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第5章 帝国決戦
閑話20 長浜杏(エイン帝国大将軍)
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「ごめんね、元帥。期待できる結果じゃなくて」
ヨジョー城を放棄して3日後。
帝国が総出で作り上げたジュナン城に戻り、元帥と合流した。
そして事の次第を元帥に話して、許しを請おうとしているわけだけど。
「ああ」
相変わらず元帥は感情の起伏が乏しくて、怒ってるのか分からない。
もしかしたらどうでもいいと思ってるのかもしれない。
「元帥、あまり怒ってない?」
「いや、激怒している。叶うならお前の首を刎ね飛ばせればと考えてる」
ぞっとした。
急激に向けられた殺意が、一直線に僕様に向けられている。
おぉ、怖い。
まぁそれほどの失態をしたということで。
けど1回の失敗で処刑するとか、どこの悪の組織だよって思う。あれってなんでそんな厳しくするのかな。てかそんなところでよく働こうとするよね。
僕様は絶対嫌だな。
そんなわがままに付き合ってられないし。
だから今、ここで処断されるつもりはない。
今も圧倒的なまでの殺意を向けられているが、とりあえず初太刀。
それさえ外せば何とかなる。
椅子から少し腰を浮かせる。
それに反応して元帥の体が動く。殺意の方向も若干ずれる。
元帥の顔色は変わらない。
にらみ合う。
元帥の殺意の力が徐々に膨れ上がり、こちらもそれに対応するためにつま先立ちになる。
そして――
「ま、いいだろう」
急激に元帥の殺意が消えた。
罠かと思ったけど、まったくもって殺意の方向が出てこない。
攻撃の意志はなくなったとみていいだろう。
「どういうこと?」
「だから言っただろう。叶うなら、だと。煌夜が言っていた。彼の予知では皇帝が捕虜になるだろうとうと」
「それって、あの的中率ほぼ100%の?」
「100%とは言っていない」
「いやいやいや。誤差数%でしょ? それでもえぐい的中率だって有名じゃん。てかなに? もうそれ予知に出るってことは決定じゃん。僕様が何しようが、皇帝は捕虜になってたってことじゃん!」
決まり切った未来があるなら、僕様は不要ってこと。
それはつまり、僕様を捨て石にしたってことじゃない?
「そうとも言うな」
そうとしか言えないと思うけど。
「それで殺すってちょっと横暴が過ぎない? かなーりイラっと来るんだけど。そんな元帥に嫌われることした? てかそもそもが元帥に頼まれてついていったわけだし。あの人たちが僕様の言うこと聞かないって分かってて送り出したよね? それに僕様は後方にとどめ置かれたんだから、実際の戦場での責任を取らせるのは筋が通らなくない?」
「む……まぁ、そうかもな」
元帥が困惑したようにうろたえている。珍しい。
それほど状況が煩雑ということか。
むぅ……。
「分かったよ。そのこわーい殺意を引っ込めてくれたらもう言わない。それでこの話はおしまい。いいね?」
いやー、我ながら元帥に甘い。
まぁ元帥が美女だからね。ちょっとは器の大きさを見せるのが大人のおと――じゃない、元帥の部下で美少女の僕様の務めってね! 僕様はじゅうななさいだし!
「……すまない」
おっと、これはさらに珍しい。
元帥が謝ってくるなんて。槍でも降るかな?
「で? その教皇様はどうするつもり? 皇帝が捕虜になる未来が見えたんなら、すでに手は打ってるんじゃない?」
「ああ。達臣と一緒に事後策にぬかりはない」
達臣。あぁ、あのシーバとかいう。
裏でこそこそやってるのが気に食わないけど、ほんの数か月でこの2人の信任を得ているんだからただ者じゃないのは分かる。
「煌夜は言っていた。オムカがこの3つの関門をクリアできたら、その時には考えがあると」
「3つの関門?」
「ああ。1つは皇帝の軍を破ること」
帝国じゃなく、皇帝の軍と言うあたり、元帥っぽい。自分は負けてないってね。
「2つ目は皇帝を捕虜にすること」
これは予知に出てたことだからほぼ決定事項とはいえ、実際にそうなるかは別問題ってことか。
ほぼ100%だからね。
「うん、そこまでは分かるよ。それでもう1個は?」
「皇帝を生かし続けること」
ん? どういう意味?
というのが表情に出たのだろう。
元帥は順を追って説明してくれた。
「オムカにとって、皇帝という存在は我々に対して切り札にもなるが、同時に足かせにもなる。それは人質であるということ。その人質が、我々にとって効果的であり、かつ無事であることが条件だ」
「ん、あぁなるほど。つまり皇帝に死なれたら人質にならないから困るってことか」
「さらに言えば、もし皇帝がオムカの領内で死ねば。それはつまりオムカの仕業ということになる。……実行犯が誰だろうとな」
あ、えぐ。
そういうことか。
皇帝は生きていないと交渉の切り札にならないだけでなく、万が一、事故でも病気でも死なれたりしたら、オムカが殺したということになりかねない。
たとえそれによりオムカが圧倒的不利になろうとも、国際情勢としてはそういう風にみられるわけだ。
そうなったとき、一番得をするのは誰か。
他の皇位継承権を持つ者、およびその側近。
そいつらがオムカの非を鳴らし、国民の感情をオムカ征伐に向けることになれば、30万とか比にならない軍勢がオムカを蹂躙することになるだろう。
いや、待て。
別に皇位継承権を持つ周辺じゃなくてもいいんだ。
それに準ずる、影響力を持つ者。たとえば、信徒1千万を抱えるパルルカ教の総本山の人間とか……。
「一応聞くけど、元帥?」
「なんだ?」
「うちの教皇様。暗殺者とか送ってないよね? あのやかましい――」
「送ったと聞いている」
食い気味に肯定されたよ。
もう少し間をおいてほしかったなぁ。
はぁ。やだやだ。
「で? じゃあその当事者に話でも聞けって?」
「ん?」
「そこ。入ってきなよ」
部屋の扉。しまっている。
だがその奥から感じる。さっきから、ひしひしと殺意を。
ここの部屋の近くには部下は寄せ付けていない。
それはつまり、誰かがいればそれは逆に不審者ということ。
「くひゃ。そう身構えなさんなって」
扉が開く。
そして、予想通りの人物がそこにいた。
名無しと自称する暗殺者のプレイヤーだ。
「はいはい、皆さんの名無し様の登場だ。感涙にむせび泣けよ?」
意地の悪そうな笑みを浮かべ、手を左右に広げて大げさなポーズを取って入ってくる名無し。
僕様は一応、腰に差した剣の柄を握る。が、元帥は腕を組んだまま、
「それで? いや、聞くまでもないな。成功していたならこうもコソコソ来るはずがない。しくじったな」
「うっ……容赦ねぇなぁ。ね、この人っていつもこんな感じ?」
僕様に振るなよ。
まぁ分からなくもないけどさ!
「ま、そうだね。で? しくじったの?」
「うぅ、そっちもかよ……」
これまでの悪趣味な笑みを引っ込めて、渋面を作る名無し。
ざまを見ろ。
「はいはい、そうですよ。しくじりましたよ。皇帝陛下に近づくまではよかったんだけどなぁ」
「でも、失敗したと」
「うるさいなぁ。しょうがないじゃん。そもそも気乗りしない仕事だったわけだし」
「一流は仕事を選ばないと思うんだけど?」
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味だけど?」
にらみ合う。
本当にこいつとは出会った時から合わない。
裏でねちねちやるのが性に合わないというか。
「それでは皇帝は生きてるんだな?」
「生きてる生きてる。まぁ俺も最後まで見てないから、あの後どうなったか分かんねーけどよ。ま、生きてるだろ」
「そうか」
元帥の言いたいことが分かった。
これでオムカは――ジャンヌ・ダルクは、教皇の示した3つの関門をクリアしたことになる。
そうなるとこれは講和への流れになるのか。
それが残念であり、どこか不満を感じる。
「それって僕様たちはもうお払い箱ってこと?」
「そうは煌夜は言っていない。わたしたちの力は次の場所で使われる」
「ふぅん?」
「まぁいい。とりあえずこれを読んでみろ」
そう言って元帥が取り出したのは、一枚の封筒。
それは上質な羊皮紙になっていて、少し緊張したけどそれが母国語で書かれてあり少しほっとした。
と、左隣に気配。
いつの間にか名無しがそばにいて、僕様の手元を見てくる。
ま、いっか。
視線を手紙に落とす。
「なになに。オムカが、ジャンヌ・ダルクが皇帝親征の危機を乗り越え、さらに講和の意志がある場合。交渉の場を持つことはやぶさかではない……えっと、何様かな?」
「それが煌夜だ。仕方あるまい」
「うーん……まぁ結果としては僕様の機転が完全に一致したってことかな!」
つかこれで皇帝もろともオムカを攻め滅ぼせとかだったら、僕様の瀬が立たなかったわけで。
「で? 誰がこの交渉の場に立つの? 僕様ちゃん?」
「当然、煌夜だ」
「ですよねー」
ま、そりゃそうだ。
大将軍といっても、責任の範囲は軍事にかかわることまで。
今回のことは国政のこと。
僕様たちには担当領域外だ。
「それで、僕様たちはどうするの?」
「軍ごと、この城で待機だ。何が起きてもいいようにな」
「貴族様の兵は?」
「帰す。何か起きたときに邪魔だ」
ですよねー。
10万の兵を食わすだけでも一苦労なんだから。
「んん。ってことは俺も暇ってことだな」
名無しがそう言って肩をすくめる。
「じゃあ帰ればー? 講和になったら君、役立たずだろ?」
「あぁ? そっちこそ、戦う相手いなくて役立たずだろうが!」
「はぁ? 僕様たちは忙しいんです。治安維持とか、国境の警備とか!」
「それって閑職ってことじゃねぇの? 左遷だ、左遷! こちとら平時の方が忙しいんだよ! 外から内に向けば政争が起きる。政敵を排除するには、結局俺みたいなのに頼るのが一番だからな! 講和ってことは元の世界にはもう戻れないってことだろ? 稼げるときに稼ぐ。体を使う仕事はいつできなくなるかわかんねーからな!」
「言ってること、最低なんだけど……」
でも、そうか。
講和が成立するってことは、大陸の統一がなくなるということ。
つまり僕様たちは元の世界に戻るすべを失うということ、もちろんこの世界で生きていくことになる。
元の世界に戻りたいか、と言われたら……どうだろう。
今は分からない。
この世界は気に入っている。
軍人なんて思いもよらない仕事についたけど、意外と天職だと感じているし、周りの人たちも一部を除けばまぁ悪くない。
何より今の僕様はピッチピチのじゅうななさい美少女だし!
けど……。
こうも戦乱が広がり、人がばたばたと死んでいく世界を見ていると、元の世界もそう捨てたものじゃないのでは、と思ってしまうこともある。
もちろん、僕様の周りが平和だっただけで、世界のどこかではやはり争いで人が死んでいるわけだけど。
それでも、その面で言えばこの世界よりははるかにマシだ。
争いに倦んだのか。
あるいは疲れてしまったのか。
分からない。
ただ、それより気になることがあった。
「…………」
戦いが終わる。
僕様たちの話を聞いていた元帥の表情に、一抹の寂しさを見た――ような気がした。
ヨジョー城を放棄して3日後。
帝国が総出で作り上げたジュナン城に戻り、元帥と合流した。
そして事の次第を元帥に話して、許しを請おうとしているわけだけど。
「ああ」
相変わらず元帥は感情の起伏が乏しくて、怒ってるのか分からない。
もしかしたらどうでもいいと思ってるのかもしれない。
「元帥、あまり怒ってない?」
「いや、激怒している。叶うならお前の首を刎ね飛ばせればと考えてる」
ぞっとした。
急激に向けられた殺意が、一直線に僕様に向けられている。
おぉ、怖い。
まぁそれほどの失態をしたということで。
けど1回の失敗で処刑するとか、どこの悪の組織だよって思う。あれってなんでそんな厳しくするのかな。てかそんなところでよく働こうとするよね。
僕様は絶対嫌だな。
そんなわがままに付き合ってられないし。
だから今、ここで処断されるつもりはない。
今も圧倒的なまでの殺意を向けられているが、とりあえず初太刀。
それさえ外せば何とかなる。
椅子から少し腰を浮かせる。
それに反応して元帥の体が動く。殺意の方向も若干ずれる。
元帥の顔色は変わらない。
にらみ合う。
元帥の殺意の力が徐々に膨れ上がり、こちらもそれに対応するためにつま先立ちになる。
そして――
「ま、いいだろう」
急激に元帥の殺意が消えた。
罠かと思ったけど、まったくもって殺意の方向が出てこない。
攻撃の意志はなくなったとみていいだろう。
「どういうこと?」
「だから言っただろう。叶うなら、だと。煌夜が言っていた。彼の予知では皇帝が捕虜になるだろうとうと」
「それって、あの的中率ほぼ100%の?」
「100%とは言っていない」
「いやいやいや。誤差数%でしょ? それでもえぐい的中率だって有名じゃん。てかなに? もうそれ予知に出るってことは決定じゃん。僕様が何しようが、皇帝は捕虜になってたってことじゃん!」
決まり切った未来があるなら、僕様は不要ってこと。
それはつまり、僕様を捨て石にしたってことじゃない?
「そうとも言うな」
そうとしか言えないと思うけど。
「それで殺すってちょっと横暴が過ぎない? かなーりイラっと来るんだけど。そんな元帥に嫌われることした? てかそもそもが元帥に頼まれてついていったわけだし。あの人たちが僕様の言うこと聞かないって分かってて送り出したよね? それに僕様は後方にとどめ置かれたんだから、実際の戦場での責任を取らせるのは筋が通らなくない?」
「む……まぁ、そうかもな」
元帥が困惑したようにうろたえている。珍しい。
それほど状況が煩雑ということか。
むぅ……。
「分かったよ。そのこわーい殺意を引っ込めてくれたらもう言わない。それでこの話はおしまい。いいね?」
いやー、我ながら元帥に甘い。
まぁ元帥が美女だからね。ちょっとは器の大きさを見せるのが大人のおと――じゃない、元帥の部下で美少女の僕様の務めってね! 僕様はじゅうななさいだし!
「……すまない」
おっと、これはさらに珍しい。
元帥が謝ってくるなんて。槍でも降るかな?
「で? その教皇様はどうするつもり? 皇帝が捕虜になる未来が見えたんなら、すでに手は打ってるんじゃない?」
「ああ。達臣と一緒に事後策にぬかりはない」
達臣。あぁ、あのシーバとかいう。
裏でこそこそやってるのが気に食わないけど、ほんの数か月でこの2人の信任を得ているんだからただ者じゃないのは分かる。
「煌夜は言っていた。オムカがこの3つの関門をクリアできたら、その時には考えがあると」
「3つの関門?」
「ああ。1つは皇帝の軍を破ること」
帝国じゃなく、皇帝の軍と言うあたり、元帥っぽい。自分は負けてないってね。
「2つ目は皇帝を捕虜にすること」
これは予知に出てたことだからほぼ決定事項とはいえ、実際にそうなるかは別問題ってことか。
ほぼ100%だからね。
「うん、そこまでは分かるよ。それでもう1個は?」
「皇帝を生かし続けること」
ん? どういう意味?
というのが表情に出たのだろう。
元帥は順を追って説明してくれた。
「オムカにとって、皇帝という存在は我々に対して切り札にもなるが、同時に足かせにもなる。それは人質であるということ。その人質が、我々にとって効果的であり、かつ無事であることが条件だ」
「ん、あぁなるほど。つまり皇帝に死なれたら人質にならないから困るってことか」
「さらに言えば、もし皇帝がオムカの領内で死ねば。それはつまりオムカの仕業ということになる。……実行犯が誰だろうとな」
あ、えぐ。
そういうことか。
皇帝は生きていないと交渉の切り札にならないだけでなく、万が一、事故でも病気でも死なれたりしたら、オムカが殺したということになりかねない。
たとえそれによりオムカが圧倒的不利になろうとも、国際情勢としてはそういう風にみられるわけだ。
そうなったとき、一番得をするのは誰か。
他の皇位継承権を持つ者、およびその側近。
そいつらがオムカの非を鳴らし、国民の感情をオムカ征伐に向けることになれば、30万とか比にならない軍勢がオムカを蹂躙することになるだろう。
いや、待て。
別に皇位継承権を持つ周辺じゃなくてもいいんだ。
それに準ずる、影響力を持つ者。たとえば、信徒1千万を抱えるパルルカ教の総本山の人間とか……。
「一応聞くけど、元帥?」
「なんだ?」
「うちの教皇様。暗殺者とか送ってないよね? あのやかましい――」
「送ったと聞いている」
食い気味に肯定されたよ。
もう少し間をおいてほしかったなぁ。
はぁ。やだやだ。
「で? じゃあその当事者に話でも聞けって?」
「ん?」
「そこ。入ってきなよ」
部屋の扉。しまっている。
だがその奥から感じる。さっきから、ひしひしと殺意を。
ここの部屋の近くには部下は寄せ付けていない。
それはつまり、誰かがいればそれは逆に不審者ということ。
「くひゃ。そう身構えなさんなって」
扉が開く。
そして、予想通りの人物がそこにいた。
名無しと自称する暗殺者のプレイヤーだ。
「はいはい、皆さんの名無し様の登場だ。感涙にむせび泣けよ?」
意地の悪そうな笑みを浮かべ、手を左右に広げて大げさなポーズを取って入ってくる名無し。
僕様は一応、腰に差した剣の柄を握る。が、元帥は腕を組んだまま、
「それで? いや、聞くまでもないな。成功していたならこうもコソコソ来るはずがない。しくじったな」
「うっ……容赦ねぇなぁ。ね、この人っていつもこんな感じ?」
僕様に振るなよ。
まぁ分からなくもないけどさ!
「ま、そうだね。で? しくじったの?」
「うぅ、そっちもかよ……」
これまでの悪趣味な笑みを引っ込めて、渋面を作る名無し。
ざまを見ろ。
「はいはい、そうですよ。しくじりましたよ。皇帝陛下に近づくまではよかったんだけどなぁ」
「でも、失敗したと」
「うるさいなぁ。しょうがないじゃん。そもそも気乗りしない仕事だったわけだし」
「一流は仕事を選ばないと思うんだけど?」
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味だけど?」
にらみ合う。
本当にこいつとは出会った時から合わない。
裏でねちねちやるのが性に合わないというか。
「それでは皇帝は生きてるんだな?」
「生きてる生きてる。まぁ俺も最後まで見てないから、あの後どうなったか分かんねーけどよ。ま、生きてるだろ」
「そうか」
元帥の言いたいことが分かった。
これでオムカは――ジャンヌ・ダルクは、教皇の示した3つの関門をクリアしたことになる。
そうなるとこれは講和への流れになるのか。
それが残念であり、どこか不満を感じる。
「それって僕様たちはもうお払い箱ってこと?」
「そうは煌夜は言っていない。わたしたちの力は次の場所で使われる」
「ふぅん?」
「まぁいい。とりあえずこれを読んでみろ」
そう言って元帥が取り出したのは、一枚の封筒。
それは上質な羊皮紙になっていて、少し緊張したけどそれが母国語で書かれてあり少しほっとした。
と、左隣に気配。
いつの間にか名無しがそばにいて、僕様の手元を見てくる。
ま、いっか。
視線を手紙に落とす。
「なになに。オムカが、ジャンヌ・ダルクが皇帝親征の危機を乗り越え、さらに講和の意志がある場合。交渉の場を持つことはやぶさかではない……えっと、何様かな?」
「それが煌夜だ。仕方あるまい」
「うーん……まぁ結果としては僕様の機転が完全に一致したってことかな!」
つかこれで皇帝もろともオムカを攻め滅ぼせとかだったら、僕様の瀬が立たなかったわけで。
「で? 誰がこの交渉の場に立つの? 僕様ちゃん?」
「当然、煌夜だ」
「ですよねー」
ま、そりゃそうだ。
大将軍といっても、責任の範囲は軍事にかかわることまで。
今回のことは国政のこと。
僕様たちには担当領域外だ。
「それで、僕様たちはどうするの?」
「軍ごと、この城で待機だ。何が起きてもいいようにな」
「貴族様の兵は?」
「帰す。何か起きたときに邪魔だ」
ですよねー。
10万の兵を食わすだけでも一苦労なんだから。
「んん。ってことは俺も暇ってことだな」
名無しがそう言って肩をすくめる。
「じゃあ帰ればー? 講和になったら君、役立たずだろ?」
「あぁ? そっちこそ、戦う相手いなくて役立たずだろうが!」
「はぁ? 僕様たちは忙しいんです。治安維持とか、国境の警備とか!」
「それって閑職ってことじゃねぇの? 左遷だ、左遷! こちとら平時の方が忙しいんだよ! 外から内に向けば政争が起きる。政敵を排除するには、結局俺みたいなのに頼るのが一番だからな! 講和ってことは元の世界にはもう戻れないってことだろ? 稼げるときに稼ぐ。体を使う仕事はいつできなくなるかわかんねーからな!」
「言ってること、最低なんだけど……」
でも、そうか。
講和が成立するってことは、大陸の統一がなくなるということ。
つまり僕様たちは元の世界に戻るすべを失うということ、もちろんこの世界で生きていくことになる。
元の世界に戻りたいか、と言われたら……どうだろう。
今は分からない。
この世界は気に入っている。
軍人なんて思いもよらない仕事についたけど、意外と天職だと感じているし、周りの人たちも一部を除けばまぁ悪くない。
何より今の僕様はピッチピチのじゅうななさい美少女だし!
けど……。
こうも戦乱が広がり、人がばたばたと死んでいく世界を見ていると、元の世界もそう捨てたものじゃないのでは、と思ってしまうこともある。
もちろん、僕様の周りが平和だっただけで、世界のどこかではやはり争いで人が死んでいるわけだけど。
それでも、その面で言えばこの世界よりははるかにマシだ。
争いに倦んだのか。
あるいは疲れてしまったのか。
分からない。
ただ、それより気になることがあった。
「…………」
戦いが終わる。
僕様たちの話を聞いていた元帥の表情に、一抹の寂しさを見た――ような気がした。
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