知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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間章 それぞれの決断

間章2 水鏡八重(シータ王国四峰)

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 交渉が決裂して、シータ国の首都ケイン・ウギに戻ってきた。
 久しぶりに見るこの都も、なんだか感慨深いと思うとゾッとする。

 つまりそれだけこの世界に落ち着いてしまっているということだから。

 一度はこの世界に落ち着くことも考えたけど、再び帰れる芽が見えるともうだめだった。
 今では一刻も早く元の世界に戻りたいと願う。
 だからこの1か月の停戦期間がもどかしい。

「そうか、そんなことになってたんだね。ご苦労様」

 一通りの出来事をあきらに報告した。
 場所は昔アッキーとも談話した和室で、お茶を飲みながらの報告となった。あの時はまだアッキーに対してぶっきらぼうでトゲトゲしい態度を取っていた覚えがある。
 それが今じゃあこんな感じだもの。何があるか分からないわね。

「しかし女神とはねぇ」

「あなたも会ったでしょう? この世界に来た時、最初に」

「ああ……そうだね。そういう時もあった、かな?」

「なによ、何かあるって?」

「いや……」

 そう黙り込む明は、どこかお茶を濁したような雰囲気だ。
 そして少し考えこむようにして、手を顎に当てて天を仰ぎ、

「八重は、まだ元の世界に戻りたい?」

 何を言い始めるかと思えば。

「……当然でしょ。こうなったら何が何でも元の世界に戻りたい」

「そう……」

「なによ。歯にもの挟まった言い方はらしくないんじゃない?」

「いや、そうだね。うん。まぁとりあえずは帝国を倒してからか。そうだ、そうしよう」

 何か無理やり自身を納得させる明に不審を覚える。
 けどこうなってはもうきっと口を割らないだろう。

「それでこれからだけど――」

「ああ、それならみんなも呼ぼう。さすがにこれからどうするかは、みんなで話し合った方が早い」

 その意見には賛成だったので、お茶を片付けてそのまま謁見の間に移る。
 そして呼ばれた面々が部屋に入ってくる。

 総司令のあまつ、水軍統括の淡英、砲兵統括の雫、そしてもう1人。見知らぬ男がいる。

 中肉中背のパッとしない感じの男で、眠そうに半目を開けて突っ立っている様子は、人生に飽きた老人のように見える。

 誰だろうか。

 そう思っていると、明がやってきて早速議題に入った。

「みんな、急な呼び出しに集まってくれてありがとう。知っている人もいると思うけど、帝国との講和が破談になった。八重、説明を」

 促され、私はさっきした経緯の説明を再び行った。
 面倒だが、天たちは初耳だろうし、こうやって何度も繰り返すことで、自分でも忘れていたこととかが思い出されるから重要だ。

「以上となります。何か質問はありますか?」

 そう4人に水を向けるが、天は首を横に振り、淡英は憮然として腕を組む。
 雫は知ってる内容だからか特に興味もなさそうに押し黙っている。
 残る1人の男は……よくわからなかった。

「ありがとう、八重。それで我々シータ王国の方針だけど――」

「そんなもん決まってらぁ、王様。オムカと一緒に帝国のやつらをぶっつぶす。そのために今まで戦ってきたんでしょうが」

 淡英が明を遮って、鼻息荒くまくしたてる。

「淡英、王が話している途中ですよ」

「はっ、決まり切ったことをぐだぐだ言うのも時間の無駄だろうが。それとも何か? お前は反対だっていうのか、天?」

「いえ、私も賛成です」

「ならいいじゃねぇか」

「そういう問題ではないのですが……はぁ」

「まぁいいんじゃないか。僕は気にしてないよ。じゃあ天と淡英、それに八重も帝国と戦うことで決定かな? 雫はどうだい?」

「……ミカと同じでいい」

「はっ、こりゃ多数決取るまでもないな。っと、王様よ。もちろん俺も前線に出させてくれるよな。いい加減、俺の鍛えた水陸両用の軍の強さを実践で使いてぇんだが」

「そうだね。それでいいと思うよ」

「それほど大きな戦です。私も全軍を統括すべく、前線に出ましょう。ええ、別にジャンヌ・ダルクに会いたいからなんてわけではありませんとも。ええ、そんなつもりはありませんとも」

「言えば言うほど墓穴を掘ってるわよ、総司令」

 もちろん私もアッキーと共に帝国を倒すために前線に出るつもりだ。
 元の世界に戻れるかもしれないチャンスを、他人の手にゆだねるつもりは毛頭なかった。

 けどそうなると問題が出る。

「北の守りが薄くならないかな」

 明の言う通り、今も北の戦線では、停滞気味とはいえ帝国と一進一退の攻防を続けている。
 そしてその指揮を執っていたのは、天であり、淡英も前線で戦っていた。
 その2人が主力となってオムカの方へと出張るのであれば、そっちの戦線で指揮を執る者がいなくなる。

 もちろん帝国としても、シータとオムカの連合軍に対して兵力をオムカ方面に集中させるはずだから、北部の戦線はそこまで激しくならないだろうが、それでも隙を見せれば首都を突こうとするはずだ。
 そのための防衛の指揮官が必要。

 だが――

「俺は嫌だぜ。北は退屈だしよ」

「私もそろそろジャンヌ・ダルクに格好いいところを……いえ、帝国に一矢報いたいところです。なんなら部下の1人に任せることにしましょうか。少し不安ですが」

 ある意味、究極のわがままで、国の大事をそんなことに使っていいわけはないのだけど。

「うん、まぁそうなると思ったから呼んでおいたよ」

 明が何を言っているか、一瞬分からなかったがすぐに気づいた。

 そうか、ここでもう1人、か。

陸源りくげんだ。南部で海賊相手に戦ってきた治安維持隊の指揮官だよ」

「よろしくお願いします」

 男が初めて喋った。
 朴訥ぼくとつとした、重みの感じる声だった。

「んんー? 誰だ、こいつ?」

「残念ながら私の記憶にも……南部の海賊相手、ですか」

 淡英と天が紹介された陸源に対して猜疑さいぎの視線を送る。
 それに対し、陸源と名乗った男は、

「…………」

 何も言わなかった。

 どこか超然として、周囲を寄せ付けない雰囲気に、天も淡英も気に入らない様子だ。
 さらに明がこんなことを言い出したのだからたまったものじゃない。

「それにね、彼には四峰しほうの一席を用意しようと思うんだ。そろそろ四峰もしっかり復活させるべきだろうしね」

「ちょっと明」

 私が明の言葉を遮って止めようとしたけど遅かったようだ。
 淡英の怒声が室内にこだました。

「四峰だぁ!? 王様よ。そりゃいただけねぇ。こんな青二才がいきなり来てはいそうですかってなるかい!」

「同感です」

「……馬鹿」

 淡英と天、さらには雫さえも反感を見せる。

 当然だろう。
 四峰といえば、まだ彼らの中には時雨の記憶が消えない。

 それなのに見知らぬ人間がいきなり現れて、代わりに入ります、となれば面白くもないだろう。

「うーん、困ったな。どうすれば納得してもらえるかな」

「そりゃ無理だぜ。こんな実力も分からないやつを――」

「じゃあ、実力が分かればいいんだね?」

「え?」

「彼が実力を示せば、四峰に匹敵することを示せば納得してくれるってことだね。例えば、君らと模擬戦をして勝てば」

 あ、なるほど。
 これが狙いか。

 この陸源とやらを抜擢したのは、おそらく明だ。
 だからある程度は勝算があるのだろう。

 そしてその実力が認められる場を作れば、あとは結果を示すだけだ。

 結論から言うと、模擬戦では陸源が淡英を圧倒した。
 淡英は陸戦両用に鍛えた兵で、純粋な陸軍というわけではないが、それでもシータ王国では有数の部隊だ。

 それを陸源が、同じ兵数とはいえ翻弄して分断して徹底的に打ち破った――わけではないが、互角以上の戦いをした。
 ただ随所で押し、出鼻をくじき、淡英に本来の実力を出させないようにした陸源は、淡英の部隊を圧倒したと言ってもいいだろう。

「少なくとも実力は示せたんじゃないかな。ま、とりあえずはお試しとして北の戦線に送ってみようと思うんだ。ただ万が一のために天、君の部隊から使えそうな人間を補佐においてくれないかな」

 その妥協案ともとれる、だが完全に明主導の解決案に、淡英と天は折れた。
 しぶしぶと言った様子だが、反論の余地はなくなったようだ。

 雫は何も言わなかった。
 ただいつものように黙って、それでどこかいつもと違う感じ。
 それがどこか不安で、だけどどうしようもなくて胸に痛みが走る。

 そして会議は散会となった。
 一先ずの方針は決まったので、後は詳細を詰めていくことになるが、そこはもう明の入る余地は少ない。

 それぞれが別々に別れていく中、私は一人の後を追って声をかけた。

「陸源、さん?」

「あぁ、なんでしょう。えっと、ミカガミ様?」

「水鏡でいいわ。同じ四峰になるんだから」

「ええ、そうですね。ではミカガミさん。何か御用ですか?」

「あんた――プレイヤーでしょ」

 単刀直入に聞いた。
 もはや腹の探り合いをしている段階ではない。

「……よくわかったもんだ」

 男の雰囲気が、一気に変わった気がした。
 これまでの朴訥ぼくとつとした凶暴なトゲトゲした感じに。

 やはりそうだった。

 ああも簡単に淡英の部隊と戦える実力。
 何より明に見いだされたこと。

 そこからあるいは、と思ったけど、本当にそうだとは。

「それで? 俺がプレイヤーだと何か問題があるんですか、水鏡サン? まさかスキルを使ったことを卑怯だと言わないですよねぇ?」

 先ほどとは真逆の話しぶりに、どうも調子が狂う。
 猫をかぶってたというよりは、人格を場合によって使い分けているみたいな感じ。

 けどそうやって本音でかかってきてもらった方が色々やりやすい。

「別に。特に用事はないわ。確認したかっただけ」

「これは、また。なんとも暇なんですね、水鏡サンは?」

 挑発めいた言葉は我慢。
 本当にそれだけの確認だったけど、こうなったら一発お見舞いしてやらないと気が済まない。

 これから始まるのは本当に命を懸けた戦いだ。
 何より元の世界に戻れるかどうか、最後の瀬戸際。
 それをこんな調子のやつが来て、ぶち壊しにされたくない。

 元の世界に戻る覚悟を、こいつに邪魔されたくない。

 だから――

「まだこの世界に来たばかりでしょ」

「だったらなんです? もしかして先輩として敬えって言うんですか? いいですよ、たかが少し経験あるからって、舐めないで下さいよ、センパイ?」

 本当にこの男。
 どうしてここまで不遜になれるのか。

 ある意味、あの女神を思い出させる。
 いや、あれの小型だ。劣化版だ。

 そう思うと、この男も哀れに思える。
 あまりにも、時期が悪すぎる。

 だから言ってやる。

「あんまこの世界なめてると――死ぬわよ」

「…………ぷはっ、なんですか、それ」

 陸源が吹き出す。
 けど、そこには少しひきつったものが見えていた。

 ふん、まぁいいわ。
 今はこれくらいにしてあげる。

 どうせすぐに泣きついてくるだろうから。

 陸源に背を向けて立ち去ろうとしたところ、背中に声をかけられる。

「センパイこそ、ブザマな戦いだけはしないでください? それじゃあ今後もご指導ご鞭撻べんたつのほど、よろしくお願いしますよ、センパイ」

 そう言って、きっと醜悪な笑みを浮かべているだろう陸源のことを思い浮かべると、次会った時には蹴飛ばしてやろうと思う。そうしよう。そう決めた。
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