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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた
閑話38 椎葉達臣(エイン帝国軍師)
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「生きていたのか」
煌夜がホッとしたような、悲しいような表情をする。
それに対し、少し自嘲の笑みを浮かべる。
「なんとか、ね。無様にも生き延びたよ。その代わり部下たちを犠牲にしてしまった」
「いや、無事でうれしいよ。君までいなくなったら、もうどうしようもなくなっていた」
「そうか、降伏するつもりだったか?」
「……ええ半分は。もはや戦える将も兵もなく、勢いに乗ったオムカには勝てないでしょう」
「だろうねそれは骨身にしみてるよ。けど半分と言ったね? ということは?」
「この城を放棄して帝都に撤退。帝国市民2億をパルルカ教の名のもとに立ち上がらせれば、オムカには負けません」
「それを率いるのが僕ってことか。なるほど、それなら2年かそこらは戦い続けられる」
もちろん、それは帝国市民を犠牲にして、帝国を焦土としてようやく対等になるレベルの話。
正直、気の進まないどころじゃない、見苦しいを通り越して非道の策だ。
「ですが最悪の策、そして――無意味です」
「無意味?」
煌夜も気が進まないことは分かっていたのだろう。
だが無意味とは。そこまでは考え切れていなかった。
「ええ、そうすればオムカには負けない。負けないだけです。ジャンヌ・ダルクには勝てない」
言っている意味が分からない。
その疑問が煌夜に伝わったらしい。
「簡単なことですよ」
そう前置きをして教えてくれた。
「我々にはあと半年も時間がない。それなのに、1年2年と戦い続ける意味がない」
「ああ、そのことか。確かにここを放棄すれば我々の王将であるあの女神を隠せる。王将を盤外に逃す、禁じ手だね。つまり皆そろって死のうってことだから」
「だがそれはしませんよ」
「なぜ?」
「それは私が、あの女神の前に屈するということだからです」
その言葉に、ふっと笑ってしまう。
前から何も変わっていない。
そのことになんだか少し嬉しさも感じる。
「じゃあ、僕たちに死ね、ということかい?」
逃げない、ということは戦うということ。
戦うということは、敗けるということ。
敗けるということは、死ぬということ。
つまり、そういうこと。
「いえ、君が死ぬ必要はない。このルールで言えば降伏すれば生き延びる可能性はあるのだから。それはきっとジャンヌ・ダルクも分かっているでしょう」
「許すかね、僕は彼を殺そうとした張本人だ」
「あれで他人には甘すぎる人間です。自分には厳しすぎるくらいなのにね」
「ああ、それは知っているよ」
「そうか、友人だったんだね」
「親友だったよ」
親友だった。
自分からすれば、そう思っていた。
彼からしたらどうか。
それは分からない。
ただ、単なる知り合い。
それくらいだったら、どれだけ楽だったか。
明彦にすがる。
それは考えないでもないことだった。
……いや、ないな。
ありえない。
僕があいつの元に降るなど。
里奈の件もある。
何より、僕を生かすために死んでいった人たちがいる。
それに対し、何もせずに降参するのは、たとえ弱小の僕でさえも許されることではなかった。
「いや、やめておこう。ひょっとしたら、焼き殺してしまうかもしれない」
「それはそれでいいじゃないか」
「勘弁してくれ。里奈に殺されるに決まってる」
「それは……怖いな」
「ああ、怖い」
2人して、笑う。
そんなことすらも、ひどく久しぶりな気がした。
「じゃあ、僕はいくよ。少し、離れて考えてみようと思う」
「ちょっと待ってくれないか」
と、煌親が制止してきた。
そして彼は懐に手を入れると、一通の手紙を取り出した。
「これを、ジャンヌ・ダルクに渡してほしい」
「……僕と彼女の関係を知ってのことかい?」
「ああ。ただ君しかいないんだ。私が出ていくわけにもいかないし」
……はぁ、しょうがない。
彼の覚悟を、潰すわけにはいかないからな。
「分かった。先に届けよう」
「助かる」
ま、すでに覚悟は決めたみたいだ。
そんな男にこれ以上あーだこーだ言うのは野暮というもの。
「じゃあ、本当に今度こそ行くよ」
「ああ、さようなら」
「さようなら」
ほんの数か月の出会いだったけど、彼とは数年来の友達のような気がした。
彼もきっとそう思ってくれているだろう。
この世には1回会っただけで100を知ることがあれば、何年経っても1すら分からない人がいる。
それが、どこか寂しかった。
城の外に出る。
さて、どうしようか。
そう思っていると馬蹄の音がした。
見ればこちらに走ってくる2頭の馬。
1頭は空馬、もう片方には小柄な人影が乗っていて、近づくにつれそれがタニアだと分かる。
やがてタニアが僕の前で馬を止めると、ひらりと降りてこう告げた。
「私も行きます」
「え?」
「隊長と一緒に行きます」
聞き間違いかと思った。
けどそれ以外の意味しかないことに気づいた。
「いや、確かに部隊のみんなにはそう言われたけど。あえてそうしなくてもいいんだ。君にはまだ未来がある。僕なんかについていっても、何もないよ?」
「一緒に――」
「え」
「一緒にいたいから。それじゃあダメですか」
だめですかって……。
どうしたものか。
こんなことなんて、あったことなんてあるわけがなくて。
どうしたらいいのか。
こういった場合の知識がない。
この方面は勉強をしてこなかった。
それでも、この真摯な想いを踏みにじってはいけない。
そう思いはした。
そして別に、自分はタニアのことを嫌いなわけじゃない。
少なからずの、好意も抱いているとも。
だとしたら、それでいいのかもしれない。
「国を捨てることになるよ」
「構いません」
「途中で死ぬかも」
「どこにいてもそれは同じです」
「相手は女神だぞ。神だ」
「それでも」
やれやれ。
幸せの青い鳥はすぐそこにいるっていうけど……
まぁそんな勘違いも悪くはない。
「じゃあ、行こうか」
僕は、ついてきてくれると言った彼女に言った。
彼女は、笑ってくれた。
煌夜がホッとしたような、悲しいような表情をする。
それに対し、少し自嘲の笑みを浮かべる。
「なんとか、ね。無様にも生き延びたよ。その代わり部下たちを犠牲にしてしまった」
「いや、無事でうれしいよ。君までいなくなったら、もうどうしようもなくなっていた」
「そうか、降伏するつもりだったか?」
「……ええ半分は。もはや戦える将も兵もなく、勢いに乗ったオムカには勝てないでしょう」
「だろうねそれは骨身にしみてるよ。けど半分と言ったね? ということは?」
「この城を放棄して帝都に撤退。帝国市民2億をパルルカ教の名のもとに立ち上がらせれば、オムカには負けません」
「それを率いるのが僕ってことか。なるほど、それなら2年かそこらは戦い続けられる」
もちろん、それは帝国市民を犠牲にして、帝国を焦土としてようやく対等になるレベルの話。
正直、気の進まないどころじゃない、見苦しいを通り越して非道の策だ。
「ですが最悪の策、そして――無意味です」
「無意味?」
煌夜も気が進まないことは分かっていたのだろう。
だが無意味とは。そこまでは考え切れていなかった。
「ええ、そうすればオムカには負けない。負けないだけです。ジャンヌ・ダルクには勝てない」
言っている意味が分からない。
その疑問が煌夜に伝わったらしい。
「簡単なことですよ」
そう前置きをして教えてくれた。
「我々にはあと半年も時間がない。それなのに、1年2年と戦い続ける意味がない」
「ああ、そのことか。確かにここを放棄すれば我々の王将であるあの女神を隠せる。王将を盤外に逃す、禁じ手だね。つまり皆そろって死のうってことだから」
「だがそれはしませんよ」
「なぜ?」
「それは私が、あの女神の前に屈するということだからです」
その言葉に、ふっと笑ってしまう。
前から何も変わっていない。
そのことになんだか少し嬉しさも感じる。
「じゃあ、僕たちに死ね、ということかい?」
逃げない、ということは戦うということ。
戦うということは、敗けるということ。
敗けるということは、死ぬということ。
つまり、そういうこと。
「いえ、君が死ぬ必要はない。このルールで言えば降伏すれば生き延びる可能性はあるのだから。それはきっとジャンヌ・ダルクも分かっているでしょう」
「許すかね、僕は彼を殺そうとした張本人だ」
「あれで他人には甘すぎる人間です。自分には厳しすぎるくらいなのにね」
「ああ、それは知っているよ」
「そうか、友人だったんだね」
「親友だったよ」
親友だった。
自分からすれば、そう思っていた。
彼からしたらどうか。
それは分からない。
ただ、単なる知り合い。
それくらいだったら、どれだけ楽だったか。
明彦にすがる。
それは考えないでもないことだった。
……いや、ないな。
ありえない。
僕があいつの元に降るなど。
里奈の件もある。
何より、僕を生かすために死んでいった人たちがいる。
それに対し、何もせずに降参するのは、たとえ弱小の僕でさえも許されることではなかった。
「いや、やめておこう。ひょっとしたら、焼き殺してしまうかもしれない」
「それはそれでいいじゃないか」
「勘弁してくれ。里奈に殺されるに決まってる」
「それは……怖いな」
「ああ、怖い」
2人して、笑う。
そんなことすらも、ひどく久しぶりな気がした。
「じゃあ、僕はいくよ。少し、離れて考えてみようと思う」
「ちょっと待ってくれないか」
と、煌親が制止してきた。
そして彼は懐に手を入れると、一通の手紙を取り出した。
「これを、ジャンヌ・ダルクに渡してほしい」
「……僕と彼女の関係を知ってのことかい?」
「ああ。ただ君しかいないんだ。私が出ていくわけにもいかないし」
……はぁ、しょうがない。
彼の覚悟を、潰すわけにはいかないからな。
「分かった。先に届けよう」
「助かる」
ま、すでに覚悟は決めたみたいだ。
そんな男にこれ以上あーだこーだ言うのは野暮というもの。
「じゃあ、本当に今度こそ行くよ」
「ああ、さようなら」
「さようなら」
ほんの数か月の出会いだったけど、彼とは数年来の友達のような気がした。
彼もきっとそう思ってくれているだろう。
この世には1回会っただけで100を知ることがあれば、何年経っても1すら分からない人がいる。
それが、どこか寂しかった。
城の外に出る。
さて、どうしようか。
そう思っていると馬蹄の音がした。
見ればこちらに走ってくる2頭の馬。
1頭は空馬、もう片方には小柄な人影が乗っていて、近づくにつれそれがタニアだと分かる。
やがてタニアが僕の前で馬を止めると、ひらりと降りてこう告げた。
「私も行きます」
「え?」
「隊長と一緒に行きます」
聞き間違いかと思った。
けどそれ以外の意味しかないことに気づいた。
「いや、確かに部隊のみんなにはそう言われたけど。あえてそうしなくてもいいんだ。君にはまだ未来がある。僕なんかについていっても、何もないよ?」
「一緒に――」
「え」
「一緒にいたいから。それじゃあダメですか」
だめですかって……。
どうしたものか。
こんなことなんて、あったことなんてあるわけがなくて。
どうしたらいいのか。
こういった場合の知識がない。
この方面は勉強をしてこなかった。
それでも、この真摯な想いを踏みにじってはいけない。
そう思いはした。
そして別に、自分はタニアのことを嫌いなわけじゃない。
少なからずの、好意も抱いているとも。
だとしたら、それでいいのかもしれない。
「国を捨てることになるよ」
「構いません」
「途中で死ぬかも」
「どこにいてもそれは同じです」
「相手は女神だぞ。神だ」
「それでも」
やれやれ。
幸せの青い鳥はすぐそこにいるっていうけど……
まぁそんな勘違いも悪くはない。
「じゃあ、行こうか」
僕は、ついてきてくれると言った彼女に言った。
彼女は、笑ってくれた。
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