知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第33話 南郡救援6日目・単騎駆け

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 正直、気が気でなかった。
 前にシータにいたころ、ニーアに聞いた時は、

『一騎討ちに耐えられる人? んー、あたしを除いてってことだよね。だったら軍を率いるジンジンとサカキンはとりあえず除外して、ブリンもあたしより弱いし。クロクロ? んー、まぁ悪くはないんじゃない? あ、けど1人いけるかも。シータに行くってのに直前まで結構しつこくってさ。とりあえず弱くって何度かボコったんだけど。なんつーか次会う時は生意気にも欠点修正してくんのね。ありゃ努力の人間だね。たぶん地頭じあたまもいいんじゃない? 今じゃ、あたしの槍もそこそこ避けるし。え、誰かって? ほら、あれよ。ジャンヌのとこのなんとか隊のクロクロじゃない副官。ウィーウィーだっけ? あれなら結構イケんじゃない?』

 その言葉を鵜呑みにしたわけじゃないけど、実際に一騎討ちの可能性を告げた時、真っ先に手を挙げたのがウィットだった。
 だからこうして一騎討ちの場に送り出したのだが、無事に勤めを果たしたのを見た時には、緊張が解けて落馬しそうになった。

 けどまだ終わりじゃない。
 気を引き締めると、大声で怒鳴った。

「ドスガ四天王、討ち取った!」

 味方から歓声が上がる。
 その中で、1人不平を漏らす人物がいた。

「ふん、あんな敵に勝ったくらいで調子に乗らないで欲しいです」

 隣にいるクロエが口を尖らせて呟く。

「こらこらクロエ、仲間が活躍したんだ。暖かく迎えてやれよ」

「隊長殿の命令とはいえ、すぐには無理です」

 やれやれ、困ったやつだ。

 味方からさらに歓声が沸く。
 英雄の帰還だ。

「よくやってくれた、ウィット。俺はお前のような部下がいて幸せだ」

 帰って来たウィットをねぎらう。
 すると彼は少し紅潮した様子で、

「我が剣は、いつも貴女のために」

 あぁ、お前もそういう属性か……。ジル元気かなぁ。ホント、どういうつもりでお前はあの言葉を言ったんだよ。あー今日も天気がいいなー。
 なんて現実逃避した先で更に現実逃避するという離れ業(?)をしてみた。

「ふん、あれくらいで調子に乗らないでよね!」

「誰が調子に乗った? 貴様じゃあるまいし。あんな奴を倒したくらいで威張れるほど単純な脳の構造はしてない」

「そうよね、あんな相手に傷負わされるなんて末代までの恥よ」

「貴様なら胸に穴開けられてただろ。よかったな、怪我していて。おかげで命をつないでいるわけだからな」

「なによー!」

「なんだよ!」

 にらみ合う2人。
 戦の最中に喧嘩など言語道断だが、この2人のを見るとなんだか肩の力が抜ける。

「お前ら、ほんと仲いいよな」

「隊長殿、それは私への侮辱ですか!?」

「さすがにそれは聞き捨てなりません。俺とこいつが何ですって?」

 ほら、めっちゃ息合ってるじゃん。
 なんて言ったらきっとさらに炎上するんだろうな、と思ったので黙っておいた。

「それよりウィット、傷を負ったのか。城に戻った方がいいんじゃないか?」

「いえ。この程度かすり傷です。問題ございません」

「そうか。ならこれで縛っておいた方がいい。ばい菌が入ると大変だぞ」

 俺は上着のポケットから小さな包帯を取り出して、ウィットに渡してあげた。
 ウィットは、それを押し抱くようにそれを受け取ると、

「な、なんと……このような物を下賜かしいただけるとは……末代までの家宝とします!」

「隊長殿、ウィットにだけずるい! ひいきです!」

「いや、ただの包帯なんだけど!?」

 もうこいつらめんどくせぇな!

「とりあえずこれで作戦の第一段階はクリアだ。次が本番だ、気合入れろ!」

 俺は2人だけじゃなく、その後に続く隊員全員に喝を入れる。
 それだけで今までおちゃらけていた2人だけじゃなく、それをにやにやと見ていた部下たちもキッと表情を引き締める。

 よし。
 俺は内心で頷いて、一歩馬を敵陣に向かって進ませる。

 敵は動揺している。
 軍のトップに位置する四天王の1人がこうも簡単に討たれてしまったのだ。それは動揺として広がり、士気が下がっているように見える。
 通常、こういう時の対処法としては、積極的に攻勢に転じるか、まったく動かないかの二択だ。兵を退くという選択肢はない。それは敗北を認めるということと同じだからだ。

 相手は後者を選んだようだ。
 すなわち一武将の戦死では揺るがない。それを示すように毅然とした態度を見せつけようとしている。それで今日は耐え抜き、軍を再編するための時間を稼ぐつもりだろう。

 もちろん、それを待つほど俺は優しくはない。突き詰めれば俺たちは殺し合いをしているのだ。自分たちを傷つけるための準備を、簡単に見過ごすわけにはいかない。
 だからこちらが攻勢に出る。とはいえ、守備を固めた敵陣に突っ込むには犠牲が多くなりすぎる。

 だから少し手を加える。

 この作戦を話したとき、誰もが猛反対した。
 あのワーンス王さえも、

『そ、それは……さすがに、き、危険ではないのか……?」

 と体の震えを3倍にして俺を心配してくれた。

 もちろん俺としても危険な目は避けたい。
 でもこの一戦で終わらせる。そのためには俺じゃなきゃいけないのだ。

 相手の虚をつく、その一点にすべてを賭ける。

 駆け出した。

 俺の意を受けて、馬が敵に向かって走る。
 単騎だ。
 それで1万を超える人間へと距離を縮める。それを意識すれば、背中が凍えるような感覚に陥る。上杉謙信うえすぎけんしんの単騎駆けじゃあないけど、まともな神経をした人間には不可能だろう。

 背後から気配。
 何も言わずとも、皆が来てくれた。
 それだけで心強い。

 それでも俺が先頭だ。
 弓が飛んで来たら俺に集中する。そうなったら終わりだ。いや、水平射撃でなければ俺には当たらない。そう思わないとやってられない。

 彼我の距離は500メートルもなかった。およそあと400。
 さらに俺は意識を別のことに集中させた。

 敵のもろい点。
 一騎討ちの動揺、俺の単騎駆けへの困惑。

 戦国時代。敵の強弱は旗の様子で見たという。
 旗を持つのは結局人間だ。その人間が動揺したりすれば旗が動いてしまう。
 だから旗が整然と並んでいる部隊は士気が高かったり統率が取れていて強く、逆に旗がよく動いたり揃っていない部隊は統率されておらず弱い。そこから『旗色が悪い』という言葉が生まれたわけで。

 だから“それ”を見極めるために視線を左右に動かす。
 あと350、300。

 敵右翼……駄目だ。揃ってる。
 敵中央、本陣だけあってぴくりともしない。
 敵左翼――

 あと250、200……来た!

 手綱を引き絞り、馬を右に急旋回。
 さすがに弓の射程に入れば、まばらながらも敵も反撃してくる。
 そのギリギリのところで俺は右へ、敵の左翼へと舵を切った。

 背後の馬蹄も続く。
 今回、強襲の意味もあって全員に馬をあてがった。ブリーダに鍛えられたのだろう。馬の扱いは皆、それなりに良い。

 だから続く。
 俺の無茶な単騎駆けにも、進路変更にもついてくる。

 あとは――合図。

 鞍に縛り付けた旗を取り出す。
 さすがに馬の疾走中に旗を広げるなんて真似は、俺の筋力ではできない。
 だから旗は巻いた状態。
 それでも今は、それで十分だ。

 旗を俺の進行方向、敵の左翼のさらに端へと突きつける。
 それですべて伝わったはずだ。

 パンッ!

 鉄砲の音。
 背後、隊の1人が撃ったのだ。
 馬上で無理やり撃ったものだから狙いも何もない。馬も少し驚いたようだが、なんとかぎょせている。大丈夫だ、鉄砲の音には皆慣れさせている。

 同時、進路を直角に曲げる。
 前を横切るような動きから、急に目の前に襲い掛かって来たのだ。しかも一番旗色の悪い場所を狙った。動揺しないはずがない。
 あるいは俺たちが、そのままお隣のトロン軍へ攻めかかろうと思ったのかもしれない。

 始めは処女の如く後は脱兎だっとの如し。

 孫子そんし九地篇きゅうちへんにある言葉。
 始めは弱く見せて油断させ、急変して一気に攻め込むという内容だ。

 俺の単騎駆けという、戦闘行為には見えない行為で敵の警戒心を緩め、弓の射程距離ギリギリのところで横へと移動する。それがトロン軍の方に流れたのだから、誰もがドスガ本隊を襲わないと気を抜く。
 その油断を一気に突いた。
 結果は予想以上だ。

 もちろん俺が先頭で突っ込んだところでたかが知れている。
 だから先導の役目もこれまでだ。

「ジャンヌ隊副隊長にして、ドスガ四天王を討った第一の部下ウィット参上!」

「だから第一それは私だって!」

 ウィットとクロエが突っ込んだ。
 それに100騎が続く。

 敵は防備もままならず、面白いように突き崩されていく。

 本来ならここでトロン軍が動けば俺たちに逃げ場はなく全滅するだけだ。
 だがここであのお手紙作戦が効いている。
 指揮官を殺され、そもそもドスガ王に王族が皆殺しにされているのだ。いくら監視役がついているとはいえ、早々にこちらには攻めてこないだろう。

 だからその間に勝負を決める。

 合図は送った。
 後は速度。

 ジャンヌ隊が攻める左翼の一部。
 敵の全員がそちらに意識を向けた一瞬。

 喚声が木霊し、衝撃が敵軍を襲った。
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