知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話1 堂島美柑(エイン帝国軍元帥)

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 7月初旬。
 1万の兵を率いてジュナン城に入った。

 杏に任せた4万は移動に時間がかかるだろうから、こうして先に入ったわけだが。

「敵さんは来るかねぇ、ドージマさん?」

 7千を率いる尾田張人が明日の天気の話をするように聞いてくる。

「さぁ、な。だがおそらくは来ないだろう。相手は多くとも3万。私ならその兵力で、1万が籠る城は攻撃しない」

「でも相手には天才軍師様がいるけど?」

「天才だろうと無敵だろうと、兵数が増えるわけじゃないし、兵が空を飛ぶわけでもない。ここに私がいる限り、相手は帝都を攻められんだろう」

「ご意見ごもっとも」

 軽い返答に、彼がそこまで本気で心配したわけではないことが分かる。
 世間話程度に言ってみたかっただけだろう。

 この尾田張人という男。
 元帥府とは異なる立ち位置にいたため、あまり交流はなかった。
 さらに彼が帝国を離れるにあたって、一時、自分はその名を脳裏から消したのだ。

 だがこの状況になり、彼が帰参を望み、そして煌夜がそれを許したことで、彼は再び軍を率いるようになった。
 とはいえ、彼を今までのように好き勝手させるわけにはいかない。
 今回の戦いが正真正銘の決戦である以上、彼の独自行動は許さず、私の指揮下に納めるつもりだ。

 それに際して、この停戦の1か月。
 彼と語り合った。

 あまり他者と交わることが得意ではない自分としては苦痛なことだと思ったが、意外と物分かりがよく、同時に自頭がそこそこ良い人間だと感じた。

 だからこそ7千の兵の指揮も任せられたわけで。

 それにしても不思議なものだと思う。
 自分としては軍人など考えつかなかったことだが、それが妙にぴったりとはまり、こうして大帝国の軍事トップに上り詰めてしまった。

 だがそれは、実は異例でもなんでもなく、当然のことではないか。
 そう思い始めた。

 そうでもなければ、数千万の人口を誇る国家の上位2席、および7千をも指揮する人間が、前の世界のプレイヤーで占められることがあるだろうか。
 杏や張人も、前の世界で軍人をやっていたわけではないだろうに。

 つまり、それほど今の帝国の軍人の質は高くないということ。

 その比較はある意味仕方ない。
 この時代であれば学校に通ったことのある人間は50%を割るだろう。
 識字率も高くないというありさまだ。

 そうなればある程度の教育を受けてきた前の世界の人間ならば、ある程度軍学を学べる知識があれば、誰でも上り詰めることができるのは自明の理ではないか?

 だからなんとなしに、それを張人に聞いてみたが、

「いや、多少はそういうのがあると思うけど。それでも多少だよ。ほかの連中見てみなよリーナちゃんみたく暴れるしかできないのもいれば、あのレディ語ってるお茶しか飲む脳のないのもいれば、暗殺しかできない人でなしもいる。だから、ま、たまたまじゃない? あのおっさん少女含め、そういうのが集まったのは。ま、俺は天才だから? そういうのそつなくこなすけどさ」

「そういうものか」

「そういうもん。こうやって上り詰める人は、とてつもない野心を秘めている人間とか、人間を数字でしかとらえられない人間とか、人を殺しても何ら思わない人間とか、戦いの中でしか喜びを見いだせない人間しかできないわけ」

「ふむ……」

「てかドージマさん基準で言われると、そんな人間そういないぜ? 戦いの呼吸とか、人心掌握とか、なんでそんな知ってんのってくらい」

 そんなことを言われても、少し考えれば誰でもできるような気もする。
 あとは勘。

 それにしても分かったような分からないような。

 ただ、たぶん自分は野心も野望もなく、人の命なんてどうでもよく、戦いについてなんとも思わないろくでなしの人でなしなわけで。
 それをやらないと死んでいたし、それしかできないからそうするしかなかったわけで。

 まぁ、自分みたいのがそうそういるわけでもなく、少なくともこの男も杏も、自分以上に色々と考えてこの道を進んだんだろう。

「ところで、そのおっさん少女というのは杏のことか? 少女は分かるが、なぜおっさんなのだ?」

「ぶっ、え? 気づいてない? あれ、絶対男でしょ?」

「いや、彼女は女だぞ? 一緒にお風呂入ったからよく知っている」

「え? え? いや、マジ!? ぷっ、あはははは! ドージマさん、あんたすげーわ。いやー、あそこまで露骨にネカマやってんのに気づかずお風呂かー。うらやま――けしからんなぁ」

「そうか……杏は男だったのか」

「ん、いや。今は女だからいいんじゃない? うん、女ってことで問題ないさ?」

 なんだか気を使われたみたいだが、まぁいい。
 杏は優秀で、野心ある後輩。それだけあれば性別は二の次だ。

「で、それならこっちから攻撃するってことは?」

 再び軍事の話に戻る。

 相手が来ない以上、こちらから攻めるしかない。
 それは確かな事実としてある。

 つまり張人が聞いているのは攻めるかどうか、ではなく“いつ”攻めるか、ということ。
 こちらが戦場の主導権を握れるというだけで、それはとてつもないアドヴァンテージなわけだけど。

「そうだな……明後日には杏が全軍を率いてくるだろうが……」

 期間は半年。
 時間はあるようでない。

 だが今攻めたところで、という気はしている。
 相手はオムカ軍3万ほどと報告は入っている。
 シータ王国の援軍はまだないため、兵力差ではこちらが有利だ。

 だがそれは――どこか物足りない感じ。
 戦って勝っても、消化不良を起こすのではないか。

 閉店間際の店で、少し待てば最高級の国産ステーキが出てくるのに、わざわざ急いで外国産の質の落ちるステーキを選ぶ必要はないだろう。

 となれば答えは1つ。

「シータ王国の援軍を待つ」

「ほっ、なるほどねぇ。今攻めても敵前渡河に攻城戦と不安要素は多い。けど、援軍が来れば兵数は逆転。相手は野戦に出てくるだろうから、そこを叩くってわけね。ま、相手も攻めるしかないわけだし、それでいいんじゃないかな」

 攻城戦そんなことはまったく考えてなかったからそう言われて驚いた。
 あまり感情を表に出すタイプじゃないから張人には感づかれなかっただけだろうが。

 しかし……それほどに私は野戦がしたいのか。
 それはつまり、双方どちらも多くの死傷者が出る戦い。

 それを一番に望むなんて。
 なるほど、こういった感覚が、ほかの人間にはないのかもしれないな。

「へぇ、ドージマさんってそう笑うんだ」

「笑う?」

 笑っていたのか、私は。
 野戦を考えていたのに。
 多くの人の死を思ったのに。

 それを笑う私は、どれだけ人の死を望んでいるのか。

「うん、まぁ可愛いとかそういう系じゃないけど、いーんじゃない? 俺は嫌いじゃないぜ?」

「そうか」

「……んん。今の殺し文句のつもりだったんだけどなぁ。この世界のプレイヤーはリーナちゃんといい、ガード固すぎだろ」

「ガード? 守りの陣ということか?」

「あ、いや、いいです。もう」

 なんだか知らないが、落胆させてしまったようだ。
 これから生死を共にするのにこれはいけない。

「案ずるな。この戦いは必ず勝つ」

「それは頼もしいね。俺もまだ死にたくないし」

 そう言って張人は苦笑いする。
 その心境はよくわからないが、言っていることは確かだ。

 そうだ、死ぬのだ。
 今回の戦い、たとえ勝っても蒼月麗明が死ねば私も死ぬ。

 自分の戦いとは少し違った感覚。
 幸い、今彼女は煌夜とともに帝都にいるからすぐにどうこうというわけではないが、それでもどこか心に引っかかる。

 自分の戦ができないとか、どこか緊張感に欠けるというか。

「じゃ、ま。もう数日は何もないだろうから、昼寝でもするかー」

 こちらもどこか緊張感のない様子。
 だがそれがなんとも彼らしい。

 そんな状態で杏の到着を待っていた。

 そして明後日。

「どーもー! 女神ちゃんDEATHです! 来ちゃったぜぇ、最前線! ね、ね、いつ始まるのかな!? 楽しみだなー、うっきうき!」

「申し訳ない、堂島さん。何が何でも来ると言って聞かなくて」

 ハイテンションな麗明と、申し訳なさそうにする煌夜が、杏に率いられ城にやってきた。
 まさか前線に出てくるとは思ってもおらず、だが逆に敗北条件がこうも近くにあることによって、欠けていた緊張感が否が応でも増していくのを感じる。

 だから珍しくしょぼくれる煌夜に対し、口角を曲げてみた。

「いや、いい。火が付いた」

 私は、笑ったんだと思う。
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