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第4章 ジャンヌの西進
間章3 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)
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「ねー、明彦くん」
「ん、どうした?」
水汲み場でで皿洗いをしている明彦くんが声だけで応える。
明彦くんが気を使ってくれているのか、夕飯に呼ばれるようになった。
といっても、明彦くん自身が忙しいから、そうそうご一緒できるわけじゃなく、今日で2回目だけど。
そして先に明彦くんの家に来て、料理の準備やらをしたので、今は明彦くんのがお皿を洗ってくれている。
なんかこういうのいいな。新婚さん、って感じで。
『うぅ……隊長殿と二人きりが。でもリナさんは姉……いや、でもやっぱり……』
若干、色々悩んでそうなクロエが気の毒だったけど。
なんて声をかけていいのか分からず放っておくことにした。
というわけで食後の団らんの時間。
ふと気になったこともあって、明彦くんに質問することにしたわけだけど。
まさか何気ない一言が、この後に続く大事件に発展するとは思ってもみなかった。
「クリスマスパーティってやらないの?」
「ぶっ!」
何か変な音がして、ガシャンと食器が割れる音。
「だ、大丈夫、明彦くん!?」
「あ、ああ。ちょっと割れたみたいだな」
「大変! 駄目だよ、素手で触っちゃ。えっと、ほうきとちり取りは……」
「いや。大丈夫。本当に。ちょっと欠けた感じだから」
「そ、そう……」
てかここまで動揺する明彦くんも珍しい。
そんなにいけないことを聞いたのかな。
「ふっふっふ……『くりすます』ですか」
「クロエ、知ってるの?」
「そう、リナさんは知らないのですね! 去年の『くりすますぱーてぃ』のことを!」
「まさか……何があったの!?」
「おい、クロエ。それ以上は――」
「明彦くんは黙ってて! 教えて、クロエ」
「なんで当事者の俺が……」
肩を落とす明彦くんをよそに、クロエが1枚の写真を取り出した。
「ふっ、これこそ去年の成果。リナさんは知りえない、去年の隊長殿です!」
「これは……」
写真の技術がまだそれほど発達していないのか、見慣れたカラー写真とは及びもつかないが、そこに映っているのは間違いなく明彦くん。
そしてその姿はまさかのミニスカサンタ。しかも恥ずかしそうに身を隠しているところだ。
「くっ……この衣装、素晴らしい。明彦くんの幼さと可愛さと美しさが際立つ絶妙な設計で、ミニスカサンタといえばどこか卑猥なイメージを持つそれを、一個の芸術としてしっかり落とし込んでいる。スカートとブーツに挟まれた絶対領域なんて、もう恐ろしいわ。それに何より。この明彦くんの表情。恥じらいの中に若干の見せたい欲望が出てこのポーズを作っている。この一瞬を切り取るだなんて、このカメラマンは天才だわ!」
「わざわざ俺の思考を説明するなぁ!」
「くっ、さすがリナさん。この1枚でそこまで克明に読み取るとは。さすが隊長殿が認めるだけはありますね。しかし、まだその写真はあると言ったらどうします?」
「全部買うわ!」
「買うな!」
「残念ながら、これは家宝として永久保存が決定していますので売れません。それでも見せたかった! 隊長殿の美しさを共有したいから! なにより、それを生で見たということを自慢したかったからです!」
「ぐっ、同じ趣味を持つ仲でも壮絶なマウント合戦が行われるというの……やるわね、クロエ」
「あの、もう俺ついていけないんだけど」
「明彦くん!」
「は、はい!?」
「というわけで着よ?」
「何がというわけなのかな!?」
「いいからいいから。私を信じて」
「里奈、目が座ってるぞ……」
「いいからいいから。私を信じて」
「ひっ……た、助けてクロエ……」
「まぁまぁ、ここはもう一回『さんた』になってみるのがいいですよ」
「ブルータス、お前もか!」
うふふ。明彦くんを好きな風に着せ替えする。
これに勝る役得はないわ!
「ちょっと待つさ!」
そこへ待ったが入った。
誰!? こんないいときに。
「み、ミスト……助かった」
見れば家の玄関にデデンと構えるミストさんがいた。
「なんですか、邪魔するつもりです?」
せっかくいいところだったのに。
こうなったらミストさんは『収穫』しようか。そうすればもう、誰も邪魔は入らない。
「おっと、そんなつもりはないさ。だからその剣呑な瞳はしまっておくさ」
「ならなんで止めるんですか」
「そうです! 隊長殿を『さんた』にするのはだれにも止められません!」
私とクロエの両方から言い寄られても、ミストさんは怖気ることなく言い放つ。
「そうは言ってもさ? 本人の意思を無視して着替えさせるのはどうかと思うさ」
「うん、まぁお前が言うなだけどその通りだ」
「それに去年の衣装は返しちゃったからここにはないさ」
「そうそう。着るものがないんじゃしょうがない」
「だからアッキーをここで着替えさせるのは無理なのさ」
「うん。そういうことだ。ないならしょうがない」
いちいち頷く明彦くんが癇に障ったけど、確かにミストさんの言うことは理にかなっている。
だからと言って、理に収める必要はないと思うわけだけど。
「けど無理を言ってるだけじゃ、商売というものは成り立たないのも確かさ。顧客の要望を聞き、それに対するクライアントとの折衝を行い、妥協点を見つけ出して双方ウィンウィンな関係を結ぶ。それが売れる、ということなのさ」
「はぁ……」
正直、何を言いたいのかわからない。
だから一応話だけは聞こうと、その続きを待つ。
「というわけで折衷案さ」
「折衷案?」
「そう。実は女王様から去年やった炊き出しをやろうって話になってね。まぁ炊き出しというか、こないだと同じくみんなでどんちゃん騒ぎしたいってだけの話かもしれないけど」
「はぁ……」
いったいミストさんが何を言いたいのか、まだ全然わからない。
「というわけでサンタ服を着たくないアッキーと着させたい里奈さんの折衷案」
ミストさんはビシッと明彦くんに左手の人差し指を、私たちに右手の人差し指を突き付けて言い放った。
「明後日のお祭りプロジェクトで、アッキーに好きな服を着せるコンテストをしようさ!」
「「それだ!」」
私とクロエの声がハモった。
「それだ、じゃない! え、何それ!? 公衆の面前でやれって!? なんの公開処刑!? てかそれのどこが折衷案だ!」
「いやー、これでも十分に譲ったさ。ここにいる2人と女王様とニーア氏にジーン氏、サカキ氏、ウィット氏、サール氏、マツナガ氏などなど、総勢100人くらいの要望があったから、それの折衷をしたらこうなったさ」
「なに? 100分の1を譲ったから大事なところ抜け落ちたってこと!? 事後承諾っていう言葉知ってる!?」
「まぁまぁ、明彦くん。こういうのはね。楽しんだもの勝ちだよ?」
「里奈が……どんどん違う人になっていく」
なにそれ。もう、失礼ね。
「うー、と、とりあえず拒否権を行使する!」
「拒否します。明彦くんが拒否権を使っても拒否します」
「そうです、みんな隊長殿の眼福姿を見て年を越したいのです!」
「いや、待て今年ももう終わるって時にこんなことをやってていいのか? それに費用の問題もある。場所の確保に設備の設定は? 衣装といってもどこから調達する? それから万が一人が集まった時、それをどう抑える? 警備や流入の整理やらで人でもかかるだろ。一口にやると言っても、問題は多々あるし、そんなことをしてたら年が明ける。というわけでこのイベントは無理。去年と同じ炊き出しをする、ということでいいんじゃないか?」
む……さすが明彦くん。
的確に企画の弱点をついてくる。
「んー、まぁそこらへんは多分大丈夫さ」
けどそこに出てくるのが我らがミストさんだ。
「へ?」
「ステージと設備は前々から準備してるから問題ないさ。衣装もシータ王国に発注済み。それから観客も厳正な抽選のうえで人数制限を設けたので混乱が起きる心配もなし。それに一番の費用の問題だけど、国内でクラウドファンディングを募ったところ、予想以上の金額が集まったのでそれも解決さ。あ、ちなみに対価としてアッキーの隠し撮り写真集を渡すから費用は安価なのさ」
「さすがミストさん! その理路整然とした反論に痺れる憧れる! あとでその写真集も頂戴!」
完璧だった。
さらに明彦くんは重箱の隅をつつく反論をしてきたけど、ミストさんがなんなく論破、完封した。
「それにさ。ここでアッキーが健在だと見せておけば、後々有利になるんじゃないさ? よくわからないけど、ジーンさんに言われたさ。『自らを投げうって国のために尽くす。これぞ尽忠報国の理念。さすがジャンヌ様です』とさ」
「ぐ……あのバカ……」
という感じでアッキーが完全に折れたので、開催が決定!
やった。
これで合法的に明彦くんの色々な姿が見れるのね。
それからは忙しかった。
準備は進んでいると言っても、開催が間近ということで衣装の搬入を手伝ったり、有志の警備の人への手配、明彦くんが逃げないよう監視したり、その他色々と準備している間に開催日が来た。
そして当日。
「さぁ、というわけで第197回、ジャンヌ・ダルク・ファンマスター選手権も、いよいよ佳境に入ってまいりました。実況は引き続きマールがさせていただきます。もう一度ここでルールを確認しましょう。ジャンヌ隊長に、着てほしい衣装を一般公募し、その中で得票数の多かった上位10着を、この場で隊長には着てもらいます。それを見て、どれが一番かを決めるのがこの選手権です。えー、ここまで『めいど服』『なーす服』『おいらん』『猫耳すくみず』と、シータから輸入された衣服が多いみたいですが。審査委員の皆様がたはどうお考えでしょう?」
「はい、ジャンヌ・ダルクファンクラブ、ナンバーワンのクロエです。これはまさに隊長殿との親和性が重要です。隊長殿の可憐で美しいお姿に合う服こそ至上と考えます」
「ファンクラブ名誉会長の余なのじゃ! ジャンヌといえば、今年の春に見せた『ぶるま』なる格好がやはり人々に衝撃を与えたのじゃ! ジャンヌには異国の服が似合うのじゃ!」
「明彦くんもとい、ジャンヌ・ダルクの素体を活かすのはやっぱりコスプレ衣装だと思うの。けど明彦くんに合う服は無限にあるから、そこからナンバーワンを決めるのは、もうこれを常設するしかないんじゃない?」
「なるほど。ところでお三方はなぜカメラをお持ちなのでしょう……?」
「もちろん、隊長殿の雄姿をこのカメラに収めるためです!」
「あるいは国宝指定するためじゃの」
「美しいものを記録するのに理由があって?」
そう、美しいものは永久保存。
それ以上でもそれ以下でもない。
「…………わ、わかりました。それでは準備が整ったみたいです。続きましては、去年もこの姿を見かけた人もいるのではないでしょうか! 遥かかなた、外国でこの季節に現れる子供にプレゼントを与える夢の人、『さんたくろーす』です!」
喚声と共に、ステージ中央に置かれた幕が開く。
そこから現れたのは、明彦くんだ。
サンタ服と言っても、去年とはまた違う。
クリスマスツリーを意識してか、今年は緑色のしかもワンピース型のサンタ服で、緑のニーソックスにヒールといういでたち。
これもまたGOOD!
衆人環視の視線にさらされ、顔を真っ赤にしながら登場した明彦くん。
嫌ならやめればいいのに、断ればいいのに、こんなことをして皆を盛り上げようとするその自己犠牲精神は、私なんかには到底真似できない。
それゆえに、なお一層可愛らしく美しく見えるのだからもうたまったものじゃない。
パシャ、パシャパシャ!
さっそくクロエと妹がシャッターを切る。
私も遅れずにシャッターを切った。
スマホのカメラ機能が懐かしい。あの明彦くんの美を、こんな遅くて精度の低いカメラでしか納められないなんてもったいない。あぁ、今の角度。ここでシャッターを切れたら……。ビデオカメラはまだできていないみたいだし。こんなに技術の未発達を憎んだことはないわ!
「これはまた、去年とは違ったものですがいかがでしょう、皆さん」
「素人目にはわからないかもしれませんが、これもまたパーフェクトです。ニーソックスによって隊長殿の細く長いおみ足を効率的に表現しているのです。素人目にはわからないかもしれませんが」
「うむ、ジャンヌは何を着ても似合うのじゃ―」
「安心してください。明彦くんは、審査員が後で美味しくいただきます」
「それじゃ、姉さま!」
「それじゃ、じゃないーーーーーい!」
明彦くんが、恥ずかしさからの照れなのか、それとも私たちに対する怒りなのか、顔を真っ赤にして叫ぶ。
それもまた。いい。
神様。
あぁ、神様。
こんな罪深い私にも、こんな時間を与えてくれてありがとう。
もし叶うなら……この時間がずっとずっと続きますように。
明彦くんや、周りのみんなと、一緒にいられる日々を。どうか。
「ん、どうした?」
水汲み場でで皿洗いをしている明彦くんが声だけで応える。
明彦くんが気を使ってくれているのか、夕飯に呼ばれるようになった。
といっても、明彦くん自身が忙しいから、そうそうご一緒できるわけじゃなく、今日で2回目だけど。
そして先に明彦くんの家に来て、料理の準備やらをしたので、今は明彦くんのがお皿を洗ってくれている。
なんかこういうのいいな。新婚さん、って感じで。
『うぅ……隊長殿と二人きりが。でもリナさんは姉……いや、でもやっぱり……』
若干、色々悩んでそうなクロエが気の毒だったけど。
なんて声をかけていいのか分からず放っておくことにした。
というわけで食後の団らんの時間。
ふと気になったこともあって、明彦くんに質問することにしたわけだけど。
まさか何気ない一言が、この後に続く大事件に発展するとは思ってもみなかった。
「クリスマスパーティってやらないの?」
「ぶっ!」
何か変な音がして、ガシャンと食器が割れる音。
「だ、大丈夫、明彦くん!?」
「あ、ああ。ちょっと割れたみたいだな」
「大変! 駄目だよ、素手で触っちゃ。えっと、ほうきとちり取りは……」
「いや。大丈夫。本当に。ちょっと欠けた感じだから」
「そ、そう……」
てかここまで動揺する明彦くんも珍しい。
そんなにいけないことを聞いたのかな。
「ふっふっふ……『くりすます』ですか」
「クロエ、知ってるの?」
「そう、リナさんは知らないのですね! 去年の『くりすますぱーてぃ』のことを!」
「まさか……何があったの!?」
「おい、クロエ。それ以上は――」
「明彦くんは黙ってて! 教えて、クロエ」
「なんで当事者の俺が……」
肩を落とす明彦くんをよそに、クロエが1枚の写真を取り出した。
「ふっ、これこそ去年の成果。リナさんは知りえない、去年の隊長殿です!」
「これは……」
写真の技術がまだそれほど発達していないのか、見慣れたカラー写真とは及びもつかないが、そこに映っているのは間違いなく明彦くん。
そしてその姿はまさかのミニスカサンタ。しかも恥ずかしそうに身を隠しているところだ。
「くっ……この衣装、素晴らしい。明彦くんの幼さと可愛さと美しさが際立つ絶妙な設計で、ミニスカサンタといえばどこか卑猥なイメージを持つそれを、一個の芸術としてしっかり落とし込んでいる。スカートとブーツに挟まれた絶対領域なんて、もう恐ろしいわ。それに何より。この明彦くんの表情。恥じらいの中に若干の見せたい欲望が出てこのポーズを作っている。この一瞬を切り取るだなんて、このカメラマンは天才だわ!」
「わざわざ俺の思考を説明するなぁ!」
「くっ、さすがリナさん。この1枚でそこまで克明に読み取るとは。さすが隊長殿が認めるだけはありますね。しかし、まだその写真はあると言ったらどうします?」
「全部買うわ!」
「買うな!」
「残念ながら、これは家宝として永久保存が決定していますので売れません。それでも見せたかった! 隊長殿の美しさを共有したいから! なにより、それを生で見たということを自慢したかったからです!」
「ぐっ、同じ趣味を持つ仲でも壮絶なマウント合戦が行われるというの……やるわね、クロエ」
「あの、もう俺ついていけないんだけど」
「明彦くん!」
「は、はい!?」
「というわけで着よ?」
「何がというわけなのかな!?」
「いいからいいから。私を信じて」
「里奈、目が座ってるぞ……」
「いいからいいから。私を信じて」
「ひっ……た、助けてクロエ……」
「まぁまぁ、ここはもう一回『さんた』になってみるのがいいですよ」
「ブルータス、お前もか!」
うふふ。明彦くんを好きな風に着せ替えする。
これに勝る役得はないわ!
「ちょっと待つさ!」
そこへ待ったが入った。
誰!? こんないいときに。
「み、ミスト……助かった」
見れば家の玄関にデデンと構えるミストさんがいた。
「なんですか、邪魔するつもりです?」
せっかくいいところだったのに。
こうなったらミストさんは『収穫』しようか。そうすればもう、誰も邪魔は入らない。
「おっと、そんなつもりはないさ。だからその剣呑な瞳はしまっておくさ」
「ならなんで止めるんですか」
「そうです! 隊長殿を『さんた』にするのはだれにも止められません!」
私とクロエの両方から言い寄られても、ミストさんは怖気ることなく言い放つ。
「そうは言ってもさ? 本人の意思を無視して着替えさせるのはどうかと思うさ」
「うん、まぁお前が言うなだけどその通りだ」
「それに去年の衣装は返しちゃったからここにはないさ」
「そうそう。着るものがないんじゃしょうがない」
「だからアッキーをここで着替えさせるのは無理なのさ」
「うん。そういうことだ。ないならしょうがない」
いちいち頷く明彦くんが癇に障ったけど、確かにミストさんの言うことは理にかなっている。
だからと言って、理に収める必要はないと思うわけだけど。
「けど無理を言ってるだけじゃ、商売というものは成り立たないのも確かさ。顧客の要望を聞き、それに対するクライアントとの折衝を行い、妥協点を見つけ出して双方ウィンウィンな関係を結ぶ。それが売れる、ということなのさ」
「はぁ……」
正直、何を言いたいのかわからない。
だから一応話だけは聞こうと、その続きを待つ。
「というわけで折衷案さ」
「折衷案?」
「そう。実は女王様から去年やった炊き出しをやろうって話になってね。まぁ炊き出しというか、こないだと同じくみんなでどんちゃん騒ぎしたいってだけの話かもしれないけど」
「はぁ……」
いったいミストさんが何を言いたいのか、まだ全然わからない。
「というわけでサンタ服を着たくないアッキーと着させたい里奈さんの折衷案」
ミストさんはビシッと明彦くんに左手の人差し指を、私たちに右手の人差し指を突き付けて言い放った。
「明後日のお祭りプロジェクトで、アッキーに好きな服を着せるコンテストをしようさ!」
「「それだ!」」
私とクロエの声がハモった。
「それだ、じゃない! え、何それ!? 公衆の面前でやれって!? なんの公開処刑!? てかそれのどこが折衷案だ!」
「いやー、これでも十分に譲ったさ。ここにいる2人と女王様とニーア氏にジーン氏、サカキ氏、ウィット氏、サール氏、マツナガ氏などなど、総勢100人くらいの要望があったから、それの折衷をしたらこうなったさ」
「なに? 100分の1を譲ったから大事なところ抜け落ちたってこと!? 事後承諾っていう言葉知ってる!?」
「まぁまぁ、明彦くん。こういうのはね。楽しんだもの勝ちだよ?」
「里奈が……どんどん違う人になっていく」
なにそれ。もう、失礼ね。
「うー、と、とりあえず拒否権を行使する!」
「拒否します。明彦くんが拒否権を使っても拒否します」
「そうです、みんな隊長殿の眼福姿を見て年を越したいのです!」
「いや、待て今年ももう終わるって時にこんなことをやってていいのか? それに費用の問題もある。場所の確保に設備の設定は? 衣装といってもどこから調達する? それから万が一人が集まった時、それをどう抑える? 警備や流入の整理やらで人でもかかるだろ。一口にやると言っても、問題は多々あるし、そんなことをしてたら年が明ける。というわけでこのイベントは無理。去年と同じ炊き出しをする、ということでいいんじゃないか?」
む……さすが明彦くん。
的確に企画の弱点をついてくる。
「んー、まぁそこらへんは多分大丈夫さ」
けどそこに出てくるのが我らがミストさんだ。
「へ?」
「ステージと設備は前々から準備してるから問題ないさ。衣装もシータ王国に発注済み。それから観客も厳正な抽選のうえで人数制限を設けたので混乱が起きる心配もなし。それに一番の費用の問題だけど、国内でクラウドファンディングを募ったところ、予想以上の金額が集まったのでそれも解決さ。あ、ちなみに対価としてアッキーの隠し撮り写真集を渡すから費用は安価なのさ」
「さすがミストさん! その理路整然とした反論に痺れる憧れる! あとでその写真集も頂戴!」
完璧だった。
さらに明彦くんは重箱の隅をつつく反論をしてきたけど、ミストさんがなんなく論破、完封した。
「それにさ。ここでアッキーが健在だと見せておけば、後々有利になるんじゃないさ? よくわからないけど、ジーンさんに言われたさ。『自らを投げうって国のために尽くす。これぞ尽忠報国の理念。さすがジャンヌ様です』とさ」
「ぐ……あのバカ……」
という感じでアッキーが完全に折れたので、開催が決定!
やった。
これで合法的に明彦くんの色々な姿が見れるのね。
それからは忙しかった。
準備は進んでいると言っても、開催が間近ということで衣装の搬入を手伝ったり、有志の警備の人への手配、明彦くんが逃げないよう監視したり、その他色々と準備している間に開催日が来た。
そして当日。
「さぁ、というわけで第197回、ジャンヌ・ダルク・ファンマスター選手権も、いよいよ佳境に入ってまいりました。実況は引き続きマールがさせていただきます。もう一度ここでルールを確認しましょう。ジャンヌ隊長に、着てほしい衣装を一般公募し、その中で得票数の多かった上位10着を、この場で隊長には着てもらいます。それを見て、どれが一番かを決めるのがこの選手権です。えー、ここまで『めいど服』『なーす服』『おいらん』『猫耳すくみず』と、シータから輸入された衣服が多いみたいですが。審査委員の皆様がたはどうお考えでしょう?」
「はい、ジャンヌ・ダルクファンクラブ、ナンバーワンのクロエです。これはまさに隊長殿との親和性が重要です。隊長殿の可憐で美しいお姿に合う服こそ至上と考えます」
「ファンクラブ名誉会長の余なのじゃ! ジャンヌといえば、今年の春に見せた『ぶるま』なる格好がやはり人々に衝撃を与えたのじゃ! ジャンヌには異国の服が似合うのじゃ!」
「明彦くんもとい、ジャンヌ・ダルクの素体を活かすのはやっぱりコスプレ衣装だと思うの。けど明彦くんに合う服は無限にあるから、そこからナンバーワンを決めるのは、もうこれを常設するしかないんじゃない?」
「なるほど。ところでお三方はなぜカメラをお持ちなのでしょう……?」
「もちろん、隊長殿の雄姿をこのカメラに収めるためです!」
「あるいは国宝指定するためじゃの」
「美しいものを記録するのに理由があって?」
そう、美しいものは永久保存。
それ以上でもそれ以下でもない。
「…………わ、わかりました。それでは準備が整ったみたいです。続きましては、去年もこの姿を見かけた人もいるのではないでしょうか! 遥かかなた、外国でこの季節に現れる子供にプレゼントを与える夢の人、『さんたくろーす』です!」
喚声と共に、ステージ中央に置かれた幕が開く。
そこから現れたのは、明彦くんだ。
サンタ服と言っても、去年とはまた違う。
クリスマスツリーを意識してか、今年は緑色のしかもワンピース型のサンタ服で、緑のニーソックスにヒールといういでたち。
これもまたGOOD!
衆人環視の視線にさらされ、顔を真っ赤にしながら登場した明彦くん。
嫌ならやめればいいのに、断ればいいのに、こんなことをして皆を盛り上げようとするその自己犠牲精神は、私なんかには到底真似できない。
それゆえに、なお一層可愛らしく美しく見えるのだからもうたまったものじゃない。
パシャ、パシャパシャ!
さっそくクロエと妹がシャッターを切る。
私も遅れずにシャッターを切った。
スマホのカメラ機能が懐かしい。あの明彦くんの美を、こんな遅くて精度の低いカメラでしか納められないなんてもったいない。あぁ、今の角度。ここでシャッターを切れたら……。ビデオカメラはまだできていないみたいだし。こんなに技術の未発達を憎んだことはないわ!
「これはまた、去年とは違ったものですがいかがでしょう、皆さん」
「素人目にはわからないかもしれませんが、これもまたパーフェクトです。ニーソックスによって隊長殿の細く長いおみ足を効率的に表現しているのです。素人目にはわからないかもしれませんが」
「うむ、ジャンヌは何を着ても似合うのじゃ―」
「安心してください。明彦くんは、審査員が後で美味しくいただきます」
「それじゃ、姉さま!」
「それじゃ、じゃないーーーーーい!」
明彦くんが、恥ずかしさからの照れなのか、それとも私たちに対する怒りなのか、顔を真っ赤にして叫ぶ。
それもまた。いい。
神様。
あぁ、神様。
こんな罪深い私にも、こんな時間を与えてくれてありがとう。
もし叶うなら……この時間がずっとずっと続きますように。
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ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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