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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
閑話9 ブリーダ(オムカ王国騎馬隊隊長)
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数度のぶつかり合いで確信した。
目の前にいる敵。
去年ヨジョー城を巡っての戦いで、渡河してきた迎え撃った相手だ。その時の騎馬隊の動きと、瓜二つだ。
緩急が激しく、まるでこちらの先を読むように部隊を動かす敵。
気を抜くと一気に崩される強敵。
あの先頭の少女にも見覚えがある。
軍師殿の話では、それは帝国の大将軍という話。
あんな子供が、と思ったけど、うちの軍師殿も似たようなものだからもう驚かない。
何より、ここに歳は関係ない。
脅威となるのならば、年齢にかかわらず倒さなければ、味方が死ぬ。それだけ。
だから今、並足に落として馬の休憩をいるが、もうそろそろいいだろう。
相手の癖もなんとなくつかめてきた。
だから今度こそ、討ち果たす。
戦場は軍師殿の描いた通りに動いている。
おそらく中央では勝つだろう。
その勝ちをさらに確実なものにするために、ここで大将軍を討つのは意義のあることだ。
「上等っす――がっ!」
そんな意気込みで駆けだそうとする、その体を止めるものがいた。
後ろから、新調したマントをぐいっと引っ張られ、それがのどに食い込んだ。
「待ってください、隊長」
「ア、アイザ何するっすか! 殺す気っすか!」
「いえ。ただその趣味の悪いマントを着たままじゃ死ぬに死ねないだろうからはぎとって捨ててやろうかと」
「これお気に入りなんすけど!?」
「つまり隊長の審美眼はその程度ってことですね……はぁ」
露骨にため息つかれたっす……。
「てゆうかそんなことはどうでもいいんです。そんなどうでもいいことはどうでもいいんです」
そんなこと扱いされたうえに、二度言われたっす……。
「じゃあなんなんすか」
「いえ、ひとりで突っ走ろうとする愚かな隊長を、副官として止めようとしただけです。息の根を」
「愚かって!? てかやっぱり殺そうとしたっすね!」
「はい。あ、いえ。それより、少し離れすぎではないかと」
「今、さらっと肯定したっすね。いや、何がすか?」
「本隊と、そしてあの野蛮人の部隊と」
野蛮人とはグリードのことだろう。
まぁアイザはあいつを嫌ってるっすからねぇ。
そう言われれば確かに、今の場所は戦場の中心から少し離れすぎてしまっている。
相手の約3千と互角に戦い続けて、いつの間にかこんなところまで来た。
この状況。
戦い続けての結果というのであれば、それほど問題視することはない。
けど、もし相手が意志を持って自分たちをこちらに誘導したとしたら?
それをできるからこそ、帝国軍のトップに君臨できるというのなら。
つまり――
「我らはおびき寄せられたのではないか、と」
アイザの言葉に背筋が凍る。
「ちっ、逃げるっすよ!」
嵌められた。
そう分かった時には、馬を走らせていた。
次の瞬間、銃声がけたたましく鳴り響いた。
後ろの方で部下が数人落馬する。
くそ、やられたっす。
さらに、鉦が鳴った。
近くにある林から、喚声が響き、無数の人間が飛び出してきた。
もちろん友好的な相手ではない。
誰もが長い槍を持ってこちらに向かって殺到してくる。
北西から敵の部隊。
そして鉄砲隊が北東。
となれば逃げるのは南に進路をとるしかない。
だが、なんとなくそちらはやばいような気がした。
「隊長、そっちは!」
アイザが攻めるような口調で叫ぶ。
自分が向かうのは北西。
槍を向けて突っ込んでくる敵の群れの方向だ。
なんでかは分からない。
ただ、南に退くのは違う気がした。
冷静になって考えてみれば、ここまでお膳立てして南にしか逃げ場がないのが、いかにも臭い。
あるいは大将軍がそっちに待ち構えているのではと思う。
「退路は後ろじゃないっす、前っす!」
「あぁ、もう! 全軍、この馬鹿に続け!」
アイザが酷いことを言った。
けど、全滅するよりいい。
敵の歩兵。
さすがに真正面から突っ込むことはしない。
かといって足を止めれば鉄砲の的になる。
できるだけ鉄砲が飛んできた方向から距離を取りながら歩兵に肉薄する。
敵との距離はわずか。
あと数十秒で肉薄する。
そうなったとき、槍で突き落とされるのはごめんだ。
「騎射、用意っ!」
それだけで背後が動くのを感じた。
自分も鞍に下げた短い弓を持ち、弓を携え構える。
もちろん、手綱は放してある。
手綱がなくても、足で馬に気持ちは伝えて走る。新しく騎馬隊を作ってから今まで、死ぬほど練習した技術だ。
今では全員が騎射を放てるようになた。
このままいこう。
股の締め付けで愛馬のアテナイにそう伝える。
敵の表情が分かる。
それほどまでに近づいて、
「射て!」
弓矢が空間を斬り裂き敵の中央前衛に次々と吸い込まれていく。
小さい弓と言っても、加速する馬の上から放たれる矢は強力だ。
矢の嵐にさらされ崩れたつ前衛。そこに今度は剣を抜いて突っ込んだ。
「突っ切るっす!」
足を止めれば槍で突かれて放り落される。
そうなればなぶり殺しだ。だから可能な限りの速度で突破して裏へ抜ける。
そうすれば相手は歩兵だから追ってくるにしても引き離せるし、鉄砲隊は味方に当たるから撃てない。
ぶつかった。
突き抜けた――わけではない。
止まった。
勢いが殺された。
矢を射こまれても、こちらを本気で殺そうという意気が伝わってくる。精鋭だ。
勢いを完全に止められた。
馬上という有利はあるにせよ、中央に突っ込んだ以上、周りは敵だらけ。
左右から斬りたてられれば持たない。
「くっ、なんとか抜けるっす!」
「だったらさっさと行くんでしょ!」
アイザの発破がある意味頼もしい。
だが敵の勢いも激しい。
まずい。
死ぬ。
自分もそうだけど、何より部下が死ぬ。
これまでずっと戦ってきてくれた、仲間が死んでいく。
「死なんと戦えば、っす!」
前に軍師殿に教えられた心意気。
死ぬために戦うんじゃない。
生きるために戦う。
そのために、死ぬ気で戦えば、生き残る。
ここで自分たちが死ねば、きっと彼女は悲しむだろう。
殿軍を命じるのに悲しむ彼女のことだ。
だから死ねない。
なんとしてでも生きる。
死んでも生きて帰る。
けど状況は最悪。
どれだけ戦っても、突破口が見えない。
もはやこれまでか。
無念と屈辱と申し訳なさが胸に広がり、そして敵の槍がこちらに伸びて――
途端。
左に衝撃が走った。
「ふははー! まんまとやられたな、マネージャ! ビンゴ王国軍、急先鋒のグリード参上!」
あぁ、よりにもよってこいつっすか……。
一番助けてもらいたくない相手なのに。
けど、欲を言ってられない。
「左に行くっす!」
部下も含め一団となって左へと攻め立てる。
敵の左軍は自分とグリードの挟撃に遭って浮足立っている。
一応、重装備で固めたグリードの重騎兵の攻撃力はすさまじいものだ。
速度は遅いが、相手の攻撃をもろともせず粉砕する様は、ある意味壮観。
「おお、マネージャ! 無事だったか!?」
「うっさい、さっさと退くっす!」
「うむ!」
こちらは進路を右に、あちらも進路を右に進み、敵軍を内側から左右に食い破るようにして脱出を図る。
もうどれだけ敵を斬ったか分からない。
それでもなんとか脱出した時には、部下は500近くがいなくなっていた。
相手にも相応の被害を与えたけど、それで部下の死がなくなるわけではない。
がりっと歯が欠ける音がした。
「隊長、悶死するのは早いわよ。部隊をまとめて、ひとまず戻る」
「言われなくても分かってるっす!」
気持ちを言い当てられたようで、とっさに怒鳴っていた。
いや、アイザの指摘はもっともだ。
まずい戦をした。
けど生き残った。
まずはこのことを受け入れよう。
それから挽回だ。
彼女なら、その方針を示してくれるだろう。
オムカを独立に導いたように、この戦いの勝利も、きっと導いてくれる。
だからそれまでは死なない。
死なんと戦って、絶対生きる。
……よし。
頭が冷めた。
そして、自分がここでやるべきことを改めて再認識する。
「すまなかったっす。少し熱くなってたっす。けどこのままじゃ帰れないっす。だからあのグリードとともに、ここにいる奴らを撃退するっす」
「当然。隊長がやらなきゃ、蹴落として私たちでやるところだったわ」
アイザの冗談ともつかない軽口に、部下たちが苦笑いする。
よし、まだ行ける。
笑う元気があれば戦える。
だがそ思いは果たされなかった。
遠く、激しく鉦が鳴る。
「これは……」
何が、と思う前に、敵の歩兵がじりじりと警戒しながら距離を取って離れていく。
敵の撤退の鉦だった。
目の前にいる敵。
去年ヨジョー城を巡っての戦いで、渡河してきた迎え撃った相手だ。その時の騎馬隊の動きと、瓜二つだ。
緩急が激しく、まるでこちらの先を読むように部隊を動かす敵。
気を抜くと一気に崩される強敵。
あの先頭の少女にも見覚えがある。
軍師殿の話では、それは帝国の大将軍という話。
あんな子供が、と思ったけど、うちの軍師殿も似たようなものだからもう驚かない。
何より、ここに歳は関係ない。
脅威となるのならば、年齢にかかわらず倒さなければ、味方が死ぬ。それだけ。
だから今、並足に落として馬の休憩をいるが、もうそろそろいいだろう。
相手の癖もなんとなくつかめてきた。
だから今度こそ、討ち果たす。
戦場は軍師殿の描いた通りに動いている。
おそらく中央では勝つだろう。
その勝ちをさらに確実なものにするために、ここで大将軍を討つのは意義のあることだ。
「上等っす――がっ!」
そんな意気込みで駆けだそうとする、その体を止めるものがいた。
後ろから、新調したマントをぐいっと引っ張られ、それがのどに食い込んだ。
「待ってください、隊長」
「ア、アイザ何するっすか! 殺す気っすか!」
「いえ。ただその趣味の悪いマントを着たままじゃ死ぬに死ねないだろうからはぎとって捨ててやろうかと」
「これお気に入りなんすけど!?」
「つまり隊長の審美眼はその程度ってことですね……はぁ」
露骨にため息つかれたっす……。
「てゆうかそんなことはどうでもいいんです。そんなどうでもいいことはどうでもいいんです」
そんなこと扱いされたうえに、二度言われたっす……。
「じゃあなんなんすか」
「いえ、ひとりで突っ走ろうとする愚かな隊長を、副官として止めようとしただけです。息の根を」
「愚かって!? てかやっぱり殺そうとしたっすね!」
「はい。あ、いえ。それより、少し離れすぎではないかと」
「今、さらっと肯定したっすね。いや、何がすか?」
「本隊と、そしてあの野蛮人の部隊と」
野蛮人とはグリードのことだろう。
まぁアイザはあいつを嫌ってるっすからねぇ。
そう言われれば確かに、今の場所は戦場の中心から少し離れすぎてしまっている。
相手の約3千と互角に戦い続けて、いつの間にかこんなところまで来た。
この状況。
戦い続けての結果というのであれば、それほど問題視することはない。
けど、もし相手が意志を持って自分たちをこちらに誘導したとしたら?
それをできるからこそ、帝国軍のトップに君臨できるというのなら。
つまり――
「我らはおびき寄せられたのではないか、と」
アイザの言葉に背筋が凍る。
「ちっ、逃げるっすよ!」
嵌められた。
そう分かった時には、馬を走らせていた。
次の瞬間、銃声がけたたましく鳴り響いた。
後ろの方で部下が数人落馬する。
くそ、やられたっす。
さらに、鉦が鳴った。
近くにある林から、喚声が響き、無数の人間が飛び出してきた。
もちろん友好的な相手ではない。
誰もが長い槍を持ってこちらに向かって殺到してくる。
北西から敵の部隊。
そして鉄砲隊が北東。
となれば逃げるのは南に進路をとるしかない。
だが、なんとなくそちらはやばいような気がした。
「隊長、そっちは!」
アイザが攻めるような口調で叫ぶ。
自分が向かうのは北西。
槍を向けて突っ込んでくる敵の群れの方向だ。
なんでかは分からない。
ただ、南に退くのは違う気がした。
冷静になって考えてみれば、ここまでお膳立てして南にしか逃げ場がないのが、いかにも臭い。
あるいは大将軍がそっちに待ち構えているのではと思う。
「退路は後ろじゃないっす、前っす!」
「あぁ、もう! 全軍、この馬鹿に続け!」
アイザが酷いことを言った。
けど、全滅するよりいい。
敵の歩兵。
さすがに真正面から突っ込むことはしない。
かといって足を止めれば鉄砲の的になる。
できるだけ鉄砲が飛んできた方向から距離を取りながら歩兵に肉薄する。
敵との距離はわずか。
あと数十秒で肉薄する。
そうなったとき、槍で突き落とされるのはごめんだ。
「騎射、用意っ!」
それだけで背後が動くのを感じた。
自分も鞍に下げた短い弓を持ち、弓を携え構える。
もちろん、手綱は放してある。
手綱がなくても、足で馬に気持ちは伝えて走る。新しく騎馬隊を作ってから今まで、死ぬほど練習した技術だ。
今では全員が騎射を放てるようになた。
このままいこう。
股の締め付けで愛馬のアテナイにそう伝える。
敵の表情が分かる。
それほどまでに近づいて、
「射て!」
弓矢が空間を斬り裂き敵の中央前衛に次々と吸い込まれていく。
小さい弓と言っても、加速する馬の上から放たれる矢は強力だ。
矢の嵐にさらされ崩れたつ前衛。そこに今度は剣を抜いて突っ込んだ。
「突っ切るっす!」
足を止めれば槍で突かれて放り落される。
そうなればなぶり殺しだ。だから可能な限りの速度で突破して裏へ抜ける。
そうすれば相手は歩兵だから追ってくるにしても引き離せるし、鉄砲隊は味方に当たるから撃てない。
ぶつかった。
突き抜けた――わけではない。
止まった。
勢いが殺された。
矢を射こまれても、こちらを本気で殺そうという意気が伝わってくる。精鋭だ。
勢いを完全に止められた。
馬上という有利はあるにせよ、中央に突っ込んだ以上、周りは敵だらけ。
左右から斬りたてられれば持たない。
「くっ、なんとか抜けるっす!」
「だったらさっさと行くんでしょ!」
アイザの発破がある意味頼もしい。
だが敵の勢いも激しい。
まずい。
死ぬ。
自分もそうだけど、何より部下が死ぬ。
これまでずっと戦ってきてくれた、仲間が死んでいく。
「死なんと戦えば、っす!」
前に軍師殿に教えられた心意気。
死ぬために戦うんじゃない。
生きるために戦う。
そのために、死ぬ気で戦えば、生き残る。
ここで自分たちが死ねば、きっと彼女は悲しむだろう。
殿軍を命じるのに悲しむ彼女のことだ。
だから死ねない。
なんとしてでも生きる。
死んでも生きて帰る。
けど状況は最悪。
どれだけ戦っても、突破口が見えない。
もはやこれまでか。
無念と屈辱と申し訳なさが胸に広がり、そして敵の槍がこちらに伸びて――
途端。
左に衝撃が走った。
「ふははー! まんまとやられたな、マネージャ! ビンゴ王国軍、急先鋒のグリード参上!」
あぁ、よりにもよってこいつっすか……。
一番助けてもらいたくない相手なのに。
けど、欲を言ってられない。
「左に行くっす!」
部下も含め一団となって左へと攻め立てる。
敵の左軍は自分とグリードの挟撃に遭って浮足立っている。
一応、重装備で固めたグリードの重騎兵の攻撃力はすさまじいものだ。
速度は遅いが、相手の攻撃をもろともせず粉砕する様は、ある意味壮観。
「おお、マネージャ! 無事だったか!?」
「うっさい、さっさと退くっす!」
「うむ!」
こちらは進路を右に、あちらも進路を右に進み、敵軍を内側から左右に食い破るようにして脱出を図る。
もうどれだけ敵を斬ったか分からない。
それでもなんとか脱出した時には、部下は500近くがいなくなっていた。
相手にも相応の被害を与えたけど、それで部下の死がなくなるわけではない。
がりっと歯が欠ける音がした。
「隊長、悶死するのは早いわよ。部隊をまとめて、ひとまず戻る」
「言われなくても分かってるっす!」
気持ちを言い当てられたようで、とっさに怒鳴っていた。
いや、アイザの指摘はもっともだ。
まずい戦をした。
けど生き残った。
まずはこのことを受け入れよう。
それから挽回だ。
彼女なら、その方針を示してくれるだろう。
オムカを独立に導いたように、この戦いの勝利も、きっと導いてくれる。
だからそれまでは死なない。
死なんと戦って、絶対生きる。
……よし。
頭が冷めた。
そして、自分がここでやるべきことを改めて再認識する。
「すまなかったっす。少し熱くなってたっす。けどこのままじゃ帰れないっす。だからあのグリードとともに、ここにいる奴らを撃退するっす」
「当然。隊長がやらなきゃ、蹴落として私たちでやるところだったわ」
アイザの冗談ともつかない軽口に、部下たちが苦笑いする。
よし、まだ行ける。
笑う元気があれば戦える。
だがそ思いは果たされなかった。
遠く、激しく鉦が鳴る。
「これは……」
何が、と思う前に、敵の歩兵がじりじりと警戒しながら距離を取って離れていく。
敵の撤退の鉦だった。
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