知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第5章 帝国決戦

閑話16 ワキニス・エインフィード(エイン帝国皇帝)

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 澄み渡る青空。
 俺様の心を映し出すように、美しい。

 俺様は今、天蓋てんがいつきの輿こしに乗っている。
 馬には乗らない。
 なぜなら俺様はこの大陸至上、唯一にして崇高なる存在、皇帝陛下だからだ。
 その皇帝がなぜ他の者と同じことをしないといけないのか。

 てかこっちの方が格好いいべ?

 俺様はこの世で最上。そして至高。
 だから何事も俺様の思い通り。

 その思いで始めたオムカ征服。
 二度にわたる元帥府の失態を見れば、これはもう俺様が出るしかないだろう?

 はじめは順調だった。
 最初の砦攻めで少し損害が出たが、俺様の機転で1日で陥落。
 続くヨジョー城攻めも、俺様の威光によりさしたる抵抗もなく敵は逃亡。
 アリアルミに似た、アルなんとかが死んだけど、まぁそこはどうでもいい。

 正直、もはやオムカの滅亡は時間の問題。
 あとは離反した南群を脅して傘下に加え、シータ王国を滅ぼし、あとは瀕死のビンゴ王国を滅ぼせばめでたく俺様の世が来るってもんだ。

 かつてこの大陸を統一した初代エイン皇帝ツァオ・エインフィードのごとく、俺様の名前が永遠に刻まれるわけだ。
 そう考えただけで愉快だ。

 だがその後からケチが付き始めた。
 やはり大陸を照らす太陽神の生まれ変わりである俺様が、体調不良などという偶然の不幸で、キレがなくなったせいだろう。

 ダメンダコラ侯爵が敵におびき寄せられ戦死。
 今も待ち構えていたオムカ軍に、圧倒的大軍で押しつぶそうとしているわけだが――

「なんか止まってね?」

 さっきから輿がピクリとも動いていない。
 前が詰まってるらしい。

「はっ、どうやらオムカの抵抗が激しいらしく……」

 本陣にいる警護のアユッツィ子爵が状況を説明してくれた。
 俺様の1個上のはずだが、どうも頼りなく思える。

「はぁ? 相手は数万だろ? 20万でなんで抜けないわけ?」

「そ、それがこの地形。それほど大軍が活かせぬものでして……」

「だから?」

「は……はぁ?」

「いや、それがなんで苦戦になるわけ? 次から次へと新手を送り出して叩き潰せばいいだけじゃね?」

 聞くと微妙な顔をされた。
 なに? 俺様が変なこと言った?
 不敬罪で罰してやろうか?

「いえ、皇帝陛下の湧き出るがごとく智謀に関心しておりました」

「あっそ、じゃあさっさとやってね」

「ははっ!」

「あ、それから」

「は?」

「傷ついた兵たちはしっかり治療してヨジョー城の大将軍のところに送っちゃってよ? どんな人間だろうと、俺様の民なんだからな」

「陛下の慈愛の心。きっと天下の隅々まで澄み渡りましょう」

「はいはい、じゃあよろしくー」

 なんでこういうこと言うと微妙な顔されんのかなー。
 マジそういうのイラっと来るんだけど。

 これでも俺様は色々考えてるわけ。
 ……まぁ考えるのは3秒で飽きるから、とりあえず感じたことを言ってるわけだけど。

 それでも俺様は大帝国の皇帝様だ。
 俺様の言葉は天の声。

 だから俺様が感じたことは全て天が決めたこと。
 だから俺様は正しい。
 だから俺様は悪くない。

 うん、完璧じゃね?
 完璧最強理論じゃね?

 っし、それじゃあたっぷり行ってみようか。
 伝令が前線に飛んだのか、兵たちが慌ただしく動き出す。

 これでオムカ軍を叩き潰せば、明日の夜はオムカ王都で熟睡できるだろうな。

 というわけで頑張ってよね。
 俺様はここで酒とフルーツタルトを片手に応援するからさ。

 うわ、俺様慈悲深すぎじゃね? 名君じゃね?
 感涙にむせび泣くわー。

「な、俺様ってヤバイよな?」

「はっ、陛下は我々など人知の及ばぬほどの英知をお持ちでございます。どうぞ我々を勝利へとお導き下さい」

 すぐそばに控えている、クズイ卿が慇懃無礼に答える。
 こいつはいっつも俺様に従順だから本当に頼もしい限りだ。

「だべ?」

 それから黄金でできた杯でブドウ酒を5杯あけ、タルトを3切れほど食べたころ。
 何やら騒ぎが起きた。

「ん、どうした? ついにぶっ潰した?」

 輿から顔を出して外を見る。
 その足元が若干ふらつく。

 ちょっと飲みすぎたか。
 だがこれも皇帝の仕事。
 俺様がこうやってのんびりしているから、下が安心して働けるわけで。
 そうなると昼間から酒を飲まなきゃいけないのも考えもんだな。

「調べさせます」

 クズイが一礼して離れていく。
 うん、本当に有能な奴。

 するとすぐにアユッツィが戻ってきて、

「それが敵が火矢を放ってきたらしく……」

「火ぃ?」

 アユッツィの向く方を見れば、なるほど。
 20万の俺様の軍の左右で火が上がっている。

 さらに左手では断続的に爆発みたいな音が聞こえている。

「敵の数は?」

「え、えぇ。それが左右に5千ほどかと」

「だったら2万ずつ当てりゃ勝てるでしょ。やって」

「はっ!」

 相手は顔を下げたからどんな表情か見えない。
 ま、いっしょ。これで楽勝。

 さらにしばらく杯を重ねていると、また外が騒がしい。
 何事かと聞き耳をそばだてていると、

「こ、皇帝陛下が、討ち死に!?」

 ふーん、皇帝陛下が死んだのか。あの皇帝がねぇ……ん?

 ちっと待てや。
 皇帝陛下は俺様だ!?
 それが死んだ!?
 なにそれ!?
 俺様、生きてんだけど!

「おい、どういうことだ!?」

 クズイ卿をはじめ、近侍に問いかける。
 だがクズイ卿も何が起きたか分からないらしく、まともな答えが返ってこない。

 その間にも、まるで誰かが故意に流しているように、噂がどんどんと広まる。

「こ、皇帝陛下が!?」「違う、皇帝陛下は捕虜になった! オムカに捕まったんだ!」「いやいや、俺が聞いたのは皇帝陛下はすでにお逃げあそばせたぞ!」「皇帝が逃げた!? じゃあ俺たちはどうすればいい!」「だまされるな! 皇帝陛下はまだそこにおわす! お前ら、戦え!」「嘘だ! 亡くなったことを隠すつもりだろ!」「待て、どれが本当なのだ!?」

 おいおい俺様はここにいるぞ。
 まだ元気にピンピンしてるっての。

 くそ、わけの分からん噂にまどわされやがって。
 こうなったら俺様が……。

「っとと」

 起き上がろうとして、輿から転げ落ちそうになる。
 少し飲みすぎたか。

 いや、俺様は飲んでからが本気。
 俺様の実力なら飲んでちょうどいいくらいだろう。

 だから声を張り上げようとして、

 ――炎があがった。

 南の方。
 ミルグーシやムノーンらが攻めている方向だ。
 先ほどのとは比べ物にならないほどのかがり火。

 何が起きた?
 これは俺様にも分かる、何か尋常じゃないことが起きたと。

 同時、左手の方から声が聞こえた。
 小さい、いや、声が。
 遠いが、なんとか聞こえる範囲で意味を理解すると、

「オムカのジャンヌ・ダルクが帝国兵に告ぐ! 逃げろ! 我々は追撃は行わない! 歯向かう者以外は殺さない! すでに皇帝も我らが手中にある! ここで死ぬのは死に損だぞ!」

 だぁかぁらぁ!
 俺様はここいいるっつーの!

 だからまだ戦える。
 けど声が出ない。
 うぅ、気持ち悪い。

「に、逃げろぉ!」「俺はまだ死にたくねぇ!」「あぁ言ってるんだ! 逃げるぞ!」「おい、貴様らとどまれ――ぐぁ!」「うるせぇ! 負けだ、負け!」「そうだ! 俺たちは負けた! 逃げるぞ!」

 周囲に怒声を悲鳴があふれる。
 人の動きが騒音を奏でる。

 うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ!
 こっちは頭が痛いんだよ。ちょっと静かにしろ!

「こ、皇帝陛下ぁ!」

 悲鳴がする。
 だからうるさいっつってんだろ!

 気になってそちらの方を見る。
 東だ。

 赤色が舞った。

 血だと気付いたのは、それが俺様の服についてから。
 俺様の服が、天上天下を照らし尽くす輝かしい我が神衣が……。

 だがそもそもなぜ近くで血が飛んだのかを考える時間もなかった。

 衝撃。輿が揺れる。
 放り出された。

 草に顔面から突っ込む。

 げぇ、なんだこれ。
 気持ち悪い。
 皇帝がこんな泥にまみれるなんてあっちゃいけない。こんなこと、ありえるわけがない。

 立つ。
 立てない。
 頭がふらつく。

 と、目の前、草と土しかない視界に銀色に輝く板が映し出された。
 視線を上げる。するとそれは剣で、それを操るのは見たこともない、だがこれまた美しい女性が立っていた。

 赤く染まった髪に、陶磁のようにつるりとした肌。鎧をまとっているものの、俺様にはわかる、くっきりしたラインの細い体に長い脚。
 敵意丸出しの視線には見下す成分が多分に入っているが……。

 だが俺様は許す。
 その視線を、歓喜と快感と陶酔の視線に調教しなおすことも、また面白い。

「よし、俺様の後宮ハーレムに入ることを許――ぐほっ!」

 頬に衝撃。
 殴られた。
 痛い。
 なんてことをするんだ、こいつは。
 唯一皇帝に向かって手をあげるとは!

「ええい、斬れ! この無礼者を斬れ!」

「残念だけど、あんたを守る兵は誰もいない。逃げたわ」

 逃げた?
 そんな馬鹿な。

 この俺様を守るなんて崇高な仕事を与えてやってるのだ。
 盾になってでも俺様を逃がすために努力するのが当然だろ!

「その自分を守るために他人がなんでもするなんて思い上がり似た考え。きっとぶん殴っても変わらないんでしょうね」

「思い上がり? 違うな、これは摂理だ。俺様を守るのは当然の――ぶほっ!」

 二度も殴りやがった!
 こいつ、もう絶対死刑!

「ほんとはここでぶった切りたいんだけど、ジャンヌの指示だからしょうがないか」

 女性は深く嘆息し、それから剣を俺様の首筋に当て、こう言った。

「皇帝陛下。死にたくなかったら、あたしと一緒に来てくれませんか?」
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