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第5章 帝国決戦
閑話15 ミルグーシ・ミラレーシ(エイン帝国貴族)
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「ええい、何をしているのか!」
いら立ちから、思わず声に出してしまう。
先鋒の歩兵の動きが鈍い。
最初に見たのは粗末な柵が東西に、我々の動きを阻むようにあるだけだった。
その手前に溝が掘られているが、それも飛び越せば終わりの代物。
だがかれこれ30分近くも攻めあぐねている。
本来ならあんな柵など一撃で粉砕して、今頃は逃げ惑うオムカ軍を追い散らして王都へ向かう道の途中だったはずだ。
それがここで予想外の出血を強いられている。
所詮は農民や奴隷の類だからどれだけ死のうが構わない。
減れば、またどこかからさらうか買ってくればいいのだ。
だがそれでもわずかながらの出費になるのだからいら立ちは募る。
わざと自分に出費させるために、手を抜いて死んでるのではないか、とも疑ってしまう。
それに、だ。
ここで手こずっていると、左右の競争相手が先に突破して第一功をあげてしまう可能性がある。
こうなってはいかん、と前衛の歩兵を引き締めようと馬を進めようとしたところで、
「ミルグーシ卿!」
呼ばれ、振り返る。
西から騎兵に囲まれた一団がやってくる。
その先頭の男に見覚えがある。
それも当然で、少年期からずっと一緒で、そいつの癖も性癖も何もかも知っている仲だ。
ムノーン・ヤクダルテ。もちろん帝国の領主で、侯爵の自分より低い伯爵の階級だが、近ごろ侯爵の爵位を得るという話も出ている。
それが正当な評価ならばいい。
だが彼は武術よりも、帝室への付き合い方が誰よりもうまい。今回の新たな爵位の授与も、その裏工作のたまものだと他の領主たちは言っている。
今、彼は西側を攻めているが、こうして本人がわざわざこちらに来た意味を考える。
いや、考えるまでもない。
功績を独占せんがために来たのだ。
「苦戦しているようだな」
ムノーン卿が歯を見せて笑う。
品性のかけらもない笑いだと感じた。
「お主のところもだろう」
だから自然と言い方も棘を持つようになる。
「ふん、俺のところはもうすぐだ。だから少し手伝おうと思ってな」
と言いつつも、あざけるような笑みに変わりはない。
「敵軍一の猛将がいるのだ。そう簡単にいくものか」
「なるほど、あれか」
前線の方をムノーン卿が見る。
これは悔し紛れではない。
たしかに、ここには猛将がいる。
血みどろになりながらも柵から飛び出し、暴れる男。
あれのせいでどれだけの被害が出たか。
一度退いて射殺そうと思ったが、そうすれば向こうは弓鉄砲にあの長い槍が再び飛んでくるので断念した。
だからこそ、愚直に攻め続けることで相手の疲労を待ったわけだが。
そのタイミングに来たこの男は、死肉を奪いに来た薄汚いコソ泥のようなものだ。
「ふん、あんな男一人、もはや押せば倒れるほどじゃないか。いらないというのならあの男の首、俺が取ってきてやろう」
「待て、ムノーン卿!」
「残念、早い者勝ちだ」
そう言うと、ムノーン卿は旗下の10騎を率いて走る。
歩兵は急な騎馬隊の登場に驚き、隊列を乱し、何人かは踏みつぶされた。
おのれムノーン卿め。勝手なことをして。
だが自分も少し慎重になりすぎていたかもしれない。
まさかムノーン卿が隣の戦場にまで来て、手柄を奪おうとするなんて考えもしないのはうかつだった。
とはいえ味方の負けをそこまで願うほど落ちぶれちゃいない。
だから相手の将には適度にムノーン卿を追い払ってもらい、泣きつきに来た私が満を持して登場するくらいがちょうどいい。
「我こそはムノーン・ヤクダルテ! 唯一にして絶対の覇者、エイン帝国皇帝陛下に侯爵の位を授かる者である! そこな将! これまでの戦い、よく戦ったと言えよう! だがこのムノーンが来たことにより、貴様らの命運も定まった! 潔く負けを認め、その首を差し出すがいい!」
すでに侯爵気取りなのも鼻につく。
せいぜい見苦しく負けて戻ってくるがいい、と内心思う。
ムノーン卿が突っ込む。
柵と柵の間。
例の満身創痍の大男が立つ場所だ。
男はムノーン卿の突進に気づいているのかいないのか、手にした棒をつっかえ棒のようにしてうなだれている。
あるいは死んでいるのでは?
そう思うほど反応がない。
舌打ちする。
みすみす容易な手柄をムノーン卿に奪われるかと思うと、はらわたが煮えくり返る。
「散れ、下郎!」
今頃満面に笑みを浮かべているのだろう。
ムノーン卿の高らかな声が戦場に響く。
終わった。
そう思った。
――その刹那。
「うるっせぇ!!」
男が動いた。
同時、ムノーン卿の体が宙を飛んだ。
それは、一種の芸術のような光景だった。
滑稽ともとれるその表題は飛翔。
人がこれほどまでに華麗に飛ぶのかと感じられるほど、高くムノーン卿の体は宙を飛び、長い落下時間を経て、ぐしゃりと地面に落下した。
そして二度と起き上がることはなかった。
一瞬の空白。
その間にも男は前に出て、ムノーン卿の部下を次々と馬から叩き落す。
「化け物か……」
思わずうめく。
あの男。開戦からかれこれ1時間近く戦い続けている。
途中で休憩は挟んだだろうが、あの長大な棒を甲冑をつけたまま振り回すのがどれだけ疲労するか、これでも少しは武芸に通じている自分には分かる。さらにどれだけ傷を負い、血を流したか。
それにも関わらず、弱い方だがそれでもそこそこの使い手のムノーン卿を一撃のもとに葬り去り、その部下をことごとく打ち払ってさらに敵は棒を振り回して歩兵をなぎ倒す。
悪魔だ。
パルルカ様に逆らう悪逆の輩。
恐怖が身を包む。
だが幸運が訪れた。
男の体がふらつき、膝をつく。
それを彼の部下だろう兵たちが、引きずって柵の方へと連れていく。
チャンスだ。
あの化け物はやはり限界だった。
悪魔といえど人間だった。
ならば、好機は今しかない。
「今こそ好機! いざ進め! その貧相な柵は押せば倒れるぞ! そのままオムカ本国になだれ込み、地上の栄誉を独占するのだ!」
パルルカ教はあくまで清貧を是とし、この世の利益を否定する。
ひたすらにパルルカ様の再来を願い、身を慎んだ者が、死後より高位の存在となるという。
だがあくまでも私たちは人だ。
この世の利益がなければ、何を好き好んでこんなところまで来ようか。
兵たちも、この後に略奪という利益があるから、いやいやながらも従ってここまで来たのだ。
だから直截的ながらも、そう告げることが何より士気の高揚につながるのは否定できない。
そしてその効果はあった。
歩兵たちが勇気を奮い起こし、突撃する。
それ以上に勇気を出したのは騎馬隊だ。
彼らは貴族かそれに近しい将軍格。
この世の富に最も近い者たちが、さらなる富を求めて狂奔する。
あさましいとも思うが、自分もその一員だと思うとどうでもよくなる。
これが人間の本質。何が悪い。
「突撃ぃ!」
だからこそ自分も前に。
親衛隊を率いて柵の方へと突っ込む。
鉦が鳴った。
敵の退却の鉦のようだ。
だがもう遅い。
柵が倒れる。
「勝ったぞ! 勝ったぞ! いざ、進めぇ!」
溝を飛び越え、柵を超えた。
左右からも騎兵が突っ込む。
イキガイル卿やムノーン卿の残党も必死だ。
誰が残敵を多く殺すか。
もはやこれは狩り、その勝負になりつつある。
敵は歩兵が主体。
少し距離があるが、すぐに追いつく。
そう確信し、剣の腹で馬を叱咤しようとした――その瞬間。
「むぁぁぁぁ!?」
足元が崩れた。
暗転。悲鳴。絶叫。落下。何が起きたか分からない。
何かが体にのしかかってくる。
重い。痛い。苦しい。
視界が戻る。
「痛っ……」
見れば、馬が自分の左足を押しつぶしていた。
そして周囲でも同様の光景が広がる。
何が起きたか。
この地の底のような場所で人と馬が折り重なって倒れている。
落とし穴だ。
柵の後ろには落とし穴があって、まんまと自分たちはそれにはまったのか。
こんな単純で、悪質な罠にはまるなど……。
「卑怯者め! 恥を知れ!」
叫ぶ。
痛みと屈辱を追い払うように。
「恥だ? そんなもん、あの子を想う心の前にはちんけなもんだ」
声。頭上。
最前線で暴れていた、あの男が立っていた。
「くそ! 柵にこもって罠にはめることしかできない臆病者め! 降りてきて勝負しろ!」
この男は常に最前線で棒を振るっていた。
臆病者でないことくらい分かっている。
だが罵らずにはいられない。
「残念だが無意味だ。その臭い、気づいてるか?」
臭い?
そういえば、土のにおいに混じって何か鼻につくような、それでいて何かねばねばする液体が……。
これは――油!?
「ま、まさか……」
「彼女はきっとこれで降伏させるつもりだろうけどな。無理だな。お前らがやってきたこと、これからやろうとしたこと。それを考えると許せねぇよな」
嘘だ。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。私は貴族だ。皇帝陛下に仕える24将の1人だ。それをこんな仕打ちにしていいと思っているのか。そんなことをすれば、我が一族、我が領民が黙ってはいないぞ!
「ま、馬に乗ってるってことは貴族様だろ。そう考えりゃ、罪の意識も軽くなるわな」
男が手を挙げる。
その後ろで男たちが弓矢をつがえる。
その矢の先は赤々と暴虐な破壊がうごめいている。
いや、悪かった。降伏する。だから命だけは助けてくれ。金なら出す、領地も出す。だからそれだけは……。
「放て」
風を切り裂く音が響く。
カンッと兜に当たった。
威力はない。無傷だ。
だがその時に起きた火花が、その矢についた炎が、地面に落ちる。
「おのれぇーーーーーー!」
次の瞬間、何かが地面から噴き出て、全身を覆った。
いら立ちから、思わず声に出してしまう。
先鋒の歩兵の動きが鈍い。
最初に見たのは粗末な柵が東西に、我々の動きを阻むようにあるだけだった。
その手前に溝が掘られているが、それも飛び越せば終わりの代物。
だがかれこれ30分近くも攻めあぐねている。
本来ならあんな柵など一撃で粉砕して、今頃は逃げ惑うオムカ軍を追い散らして王都へ向かう道の途中だったはずだ。
それがここで予想外の出血を強いられている。
所詮は農民や奴隷の類だからどれだけ死のうが構わない。
減れば、またどこかからさらうか買ってくればいいのだ。
だがそれでもわずかながらの出費になるのだからいら立ちは募る。
わざと自分に出費させるために、手を抜いて死んでるのではないか、とも疑ってしまう。
それに、だ。
ここで手こずっていると、左右の競争相手が先に突破して第一功をあげてしまう可能性がある。
こうなってはいかん、と前衛の歩兵を引き締めようと馬を進めようとしたところで、
「ミルグーシ卿!」
呼ばれ、振り返る。
西から騎兵に囲まれた一団がやってくる。
その先頭の男に見覚えがある。
それも当然で、少年期からずっと一緒で、そいつの癖も性癖も何もかも知っている仲だ。
ムノーン・ヤクダルテ。もちろん帝国の領主で、侯爵の自分より低い伯爵の階級だが、近ごろ侯爵の爵位を得るという話も出ている。
それが正当な評価ならばいい。
だが彼は武術よりも、帝室への付き合い方が誰よりもうまい。今回の新たな爵位の授与も、その裏工作のたまものだと他の領主たちは言っている。
今、彼は西側を攻めているが、こうして本人がわざわざこちらに来た意味を考える。
いや、考えるまでもない。
功績を独占せんがために来たのだ。
「苦戦しているようだな」
ムノーン卿が歯を見せて笑う。
品性のかけらもない笑いだと感じた。
「お主のところもだろう」
だから自然と言い方も棘を持つようになる。
「ふん、俺のところはもうすぐだ。だから少し手伝おうと思ってな」
と言いつつも、あざけるような笑みに変わりはない。
「敵軍一の猛将がいるのだ。そう簡単にいくものか」
「なるほど、あれか」
前線の方をムノーン卿が見る。
これは悔し紛れではない。
たしかに、ここには猛将がいる。
血みどろになりながらも柵から飛び出し、暴れる男。
あれのせいでどれだけの被害が出たか。
一度退いて射殺そうと思ったが、そうすれば向こうは弓鉄砲にあの長い槍が再び飛んでくるので断念した。
だからこそ、愚直に攻め続けることで相手の疲労を待ったわけだが。
そのタイミングに来たこの男は、死肉を奪いに来た薄汚いコソ泥のようなものだ。
「ふん、あんな男一人、もはや押せば倒れるほどじゃないか。いらないというのならあの男の首、俺が取ってきてやろう」
「待て、ムノーン卿!」
「残念、早い者勝ちだ」
そう言うと、ムノーン卿は旗下の10騎を率いて走る。
歩兵は急な騎馬隊の登場に驚き、隊列を乱し、何人かは踏みつぶされた。
おのれムノーン卿め。勝手なことをして。
だが自分も少し慎重になりすぎていたかもしれない。
まさかムノーン卿が隣の戦場にまで来て、手柄を奪おうとするなんて考えもしないのはうかつだった。
とはいえ味方の負けをそこまで願うほど落ちぶれちゃいない。
だから相手の将には適度にムノーン卿を追い払ってもらい、泣きつきに来た私が満を持して登場するくらいがちょうどいい。
「我こそはムノーン・ヤクダルテ! 唯一にして絶対の覇者、エイン帝国皇帝陛下に侯爵の位を授かる者である! そこな将! これまでの戦い、よく戦ったと言えよう! だがこのムノーンが来たことにより、貴様らの命運も定まった! 潔く負けを認め、その首を差し出すがいい!」
すでに侯爵気取りなのも鼻につく。
せいぜい見苦しく負けて戻ってくるがいい、と内心思う。
ムノーン卿が突っ込む。
柵と柵の間。
例の満身創痍の大男が立つ場所だ。
男はムノーン卿の突進に気づいているのかいないのか、手にした棒をつっかえ棒のようにしてうなだれている。
あるいは死んでいるのでは?
そう思うほど反応がない。
舌打ちする。
みすみす容易な手柄をムノーン卿に奪われるかと思うと、はらわたが煮えくり返る。
「散れ、下郎!」
今頃満面に笑みを浮かべているのだろう。
ムノーン卿の高らかな声が戦場に響く。
終わった。
そう思った。
――その刹那。
「うるっせぇ!!」
男が動いた。
同時、ムノーン卿の体が宙を飛んだ。
それは、一種の芸術のような光景だった。
滑稽ともとれるその表題は飛翔。
人がこれほどまでに華麗に飛ぶのかと感じられるほど、高くムノーン卿の体は宙を飛び、長い落下時間を経て、ぐしゃりと地面に落下した。
そして二度と起き上がることはなかった。
一瞬の空白。
その間にも男は前に出て、ムノーン卿の部下を次々と馬から叩き落す。
「化け物か……」
思わずうめく。
あの男。開戦からかれこれ1時間近く戦い続けている。
途中で休憩は挟んだだろうが、あの長大な棒を甲冑をつけたまま振り回すのがどれだけ疲労するか、これでも少しは武芸に通じている自分には分かる。さらにどれだけ傷を負い、血を流したか。
それにも関わらず、弱い方だがそれでもそこそこの使い手のムノーン卿を一撃のもとに葬り去り、その部下をことごとく打ち払ってさらに敵は棒を振り回して歩兵をなぎ倒す。
悪魔だ。
パルルカ様に逆らう悪逆の輩。
恐怖が身を包む。
だが幸運が訪れた。
男の体がふらつき、膝をつく。
それを彼の部下だろう兵たちが、引きずって柵の方へと連れていく。
チャンスだ。
あの化け物はやはり限界だった。
悪魔といえど人間だった。
ならば、好機は今しかない。
「今こそ好機! いざ進め! その貧相な柵は押せば倒れるぞ! そのままオムカ本国になだれ込み、地上の栄誉を独占するのだ!」
パルルカ教はあくまで清貧を是とし、この世の利益を否定する。
ひたすらにパルルカ様の再来を願い、身を慎んだ者が、死後より高位の存在となるという。
だがあくまでも私たちは人だ。
この世の利益がなければ、何を好き好んでこんなところまで来ようか。
兵たちも、この後に略奪という利益があるから、いやいやながらも従ってここまで来たのだ。
だから直截的ながらも、そう告げることが何より士気の高揚につながるのは否定できない。
そしてその効果はあった。
歩兵たちが勇気を奮い起こし、突撃する。
それ以上に勇気を出したのは騎馬隊だ。
彼らは貴族かそれに近しい将軍格。
この世の富に最も近い者たちが、さらなる富を求めて狂奔する。
あさましいとも思うが、自分もその一員だと思うとどうでもよくなる。
これが人間の本質。何が悪い。
「突撃ぃ!」
だからこそ自分も前に。
親衛隊を率いて柵の方へと突っ込む。
鉦が鳴った。
敵の退却の鉦のようだ。
だがもう遅い。
柵が倒れる。
「勝ったぞ! 勝ったぞ! いざ、進めぇ!」
溝を飛び越え、柵を超えた。
左右からも騎兵が突っ込む。
イキガイル卿やムノーン卿の残党も必死だ。
誰が残敵を多く殺すか。
もはやこれは狩り、その勝負になりつつある。
敵は歩兵が主体。
少し距離があるが、すぐに追いつく。
そう確信し、剣の腹で馬を叱咤しようとした――その瞬間。
「むぁぁぁぁ!?」
足元が崩れた。
暗転。悲鳴。絶叫。落下。何が起きたか分からない。
何かが体にのしかかってくる。
重い。痛い。苦しい。
視界が戻る。
「痛っ……」
見れば、馬が自分の左足を押しつぶしていた。
そして周囲でも同様の光景が広がる。
何が起きたか。
この地の底のような場所で人と馬が折り重なって倒れている。
落とし穴だ。
柵の後ろには落とし穴があって、まんまと自分たちはそれにはまったのか。
こんな単純で、悪質な罠にはまるなど……。
「卑怯者め! 恥を知れ!」
叫ぶ。
痛みと屈辱を追い払うように。
「恥だ? そんなもん、あの子を想う心の前にはちんけなもんだ」
声。頭上。
最前線で暴れていた、あの男が立っていた。
「くそ! 柵にこもって罠にはめることしかできない臆病者め! 降りてきて勝負しろ!」
この男は常に最前線で棒を振るっていた。
臆病者でないことくらい分かっている。
だが罵らずにはいられない。
「残念だが無意味だ。その臭い、気づいてるか?」
臭い?
そういえば、土のにおいに混じって何か鼻につくような、それでいて何かねばねばする液体が……。
これは――油!?
「ま、まさか……」
「彼女はきっとこれで降伏させるつもりだろうけどな。無理だな。お前らがやってきたこと、これからやろうとしたこと。それを考えると許せねぇよな」
嘘だ。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。私は貴族だ。皇帝陛下に仕える24将の1人だ。それをこんな仕打ちにしていいと思っているのか。そんなことをすれば、我が一族、我が領民が黙ってはいないぞ!
「ま、馬に乗ってるってことは貴族様だろ。そう考えりゃ、罪の意識も軽くなるわな」
男が手を挙げる。
その後ろで男たちが弓矢をつがえる。
その矢の先は赤々と暴虐な破壊がうごめいている。
いや、悪かった。降伏する。だから命だけは助けてくれ。金なら出す、領地も出す。だからそれだけは……。
「放て」
風を切り裂く音が響く。
カンッと兜に当たった。
威力はない。無傷だ。
だがその時に起きた火花が、その矢についた炎が、地面に落ちる。
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疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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