知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話10 尾田張人(エイン帝国将軍)

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「元帥!? ちょっと、大丈夫なの!? 元帥!?」

 おっさん少女が珍しく本気でうろたえている。
 それもそのはず。

 急に撤退の鉦が鳴ったからなんだと思って丘陵地の丘の上に戻ってみると、あの堂島元帥が地面に敷かれた毛布の上で横たわっていた。
 その両肩からは、どくどくと赤い血が流れている。

 普段、感情を表に出さない故に差分が分かりづらいが、額に玉のような無数の汗を見れば辛そうなことは分かる。

 ただそれ以上に腹部を押さえているのが気になった。

 まさか腹部の傷か。
 腹を刺されたら、この世界の医療環境上、助かるかどうか五分五分以下だろう。

 軍医が呼ばれて、消毒と止血がなされているのを、俺は茫然と見ていた。
 一応、腹部は刺されたわけじゃないとわかって安堵。

 正直、まさかだった。

 帝国にいた時から聞いていた、彼女の戦績。
『帝国不敗』と呼ばれていたほどの最強の軍。

 そんな彼女が、まさか負傷して戻ってくるとは。

 そしてそれ以上に驚いたのが、彼女を負傷させた相手。

「リーナちゃん?」

「知ってるんだよね。てか君が手引きしたんだよね。里奈をオムカに引き渡した件」

 おっさん少女が珍しく険しい、本気で怒っているような顔でこちらをにらみつける。

「おいおい、俺のせいってか? リーナちゃんを帝国から逃がしたから、今日ここで元帥が負傷してるって」

「別に……いや、半分くらいはそう思ってる。もう半分は、そんなこと考えても仕方ないって感じだけど」

 小さく、だがどこか悲しそうにおっさん少女がつぶやく。
 こいつ、これほどまでに堂島元帥をなんだかんだで思ってやがるんだな。
 そう思うと、どこか意外だった。

 しっかし、リーナちゃんやるねぇ。
 ヤバいとは思ってたけど、まさかここまでとは。

「大将軍、ここでは満足な手当てができません。ひとまずジュナン城まで護送したいのですが」

「分かった。たっつん、お願いしていいかな。僕様は軍をまとめないといけないから」

「ええ、お任せを」

 椎葉が鷹揚に頷いて、堂島元帥の護送について軍医と相談を始めた。

 そして部隊をまとめて引き上げるため、俺とおっさん少女はゆっくりと丘をおり始める。

「はぁ、まさか元帥が怪我するなんて……」

 小さい体をさらに小さくして、肩を落としてため息をつくおっさん少女。

「帝国不敗でも、無敵ではなかったってことだ。何が起こるか分からない。それも戦だろうがよ」

「そりゃ分かってるけどさ。やっぱ元帥は特別なんだよ」

「あん?」

 特別?
 そんなもんあるかよ。

「あのね、僕様かてそれなりに実績を積んだ人間だよ。それでも元帥には敵わない。いや、戦いを挑む挑まないの話じゃないんだ。だって、元帥は別の次元にいるんだから」

「はぁ?」

 なにそれ。オカルト?

「違うよ。元帥は……なんて言うのかな。そう、敗けることがありえない人なんだよ」

「オカルトじゃねーか」

「だから違うって。なんていうのかな、敗けちゃいけないってことかな」

「シンボルってことか? 帝国を象徴する。だから敗けは許されない」

「うーん、そうというか違うというか。なんだろう。元帥の敗けた姿、傷ついた姿は見ちゃいけないような、そんな気がするんだ」

「なんだそれ。俺たちゃもう見てるだろ。昨日と、そして今日」

「そう、だからダメなんだよ。あっちゃいけないことがありえちゃってる」

 はぁ、なんだそりゃ。
 細かいことをうだうだと。

「だから? 元帥閣下はパーフェクトだから敗けも傷つきもしねーと? げっぷもおならもしねーし、うんこなんて絶対しない完ぺき超人だと?」

「そ、そういうわけじゃ……てか下品だぞ」

「取り繕ってもしょうがねーだろ。つまり人間ってことだ。人間ってことは、間違えもするし、敗けもする。どれだけ完璧な人間だろうが、ずっと絶頂ってことはねーのさ」

「なにそれ。誰の受け売り?」

「いいや、俺の言葉。ありがたく聞きやがれ」

「……一気にありがたみが減ったんだけど」

「うるせーな。とにかくだ。んなどうでもいいこと気にしてねーで、明日勝てばいいだろうが。元帥が敗けた? 負傷した? そんなもん、総括的な戦闘の一部だろ。最終的に勝てばいいんだよ。そうすりゃ敗けじゃねー。常勝も継続だろうが。ほら、誰か言ってただろ。勝てば歓喜ってな」

「はっ……勝てば官軍? バカみたい」

 んだそりゃ。
 そんな言葉知らねーし。

「……てかもしかして今、僕様ちゃん慰められてる? 張人きゅんに?」

「は? 俺が慰める? んなわけないじゃーん。おっさん少女ももう歳だろ? だからさっさと引退しろってこと。そんで俺に全権くれよ。元帥がどうとか言う前に、俺がケリつけてやるし」

「はぁ!? そんなのできるわけないじゃん。つかおっさん言うな! これでも花も恥じらうじゅうななさいだぞ!」

「へっへー、自分で17歳とか言うやつの言葉信じれるわけねーだろ。一度鏡見て出直してこい」

「毎日見てるし! こんなプリチーで素敵な僕様が、おっさんなわけないだろ!」

「うわ、プリチーとか自分で言う? てか死語だろうが。やっぱおっさんだ、おっさんだ」

「ぐぬぬぬぬー! もう怒った! 僕様ちゃんを怒らせたんだからな!」

「はっ、相変わらず怒りっぽいよな。その怒りを目の前にいる敵にぶつけてこいよ」

「…………それはしない」

「へ、なんだ。冷静じゃねーか」

「冷静にさせられたの! 変な焚き付けしてさ。ったく……」

 ふん。
 別にそんなつもりはなかったけどな。
 ただ何となく、こいつが落ち込んでるのは張り合いがないっていうか、つまんないっていうか。

 やれやれ、手のかかるやつだぜ。
 俺より年上のくせに。

「っし! そうだよ。最終的に勝てば官軍! 常勝継続! っしゃーやるぞー!」

 顔をパンっと両手で叩いて気合を入れるおっさん少女。
 そういうとこがおっさんっぽいんだよなぁ。言わないけど。

 するとおっさん少女はこちらをチラッと見て、少し視線を落としながら小声で、

「……ちょっとうろたえてた。ありがと」

「え? 聞こえないけど?」

「あーりーがーとぅ!」

 パンチが来た。
 レバーに入った。

「て、てめぇ……!」

「はっはー! 僕様を馬鹿にした報いさ! さー、撤収撤収!」

 今までと打って変わって足取り軽く丘を下り始めるおっさん少女。

「ぐっ……この野郎」

 やっぱりこいつ。
 性格最悪。相性最悪。
 二度と気にかけてなんかやるもんか!
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