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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
第3話 最後の休息
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ノーネームの一件は、意外と俺にショックを与えたようで、俺はその日の出立を延期させた。
やってきたサールに連れられ西門のところに戻った時には、すでにクロエたちは城外へ出て行っていた。
また、マリアとニーアも、暗殺者の危険性を考慮して王宮に帰った後だ。
「私が先に行って、クロエさんに伝えてきましょう。リナさん、あとはよろしくお願いします」
というサールの言葉を受け、俺はもと来た道を戻り、自宅へと戻った。
「ごめんね、明彦くん。ちゃんと気を付けてれば」
ベッドに寝転がり、ぼぅっと天井を見上げていると里奈が真横に腰を降ろしてそう言った。
「いや、里奈には助けられたよ。そうでなきゃ、今頃俺は……」
「そうだね……うん、姉としては当然だけど! それに明彦くんを、こうぎゅっとして、とっても柔らかかったし」
「お前な……」
あの状況でそんなことを考えられるのは、何も考えてないのか、あるいは図太いのか。
後者であってくれと真剣に思った。
「でも、よかったね。リンちゃんが無事で」
「……ああ」
本当に、よかった。
あれでもしリンがそうなっていたら、俺は今頃、本当にダメになっていたかもしれない。
そう考えると、リンを殺さないでくれたノーネームに感謝の思いを感じてしまうのだから不思議だ。
「結局、あいつは何がしたかったんだろうな。俺を殺しても、この戦いは終わるわけじゃないのに」
「一度くらいかな、それしか彼女と話したことないんだけど」
「あぁ、そうか。里奈は、知ってるんだったな。相手の、素顔を」
知り合いが目の前で死んでいくのを見て、あえてその話題を振ったのはデリカシーがなかったか。
「うん、でも言ったとおり一度くらいしか話したことないから、平気。でね、自分はこれしかできない。だからそうやって生きてくんだって」
「……分かったような、分からないような」
「私もそう言ったら、あの変な笑いして。分かる必要はねーよ、それが分からねーなら、それはもう他のこともできるちゃんとしたやつだ。だからそのまま生きればいーんじゃね、だって。やっぱりよく分からなかったから印象に残ってた」
里奈に言われ、なんとなく納得いった。
これしかできないから、そうやって生きていく。
彼女にとってそれが暗殺だったということ。
それは、翻って俺に当てはめてみれば、軍師だということ。
俺にはこれしかできない。
いや、元の世界のように学者を目指せばそれなりの生活は送れたかもしれない。
けどこの世界が、この状況が、周囲のみんなが、それを許さない。
結果として、俺は軍師として人を殺した。
暗殺しかないと言った彼女と何が違うのか。
人の命を奪うという意味では同類項なのに。
「明彦くん?」
「あ、いや。なんか難しい哲学みたいなこと考えてんだなぁって」
「そうかもね。私も、なんだかちょっと考えることもあったし……」
里奈は、何を考えているのだろう。
あるいは彼女自身も人を殺めた過去を思っているのだろうか。
「大丈夫だよ。里奈も俺も、ちゃんと生きてる」
「うん……」
なんの慰めになったか分からないけど、里奈の声に少し力が戻ったような気がした。
「さ、10分くらいしたら出るかな。あまり皆を待たせてもしょうがないし!」
少し沈んだ空気を打ち払うように力強く言い、ベッドから跳ね起きた。
だが、そこから一歩踏み出そうとして、
「あ……あれ?」
ベッドに膝をついてしまう。
体がうまく動かない。
本気で死ぬ一歩手前だったわけで、さらに万が一リンに何かあったらと思うと平静ではいられなかったようだ。
「ほら、明彦くんも大変だったんだから。無理しない無理しない」
「でも……」
「クロエさんたちにはサールさんが色々言ってくれてるわけでしょ。無理しないで」
確かに、俺が今日出発しなくても、すぐに戦端が開かれることもないだろう。
それに里奈と2人だけなら、馬を飛ばせば遅れは取り戻せる。
「……そう、だな」
「あれ、聞き分けがいいね。普段ならあと5分ぐらいはごねると思ったのに」
「俺ってどういう評価だよ……。ま、最近色々あったからな。色んな人に迷惑かけたし。里奈にも」
「いえいえー。でも明彦くんが元気になってよかった。本当に。おかえりなさい、明彦くん」
「……ただいま、里奈」
向かい合って、そう言い合うのが、なんだかほほえましく、なんだか新鮮だ。
「というわけで今夜はどうする? お風呂にする? それともお食事にする? それとも、わ・た・し?」
「里奈……その芸風、ニーア、というかあの女神だぞ」
「なんかそれはすんごい屈辱……」
そして笑いあう。
それから一息入れてお茶を飲んで、話して、夕ご飯を食べて、そして一緒に寝た。
思えばこの一か月、落ち込んだ時間と策を練る時間とこの国に残る人たちへの時間で費やされていた。
里奈とこうして語り合ったことも、ほぼないと言っていい。
だからこうして、最後の最後で語り合えたことは、最後の休息の意味も兼ねてありがたかった。
それに、里奈の覚悟も聞けたことも。
「里奈は、いいのか。俺についてきて」
「ただ待ってるだけなのは辛いから。それに、私の手はもう汚れてる。だから、最後まで、その罪を背負って生きるから」
「……ありがとう」
「どういたしまして。それと明彦くん」
「ん?」
「頑張ろうね」
「……ああ」
里奈の笑顔を見て思う。
この世界に来て、再び里奈に会えて、心が通じ合えて。
本当に、よかったと。
やってきたサールに連れられ西門のところに戻った時には、すでにクロエたちは城外へ出て行っていた。
また、マリアとニーアも、暗殺者の危険性を考慮して王宮に帰った後だ。
「私が先に行って、クロエさんに伝えてきましょう。リナさん、あとはよろしくお願いします」
というサールの言葉を受け、俺はもと来た道を戻り、自宅へと戻った。
「ごめんね、明彦くん。ちゃんと気を付けてれば」
ベッドに寝転がり、ぼぅっと天井を見上げていると里奈が真横に腰を降ろしてそう言った。
「いや、里奈には助けられたよ。そうでなきゃ、今頃俺は……」
「そうだね……うん、姉としては当然だけど! それに明彦くんを、こうぎゅっとして、とっても柔らかかったし」
「お前な……」
あの状況でそんなことを考えられるのは、何も考えてないのか、あるいは図太いのか。
後者であってくれと真剣に思った。
「でも、よかったね。リンちゃんが無事で」
「……ああ」
本当に、よかった。
あれでもしリンがそうなっていたら、俺は今頃、本当にダメになっていたかもしれない。
そう考えると、リンを殺さないでくれたノーネームに感謝の思いを感じてしまうのだから不思議だ。
「結局、あいつは何がしたかったんだろうな。俺を殺しても、この戦いは終わるわけじゃないのに」
「一度くらいかな、それしか彼女と話したことないんだけど」
「あぁ、そうか。里奈は、知ってるんだったな。相手の、素顔を」
知り合いが目の前で死んでいくのを見て、あえてその話題を振ったのはデリカシーがなかったか。
「うん、でも言ったとおり一度くらいしか話したことないから、平気。でね、自分はこれしかできない。だからそうやって生きてくんだって」
「……分かったような、分からないような」
「私もそう言ったら、あの変な笑いして。分かる必要はねーよ、それが分からねーなら、それはもう他のこともできるちゃんとしたやつだ。だからそのまま生きればいーんじゃね、だって。やっぱりよく分からなかったから印象に残ってた」
里奈に言われ、なんとなく納得いった。
これしかできないから、そうやって生きていく。
彼女にとってそれが暗殺だったということ。
それは、翻って俺に当てはめてみれば、軍師だということ。
俺にはこれしかできない。
いや、元の世界のように学者を目指せばそれなりの生活は送れたかもしれない。
けどこの世界が、この状況が、周囲のみんなが、それを許さない。
結果として、俺は軍師として人を殺した。
暗殺しかないと言った彼女と何が違うのか。
人の命を奪うという意味では同類項なのに。
「明彦くん?」
「あ、いや。なんか難しい哲学みたいなこと考えてんだなぁって」
「そうかもね。私も、なんだかちょっと考えることもあったし……」
里奈は、何を考えているのだろう。
あるいは彼女自身も人を殺めた過去を思っているのだろうか。
「大丈夫だよ。里奈も俺も、ちゃんと生きてる」
「うん……」
なんの慰めになったか分からないけど、里奈の声に少し力が戻ったような気がした。
「さ、10分くらいしたら出るかな。あまり皆を待たせてもしょうがないし!」
少し沈んだ空気を打ち払うように力強く言い、ベッドから跳ね起きた。
だが、そこから一歩踏み出そうとして、
「あ……あれ?」
ベッドに膝をついてしまう。
体がうまく動かない。
本気で死ぬ一歩手前だったわけで、さらに万が一リンに何かあったらと思うと平静ではいられなかったようだ。
「ほら、明彦くんも大変だったんだから。無理しない無理しない」
「でも……」
「クロエさんたちにはサールさんが色々言ってくれてるわけでしょ。無理しないで」
確かに、俺が今日出発しなくても、すぐに戦端が開かれることもないだろう。
それに里奈と2人だけなら、馬を飛ばせば遅れは取り戻せる。
「……そう、だな」
「あれ、聞き分けがいいね。普段ならあと5分ぐらいはごねると思ったのに」
「俺ってどういう評価だよ……。ま、最近色々あったからな。色んな人に迷惑かけたし。里奈にも」
「いえいえー。でも明彦くんが元気になってよかった。本当に。おかえりなさい、明彦くん」
「……ただいま、里奈」
向かい合って、そう言い合うのが、なんだかほほえましく、なんだか新鮮だ。
「というわけで今夜はどうする? お風呂にする? それともお食事にする? それとも、わ・た・し?」
「里奈……その芸風、ニーア、というかあの女神だぞ」
「なんかそれはすんごい屈辱……」
そして笑いあう。
それから一息入れてお茶を飲んで、話して、夕ご飯を食べて、そして一緒に寝た。
思えばこの一か月、落ち込んだ時間と策を練る時間とこの国に残る人たちへの時間で費やされていた。
里奈とこうして語り合ったことも、ほぼないと言っていい。
だからこうして、最後の最後で語り合えたことは、最後の休息の意味も兼ねてありがたかった。
それに、里奈の覚悟も聞けたことも。
「里奈は、いいのか。俺についてきて」
「ただ待ってるだけなのは辛いから。それに、私の手はもう汚れてる。だから、最後まで、その罪を背負って生きるから」
「……ありがとう」
「どういたしまして。それと明彦くん」
「ん?」
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「……ああ」
里奈の笑顔を見て思う。
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本当に、よかったと。
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