屋の外からサカキの声が聞こえた。
そして俺が答える前にドアが開き、その人物が入ってきた。
「「「あ――」」」
俺、竜胆、サカキの声が重なる。
そのついでに、俺の抵抗が止まった一瞬。竜胆がすぽんと俺を守っていた毛布を引っぺがした。
俺の上着とともに。
時間が止まった。
この光景。
竜胆ともつれ合った状態で、俺は上着をひん剥かれた状態。
つまり胸元を隠すものはなく、そこに視線を感じるのは当然であって――
「――――っ!」
急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。
そして沸き起こるのは怒り。
ノックもせずに入ってきた不届き者に対する殺意だ。
「この――」
「ラ、ラッキー。じゃなく、まずい!」
「「変態!」」
俺と竜胆がえいやと投げた火鉢が飛んで、サカキにクリーンヒットした。
よい子はまねしないように。
竜胆と目が合う。
何も言わず手が出た。
ハイタッチ。
全く、決戦前夜だというのに何やってんだか。
12月も中旬に入ろうとしている。
……そういえば、マリアは元気かなぁ。
あいつもそろそろ誕生日を迎えるはずだ。いや、もう過ぎたのか?
13、いや14にもうなったのか。
本来ならそれまでに終わらせるつもりだったんだが……これも仕事だ。仕方ない。
なんか仕事で娘の誕生日を祝えず家庭内がぎくしゃくするサラリーマンみたいな言い訳だった。
ともあれ、そろそろ2か月になろうとしているこの遠征も、いよいよ終わりの時が近づいてきた。
細工は流々。あとは仕上げを御覧じろってところか。
「明日、決着をつける」
俺は会議に集まった面々にそう告げた。
サカキ、クロエ、ウィット、クルレーン、ブリーダ、そして喜志田にクロス。
サールは外で警護してもらっている。
こう見れば俺の周りからも随分人が減った。
センドは今も首都に潜入中だが、ヴィレスそしてフレールが戦死。景斗が離脱し、里奈と愛良が遠く離れた場所にいる。
ちなみに今名前が出てこなかった人物として竜胆がいるわけだが。
『というわけで来ちゃいました、正義の使者、玖門竜胆、参上DEATH!』
というのが3日前。偵察に出た俺を待っていた竜胆の言葉だった。
『なんでいるの?』
最近、無断で来るのが流行ってるのか?
そう思ったが、彼女が持ってきたのは驚くべき情報だった。
『なんかオムカから人が来て、それにお姉ちゃんが会ったんです。本当は先輩に報告したかったらしいんですけど』
『お姉ちゃんって、里奈か?』
『はいー! 里奈お姉ちゃんに愛良の姐さんです!』
あぁ、結局愛良は姐さんに落ち着いたんだなぁ。
けど解せない。
それと竜胆がここにいる意味がつながらなかったのだ。
『それで、そのオムカの人から話を聞いたら、急にお姉ちゃんがオムカに帰るって言い出したんです』
『なんだって?』
『それでお姉ちゃんから言われて、竜胆が先輩に報告に、姐さんがお姉ちゃんについてオムカに戻りました』
『ちょ、ちょっと待て。その、里奈が戻った理由って……その使者が持ってきた話ってのはなんなんだ?』
『すみません、ちょっとそれは聞けなかったです。お姉ちゃん。1人でその話を聞いたので』
里奈……何やってんだよ。
それから3日。
もやもやした気分の中で、過ごしてきた。
里奈が何を聞いたのか、そしてなぜオムカに戻るという判断を下したのか。何より、なぜ俺にその内容を告げなかったのか。
それが分からない。
ただ竜胆についてはある意味助かった。
彼女のスキルが大いに役立って、仕掛けは万端に整った。
彼女がいなければもう少し時間はかかっていただろうし、その時間は戦局に大きな影響を落としただろう。
あるいは彼女のスキルの利便性を見越して里奈が派遣してきたと見えなくもない。
ただ分かったのはそれだけで、それ以外は何もはっきりしないまま時間だけが過ぎていく。
どこかとてつもない嫌な予感が胸を締め付けているようで、早くケリをつけてしまいたかった。
けどここで焦ればこれまでの2か月のすべてが無駄になる可能性がある。
だけじゃなく、ここにいる2万の仲間や、首都に籠る30万の一般人たちが命を落とす可能性があると思うと、じりじりと過ぎていく時間を焦りながら耐えるしかなかった。
そして今日。
仕掛けもおおよそ完成して、あとは明日を迎えるだけとなり、こうして招集したわけで。
「明日の昼前後。タイミングを見て例の仕掛けを発動させる。そうすると“必ず帝国軍もユートピア軍も混乱する”からそこを狙って帝国軍を撃退。そのままスィート・スィトンも陥とす」
「本当にそんなうまくいくー? ここ数日、あいつら完全に流してるじゃん。つまり余力を持ってるってことだよ」
喜志田の言う通り、ここ数日。帝国軍は城攻めを流していた。手を抜いていると言ってもいい。
初日がかなり衝撃的だったのだろう。2日目に東門を突破したものの、同じような光景が続いてさすがに懲りたらしい。どこかタイミングを見ているようで、それはじっくりと爪を研ぐ猛獣のような慎重さを垣間見た。
けど、それに対しても手は打っている。
「大丈夫だ。日が暮れて城攻めが終わったら、帝国軍に手紙を送る。内容はこうだ。明日の午後、我々は城を落とすのでじっくり検分されたし、ってな」
「でもジャンヌ。そんなことしたら怒って夜も朝も攻めるんじゃないか? 最悪、こっちに来るかも」
「いや、無視すると思うよ。あの女はうちらなんざ眼中にない。まぁちょっとは焦って、城攻めに本腰入れるかもだけど」
サカキの不安を喜志田が一刀両断した。
そう、こっちとしてはそれが狙いだ。
「喜志田の言う通りだろう。だからこそこちらの奇襲になる。各位、そのつもりで作戦を聞いてくれ」
それから俺は全員に作戦を伝えた。
やることは簡単。
だが明日が決戦となれば、次第に聞く相手も真剣になる。
概要はすべて話した。
そして最も重要なところが残る。
「それでこれが一番大事。帝国元帥、その本陣への強襲だ」
俺が凄みを聞かせて伝える。
それはまさにあの最強の部隊に突っ込むという、超重大な役割。
それを理解してか、誰もが一瞬かたずをのむ中――
「あ、それやるやるー」
まさかの喜志田が名乗りをあげた。
てか軽いな。
「やれるのか、喜志田?」
「アッキー、なめてもらっちゃ困るよ。もともとこれはビンゴ王国の戦いなんだから。無念の討ち死にした在位0日の先王のためにも、しっかりぶっ殺して終わりにするよ」
「本音は?」
「もちろんあの傲慢豊満増上慢女を叩きのめす」
だろうねぇ。
ま、いっか。
このやる気は本物みたいだし、明日までは持つだろう。
というわけで、あとは細かい調整を行ってその場は散会となった。
勝つにせよ負けるにせよ、辛かった野営もこえで終わり。
最後の食事をとり、そして帝国軍への手紙も出し終えて、簡易的に作られた個室で疲れを取ることにした。
一応、夜の寒風はさえぎってくれるものの、暖房機材などないから中は寒い。だから熱した炭を陶器の収めた火鉢のようなものを、兵たちには持たせているのだが。
本来ならクロエが先に部屋を暖めてくれているのだが、明日の準備のためにここにはいない。
彼女はビンゴ軍が展開する南の陣で今夜は泊まることになっている。
出火の原因になるから火鉢はつけっぱなしというわけにはいかない。
だから火鉢を抱えて毛布を何重にも羽織って部屋が温まるのを待っていたのだが。
「先輩ー」
竜胆が来た。
最近の竜胆の服はあか抜けていて、長袖のグレーのアウターにチェック柄の膝までのスカートを合わせている。
この寒空の中でも生足を出したオシャレな格好だった。
『おしゃれは気合、正義です!』
なんてことを言っていたが、兵たちの目つきが尋常じゃなくなったためにロングパンツをはかせた。
軍には女性もいるとはいっても、まだまだ男の方が多い。その中に、太ももをちらつかせるような服装の女子がいると何が起こるかわからないのだ。
『うぅー、こんなの正義じゃない~』
などと泣き言を言っていたが、問答無用だった。
というより竜胆の身のためを思ってのことなんだけどな。
もしかしてそのことで来たのか?
竜胆の来訪の意図が分からず、ドアを開けたままだと外気が入ってくるのでとりあえず中に入れた。
「どうした、竜胆?」
「お風呂入りましょう!」
思わず火鉢をひっくり返すところだった。
「な、なんと?」
「だからお風呂入りましょうよ。そんな縮こまって寒さを我慢しても駄目です。寒い日はお風呂こそが正義なのですよ!」
「いや、俺はこれでいい」
竜胆とお風呂というのは、嬉し恥ずかしのドキドキよりも恐怖のドキドキの方が勝る。
もし俺が男だとばれたら、正義の名のもとに正義が執行されるだろう……。
「そんなこと言って、駄目ですよ。ちゃんとキレイにしないと」
「いや、別に体を拭くぐらいで十分だし」
元の世界にいたころは、2、3日の徹夜なんて当たり前だったし、風呂に入らないことも多かった。
さすがに里奈の手前では、シャワーくらいは浴びてたが。
だから別に不便なことはなかった。
「駄目です、先輩は女の子なんですよ!」
「そうはいっても……風呂ってあれだろ。五右衛門風呂だろ?」
「それがいいんじゃあないですか! 一緒に入ってあったまりましょう!」
「いやだー! 狭いし熱いし外寒いし!」
「寒いからこそ正義です! さ、行きましょう!」
「いーーーやーーーー!」
「むぅ、分かりました。そんなに羽織ってるのがいけないんですね!」
「ちょ、おい! 何するんだ、やめろー!」
竜胆が有無を言わさず、俺を寒風から守る毛布を脱がしにかかる。
「子供は風の子、元気の子! さぁさぁ取っ払っちゃいますよ!」
「俺はもう大人だ!」
「正義執行です!」
「執行するな! 脱げる!」
必死に毛布を守ろうとするが、悲しきかな筋力最低。
竜胆にすら負けてずるずると引っ張られる。
それに合わせて自分の来ている上着もずるずると脱げていく。
くそ、こんな時に筋力があれば……!
いや、ここは頭を使え。てこの原理を使えば、これを逆用して――
そんなどうでもいい攻防が続いている時だ。
「ジャンヌー、いるかー? ちょっと話が――」
と、その時。部屋の外からサカキの声が聞こえた。
そして俺が答える前にドアが開き、その人物が入ってきた。
「「「あ――」」」
俺、竜胆、サカキの声が重なる。
そのついでに、俺の抵抗が止まった一瞬。竜胆がすぽんと俺を守っていた毛布を引っぺがした。
俺の上着とともに。
時間が止まった。
この光景。
竜胆ともつれ合った状態で、俺は上着をひん剥かれた状態。
つまり胸元を隠すものはなく、そこに視線を感じるのは当然であって――
「――――っ!」
急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。
そして沸き起こるのは怒り。
ノックもせずに入ってきた不届き者に対する殺意だ。
「この――」
「ラ、ラッキー。じゃなく、まずい!」
「「変態!」」
俺と竜胆がえいやと投げた火鉢が飛んで、サカキにクリーンヒットした。
よい子はまねしないように。
竜胆と目が合う。
何も言わず手が出た。
ハイタッチ。
全く、決戦前夜だというのに何やってんだか。
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疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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