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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
第7話 残された人たち
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何が起きたか。しばらく分からなかった。
遠くで人馬の騒がしい喚声が聞こえたので、ひとまず陣の守りを固めた。
やがて騒音がシータ王国の陣からだと知ったが、うかつに動けなかった。
もしシータの部隊が動いていて、この月明かりの弱い闇夜に鉢合わせたら同士討ちになる。
「……静かになりましたね」
ジルがそうつぶやく。
どうやら終わったようだ。
だが油断はできない。俺はさらに見張りを厳重にするよう指示した。
そして30分が経過したころ。
水鏡が護衛を引き連れてやってきた。
そして淡英の訃報を聞いた。
「犠牲は300人くらい。3千くらいの騎馬隊が2つに分かれて淡英の陣を十字に突っ切ったわ。淡英は防衛態勢を整えるまもなく、斬られたって」
「そんな……」
「……ま、言いたいことは分かるわ。天が立て直してるけど、いきなり将軍の1人を失ったんですもの。士気が下がってるのは否めないわ」
あの淡英が死んだ?
サカキと似て、殺しても死なないような男だったのに。
こうもあっけなく、簡単に、早々にいなくなるなんて……。
「ふん、この世界はそういうものじゃないの? 誰もが次の瞬間には死ぬかもしれない。さよならを言える間もなく、ね。だからこんなの珍しいことじゃない」
「なんで、そんな……冷静に言えるんだ」
「……私が冷静? 何も分かってないだけよ。そう……何も……」
水鏡が吐き捨てるようにしてうつむく。
その肩が震えている。
そうか。
水鏡は俺より淡英とかかわりがあったはずだ。悔しくない、悲しくないわけがない。
俺はうかつにも狼狽している自分を恥じた。
「ちなみに兵の話だけど。ほんとかウソか分からないけど、淡英を斬った相手は――帝国元帥だそうよ」
「なっ……!」
まさか、ここで出てくるのか。
こんな早い段階。しかも成否定まらない、むしろ失敗の確率の方が高いやけっぱちのような奇襲に、総大将自らが出てくるなんて。
「ね、これどういうこと? あんたなら分かるんじゃないの?」
「……いや、分からない。こんなことが、しかも3千? 少しでも踏ん張られれば、包まれて一環の終わりだぞ?」
「ええ、軍事学上もあり得ません」
ジルが同意してくれたが、本当にそうなのだ。
初戦の勝ちにおぼれて夜襲の備えを怠ったのなら別だが、そこはお互い注意するよう確認し合ったばかりなのだ。そもそもあの淡英が油断なんてらしくもない。
しかも時間も中途半端。誰もが寝静まる夜中でも、警備の気が抜ける払暁の朝駆けでもない。
食後のちょっとした時間。
少しでも時間がずれれば、もっと迎撃はまとまったものになっていただろう。
すべてが綱渡り。
狙ってこうなったとは思えない。
あるいは陣の様子を探って見つけた獲物が、たまたま淡英だったということならまだ分からなくはない。
だが淡英の陣は俺たちオムカとシータ本軍の間に挟まるようにしてあるので、狙いやすいとは言えない。
しいて言えば、ほんの少し北側――敵の籠る城に近いというぐらいだが、それでも狙いやすいものではないだろう。
分からない。
これほど不可解な戦法にはお目にかかったことはないのだ。
「……ひとまず夜襲への警戒を上げよう。見張りと待機と就寝の3つに分けて交代で夜明けを待つ」
「はっ!」
「了解だ」
ジルとサカキがうなずいてそれぞれの持ち場に戻っていく。
俺は水鏡に向き直り、
「シータはまだやれるのか?」
「それを話すために私がここに来たんでしょ。ま、なんとかするわ。天が」
「そう、か」
ほっとした。
ここでシータに抜けられると兵力差は逆転する。
「けど今まで通りにはいかないかも。淡英の部隊、かなり燃えてるわ。仇を取るって」
「それはいいんじゃないのか? 意気消沈されるよりは」
「程度の問題よ。みんなが淡英の部下だから、荒くれでガサツなのがいっぱいいるわ」
「あー……」
なるほどなぁ。
頭に血が上っちゃってるわけだ。
孫子いわく、将に五危あり。必死は殺さるべきなり。
将軍には5つの危ない要素がありますよ。必死――つまり決死の覚悟だけで戦う人は、罠や計略にかかって殺されやすいですよ、というものだ。
まさしく仇討ちに燃えている淡英の部下たちは、その状態にある。
彼らが全滅するだけでも痛いが、それ以上にそのことが味方に波及して予期せぬ損害――どころか全面敗北となる危険性もあるのだ。
だから仇討ちの怒りはそのままに、どうにか制御するしかないわけだが……。
「アッキーが面倒見てみる?」
「お、俺!?」
まさかこっちに振られるとは思わなかった。
「いや、なんかそういう面倒なの得意かなって」
「なんだそりゃ。大体、他国の人間の言うことなんて聞かないだろ」
「そこは大丈夫。あそこ、バリバリの体育会系だから。上の言うことは絶対。淡英はあんたを認めてたし。その部下ならきっと大丈夫でしょ。それに、なんてったって闘技場の女神様だものね?」
「それを言うなよ……つかそれはお前も一緒」
「さぁ、知らないわ。私には私の部隊があるから。じゃ、あとよろしく」
「あ、きったね!」
「汚くて結構。けどね、やっぱり私には無理。どこか彼らに同乗して躊躇する。そして勝手に無理して、全滅するわ。全軍を見る天にも無理。だからアッキー。あんたに使ってもらった方がいいと思うの。あんたなら、そこらへんは容赦なく使うでしょ」
「人を血も涙もないように言うなよ」
「……ごめん」
水鏡が急にしおらしくなり、そして不意に近づいてくる。
なんだろうかと思っていると、そのまま抱き着かれた。
「ちょ、おま……!」
水鏡の体温を感じる。
激しく波打つ鼓動さえも。
「ごめん。本当は、結構、余裕ない……かも。あいつ……死にそうになかったのに……なんで、こんな……」
「お前……」
そうだ。
淡英が死んだのだ。
同じ国の仲間。
それを失ったことへの辛さは、俺の比じゃないはずだ。
「わかってる。軍を預かる人として、こんな弱気なんじゃ……でも、でも……」
「ああ、大丈夫だ。全部わかってる。お前が辛いのも、悲しいのも」
慰めるよう、背中に手を回してポンポンと叩いてやる。
背中越しに伝わる、心臓の鼓動が生きている実感を得る。
「…………うん」
大きく、水鏡が吐息する。
それが俺の首筋をなで、ちょっとぞくぞくとした。
そして数秒。
水鏡の体が硬直し、ガバッと俺を引き離すと、
「なっ、なんてこと言うと思ったら大間違いだから! な、泣いてなんかないから!」
いやいや、目元真っ赤だし。めっちゃ水分漏れてるじゃん。
強がりがバレバレなんだが。
「てかこれ誰かに言ったら殺すから! あんたたちも何も見てない! いいわね!」
怖ぇよ。
とばっちりの護衛の兵たちもがくがくと首を縦に振る。やれやれ、だ。
こうなったら兵を預かるという提案も飲むべきだろうな。
少しでも彼女の負担を減らしてやりたい。何より1万の兵を遊ばせておく余裕はないのだ。
「とりあえず承ったよ。じゃあすぐに隊の代表に会いたい」
「ん……じゃあ朱賛!」
「はっ」
水鏡が護衛の中から呼んだのは、大柄のがっちりした筋肉質で、丸刈りに鋭い目つきでもうそれだけでギャングにいそうな男だ。
てかこいつを連れてきたってことは、押し付ける気満々だったってことじゃねーか。
「朱賛と申しやす。闘技場の女神様の尊顔を拝したこと、歓喜の念にたえません。ましてや我が隊の指揮をお引き受けいただけるとは……」
男――朱賛が頭を下げながらも、肩を震わせる。
もしかして泣いてない?
と言っても、引き受けるって言っちゃったからなー。
これを断るほどの勇気は俺にはなかった。
「わかった。じゃあ朱賛、よろしく頼むよ」
「はっ!」
「じゃあ、あとよろしく。私は天を手伝うから」
水鏡は鼻をすすりながら、そう言って踵を返していった。
あいつ、大丈夫かな。
そして残された俺は、まだ頭を下げ続ける朱賛の顔をあげさせ、
「1つ聞いていいか?」
「なんなりと」
「俺はオムカ、他国の人間だ。それでも命令を聞いてくれるのか?」
「当然す。ジャンヌ様は我らシータにとっても英雄。言うことを聞かないやつがぁいりゃあ、鉄拳制裁しやすぜ」
怖っ。体育会系怖っ。
ま、いいや。
これは最低限の言質を取るためのものだから。
「よし、じゃあ最初に全軍に命令する」
「はっ」
「自裁を禁止する。それに近い、自殺同然の突撃も、だ。いかなる理由であってもこれを破ったら、遺族には報いない。そう水鏡には約束させる」
「それは……」
朱賛の顔色が変わる。
やはりそれを考えていたのだろう。
けどそれは許してはいけない。
勝てるものも勝てなくなるのだ。
だからここは何としてでも押し通す。
「俺の命令には従うって言ったよな。それが聞けないっていうなら、俺は降りるよ」
意地悪い言い方だったが、そうでもしないと聞かないだろう。
少し悩むようにしていた朱賛だが、やがて顔を上げると、
「分かりゃした。皆には納得させやす」
うん、これでいい。
「じゃあよろしく。それに無理しなくても仇討ちの場面が俺が絶対に用意するよ。だからそれまで、俺を信じてくれ」
まだ何も考えてないけど。
本当に嘘で生きてるよな、最低な俺。
「……はっ!」
そんな俺の内心も知らず、朱賛は力強い返答をして陣へと帰っていった。
もう暗い。再編成するのは明日の方がいいだろう。
……はぁ。
まったく、短い時間でこうも事態が動くとは。
シータ軍まで指揮するとは思わなかった。
「ったく、息巻いといて早々退場とか……恨むぞ、淡英」
今やもういない戦友に向かって毒づく。
さよならも言えないまま消えていく命。
そんなことはもうこれ以上起こしたくない、起こさせない、
そう決意を新たにすると、俺は再編の案と明日の作戦まとめるため、自分の幕舎に戻った。
遠くで人馬の騒がしい喚声が聞こえたので、ひとまず陣の守りを固めた。
やがて騒音がシータ王国の陣からだと知ったが、うかつに動けなかった。
もしシータの部隊が動いていて、この月明かりの弱い闇夜に鉢合わせたら同士討ちになる。
「……静かになりましたね」
ジルがそうつぶやく。
どうやら終わったようだ。
だが油断はできない。俺はさらに見張りを厳重にするよう指示した。
そして30分が経過したころ。
水鏡が護衛を引き連れてやってきた。
そして淡英の訃報を聞いた。
「犠牲は300人くらい。3千くらいの騎馬隊が2つに分かれて淡英の陣を十字に突っ切ったわ。淡英は防衛態勢を整えるまもなく、斬られたって」
「そんな……」
「……ま、言いたいことは分かるわ。天が立て直してるけど、いきなり将軍の1人を失ったんですもの。士気が下がってるのは否めないわ」
あの淡英が死んだ?
サカキと似て、殺しても死なないような男だったのに。
こうもあっけなく、簡単に、早々にいなくなるなんて……。
「ふん、この世界はそういうものじゃないの? 誰もが次の瞬間には死ぬかもしれない。さよならを言える間もなく、ね。だからこんなの珍しいことじゃない」
「なんで、そんな……冷静に言えるんだ」
「……私が冷静? 何も分かってないだけよ。そう……何も……」
水鏡が吐き捨てるようにしてうつむく。
その肩が震えている。
そうか。
水鏡は俺より淡英とかかわりがあったはずだ。悔しくない、悲しくないわけがない。
俺はうかつにも狼狽している自分を恥じた。
「ちなみに兵の話だけど。ほんとかウソか分からないけど、淡英を斬った相手は――帝国元帥だそうよ」
「なっ……!」
まさか、ここで出てくるのか。
こんな早い段階。しかも成否定まらない、むしろ失敗の確率の方が高いやけっぱちのような奇襲に、総大将自らが出てくるなんて。
「ね、これどういうこと? あんたなら分かるんじゃないの?」
「……いや、分からない。こんなことが、しかも3千? 少しでも踏ん張られれば、包まれて一環の終わりだぞ?」
「ええ、軍事学上もあり得ません」
ジルが同意してくれたが、本当にそうなのだ。
初戦の勝ちにおぼれて夜襲の備えを怠ったのなら別だが、そこはお互い注意するよう確認し合ったばかりなのだ。そもそもあの淡英が油断なんてらしくもない。
しかも時間も中途半端。誰もが寝静まる夜中でも、警備の気が抜ける払暁の朝駆けでもない。
食後のちょっとした時間。
少しでも時間がずれれば、もっと迎撃はまとまったものになっていただろう。
すべてが綱渡り。
狙ってこうなったとは思えない。
あるいは陣の様子を探って見つけた獲物が、たまたま淡英だったということならまだ分からなくはない。
だが淡英の陣は俺たちオムカとシータ本軍の間に挟まるようにしてあるので、狙いやすいとは言えない。
しいて言えば、ほんの少し北側――敵の籠る城に近いというぐらいだが、それでも狙いやすいものではないだろう。
分からない。
これほど不可解な戦法にはお目にかかったことはないのだ。
「……ひとまず夜襲への警戒を上げよう。見張りと待機と就寝の3つに分けて交代で夜明けを待つ」
「はっ!」
「了解だ」
ジルとサカキがうなずいてそれぞれの持ち場に戻っていく。
俺は水鏡に向き直り、
「シータはまだやれるのか?」
「それを話すために私がここに来たんでしょ。ま、なんとかするわ。天が」
「そう、か」
ほっとした。
ここでシータに抜けられると兵力差は逆転する。
「けど今まで通りにはいかないかも。淡英の部隊、かなり燃えてるわ。仇を取るって」
「それはいいんじゃないのか? 意気消沈されるよりは」
「程度の問題よ。みんなが淡英の部下だから、荒くれでガサツなのがいっぱいいるわ」
「あー……」
なるほどなぁ。
頭に血が上っちゃってるわけだ。
孫子いわく、将に五危あり。必死は殺さるべきなり。
将軍には5つの危ない要素がありますよ。必死――つまり決死の覚悟だけで戦う人は、罠や計略にかかって殺されやすいですよ、というものだ。
まさしく仇討ちに燃えている淡英の部下たちは、その状態にある。
彼らが全滅するだけでも痛いが、それ以上にそのことが味方に波及して予期せぬ損害――どころか全面敗北となる危険性もあるのだ。
だから仇討ちの怒りはそのままに、どうにか制御するしかないわけだが……。
「アッキーが面倒見てみる?」
「お、俺!?」
まさかこっちに振られるとは思わなかった。
「いや、なんかそういう面倒なの得意かなって」
「なんだそりゃ。大体、他国の人間の言うことなんて聞かないだろ」
「そこは大丈夫。あそこ、バリバリの体育会系だから。上の言うことは絶対。淡英はあんたを認めてたし。その部下ならきっと大丈夫でしょ。それに、なんてったって闘技場の女神様だものね?」
「それを言うなよ……つかそれはお前も一緒」
「さぁ、知らないわ。私には私の部隊があるから。じゃ、あとよろしく」
「あ、きったね!」
「汚くて結構。けどね、やっぱり私には無理。どこか彼らに同乗して躊躇する。そして勝手に無理して、全滅するわ。全軍を見る天にも無理。だからアッキー。あんたに使ってもらった方がいいと思うの。あんたなら、そこらへんは容赦なく使うでしょ」
「人を血も涙もないように言うなよ」
「……ごめん」
水鏡が急にしおらしくなり、そして不意に近づいてくる。
なんだろうかと思っていると、そのまま抱き着かれた。
「ちょ、おま……!」
水鏡の体温を感じる。
激しく波打つ鼓動さえも。
「ごめん。本当は、結構、余裕ない……かも。あいつ……死にそうになかったのに……なんで、こんな……」
「お前……」
そうだ。
淡英が死んだのだ。
同じ国の仲間。
それを失ったことへの辛さは、俺の比じゃないはずだ。
「わかってる。軍を預かる人として、こんな弱気なんじゃ……でも、でも……」
「ああ、大丈夫だ。全部わかってる。お前が辛いのも、悲しいのも」
慰めるよう、背中に手を回してポンポンと叩いてやる。
背中越しに伝わる、心臓の鼓動が生きている実感を得る。
「…………うん」
大きく、水鏡が吐息する。
それが俺の首筋をなで、ちょっとぞくぞくとした。
そして数秒。
水鏡の体が硬直し、ガバッと俺を引き離すと、
「なっ、なんてこと言うと思ったら大間違いだから! な、泣いてなんかないから!」
いやいや、目元真っ赤だし。めっちゃ水分漏れてるじゃん。
強がりがバレバレなんだが。
「てかこれ誰かに言ったら殺すから! あんたたちも何も見てない! いいわね!」
怖ぇよ。
とばっちりの護衛の兵たちもがくがくと首を縦に振る。やれやれ、だ。
こうなったら兵を預かるという提案も飲むべきだろうな。
少しでも彼女の負担を減らしてやりたい。何より1万の兵を遊ばせておく余裕はないのだ。
「とりあえず承ったよ。じゃあすぐに隊の代表に会いたい」
「ん……じゃあ朱賛!」
「はっ」
水鏡が護衛の中から呼んだのは、大柄のがっちりした筋肉質で、丸刈りに鋭い目つきでもうそれだけでギャングにいそうな男だ。
てかこいつを連れてきたってことは、押し付ける気満々だったってことじゃねーか。
「朱賛と申しやす。闘技場の女神様の尊顔を拝したこと、歓喜の念にたえません。ましてや我が隊の指揮をお引き受けいただけるとは……」
男――朱賛が頭を下げながらも、肩を震わせる。
もしかして泣いてない?
と言っても、引き受けるって言っちゃったからなー。
これを断るほどの勇気は俺にはなかった。
「わかった。じゃあ朱賛、よろしく頼むよ」
「はっ!」
「じゃあ、あとよろしく。私は天を手伝うから」
水鏡は鼻をすすりながら、そう言って踵を返していった。
あいつ、大丈夫かな。
そして残された俺は、まだ頭を下げ続ける朱賛の顔をあげさせ、
「1つ聞いていいか?」
「なんなりと」
「俺はオムカ、他国の人間だ。それでも命令を聞いてくれるのか?」
「当然す。ジャンヌ様は我らシータにとっても英雄。言うことを聞かないやつがぁいりゃあ、鉄拳制裁しやすぜ」
怖っ。体育会系怖っ。
ま、いいや。
これは最低限の言質を取るためのものだから。
「よし、じゃあ最初に全軍に命令する」
「はっ」
「自裁を禁止する。それに近い、自殺同然の突撃も、だ。いかなる理由であってもこれを破ったら、遺族には報いない。そう水鏡には約束させる」
「それは……」
朱賛の顔色が変わる。
やはりそれを考えていたのだろう。
けどそれは許してはいけない。
勝てるものも勝てなくなるのだ。
だからここは何としてでも押し通す。
「俺の命令には従うって言ったよな。それが聞けないっていうなら、俺は降りるよ」
意地悪い言い方だったが、そうでもしないと聞かないだろう。
少し悩むようにしていた朱賛だが、やがて顔を上げると、
「分かりゃした。皆には納得させやす」
うん、これでいい。
「じゃあよろしく。それに無理しなくても仇討ちの場面が俺が絶対に用意するよ。だからそれまで、俺を信じてくれ」
まだ何も考えてないけど。
本当に嘘で生きてるよな、最低な俺。
「……はっ!」
そんな俺の内心も知らず、朱賛は力強い返答をして陣へと帰っていった。
もう暗い。再編成するのは明日の方がいいだろう。
……はぁ。
まったく、短い時間でこうも事態が動くとは。
シータ軍まで指揮するとは思わなかった。
「ったく、息巻いといて早々退場とか……恨むぞ、淡英」
今やもういない戦友に向かって毒づく。
さよならも言えないまま消えていく命。
そんなことはもうこれ以上起こしたくない、起こさせない、
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そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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